2023年3月31日にAWS簡易見積もりツールが廃止に
AWSは、AWSの料金計算ツールの1つである「簡易見積もりツール」(Simple Monthly Calculator)を廃止する予定であることを発表しています。2023年3月31日金曜日の午後11時59分(太平洋標準時)以降、簡易見積もりツールに新しい見積もりを保存することができなくなります。
【参考】:Amazon Web Services Simple Monthly Calculator
これまで簡易見積もりツールを利用していた場合、代替の料金計算ツールとして「AWS料金計算ツール」(AWS Pricing Calculator)の利用が推奨されています。
AWS料金計算ツールへの移行
AWS簡易見積もりツールが廃止になる関係から、これまでに簡易見積もりツールで作成した既存の見積もりがなければ、次回から新しい見積もりを作成する際にはAWS料金計算ツールを利用しましょう。
もしも、簡易見積もりツールによる既存の見積もりがある場合は、変換機能を利用してAWS料金計算ツールに移行することが可能です。変換機能は2023年4月30日午後11時59分(太平洋標準時)まで利用可能の予定とされていますので、早めに移行を行いましょう。
見積もりの移行は、簡単に行うことができます。簡易見積もりツールで固有の見積もりを表示させ、「保存して共有」ボタンを押すと、AWS料金計算ツールで生成された見積もりのURLが表示されますので、これをコピーします。
コピーしたURLをブラウザに貼り付けると、見積もり内容が移行先のAWS料金計算ツールの「自分の見積もり」(My Estimate)で表示されます。
AWS料金計算ツールとは
ここでは、簡易見積もりツールに変わる計算ツールであるAWS料金計算ツールについて解説します。
AWS料金計算ツールの概要
AWS料金計算ツールは、WebベースのコンソールからAWSユースケースの見積もりを作成することができる、AWS計画ツールです。
見積もりの詳細な計算内容を確認できるため、どの機能にどのくらいの費用がかかるかチェックしながら必要な機能を吟味することができます。これにより、十分必要なだけの費用でAWSを活用することができ、支出の計画を立てやすくなります。
また、現在利用しているAWSサービスにおいても、詳しく利用状況を見直すことで、コスト削減できる余地を見つけられる可能性があります。
【参考】:What is AWS Pricing Calculator? - AWS Pricing Calculator
AWS料金計算ツール利用時の注意点
AWS料金計算ツールは、無料で利用することができます。そのため、AWSを利用している方だけでなく、AWSをこれから使用しようとする方にも役に立ちます。ただし、利用にあたっては料金計算の前提を確認しておきましょう。
【参考】:Calculator の前提
一例として、計算結果として表示される見積もりには、適用される可能性がある税金は含まれていないことに注意が必要です。
また、AWS料金計算ツールは、ツール上で入力した情報のみの料金の詳細を結果として表示します。この価格が、各AWSサービスのマーケティグページの価格と異なる場合、マーケティングページの価格が優先されます。
AWS料金計算ツールの機能
AWS料金計算ツールには、AWSの見積もりを詳細に行い、共有するための便利な機能が用意されています。
明瞭な料金の表示
AWS料金計算ツールでは、サービス設定料金の詳細な計算内容を確認することができます。
例えば、AWSの主要なサービスである「Amazon EC2」の見積もりを行う場合、Amazon EC2インスタンスを実行するテナント属性タイプやOS、毎月必要なインスタント数を指定すると、その背後にある詳細な計算内容と、合計前払いコスト、合計月払いコストが表示されます。
選択項目のパラメータを変えたり、構成や数量を変化させて、その計算内容と費用を容易に確認することができるため、AWSに投じる最適な費用の計画を立てることが可能です。
見積もりの共有
作成した見積もりは、固有の公開リンクを作成して、後から見積もりを再確認したり、関係者に共有することができます。共有されたリンクを一般的なユースケースのテンプレートとして保存し、これを元にさらに複雑な構成の見積もりを詳細に作成することもできます。
見積もりグループの定義
AWS料金計算ツールではグループを定義し、AWSの見積もりをグループごとに整理することができます。
例えば会社の部門やチームごとの見積もりを検討したり、リージョンごとにグループを作成し、2つの異なる場所(例えば米国東部とアジア太平洋エリア)でサーバを運用する場合のコストを比較することができます。
見積もりのエクスポート
AWS料金計算ツールで作成した見積もりは、PDFまたはCSVファイルとしてエクスポートすることができます。PDFには、見積もりへのリンクが含まれています。
エクスポートされたファイルには、見積もりの作成に使ったパラメータが保存されるため、コンソールでAWSサービスをセットアップするときに役立てることもできます。
AWSの課金制度
AWSの良さは分かってはいるものの、料金がよく分からないという方は少なくないでしょう。ここでは、AWSの料金がどのように決まっているのかについて分かりやすく解説します。
従量制料金
