プロジェクトマネジメントとは
通称「PM」、プロジェクトマネジメントはエンジニアにとって非常に身近な言葉ですが、詳しく説明できる人は意外に少ないようです。
具体的に「プロジェクトマネジメント」とは何をすることなのか、プロジェクトマネジメントにはどんなスキルが必要なのか、どんな手法があるのか、何を学べば良いのかなど、疑問は尽きません。
この記事では、プロジェクトマネジメントに関する基本的な知識、手法や資格などについて解説していきます。
ゴールに向かってプロジェクトを成功に導くこと
プロジェクトは期限が決められ、ゴールが定まっている仕事であり、日常業務とは少し異なる概念です。日常業務組織には課長や部長がいるように、プロジェクトにも課長や部長と同じようにマネジメントを行う人が必要です。
プロジェクトには必ず「プロジェクト目標」があります。システム開発プロジェクトでは、「完成したシステム」が成果物であり、プロジェクトのゴール(目標)は、システムを完成させることです。すなわち、「プロジェクトマネジメント」はゴールに向かって計画を立て、計画に向かってメンバーが効率的に業務を遂行し、プロジェクトを成功に導くことであると言えます。
プロジェクトマネジメントにおいては、リーダーシップが求められるだけではなく、経営や業務に関する知識・専門知識・関係先との調整力など、多面的な知識やスキルが必要です。
プロジェクトマネジメントの必要性
プロジェクトはチームで進めますが、チームにはリーダーが必要であり、船で言えば船長です。船長は航海のリスクを回避しながら、船員たちの最高のパフォーマンスを引き出し、予定通り目的地に到着する任を負います。船長は航海において全ての権限を持ち、全ての責任を負います。
プロジェクトは船の航海と似ており、航海で船長がいなければ船は航海の途中で航路を見失ったり、座礁したりするリスクが高まります。プロジェクトも同様で、プロジェクトマネジメントを担う人がいなければ、プロジェクトは方向を誤り、とん挫するリスクがあります。
プロジェクトマネジメントとPMBOK(第6版)
プロジェクトマネジメントの手法や種類はさまざまありますが、プロジェクトマネジメントを語る上で絶対に外してはならないものがあります。 それはプロジェクトマネジメントのバイブルと呼ばれる「PMBOK」です。この章では主にPMBOKについて解説し、少しでもプロジェクトマネジメントの理解に近付いていただきたいと考えます。
PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、「ピンボック」と読み、プロジェクトマネジメントに関する知識や基準をとりまとめたもので、プロジェクトマネジメントの世界標準と言われています。 PMBOKは米国のプロジェクトマネジメントの普及拡大を進める非営利団体「PMI」によって作られました。
PMBOKの目標は、成果物の納品やQCD(品質・原価・納期)の管理にあります。 QCDの管理では、「できる限り高品質で、低コストで、早い納期で」の目標を立て、その目標を実現するための計画を立て、実行することです。これからその詳細を見ていきますが、内容はPMBOKの※第6版に沿っています。
これから、PMBOKの「QCD管理」の5つのプロセスについて見ていきましょう。
《※注》PMBOKは2021年8月1日に米国「PMI」本部から改訂版の第7版がリリースされ、日本では2021年10月26日から日本語版の提供が開始されていますが、第7版はこれまでの第6版から大きく変更されています。
1.立ち上げプロセス
プロジェクトの開始には準備が必要です。まず、プロジェクトの承認を得ることが必要です。これが「立ち上げプロセス」です。 プロジェクトに必要となるプロジェクト目的・目標・予算・成果を定義して、プロジェクト憲章(方針)の策定とステークホルダー(利害関係者)の特定化を行います。ここから既にプロジェクトは始まっています。
2.計画プロセス
計画プロセスでは、プロジェクトの目的や目標を達成するために必要な作業計画を立案、作成していきます。このプロセスの中には詳細なプロセスが20も定義されています。
