SIerとは?
「SI」とは「System Integration」の略称であり、システムインテグレーションはシステム開発を請け負う事業などを示す言葉で、顧客先の要望に応じて、システムの設計・開発・運用・コンサルティングに至るまでさまざまな仕事を請け負うことを言います。
この事業を請け負う企業のことを「System Integrator」もしくは、縮めて「SIer」と呼びます。したがって、SIerは「システム開発を請け負うIT企業」と言えるでしょう。ここからは、SIerの仕事内容やSIer企業の種類について詳しく解説します。
SIer企業の仕事内容
SIer企業が請け負う仕事は、システム関係における全てを請け負うこともあり広範囲にわたります。理由としては、日本のメガバンクのような大手企業が、自社の中で大規模な情報システム部を持ち、システム開発や保守・運用を行っていかなければならないところを、SIer企業に全て委託していることが原因です。
SIer企業の業務内容としては、まず顧客と開発するシステムの企画から入る要件定義から始まります。その後、設計・開発・テストと続き、システム開発を行い、開発したシステムの保守・運用まで担当するのがSIerの業務範囲です。
1.要件定義 ヒアリングや企画とも呼ばれており、顧客やクライアントがどのようなシステムを求めているのかを分析します。機能要件と非機能要件をそれぞれ書き出します。
2.設計 システムの大枠を決定した後、システムの操作方法・表示方法・システム化される業務の対象・システム導入後の新しい業務フローまで、基本的な仕様・構成などを詳細にまとめます。
3.開発 設計書通りにプログラミングを行う作業です。ただプログラミングを行うのでなく、設計書を作成した人とテストを行う人と積極的にコミュニケーションを行うのも大切です。
4.テスト プログラマーが作成したシステムが正確に動作するのかを、単体テスト・結合テスト・総合テストの3種類に分けてテストします。1つ1つの機能や関数が正しいかどうか、システム同士の機能の関連性に問題がないか、実際の稼働環境でシステムに問題が生じないか、などの項目をチェックします。
5.運用・保守 システムが問題なく運用しているかのチェックや、システムをより良い状態で稼働させるためにプログラムの修正を行います。システムは24時間365日稼働していなければならないものもあり、常にシステムを監視する業務も含まれます。
SIer企業の種類
SIerは、業務内容や企業の成り立ちによって種類があります。ここでは、主なSIerの種類や特徴について解説しましょう。SIerの種類は、大きく分けて「メーカー系」「ユーザー系」「独立系」に分けられます。その他、「コンサル系」や「外資系」などもあります。
1.メーカー系 PCメーカーから独立したSIer企業のことを言い、親会社やグループ会社のシステム開発を行うことが多いです。メーカー系のメリットは経営が安定していることでしょう。一方、デメリットはプロジェクトによってスキルの違いが大きいことと言われています。代表的な企業は、日立製作所・NEC・富士通などです。
2.ユーザー系 一般企業から独立したSIer企業のことを言い、親会社もしくは外部企業のシステム開発を行うことが多いです。 ユーザー系のメリットとしては自社で働けることが挙げられ、デメリットはITのスキルが身に付きにくいことです。代表的な企業としては、NTTデータ・SCSK・日鉄ソリューションズなどです。
3.独立系 特定の親会社を持たないSIer企業のことを言い、主に外部企業のシステム開発がメインです。独立系のメリットは自由度が大きく、ITスキルが比較的伸びやすいことですが、デメリットは親会社がないため、案件を継続的に自社で取り続けないといけません。代表的な企業としては、TIS・大塚商会・日本ユニシスなどです。
4.コンサル系 企画提案や要件定義の部分を主に担うSIer企業のことを言い、外部企業のコンサルティング業務を行うことが多いです。システム開発の上流工程と呼ばれる部分に携わることができ、高収入が期待できるでしょう。一方、成果主義の部分もあるため注意が必要です。代表的な企業としては、NRIやアクセンチュアなどです。
5.外資系 海外を中心に事業展開を行うSIer企業のことを言い、海外企業のシステム開発を行うことが多いです。成果主義な部分があるため、風土が自分と合っているか注意が必要です。代表的な企業としては、Microsoft・Oracleなどです。
SIerとSEの違い
SIerとSE(システムエンジニア)との違いについて、呼び名や請け負う業務が類似しているせいで意味を混同してしまう方も多いですが、SEはシステムを開発するエンジニアのことで、SIerは前述の通りシステム開発を請け負うIT企業のことです。
そもそも「人」を指すのか、「企業」を指すのかで大きく意味が変わります。SIer企業でSEとして従事することもあります。
SESとはどう違う?
