ITに関わる仕事をしている方にとってITコンサルタントは憧れの職種の一つかもしれません。
ITコンサルタントは企業の経営的な課題や問題に対して、主にIT技術を用いた解決案を作成し、それを提案することを主な役割とする職種です。中小企業診断士の仕事とも重なる部分があります。
ITコンサルタントは企業経営者やシステム部門責任者、時には現場担当者からのヒアリング結果をもとに現行システムの改廃、新規システムの開発導入といった解決策の提案を行うため、あらゆる分野での総合的な知識やスキルが求められます。多くの職種があるIT業界の中でも、ITコンサルタントは頂点に位置する職種といっても過言ではありません。
資質というのは、生まれ持った才能です。ITコンサルタントには、論理的思考能力と問題解決能力が欠かせません。体力と忍耐力も求められます。情緒的や感情的で、諦めが早い性格の方には向きません。
他、プロジェクトチームをまとめるリーダーシップやコミュニケーション能力も必要です。もちろん、こうした能力は学習や訓練によっても強化はできますが、資質に欠けていると克服するには相当の努力が必要でしょう。
ITコンサルタントに必要なスキルを集約すると以下の6項目です。
1.IT全般に関する幅広い知識や経験
ITコンサルタントは自らが編成するプロジェクトのリーダー役を担います。リーダーとして、開発するシステムの全体を把握し、システム稼働環境や他システムとの連携、セキュリティ、パフォーマンスなど考慮しながら、クライアントにとって最適な解決策を提示しなければなりません。
またプロジェクトメンバーをリードし、メンバーの能力を最大限に引き出すためにもシステム開発や運用、ネットワーク、サーバーなどあらゆる分野のITに関する幅広い知識が必要です。
2.経営や業務に関する知識
ITコンサルタントは企業の経営上の問題、業務面の問題に踏み込んで解決策を提示しなければなりません。時には財務諸表を分析し経営上の課題を見つけることも求められます。
さらには現場に入り、現場の声を吸い上げること、現場の理解や協力を求めることも必要です。こうした役割を担うには、経営分析力に加え業務知識が必要になります。逆に言えば、こうした知識を持つことが顧客の信頼を得て、プロジェクトを進める上で大きな力になります。
3.特定分野での専門知識
ITコンサルタントは特定分野における専門知識が求められます。たとえば、「受発注物流システムの刷新」というテーマでITコンサルティングを受注したとしましょう。このケースではSCM(サプライチェーンマネジメントの略)、すなわち原材料調達、生産管理、物流や販売に至るまでのプロセスに関する一連の流れについての知識が必要です。この知識がなければ、現状分析や問題点発見、改善案の提示はとてもおぼつきません。
4.問題解決能力
ITコンサルタントの主な役割は、顧客が抱える問題の発見とその解決です。問題解決力はITコンサルタントに必須のスキルといえます。問題解決技法にはゼロベース思考や仮説思考、これらの前提となる論理的思考など、さまざまな思考法があり、それらを体得するとともに、それらの思考法を駆使してさまざまな視点から問題解決へと導くスキルが必要なのです。
5.コミュニケーション能力
ITコンサルタントには専門知識が求められますが、その専門知識を用いて顧客とのコミュニケーションを図り、問題発見と問題解決を行います。顧客企業の経営者はもちろんのこと、現場で働く社員、各部門の責任者など、あらゆる立場の人と接し、問題点の発見を行います。そのためにITコンサルタントには顧客との良い関係を構築し、顧客と一体となって問題解決を図るためのコミュニケーション能力が求められます。
6.体力と精神力
ITコンサルタントはあらゆる面でタフでなければなりません。自らを律するばかりか、プロジェクトをマネジメントし、顧客をも動かさなくてはなりません。時間の制約、人的資源や予算の制約のなかで最大限のパフォーマンスを発揮しなければなりません。体力的にも、精神的にもタフでなければ務まらない厳しい仕事でもあるのです。
ITコンサルタントになるために特別な資格を持つ必要はありません。とはいえ、取得しておくと役立つ資格がいくつかあります。ITコンサルタントを目指す方は、以下のような資格に挑戦しながら、自己けんさんに励まれるのが良いでしょう。
1.中小企業診断士
経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士は、中小企業の経営課題に対して診断や助言を行う専門家であり、ITコンサルタントの仕事と重なる部分が多いのです。この資格を取得しておくことはITコンサルタントを目指す方には有利に働くでしょう。
