皆さんは、「エンジニア=理系」という固定観念を抱いていませんか?確かにエンジニアという職種では理系出身者が多いのは事実ですが、システムエンジニアに限ると、近年は文系出身者が予想外に多い事に驚かされます。
文系出身者が増えている理由や、文系はシステムエンジニアに向いているのかどうかについて、その答えをこれから一緒に探っていきましょう。文系出身者で、システムエンジニア(以下SE)を目指す方はぜひ最後までお付き合いください。
長らくIT系の仕事をしていると、周囲のSEに文系出身者やSE女子が増えていることに気付きます。確かにインフラ系のエンジニアは今でも理系出身者が多いですが、SEに関していえば、文系出身者がかなり幅を利かせているようです。
どうやらSEは文系出身者に適した職種なのではないかという仮説が成り立つかもしれません。
SEが文系に適した職種であるかを確認するために、IT職種の人の専攻分野について調べてみました。
情報処理技術者試験を主催しているIPA発刊資料「IT人材白書2020」によると、IT職種の人の最終学歴の専攻分野で見ると、先端IT従事者の30.2%、先端IT非従事者の34.6%が文系という結果が出ており、IT従事者の実に3人に1人が文系出身であることが分かります。
また、SIer企業に絞ると文系の採用割合が4割前後に達するという情報もあり、SE職では文系・理系という区分は全く意味をなさなくなってきています。
【参考】:IT人材白書2020
エンジニアの皆さんは情報系学部を除く理系出身の方も含め、大学で専攻した分野が直接仕事に役立っているという方は、ほとんどいないでしょう。即戦力期待で情報学部出身者を優先的に採用している企業も一部にはありますが、大半のIT企業は出身学部にはこだわっていません。
実際のところ、多くの企業は採用時に「理系か文系か」というよりは、志願者の適性や将来性を見ています。
文系・理系を問わないとすれば、SEにはどのようなスキルが求められるのでしょうか?SEの実際の役割を考えてみましょう。
SEの役割はプログラミングではありません。顧客やユーザーの要望に基いてシステムを開発することです。顧客やユーザーが求める要件を明らかにし、設計書としてプログラマにプログラミングを指示します。
ここで求められるのは、
▪顧客やユーザー(時には経営者)からニーズをヒアリングし、現状把握と問題点の抽出を行えること ▪顧客やユーザーのニーズの具現化、解決に向けたシステム化案を作成し、機能レベルに落とし込んで仕様書としてプログラマに提示、説明できること
大別すると以上2つのスキルです。
このように、SEの役割は顧客やユーザーとシステム開発側との橋渡しです。ここで必要なスキルは、コミュニケーション力・分析力・文書力・調整力・マネジメント力などであり、理系というよりはむしろ文系寄りのスキルが多いことが分かります。
多くのシステムの開発目的は、突き詰めると利益の向上です。顧客の利便性向上・業務改善・販売促進など、さまざまな目的から開発されるシステムも、それらの究極の目的は経営改善や売上向上です。システム化は投資であり、リターンが求められます。
つまり、システムの開発においては経営視点が欠かせません。文系出身者の多くは経営学やマーケティングなどを学びます。会計学や経営分析を学ぶこともあり、それらがシステム開発に直結することはないにしろ、ユーザーヒアリングではそれらが生きてきます。
「P/L・B/S」「ROE」「ストックオプション」といった経営用語がユーザーの口から飛び出しても、文系出身者なら戸惑うことは少ないでしょう。SEは時にITコンサルタント的な立ち位置を求められるケースもあり、SEの仕事には文系の知識を活かせる機会が豊富にあります。
ここでは、文系の人でSEに向いている人の特徴をまとめました。以下のような4つが挙げられます。
▪PC作業が好き SEの仕事はほとんどPC作業がメインになります。顧客対応やチームメンバーとのやり取りも多いですが、プログラマーのようにプログラミングを行うことがほとんどです。そもそもPC作業が好きでないと、SEとして続けることは難しいでしょう。
▪論理的思考ができる システム開発の仕事に携わる以上、SEには論理的思考が欠かせません。物事を道筋立てて考えることができ、トラブル発生時の問題解決や納期に合わせて効率的な仕事の進め方をするにはどうすればいいのかなどを考えられる人が向いています。
▪細かい作業が苦にならない SEはプログラミングを行うことが多いので、PC上で細かい作業をする場合が多い職種です。そのため、細かい作業が苦にならず集中して取り組むことができる人が向いています。
▪新しい技術に対する知識欲がある ITにおける技術は日進月歩で進んでおり、ついこの間まで活用していた技術がオワコン扱いされることも珍しくありません。常に新しい技術が生まれている業界なので、新しい知識に対する探究心やインプット・アウトプットが求められます。
続いて、SEに向いていない文系の人の特徴をまとめました。以下のような4つが挙げられます。
▪物事を深掘りするのが苦手 システム開発の現場では、トラブル発生時における「物事を深掘りする能力」が重要です。「なぜ問題が起きたのか」「どうすればより良くなるのか」などをとことん追求しなければなりません。物事を深掘りして考えることが苦手な人には辛いかもしれません。