SESとは「System Engineering Service」の略称で、顧客が希望するエンジニアの紹介や労働力・スキルの提供を行います。エンジニアが不足している顧客先に対して、エンジニアの能力を労働時間単位で紹介する契約形態のことです。
簡単にまとめると、SIerは顧客先からシステム開発の案件を受注して業務を行う「企業」のことを指し、SESは業務上の「契約形態」のことを言います。
SIerとSESの区別が分かりづらい理由は、SIer企業がSES企業と契約して、エンジニアの能力を借りる場合が非常に多いためです。「SESは準委任契約である」と覚えておきましょう。
SIerはオワコン?やめとけと言われる理由
ネット上では、SIerは「オワコン」「やめとけ」「やばい」と否定的な意見が目立ちますが、そのように言われてしまう理由は何なのでしょうか。ここでは、SIerがこれまで抱えていた問題点や避けるべきSIerの企業の特徴について解説します。
下請け構造
1つ目の問題点として「SIerの下請け構造」についてです。建設業界のゼネコンの下請け構造と似ていることから、「SIerの下請け構造」のことを「ITゼネコン」と呼ぶこともあります。まず顧客先より、大規模案件を大手SIerが受注します。その後大手SIerが中堅SIerに下請けとして発注を行います。
さらに中堅SIerは、零細SIerや派遣などに発注していくため、多重の下請け構造となるでしょう。発注元である大手SIerが仕様やスケジュールを決めるため、下請けや孫請けと言われるSIerは次のような3点の問題点が発生します。
・顧客先と関わる機会が少ないため、やりがいを感じにくい ・決まったスケジュール内に納品する必要があるため、残業や休日出勤が増える ・下請けに発注するごとに、マージンが引かれていくため、下請企業の収入は低くなる傾向がある
SIer企業での転職・就職を検討している方は、「IT業界の下請け構造」を理解し、自分の目的を明確にした上で、勤務する会社を選びましょう。
ビジネスモデル
ニュースやテレビなどの情報から、IT業界で勤務する環境は先進的であるイメージをもっている方が多いのではないでしょうか。例えば、Googleやメルカリ、LINEなどに勤務する人は、華やかで自由に働いているイメージがあるでしょう。
一方、SIer企業は少し違います。理由としては、SIerは働く時間によって売上を伸ばすような「労働集約型」と言われるビジネスモデルであるためです。
SIer企業はいかに効率よく、安定的に開発できるかを求められるため、新しい技術を採用するようなリスクを避ける傾向があります。この点がWeb系企業と呼ばれる、自社開発している企業と異なる点だと言えるでしょう。
技術力がつかない
SIerで身につくスキルは技術的な部分ではなく、スケジュール管理・品質管理・顧客の対応・チームメンバーの管理・関係者との合意形成など、マネジメントスキルの面が大きいのが特徴です。
大規模プロジェクトの開発ではさまざまな管理が難しくなってくるため、管理職に出世したい場合はSIer企業で働く形がおすすめです。
これまでは技術的な部分でのスキルを身につけたい場合は、SIerは向いていないとされてきましたが、近年SIer含めIT業界は技術や働き方の変化が著しいため、今はデータサイエンティストなどの技術者を求めるSIer企業の募集も増えています。
「SIerは技術力がつかないからやめとけ」とされてきた従来の常識が変わろうとしています。
ブラック企業が多い
最も「やめとけ」の理由に多いのは、勤務先がブラックなSIer企業が多かったことです。3次請け4次請けとなると、やはりどんどん給料や待遇が悪くなり、労働時間だけが長いブラック企業の可能性が高くなります。
しかし、IT業界のプロジェクトマネジメントスキル自体の向上により、どのSIer企業でもあらかじめのリスク分析やそのための予算確保、またスキルの高い技術者をチームに配置するといった対策を設けています。
また、労働基準法などのコンプライアンスが厳しくなったことで、所謂ブラック企業は減少しているので、この問題は大幅に改善されています。
避けるべきSIer企業の特徴
では、実際にSIer企業に転職・就職する場合に、前述した理由を参考に避けるべきSIer企業の特徴を3つまとめました。
1.3次請け以下のSIer これはSIerの問題点でもある根本的な部分です。下請けになればなるほど給料や待遇が悪くなるので、3次請け以下のSIerはおすすめしません。どのようなSIer企業を選ぶかによって、場合によっては年収が何百万と差が出ることもあります。
2.受託開発のみのSIer SIerは受託開発がメインですが、自社が開発するサービスや新しいシステムの制作などを行わない企業は将来性が低いかもしれません。今やさまざまな企業が自社サービスの開発を行う時代なので、受託開発以外の業務も行なっている企業を選びましょう。
3.古い体制のままのSIer 変化の激しいIT企業は、さまざまな変化に順応しなければなりません。また、昨今働き方改革が進められており、テレワークの導入や福利厚生の充実さに注力する企業が多い中、新しい変化を受け入れず古い体制のままの企業は今後生き残れる可能性が低くなります。