AWSの料金は水道や電気料金のように、使った分だけ支払う「従量制料金」です。例えば、AWSの主要なサービスである「Amazon EC2」は、ユーザーが自由に仮想サーバーを構築できるサービスです。Amazon EC2は利用した時間で1秒単位に料金計算が行われます。
サーバーのサービスを停止している時間帯や利用しない時間帯では、料金は発生しません。水道や電気のように節約することが可能なので、AWSの課金制度については必ず理解しましょう。
契約サービスごとに料金が異なる
AWSの料金は利用するサービスによって異なります。AWSのサービスとしては、仮想サーバーの構築ができる「Amazon EC2」、オブジェクトストレージサービスの「Amazon S3」などが有名ですが、他にも200種類以上のサービスがあります。
例えば、「Amazon EC2」の料金は以下の要素で料金が決まります。
▪インスタンス(サーバー)のタイプ(t2.nanoなど)
▪サーバー台数
▪ストレージ容量(GB)
▪ EC2から転送されたデータ転送量(GB)
AWSの料金体系と課金要素
AWSには「Amazon EC2」「Amazon S3」を始め、120以上のサービスがあり、それぞれの料金は異なります。すべての料金体系を把握することは困難ですが、基本的な料金体系を知っておくと個々の料金に対する理解を深めることが可能です。AWSの課金要素としては「サーバー」「ストレージ」「データ転送」の3要素があります。個別に説明します。
サーバー
利用者がAWS上で構築する仮想サーバーは、起動してから停止までの実稼働時間をカウントし、時間単価で計算する料金体系です。サーバーOS・コア数・メモリの容量に応じ、時間単価は異なりますが、時間あたり約2円程度で課金されます。
サービスを停止している時間は課金対象外ですので、必要なサービスレベルに応じて稼働時間をコントロールすると料金を抑えることができます。
ストレージ
ストレージの容量に応じ、1GB単位で課金されます。ストレージをローカルで使うのか、オンラインストレージで利用するのかといった利用形態によって単価が異なりますが、1GBあたりの月間契約の場合は10円程度が目安です。ざっくりですが、100GBのストレージでは1,000円/月ほどかかるでしょう。
データ転送
AWSを利用することで発生するデータ転送に対しても料金が発生します。同一データセンター内のストレージ間のデータ転送や、外からAWSに向かうデータ転送に対しては課金されません。あくまでもAWSからインターネット側に対するデータ転送が課金の対象です。データ転送料金は概算で約20円/GBです。
AWSからインターネット側へのデータ転送の内訳と転送量は、予めシミュレーションしておきましょう。
AWSの「簡易見積もりツール」の概要
AWSでは、Amazonから料金計算ツールである「簡易見積もりツール」が提供されており、簡単にAWS利用料金の見積もりができます。マニュアルも用意されており、マニュアルで確認しながら項目を入力すれば見積もり金額が分かります。
「簡易見積もりツール」を実際に開くと、画面の左側にサービス名が多く並んでいるので難易度が高そうですが、項目を絞っていけばそれほど難しくはありません。必要最低限のところからスタートしましょう。最初は「コンピューティング」「ストレージ」「データ転送料」の3つを押さえてください。
【参考】AWS簡易見積もりツール
コンピューティング
コンピューティングとは利用するサーバースペックのことで、AWS利用のベースとなる「Amazon EC2」の利用料金です。利用料はEC2の「インスタンスタイプ」ごとに設定され、サーバー性能によって料金が異なります。料金は実際に使用した時間によって課金されます。
ストレージ
サーバーの使用にはストレージが必要になりますが、ストレージ料金は別途課金対象となります。例えば、「Amazon EC2」のディスク領域サービスの「Amazon EBS」や、ストレージサービスである「Amazon S3」などです。
上記のサービスは利用する容量単位で課金されます。1GB単位での料金設定になっており、1ヶ月間にプロビジョン(確保)した容量によって費用がカウントされます。必要なボリュームを作成して容量確保を行うと、解放されるまで費用がかかります。
データ転送
コンピューティングとストレージ以外に必ず発生するのが、「データ転送」に掛かる料金です。AWSでは外部環境(オフィスの端末等)からAWSに対してアップロード「上り」のデータ転送は無料です。
しかし、AWSからインターネットといった外へ出るダウンロード「下り」のデータ転送は有料です。例えば、AWSにファイルサーバーを移行し、容量の大きなファイルを頻繁にダウンロードするとデータ転送料金が高額になります。事前に利用形態について十分検討してください。
AWSのケース別料金の目安
AWSの料金体系や課金方法について、実際にどれくらいの料金になるのか知りたいという方もいるでしょう。実は、AWSのサイトにはケースごとに料金試算例が載っています。以下でいくつか紹介します。
動的Webサイト
恒常的にトラフィックの増加が見込まれるような動的Webサイトを構築する場合は、月額料金は約760ドルです。以下に構成内容・単価・料金の明細が載っています。
【参考】動的 Web サイトのためのクラウド構成と料金試算例
Windowsファイルサーバー
AWS上にオンプレミスのWindowsファイルサーバーを可用性を高めて移設する場合は、月額料金は約925ドルです。以下に構成例・単価・料金の明細が載っています。
