プロジェクトマネージャー(PM)、プロジェクトリーダー(PL)は役職か役割か
プロジェクトマネージャーとプロジェクトリーダーの違いを考えるとき、当然その「役職名」の違いもありますが、その「役割」の違いもあります。
会社によって違うPMとPLの意味や立場
「店長」という肩書きになったが仕事内容は変わらず、変わったのは時間外手当がつかなくなったことだ、などということは良くあります。肩書きや役職名は同じでも、会社が違えば仕事内容も違ってきます。
PM、PLの意味や立場も会社によって異なります。そのため、転職した当時は混乱したというエンジニアも少なくありません。プロジェクトの大きさによっても役割は異なるので、PMはいるがPLはいない、複数のPLがいるなど、その在り方は様々です。
本質的にはPM、PLは役割の違い
あるプロジェクトにPMとPLがいれば、一般的にはPMが上位職でPLがその下に付くことになります。しかし、極端な例をあげると、重要なプロジェクトではIТ企業の創業社長がPLをして、PMを外部から招く、ということもあり得ます。昔取った杵柄で社長が陣頭指揮をとることで現場が活性化すれば、プロジェクトの完成が期待できるからです。したがって、本質的にはPMとPLは役割の違いであって、上下関係ではありません。
PMとPLの役割の違いとは
では、具体的にはPMとPLの役割はどう違うのかを見ていきましょう。
「マネージ」と「リード」の意味から考えてみよう
プロジェクトマネージャーは「マネージする人」、プロジェクトリーダーは「リードする人」です。「マネージ」は、管理するというより「やりくりする」と考える方が実態に即しています。与えられた条件の中で「ヒト・モノ・カネ」をやりくりするのです。「リード」は文字通り「先頭に立って引っ張る」ことです。日々のタスクを方向づけてチームのメンバーに推進力を供給します。
プロジェクトマネージャーの役割と仕事内容
PMがプロジェクトのやりくりをするとは「環境を整える」ことです。具体的には、ゴールを決める、締め切りを設ける、予算を確保する、人員を配置する、リスクを減らす、トラブルに対処する、などの仕事を行ないます。
経営者やクライアントと協議してプロジェクトの環境を設定し、キックオフの後はその環境をゴールに向かって調整します。
プロジェクトマネジメントの世界標準と言われる教科書「PMBOK」には、PMの役割が詳細に(ときには詳細すぎるくらいに)記載されています。一口にプロジェクト管理と言っても、次のような10の管理項目が挙げられています
●スコープ管理(プロジェクトの目標、作業範囲、成果物を定義し、管理すること)
●スケジュール管理
●コスト管理
●品質管理
●要員管理
●コミュニケーション管理
●リスク管理
●調達管理
●ステークホルダー管理
●統合管理
各項目はそれぞれ計画書を作ってから実行するとされています。これを額面通りにやろうとすると、便利な管理ツールを使ったとしても、大変な作業です。教科書どおりにはやれません。しかし、各項目の内容を見ても「やらなくてもいい」ことは1つも含まれていません。ここでも、理想通りには進まないプロジェクトという生き物を何とかやりくりするのがPMの仕事だということが分かります。
プロジェクトリーダーの役割と仕事内容
PLが現場を引っ張るとは「メンバーに燃料を与え続ける」ことです。具体的には、ゴールを頭に入れて、タスクを割り振る、進捗が遅れているメンバーの相談に乗る、優先事項とチェック項目を明確にする、トラブルに対処するなどです。PL自身、自分のタスクを抱えていますが、メンバーの心身の健康に気を配ることもPLの重要な役割です。
上記のような役割をこなすためにPLは、各メンバーと「技術内容について語りながら」問題を解決していきます。したがって、設計スキル、プログラムスキルでもメーンバーをリードできる力が求められます。
PLが現場を「正しくリードする」ためには、プロジェクトのゴールをPMと同じくらい明確に把握している必要があります。ゴールすなわちUX(ユーザー・エクスピアリエンス)をつねに意識してシステム構築とテストを行なうことで、正しい力加減で正しい方向にプロジェクトを推進することができるからです。
プログラミングなど自分のタスクに集中して取り組んでいるメンバーは、ややもすると意識が蛸壺型になり、ムダなところに力を入れ過ぎることがあります。そんなときにユーザーの顔を思い出させてやることもPLの役割です。
上記をまとめると、PLの役割は次のようになります。
●プロジェクトのゴールとユーザー体験をつねに意識する
●タスクを適切に割り振り、スケジュール管理をする
●トラブルの芽を早期に発見して対処する
●メンバーの声に耳を傾け、チームの士気を高める