この後、「実行プロセス」へと進みますので、計画プロセスではプロジェクトに関わる基本的な事項はすべてブラッシュアップしておくことが求められます。計画が不明確、あいまいであると「実行プロセス」で支障を来すため、十分に精査しておく必要があります。
3.実行プロセス
立案した計画に基づいて必要な人員、リソースを調整してプロジェクトを実行するプロセスです。実行プロセスはリソースを最も消費するプロセスのため、逐次モニタリングをしながら、必要に応じて計画の見直しを行います。
4.監視・コントロールプロセス
プロジェクトの進捗について、計画と実績に差異が生じていないかを継続的にチェックします。差異が発見された場合は、その是正措置を講じます。
5.終結プロセス
所定のプロセスの完了を確認し、プロジェクトを公式に終結させるためのプロセスです。プロジェクトを総括し、反省点や得られたことなどを記録、保管し、以降のプロジェクトに生かすことが重要です。たとえプロジェクトが失敗に終わったとしても、それは失敗事例として終結させ、失敗を教訓として残すことが大切です。
次に、以上5つのプロセスを進めていく上で必要とされる「10の知識エリア」について紹介をしていきます。
PMBOKの10の知識エリア
PMBOKでは「10の知識エリア」として、プロジェクトマネジメントに必要な知識を10に分割して定義しています。これらの知識エリアは、先ほど紹介した5つプロセスにおいてすべて必要というわけではありません。必要に応じて取捨選択します。特に重要なものについては、それぞれに(重要)と記しておきました。
1.統合マネジメント
プロジェクト全体の方針を決めて調整するのが「統合マネジメント」エリアです。他の9つの知識エリアを統合する位置づけにあります。
2.スコープマネジメント(重要)
プロジェクトのマネジメント(管理)すべき範囲(スコープ)を明確にし、目的・目標達成に必要なタスクを定義します。予算の獲得・進捗管理・メンバーの指導・教育・プロジェクトスケジュール管理・プロダクトの品質管理・保証などがあります。
3.スケジュールマネジメント(重要)
時間当たりの生産性を高めることがスケジュールマネジメントの目的です。2017年のPMBOK第6版リリースにより、従来の「タイムマネジメント」から「スケジュールマネジメント」に変更されています。
4.コストマネジメント(重要)
プロジェクトで発生するコストを予算内で収めるためのコストの見積もり、予算設定、予算コントロールがコストマネジメントです。最小のコストで、最大の効果を得るためにマネジメントを行います。
5.品質マネジメント(最重要)
成果物の品質を管理する分野が品質マネジメントです。品質とはクライアントの要求に一致し、使用に適することを意味します。品質の善し悪しを決めるのはクライアントです。プロジェクトの成功は品質次第ですので、ここは絶対に外せません。
6.資源マネジメント
プロジェクト目的の達成に向けて人材や物的資源の調達・管理を行うことです。2017年のPMBOK第6版リリースによって、これまでの「人的資源マネジメント」から「資源マネジメント」へと名称や内容が変更されています。
7.コミュニケーションマネジメント(重要)
プロジェクトの利害関係者(ステークホルダー)と適切なコミュニケーションを図るためのマネジメントです。コミュニケーションは双方向であり、単なる伝達とは異なり、ステークホルダーの理解を得る事が大前提です。
8.リスクマネジメント(重要)
リスクマネジメントでは、リスクと正しく向き合うことが求められます。リスクには避けるべきものと、避けては通れないリスクがあります。プロジェクトにとってマイナスのリスクは予防し排除をする、プラスのリスクは受け止め、いずれも適切にコントロールをすることが求められます。
9.調達マネジメント
プロジェクトの遂行に必要なプロダクトやサービスを外部から購入、調達する際のベンダーコントロールのことです。ベンダーの選定・契約・納品・検収など、調達に必要となるプロセスの管理を行います。
10.ステークホルダーマネジメント(重要)
ステークホルダー(利害関係者)にとって必要な情報の収集、保管・伝達などを管理する分野を指します。ステークホルダーマネジメントは、2012年の第5版で新設されました。
PMBOKが第7版で大きく改定された!