DXや新事業の取り組みがなされているかもチェックしましょう。
SIer企業の将来性
ここからは、SIerの需要・今後の展望・SIer企業で働くために必要なスキルについて解説します。
SIer企業の需要
急激なIT技術の発展により、システム開発の案件数は今後も増加していくことは間違いありません。よってSIerの仕事がなくなることは考えにくいため、今後も日本国内ではほとんどの企業が自社にシステム開発部門を置かずに、SIer企業に外注するケースが依然として多いと予想されます。
しかし、今後は自社サービスの開発にも力を入れるSIer企業が生き残りに強くなってくる可能性がありますが、どちらにせよSIerの需要がなくなるような心配はありません。また、IT業界の人手不足やシステム開発の需要が高まることから、SIerの将来性は高いでしょう。
SIerの今後の展望
前述の通り、SIer企業には一定数の需要があるため、仕事がなくなる可能性は低くく、技術力のあるSIer企業であれば、生き残って行くでしょう。
SIer企業は「下請け構造」「労働集約型のビジネスモデル」の問題点を抱えているため、スキルが身に付きづらい環境であるとされており、エンジニアとして技術や知識を身に付けて成長する環境としては、まだまだ自社開発をしている企業と比べると十分ではありません。
しかし、SIer企業では「未経験でもIT業界にチャレンジできる」「年収や福利厚生がしっかりしている会社が多い」などのメリットもあるため、SIer企業で働くことは必ずしもデメリットしかないわけではありません。
SIer企業で働くために求められる3つのスキル
ここからは、今後SIer企業で働くために求められるスキルを3つ紹介しましょう。
1.システム開発に関する知識やスキル システム開発の業務を行うためには、要件定義や設計から開発や保守・運用と幅広い工程の知識やスキルが必要です。要件定義工程では、顧客先へのシステム提案を行うため、ヒアリング力・提案力・顧客の業務に関する知識が欠かせません。
設計工程では、業務の流れを示すデータフロー図を作成するなど、設計手法を理解している必要があります。
開発工程ではプログラミング言語に関するスキル、テスト工程ではテストツールの利用に関する知識が求められます。運用・保守工程では、サーバやネットワークのようなインフラ部分に関する知識・システムのトラブル対応・システムを改善するスキルなどが必要です。
2.コミュニケーション力 SIer企業で働く場合、多くの人と関わることになります。例えば、顧客先・プロジェクトメンバー・下請先などです。またシステム開発を行っていく際、チームで業務を行っていくため、チームメンバー間で認識齟齬を生じないような適切なコミュニケーションスキルが求められます。
さらに、要件定義工程では顧客先が求めているシステムについて明確にヒアリングを行い、保守・運用工程では障害状況についてわかりやすく顧客先へ伝えなければなりません。したがって、コミュニケーションスキルは仕事を進めていく上で大切なスキルと言えるでしょう。
3.プロジェクトマネジメント力 プロジェクトマネジメントとは、プロジェクト全体を束ね、システム開発の各工程における作業を円滑に遂行させるための管理手法のことです。プロジェクトマネージャーになると、スケジュール管理・予算管理・品質管理・リスク管理・コスト管理などを行います。
若手のエンジニアにとっては必須のスキルではありませんが、年収アップを期待する方やリーダー職以上を目指す方にとっては必要なスキルです。
以上のように、SIer企業で働くには、システム開発に関するスキルに加えて、コミュニケーション力やプロジェクトマネジメント力などのヒューマンスキルも必要です。さらに、今後SIer企業で重宝される人材となるためにも、エンジニアとして複数の技術や新しい技術を身に付けていくことも大事だと言えます。
SIer企業が自分に合っているか考えよう!
当記事では、SIerの詳細から問題点、将来性について解説しました。SIerとは、システム開発を請け負うIT企業のことで、仕事内容は幅広いですが、SIer企業の問題点として、「下請け構造」「労働集約型のビジネスモデル」が挙げられます。
しかし、急激なIT技術の発展により、システム開発の案件は今後も増加していくため、SIerの仕事がなくなることはないでしょう。
今後、SIer企業で重宝される人材となるためには、コミュニケーション力などのヒューマンスキルに加えて、エンジニアとしての新しい技術や複数の技術など価値のあるスキルを身に付けていくことが重要です。
SIer企業の特徴についてさまざまな説明をしましたが、結論として、SIer企業が自分に合っているかを1度考えてみることが大切です。最後までお読みいただきありがとうございました。
マイナビエージェントに無料登録して
転職サポートを受ける
編集部オススメコンテンツ
アンドエンジニアへの取材依頼、情報提供などはこちらから