▪集中力が続かない SEは、プログラミングを行う上で長時間PCに向かって作業を行うので、高い集中力が必要です。ミスを少なく、なおかつ納期に間に合わせなければならないので、集中力が続かない人には向いていません。
▪臨機応変さがない システム開発などの現場では、度々クライアントからシステム変更を依頼されることも珍しくありません。当初とは異なる仕様や納期の変更といった急な事態にも対応できる柔軟さが求められます。
▪人とのコミュニケーションが苦手 SEは顧客先への訪問やチームメンバーと接する機会も多いので、円滑なコミュニケーションを取る必要があります。システムの進捗状況や詳細などを相手に分かりやすく説明しなければならないため、コミュニケーションが得意な人の方が働きやすいでしょう。
文系出身者が特に強みを発揮できるSEの仕事には、具体的に何があるのかを探るために、システム開発の流れと、その中におけるSEが担当する工程を見てみましょう。
ここでは一般的なシステム開発(ウォーターフォール型開発)の工程と、工程における主な担当者を見てみましょう。以下は、ITベンダーが顧客からシステムを受注する場合の工程例です。
以上のように、システム開発ではプログラミング以外の6つの工程でSEが関わっています。
前記のシステム開発工程の中で、SEが主に担当する工程である1・3・4・6について見ていきましょう。
1.要求分析 一般的な大規模開発案件は競争入札が行われます。顧客からベンダーに対して、提案要請書(RFP)が示され、SEはRFPから顧客の要求を読み取り、システム化案を描き、システム規模(工数・期間)を見積もり、システム提案書を完成させます。
システム規模が大きい場合には、上級SEやITコンサルタントがこのフェーズを担当することもあります。
3.要件定義 顧客提案を無事通過し、契約が決まると要件定義工程に入ります。ここでは最終的に、要件定義書として「顧客が必要とするものを正しく理解して資料にまとめる」スキルが求められます。
経営層や現場部門からのヒアリングや現状調査を行って、顧客の要求事項をまとめあげ、顧客の同意と確認を得ます。顧客のニーズを理解し、共感し、潜在的ニーズまで抽象化する能力が問われます。まさに「文系」の強みを発揮できる工程です。
4.基本・詳細設計 ここで必要なスキルは「顧客の要求仕様を正確にPGに伝え、理解させるためのドキュメント作成」能力です。理解力・文章力・客観性が乏しいと、この工程を完遂するのは困難です。
6.テスト(結合・総合) テスト工程では、SEとPGは密にコミュニケーションを取ります。テストでエラーが検出された際に、仕様のミスなのか、プログラミングミスなのか、あるいはインフラ環境の問題なのか、さまざまな要因を想定して、1つずつ確認や解決を図ります。
この際には、誤解を招きやすい口頭ではなく、文書やチェックシートなどで相互確認を行わなければなりません。正しく客観的な文章での記録・保管が必須です。
以上が開発工程におけるSEの仕事ですが、理系的要素よりも文系的要素が大きいことが分かります。
ここでは、実際に文系出身者がSEになったことで後悔した事例を紹介します。SEになって上手くやっていけるか不安を抱えている文系の人は、後悔しないための参考にしてください。
そもそも文系が学ぶ専門領域には、IT知識が含まれていません。研修制度を設けている企業に就職できたとしても、全くのIT知識がない状態で入社すれば理系出身者よりも遅れを取ってしまいます。
そして、その状態のままプログラミングやシステム設計の仕事に携わっていくと、「ついていけない」「きつい」と感じてしまうこともあります。
後悔しないためには、入社前からIT知識の学習をしたり、未経験でも取得しやすい資格の勉強をしたり、できる範囲の事前準備をしっかりと行いましょう。おすすめの資格は、IT系の仕事で必要な基礎知識を網羅している国家資格の「ITパスポート試験」です。難易度は易しめで、学生やIT初心者でも合格可能な試験です。
【参考】:ITパスポート試験
IT知識がなく未経験での入社の場合、研修後の業務内容については企業差があります。知識不十分の状態でいきなりコード記述を任されたり、SEとしての仕事を任せられたりすることがあり、投げ出されている状態が辛いと感じることもありますが、その分スキルは身につきます。
しかし、そういったこともなく、ひたすら設計書作成やシステムが正しく動作するかテスト作業を担当することも多いです。
エクセルでの資料作成と、テスト作業のためのスクショ撮影やボタンをクリックする作業を毎日こなさなければならないこともあります。期限や納期に間に合わせるため、休日出勤をしてまで延々に同じ作業を繰り返すのはとても辛いと感じるでしょう。
自身の市場価値を高めて実務に参加できるよう、研修で得た知識のみに限らず、前述した資格取得に励んだり、先が見えない場合は転職を検討したり、何らかの変化が起きるように行動しましょう。
文系SEに関わらず、IT業界では残業や休日出勤が頻繁にあります。慣れない仕事内容と相まって心身ともに休まる暇がなく、体調を崩してしまう場合もあるので、SEになったことを後悔する人が多いようです。