ここまでPMBOK(第6版)の「QCD管理」の5つのプロセスと10の知識エリアについて見てきましたが、先ほど述べた通り、PMBOKは第7版で全面改訂されています。何が変わったのか、なぜ変えたのか、資格試験への影響について、現時点で分かる範囲で解説します。
PMBOKは何が大きく変わったのか
まず、見た目ですがページ数が第6版のA4判750ページから約3分の1の250ページへと非常にコンパクトになっています。その中身はこれまでのプロセスやアウトプット重視の内容から、価値重視の内容へと変わっています。
主な変更点
具体的には、「価値提供システム」「12のプリンシプル」「8つのパフォーマンス・ドメイン」です。これらは従来のPMBOKにはなかった概念です。以下、新たに登場した項目について見ていきましょう。
■価値提供システム 「価値提供システム」 のフレームワーク、すなわち『戦略 → 価値 ⇔ プログラムとプロジェクト → 運用』に基づき、組織の戦略が価値や投資を決定し、その価値や投資に基づくプログラム、またはプロジェクトを提供するという考え方です。
■12のプリンシプル 第6版まであった「5つのプロセス」は「12のプリンシプル(原則)」に置き換わりました。プロジェクトマネジメントにおける行動と、それを表す基本的な真理・規範・価値などを中心に構築されており、プロジェクトの運営に必要な指針となります。
▪Stewardship(受託責任の精神) ▪Team(組織) ▪Stakeholders(利害関係者) ▪Value(価値) ▪Systems Thinking(包括的思考) ▪Leadership(統率・先導) ▪Tailoring(調整) ▪Quality(品質) ▪Complexity(複雑さ) ▪Risk(好機と脅威の不確実性) ▪Adaptability and Resilience(適応性と回復力) ▪Change(変更)
■8つのパフォーマンス・ドメイン 第6版まであった「10の知識エリア」は、以下の「8つのパフォーマンス・ドメイン(行動領域)」へと置き換わっています。パフォーマンス・ドメインとは、プロジェクト全体の目的・目標達成を達成するために網羅すべき領域を示しています。
▪Stakeholders(利害関係者) ▪Team(チーム) ▪Development Approach and Life cycle(開発アプローチとライフサイクル) ▪Planning(計画) ▪Project work(プロジェクト作業) ▪Delivery(提供・納品) ▪Measurement(測定) ▪Uncertainty(不確実性への対処)
PMBOKはなぜ変わったのか
PMBOKが第7版で大きく変わったのは、時代の変化への対応です。これまでのPMBOKは「ウォーターフォール開発」に適したプロセスベースの思想がメインでしたが、最近では主流になりつつある「アジャイル開発」に適したプリンシプルに進化したと考えて良いでしょう。
とはいえ、新しいPMBOKではウォーターフォール開発を否定しているわけではありません。これまで積み上げたきたものを生かしつつ、新しい時代に対応していこうとする良い転身と見てとれます。
日本もDX時代を迎え、アジャイル型組織やアジャイル人材が求められる中、伝統的なプロジェクトマネジメントスタイルに対して新風を吹き込んだPMBOK第7版の登場は大きな意義があると言えるでしょう。
【参考】:プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOKガイド)第7版+プロジェクトマネジメント標準
プロジェクトマネジメント試験への影響
PMBOKの改定で最も影響の大きな資格試験は、「PMI」が運営する「PMP資格試験」でしょう。2021年12月時点で発表されている試験内容の概要は2021年1月更新のものですので、現時点ではこれに従って受験勉強を進めることになります。
第7版準拠による新試験の開始時期は未定ですが、いずれにしても第6版と第7版の両方をテキストとして学習を進めてください。
【参考】:プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(PMP)®試験内容の概要
プロジェクトマネジメントに求められるスキル
ここではプロジェクトマネジメントに必要なスキルの内、代表的なものについて見ていきましょう。スキルは技術的スキルというよりは、ヒューマンスキルを中心に見ていきます。プロジェクトマネージャを目指す方は参考にしてください。