2.ITストラテジスト
ITストラテジストはIT系国家資格の一つで、IT戦略を策定し、ITを活用した事業革新や業務改革、IT技術を用いた新たな製品やサービスの企画・推進などを行うCIOやITコンサルタントを目指す方には最適な資格といえます。
3.ITコーディネータ
ITコーディネータは、企業のIT化を経営戦略的視点で推進・サポートする専門的なアドバイザーです。経済産業省が推進する民間資格で、ITコンサルタントを目指す方には取得が望まれる資格の一つです。
ITコンサルタントとは具体的にどのような仕事を行う人なのでしょうか ?これから仕事の大まかな流れについて解説していきます。
ITコンサルタントの仕事は、企業における経営課題や問題をITを活用して解決することです。それは医師の仕事とも似ています。
医師は患者の病状を診ながら病気について仮説を立てます。体温を計り、脈を診て、必要に応じてレントゲンを撮り、仮説を検証し、病因を特定化して治療方針を設定します。完全回復を目指すのか、病気と付き合いながら日常生活を営めるようにするのか、目標を設定します。
ITコンサルタントも医師の診察と同様に、企業の有価証券報告者や財務諸表、ヒアリング調査などから企業の問題点を見出しし、仮説を立て、仮説を検証し、解決目標を定めます。正しい診断こそが正しい治療と病を克服するための重要なカギとなるのです。
立てた仮説の検証をするためにヒアリングを行います。ヒアリング対象は経営者、関係部門の責任者や担当者、時には現場に出向いて第一線で仕事をする方々にも及びます。
ヒアリング結果を分析し、どこに、どんな問題があるのかを明らかにします。当初設定した仮説が正しいのか否かの検証を行い、解決を必要とする部門、解決すべき問題の特定化を行い、その解決策を策定します。
解決策について、5W2Hで課題と解決策、解決に必要なリソース(人・モノ・予算)を明らかにし、経営側に対して提案を行います。このプレゼンテーションに失敗すると、経営判断を得ることができずプロジェクトはとん挫します。大変重要な仕事です。
提案が採用されたら、問題解決に向けたタスクチームを編成します。クライアントのシステム部門、主管部門、自らコントロールできるシステムエンジニア、プログラマー、プロジェクトリーダーなどを選出し、そのタスクの全体管理を行います。またその結果に対してもITコンサルタントはすべての責任を負います。
IT職種の中でも大きな役割を求められるITコンルタントの年収について見てみましょう。
ITコンサルタントの年収に関しては、さまざまな調査結果がありますが、ここでは経済産業省が平成29年8月に公表した『IT関連産業の給与等に関する実態調査結果』からピックアップします。調査結果では、コンサルタントの平均年収は928.5万円でした。ちなみに令和2年9月発表の国税庁『民間給与実態調査』では、日本人の平均年収は 436万円です。IT技術者の最高峰であるITコンサルタントの高年収ぶりがよく分かります。
次にITコンサルタントの平均年収を他のIT業種の平均年収と比較してみましょう。
『IT関連産業の給与等に関する実態調査結果』によると主なIT職種の平均年収は以下の通りです。
・プロジェクトマネージャ 891.5万円
・高度SE・ITエンジニア 778.2万円
・SE・プログラマ(顧客向けシステム開発) 593.7万円
プロジェクトマネージャの年収がITコンサルンタントに肉薄している点が注目されますが、いずれにしても比較的高年収のIT職種の中でもITコンサルタントの年収がもっとも高いことが分かります。
ここまでITコンサルタントの仕事や必要なスキルなどについて解説してきましたが、IT関連職種には似たような職種があります。それらとの違いは何なのか、これから解説していきます。
ITコンサルタントとシステムエンジニアの仕事は被る部分もあり、時にはシステムエンジニアがシステムコンサルタントの領域を担うこともありますが、両者の仕事や役割は根本的に異なります。
「IT技術を用いて経営やビジネス課題を解決すること」がITコンサルタントの主な仕事です。一方のSEは「顧客の要求に応じてシステムを構築すること」が主な仕事であり、両者の仕事の範囲は大きく異なります。
数あるIT関連職種の中でも、プロジェクトマネージャーはITコンサルタントに非常に近い職種です。特に、プロジェクトのマネジメント(管理)という部分はITコンサルタントと被ります。では両者の大きな違いは何なのでしょう ?