●プロジェクト外部の関係者と内部のパイプ役になる
このように、実際の現場に立ってメンバーを引っ張っていくのがPLの役割です。
PMとPLの役割の共通点と相違点
PMもPLも目指すゴールは同じで、リスク管理をして、トラブルに対処するのも同じです。しかし、プロジェクトは計画通りにはいかないもので、必ず「難所」に遭遇します。そのときにPMはプロジェクト外部からの雑音からプロジェクトを守る必要が生じることもあります。PLは難所の性質やクリアする方法をメンバーと検討するとともに、それを正確にPMに報告する義務があります。
ゴールの一部変更や締め切りの変更が避けられない場合は、PMが経営者やクライアントと相談しなければいけません。PLはメンバーから見て「いちばんオレ(わたし)の気持ちがわかる人」であるべきです。メンバーが経営者に不満があっても現場の空気が悪くなることはありませんが、PLに不満があると毎日の仕事が苦痛になります。
プロジェクトに欠かせないのはPMかPLか
結論から言えば両方必要ですが、病気で1週間休まれて困るのはPLです。それぞれの行動や意識からその役割の違いを見ていきましょう。
PMのペルソナを想定してみよう
PMはハイレベルなプロジェクト計画、つまり詳細が未定のアバウトな計画でGOを決断する立場にあります。キャリアに裏打ちされた先見力が必要だし、細部にこだわらない鷹揚さや度胸も要ります。必ず生じる遅れや変更に対応する柔軟性も必要です。経営者やクライアントなどのステークホルダーとの交渉力も欠かせません。もめたときやトラブルが発生したときにパニックになってしまわない胆力が求められるのがPMです。交通事故にあったときに現場から逃走してしまうような人はPMには向いていません。
プロジェクト内部で進行している業務への目配りが行き届いていること、支援する姿勢があることも重要です。「計画通りにやれ」とハッパをかけるだけでは、活気のあるプロジェクトにはなりません。もちろん、エンドユーザーに提供するゴールに対する揺るがない視点はPMにとって必須です。
PLのペルソナを想定してみよう
PLはPMが整えてくれたプロジェクトの環境の中で、メンバーと共にタスクを積み上げていく立場にあります。明るくて元気な人が人を引っ張る力がありますが、必ずしも体育会系のノリが必要なわけではなく、人の話をよく聞くこと、長所を見つけてそれを活かすことを考えるのが大切です。社内の営業部からのヒアリングやPMとの緊密な情報交換などのコミュニケーション能力も重要です。
プロジェクトが胸突き八丁にさしかかると、メンバーの心身の疲労もピークになります。オーバーワークで壊れてしまうメンバーが出ないように目配りし、支援する優しさもPLに求められるキャラです。
PLがしっかりしていればプロジェクトは機能する?
プロジェクトマネジメントの教科書「PMBOK」にそんなことは書かれていませんが、PMは多少アバウトな性格でもプロジェクトは前に進みます。しかし、それはしっかりしたPLが現場を引っ張っていることが前提です。
一方で、PLにPMの役割も押しつけてしまうのは負担が重くなりすぎます。プロジェクトの規模にもよりますが、理想はPMとPLがそれぞれの役割を担って、お互いに支え合うことです。
PLのキャリアパスの先にあるのはPMとは限らない
ここまでお読みになって「自分にはPMもPLもできそうにない」と思った人がいたらちょっと脅かしすぎたことをお詫びします。エンジニアとしてのスキルを磨き、経験を積んでいくことで、おのずとPLやPMの仕事をする能力も身に付いてきます。たとえリモートワークがメインでも、結局仕事は人と協力することで成り立つものだからです。
また、若手のエンジニアは、PLやPMを目指している人が多いでしょうが、キャリアパスにおいてPLはPMへの通過点だという訳ではありません。
若手エンジニアはまずPLを目指そう
プロジェクトに参加する若手エンジニアは、キャリアパスとしてまず実力あるPLになることを目指しましょう。プログラミングなど与えられたタスクをこなしながら、プロジェクト全体の目的や進行具合にも関心を持ち、そこにどう関わっていくかを学んでいくことが大切です。
PLの実績があるPMは鬼に金棒
性格や資質によっては、PMを目指すことももちろん悪くありません。ITコンサルタントとして活躍するという将来もあります。そのためにも、PLとしての実績を積むのは非常に役に立ちます。
プロジェクトにはさまざまな形がありますが、そこで生じる「人間的な諸問題」は共通していることがたくさんあります。PLの立場でその問題に対処するスキルを磨くことは、転職の際も、ネクストステージを目指すときも貴重な財産になります。
編集部オススメコンテンツ
アンドエンジニアへの取材依頼、情報提供などはこちらから