広い視野に立てる能力
プロジェクトマネージャはプロジェクト全体を統率し、プロジェクト目的を達成させると任務を負っています。
プロジェクト内外を広く見渡し、多角的かつ大局的に物事を見られるスキルが求められます。プロジェクトマネージャは細かいことにこだわる職人気質よりは、全体に気配りができ、チームをリードしていくリーダー気質を持つ人に向いています。
先を見越せる能力
「先を予見できるスキル」もプロジェクトマネージャに求められるスキルの1つです。プロジェクトのつまずきを防ぐには、そうした事態を事前に予見し、手を打つことが必要です。
プロジェクトがつまずく要因として、メンバーへの業務負担増によるモチベーション低下や過労による生産性ダウン、予算不足によるリソース確保の失敗、計画ミスによる遅れなどがあります。
こうした事態に陥る前に、それらを予見、想定してあらかじめ手を打つことで、つまずきを最小限に抑えることが可能です。
「将来にどのような問題や課題が想定されるか」を見抜けるスキルは、プロジェクトマネジメントに必須のスキルと言えます。
コミュニケーション能力
プロジェクトマネージャは、特にコミュニケーションスキルが求められます。プロジェクトでは多くのステークホルダー(利害関係者)の理解や協力が必要であり、そうしたステークホルダーとの交渉や折衝には高いコミュニケーションスキルが必要です。
コミュニケーションスキルはただ単に人と話すのが得意ということではなく、影響力が必要です。コミュニケーション力とは、伝える力・聴く力・読み解く力です。そして何よりも大切なのは信頼感です。
プロジェクトマネジメントに役立つ資格
プロジェクトマネージャを目指すには実務経験も重要ですが、関連資格の取得に努めることも大切です。資格取得はスキルアップにつながり、スキル証明ともなります。ここではプロジェクトマネジメントの関連資格として2つをおすすめします。
プロジェクトマネージャ試験 (PM)
プロジェクトマネージャ試験 (PM)は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)認定の国家資格である「情報処理技術者試験」の1つです。システム開発プロジェクトに必要なマネジメントスキルを有することが合格の条件となっています。
試験の合格率は1割にも満たないほどの難関資格試験ですが、就職や転職の際には大変有利となる資格です。
【参考】:プロジェクトマネージャ試験(PM)
プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル (PMP)
通称「PMP資格」は、米国の「PMI」によって運営されています。「PMI」はさきほど紹介したPMBOKを策定しており、PMP試験の公式参考書が「PMBOKガイド」である点がポイントです。
2021年8月には第6版から全面改訂された第7版が登場しており、試験か第6版と第7版の両方から出題される可能性がありますので、当面その動きを注視する必要があります。
またPMP資格には受験資格が設けられており、大学卒業資格で「36カ月間のプロジェクトマネジメント経験」と「4,500時間のプロジェクト指揮での実務経験」を必要としています。
ちなみに高校卒業資格では、それぞれ60カ月、7,500時間の実務経験が求められるなど、PMPは実務経験重視が特徴です。PMPは比較的合格率が高い試験であると言われていますが、それは一定の実務経験を有している人が受験していることにあります。
【参考】: プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)
プロジェクトマネジメントの将来性
この世にプロジェクトがある限り、プロジェクトマネジメントの仕事は尽きる事がありません。確かにITエンジニアの仕事は一部AIに置き換わっていくものがありますが、プロジェクトマネジメントは人・モノ・お金のマネジメントであり、AIにとっては最も苦手な領域です。
また、プロジェクトマネージャへのキャリアバスは多様化しており、あらゆる職種からのパスがあります。どんなエンジニアもプロジェクトに関わっていますので、この機会にプロジェクトマネジメントについて学んでみてはいかがでしょうか。
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