ヒアリングや分析、提案は基本的にITコンサルタントが行うのに対し、プロジェクトマネージャーはシステム導入や開発が決まってからがメインの仕事です。具体的には開発計画の策定、人材確保、プロジェクト管理、他部門や他社との調整や連携、検証といった仕事を行います。
ITコンサルタントになる方法として、キャリアパスはいくつかあります。ここでは代表的な2つの方法について解説します。
ITコンサル系企業としては、アクセンチュア、デロイトトーマツ、日本アイ・ビーエム、NTTデータ経営研究所などが有名ですが、こうした企業に就職(転職)し、先輩社員の指導を受けながら、ITコンサルタントを目指すという方法がITコンサルタントへの近道かもしれません。実際に20歳代でITコンサルタントの名刺を持つ社員も見かけます。
ただし、その道は険しいと考えてください。まず、こうした人気の高いITコンサル系企業への就職は非常に狭き門です。東大や京大といった超一流大学からの志望者が多く、またIT技術者の転職先としても人気が高いため、就職活動は大変な競争を覚悟する必要があります。有力な転職エージェントを活用するのが就職への早道かもしれません。
また、運よくITコンサル系企業に入社し、無事にITコンサルタントになれたとしても、プログラマーやシステムエンジニアの経験がなければ、プロジェクトメンバーをマネジメントしていくのは大変です。彼らを納得させられるだけの能力や人的魅力がないと、プロジェクトを率いるのは苦労が多いでしょう。
こちらがITコンサルタントへの王道と言えるかもしれません。まずはプログラマーからスタートし、システムエンジニア、プロジェクトリーダーなどの経験を積みながらITコンサルタントを目指す方法です。
一般企業に入社し、システム部門でさまざまなキャリアバスを積んでからITコンサルタントを目指す道と、もう一つはIT系企業に就職し、IT企業内でキャリアパスを積んでから目指す道とがあります。
一般企業で経験を積むと、その業態や業種に明るいコンサルタントになれるという利点がある半面、一般企業にはITコンサルタントを育成できる体系的なCDP(キャリアディベロップメントプログラム)がほぼ存在しないため、ITコンサルタントになるには自ら道を切り拓いていくことが求められます。
一概にどの道が最良とは言えませんが、それぞれの適性や能力、人生観に従って自らに最適な道を見つけることです。
最後にITコンサルタントの将来性について考察してみましょう。
経済産業省は日本の企業に対して「デジタルトランスフォーメーション」※(DX:Digital Transformation)を加速させることが国際競争力を高める重要な施策であると位置付けています。このDXを推進するために、ITコンサルタントの活躍が必須であり、ITコンサルタントに対する期待はさらに高まり、その役割が大きくなっていくことが予想されます。
AIの発達によって、IT職種の一部はAIに置き換わっていくと言われていますが、ITコンサルタントの領域はまだまだAIにはカバーできません。そういう意味では、ITコンサルタントは不滅の職業なのかもしれません。
※参考:D X レポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
独立行政法人:情報処理推進機構がとりまとめた※「IT人材白書2020」によると、大企業の約30%が社内向けITコンサルタントの業務領域を拡大しており、企業の競争力向上のためにはITコンサルタントの必要性が高まっています。これからもますます需要が高まると思われるITコンサルタントに皆さんが積極的にチャレンジされることを願っています。
※参考:「IT人材白書2020」