最近では、働き方改革によって少しずつ以前より労働環境が改善して整ってきているので、そういった辛さを感じる職場は減りつつあります。また、ある程度経験を積んだらフリーランスとして独立するといった方法もあります。自分が将来どういったキャリアに進みたいか考えておきましょう。
前述した文系SEになったことで後悔した事例にあるように、「文系はSEをやめとけ」「SEは文系にはきつい」といった声がSNSなどで目立ちます。ここでは、それらの原因になる文系出身者特有の弱みと、弱点克服について解説します。
きちんと理解し、対策を講じることでSEは嫌な仕事ではなくなり、むしろ楽しい仕事になるかもしれません。文系SEの弱みとその対策について一緒に考えてみましょう。
文系SEが弱点と感じることが、時にそれが悩みや退職理由に直結するケースもあるため、弱点や苦手意識は可能な限り克服したいところです。以下に、一般的に文系SEの弱点とされる事柄について2つ挙げてみました。
1.ITスキルの不足 システムエンジニアほど広くITスキルが要求される職種も少ないでしょう。SEは顧客やユーザーの心理や業務に対する理解も必要ですが、ITに関しても専門家でなければなりません。サーバや端末、OSなどのインフラからネットワーク・データベース・プログラミング・システム開発技法など、あらゆるITに関する知識が求められます。
さらに、それぞれの専門エンジニアと対等にコミュニケーションを取らねばならないため、SEは幅広く深い知識が求められます。そのため、ITスキルの不足を感じ、それが劣等感となっている文系SEも多いです。
2.プログラミングスキルの不足 SEはプログラマーに対してプログラミングを依頼する立場ですが、プログラミングを全く知らずに設計書を書くことは不可能です。また、テスト工程でバグを発見し、その解決にSEが関与するケースがあるため、SEには最低限のプログラミングスキルが必要です。
プログラミングを大学で習っていない文系SEは、どうしてもプログラミングスキルが不足しがちです。
ここでは、文系SEが弱点を克服するための方法を2つ紹介します。使えない文系エンジニアから脱却するためのヒントにしてください。
1.ITスキルの不足解消 ITスキル不足は勉強で補うしかありませんが、やみくもに勉強をしても非効率的です。勉強には目標が必要であり、目標を持つことはモチベーションアップにつながります。
ITの基礎知識を付けるためには最適な資格の取得がおすすめです。前述したIPAが主催する「ITパスポート」の他、「基本情報技術者試験(FE)」の資格取得を目指せば、かなり効率的・効果的にITの基本知識を習得できるでしょう。
すでにこの資格を取得済みの場合は、その上位資格である「応用情報技術者試験(AP)」を目指しましょう。いずれの資格も社会的に認知度は高く、スキル証明になるため就職や転職では有利に働きます。
【参考】:基本情報技術者試験(FE) 【参考】:応用情報技術者試験(AP)
2.得意プログラム言語を1つ作る プログラミングのハードルは年々下がっており、初心者でも学びやすいプログラム言語がいくつも登場しています。比較的学びやすく、教本やネット情報も豊富で、需要の高い言語を習得しましょう。
具体的には、Python・JavaScript・Rubyなどがおすすめです。JavaScriptは古い言語で、TypeScriptに移行しつつありますが、JavaScriptを習得すると容易にTypeScriptも習得できます。得意なプログラミング言語が1つでもあれば、プログラマからの信頼感が増し、仕事がしやすくなるでしょう。
文系出身でこれからSEを目指して就職・転職を考えている方は、入社試験の面接対策にも気を配る必要があります。IT系の企業は、エンジニアを目指す文系出身者の志望動機について興味があるため、できるだけ肯定的な志望動機を伝えましょう。
「システムエンジニアに憧れている」「ITは人気の職種だから」などのあいまいな表現はインパクトに欠けます。
「DXに興味があり、ぜひDX推進のエンジンになりたい」「チームで何かに挑戦し、成果をあげるのが得意だから」といった、面接官が期待するような明快な答えをしっかり用意しておきましょう。「当社を選んだ理由は?」と質問された時のために、企業研究も怠らないようにしてください。
SEを目指すのは、目的ではなくゴールへの1つの足掛かりです。SEを目指す方は、5年先、10年先のキャリアプランを明確に描いておくことをおすすめします。
SEは万能エンジニアです。顧客やユーザー部門との接点、さまざまなIT職種との接点があり、人脈も多く、仕事の幅が広いのが特徴です。活躍の範囲も広いため、他の職種と比較してSEはキャリアパスが豊富にあります。
SEからプロジェクトマネージャやITコンサルタントを目指すという一般的なパスもありますが、マネジメント経験を生かして管理職を目指す、あるいは顧客とのコミュニケーションが得意な方はセールスエンジニアを目指すのもおすすめです。
Python言語を学ぶ中でAIに興味が湧いた方は、AIエンジニアなどの専門職を目指す道もあります。
あらゆるIT職種に文系出身者がいるため、自身を枠にはめることなく、さまざまな可能性にチャレンジしてみてください。
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