【参考】FSx for Windows File Server によるWindows ファイルサーバ構成と料金試算例
各種料金の一覧表が便利
Amazonの公式ホームページには、料金の一覧表が公開されています。利用する国籍・OSの種類・インスタンスタイプなどを選択すると各種料金が表示されます。細かい設定ができるため、正確な料金を知りたい方におすすめです。
AWSの料金を削減する方法
AWSの料金は高いという噂があります。料金体系を理解せずに契約した結果、思ったほど安くはなかったという人が多いのかもしれません。AWSは使い方次第で料金が変わりますので、無駄を減らせば料金を抑えることができます。
インスタンスを停止する
AWSの料金は従量課金のため、水道や電気と同じように使った時間分が課金されます。「使った時間」とはインスタンスが起動している時間を意味し、インスタンスがアイドル状態でシステムを稼働させていない状態でも課金されます。そのため、システムを利用しない時間帯はインスタンス自体を停止させることで、料金を下げることができます。
例えば、外部に向けたWebサービスは顧客からのアクセスをいつでも受け付けるようにしているため、インスタンスを停止することはできません。しかし、社内向けのシステムは夜間や休日は停止することも可能です。
深夜勤務の方がいる会社の場合は十分な検討が必要ですが、そうでない企業では極力インスタンスの停止時間を設ける運用にすると無駄なコストが発生せずに済みます。
また、業務のピーク時と通常時の利用に大きな差が出るような経費システムは、利用のピークとなる月末だけインスタンスタイプのスペックを上げ、通常時は低スペックのインスタンスタイプに変更するといった運用も可能です。状況に合わせてスペックを変更するとコストを削減できます。
リザーブドインスタンスを使う
使いたいときに使える「オンデマンド」とは異なり、「リザーブドインスタンス」では事前に利用期間を決めて“予約”すると大幅な割引を受けることができます。「リザーブドインスタンス」は電車やバスの定期券と同じように、あらかじめ期間分の利用を前提として割引を受けられる制度と同じです。
利用頻度やデータ量の増減に変化が少ないような社内システムでの利用では、あらかじめ決められたスペックと期間を予約すると料金が割引になります。リザーブドインスタンスを利用する際は、事前にシミュレーションしてから決めましょう。
一方、スモールスタートさせて、成長・拡大・利用の増減に合わせて柔軟に利用していくケースでは「オンデマンド」が適しているでしょう。
AWSリセールサービスを使う
AWSの料金を支払う際に、AWSリセールサービスを利用すると料金が割引になります。AWSリセールサービスとは、AWSを利用している企業の代わりにAWSに料金を支払ってくれるサービスのことです。
料金が割引になる仕組みとしては、AWSを利用する複数の企業から利用料をまとめてAWSに支払うことによって、AWSからボリュームディスカウントを受けているためです。
また、AWSリセールサービスを利用すると無料でAWSのサポートを受けることができたり、障害・サイバー攻撃・サイバーセキュリティ事故に対する損害保険(クラウド保険)が付帯されていたりと手厚いサービスを受けることができます。
AWSの料金体系に関する疑問
ここではAWS料金の支払い方法について説明します。また、日本円での支払い方法についても説明しますので、AWS料金の支払い方法がわからない方は参考にしてください。
AWSの料金支払い方法
AWSの利用料金の支払方法は、公式にはクレジットカード決済となっています。しかし、法人の場合は請求書払いを前提にしている企業が多く、クレジット決済は経理部門が敬遠しがちです。実は、AWSの料金を請求書払いに変更することもできます。請求書払いにするには、いくつか条件や注意点があるため事前に確認してください。
▪請求書払いが可能なのは一定規模の取引があること(過去3カ月平均利用額が2,000$/月以上)
▪請求書はPDFによる電子送付のみ(紙媒体の請求書発行はない)
▪銀行口座への振込は米ドルによる海外送金
▪送金手数料はユーザー負担
このように日本の商慣習とは相容れない点はハードルが高く感じます。しかし、AWSパートナー企業提供の「AWSの請求代行 リセールサービス」を利用すれば、割引を受けながら日本円建てでの請求書払いも可能です。
日本円での支払いは可能か
AWSの価格表は、すべてUSドルで表記されています。日本円での支払いは可能ですが、変更しない限りはUSドル支払いになりますので最初に管理画面で円払いに変更する必要があります。
AWSの料金に強くなろう
AWSは利用しやすいと評判が良いクラウドサービスですが、最初に戸惑うのが料金見積もりです。定額料金であれば直ちに料金が見積もれるため、予算設定・社内稟議などもスムーズに進められますが、サービスごとの従量料金の場合、料金見積もりに工数がかかります。
しかし、AWSの料金算出の方式さえ理解できれば予算確保から最適なプランの設定までスムーズに行え、コスト削減も可能です。
ITエンジニアの皆さんは、クライアントに代わって料金見積もりやプランの最適化を依頼される可能性もあります。AWSの活用にあたっては、まずは料金体系の仕組みに関する知識を身に付けるとエンジニアとしてさらに重宝される存在となるでしょう。
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