AWSのAmazon Lightsailとは?
世界中で利用されているCMSである「WordPress」を構築するサーバには、レンタルサーバや「VPS(Virtual Private Server:仮想プライベートサーバ)」など様々な種類があります。
その中でも有名なのが「AWS(Amazon Web Services)」です。ただ、基本的にAWSが大規模なWebサービス向けであり、高い機能を備えているものの扱いづらいという印象を持っているエンジニアも少なくないでしょう。
最近、AWSをVPSとして簡単に運用できるサービス「Amazon Lightsail」に注目が集まっています。今回は、Amazon Lightsailの特徴や使い方、メリット・デメリット、活用事例などを解説していきます。
そもそもAmazon Lightsailとは何か
Amazon Lightsailは、AWSが提供するVPSサービスです。
VPSとは「Virtual Private Server」を略した名称で、日本語では「仮想専用サーバ」と呼ばれます。VPSでは仮想化技術を活用し1台の物理サーバ上に複数の仮想サーバを構築し、それらをユーザごとに割り当てて提供します。
そのため、好きなOSを選択してインストールできるなど、レンタルサーバと比較するとカスタマイズの自由度が高い点が特徴です。
AWSの他のサービスは、機能ごとに1つのサービスとして利用可能です。一方、Amazon Lightsailはコンピューティング、ストレージ、データ転送など、WebサイトやWebサービスなどに使うサーバとして必要な機能を組み合わせた単一パッケージとして提供されています。
Amazon Lightsailでは、そうした各種機能を使用して、素早く簡単にサーバを構築できる点が特徴です。
Amazon Lightsailでは何ができる?
Amazon Lightsailには「Linux」「UNIX」や「Windows Server」などのOSに加えて、WordPressやプロジェクト管理ツール「Redmine」などのアプリケーションも用意されています。その中から、用途に合ったものを使うことができます。
また、サーバ構築時に設定する項目が少なく、セキュリティ設定や権限設定などが事前設定済みです。ユーザの目的に沿ったVPSを素早く作成できます。
AWSでは、サーバを構成するサービスを組み合わせて設定するプロセスが必要です。一方、Amazon Lightsailでは、サービスに申し込むだけで用途に合ったものを使いながら、WebサイトやWebサービスを簡単に構築することが可能です。
さらに、最初から単体のサーバとして運用できるため、AWSにあまり慣れていない初心者でも導入しやすくなっています。
Amazon Lightsailで提供される各種機能
Amazon Lightsailでは、インスタンスやコンテナ、データベース、ストレージなどの簡素化されたクラウドリソースを提供します。これらを活用すると、特別な設定を必要とせずにWebアプリケーションやWebサイトを立ち上げることも可能です。
また、「Amazon VPCピア」機能を活用すると、Lightsailプロジェクトを90種類以上の他のAWSサービスと統合することも可能です。ここからは、Amazon Lightsailで提供される主要なリソースを見ていきましょう。
インスタンス
Amazon Lightsailでは、AWSの仮想サーバ(インスタンス)を提供しており、簡単に設定を行えます。
インスタンスを作成する場合、OSやWordPress、Windowsなどの他にも、「Plesk」「LAMP」「Nginx」といった事前設定済みのアプリケーション、または開発スタックをクリックすることで設定可能です。
それにより、Webサイト、Webアプリケーション、プロジェクトを数分で起動させ、Lightsailコンソール、API経由でインスタンスを管理できます。
コンテナ
Amazon Lightsailでは、コンテナを簡単に実行することも可能です。Dockerイメージからコンテナを作成し、AWS側が煩雑なインフラストラクチャ管理を処理します。
たとえば、「Lightsail Container Service」を使用すると、インターネットからコンテナ化されたアプリケーションを実行したり、安全にアクセスしたりできるようになります。
ロードバランサー
Amazon Lightsailでは、Webサイトにおけるトラフィックの負荷を分散して障害を予防できる簡易的なロードバランサーを備えています。
また、ロードバランサーには統合証明書管理が含まれているため、無料の「SSL/TLS証明書」を利用可能です。Lightsailコンソールから直接、証明書の要求・管理ができ、その更新管理はAWSが代行します。
マネージドデータベース
Amazon Lightsailでは、「MySQL」「PostgreSQL データベース」について、メモリや処理、ストレージ、転送量などが事前設定された「Lightsail 管理データベース」が提供されています。
この機能を利用すると、仮想サーバから独立したデータベースのスケール、アプリケーションの可用性などを改善したり、クラウド内のスタンドアロンのデータベースを簡単に実行したりすることも可能です。
ブロック/オブジェクトストレージ
Amazon Lightsailでは、ブロックストレージとオブジェクトストレージの両方を利用できる「Lightsail オブジェクトストレージ」が提供されます。
たとえば、Linux、Windowsの仮想サーバ向けのSSD バックドストレージを使用したり、オブジェクトストレージではクラウド上で静的コンテンツを素早くホストしたりすることが可能です。
CDNディストリビューション
Amazon Lightsailでは、「Amazon CloudFront」と同一インフラストラクチャで構築された「コンテンツ配信ネットワーク (CDN)ディストリビューション」が可能です。
この機能を活用して各拠点にプロキシサーバを設置することで、世界中のユーザが地理的に近い場所からWebサイトにアクセスしたり、レイテンシーを軽減してコンテンツを簡単に配信したりできます。
Amazon Lightsailの特徴
ここからは、AWSと比較した上でAmazon Lightsailの特徴をより詳しく見ていきましょう。特徴としては、主に次の4点が挙げられます。
必要なサービスがパッケージ化されている
Amazon Lightsailは、AWSのようにサーバに必要な機能を自分で組み合わせるのではなく、必要なサービスが最初からパッケージ化されたシステムとして利用できます。
また、AWSでは、サーバを構成するサービスを組み合わせて設定するプロセスが必要ですが、Lightsailでは最初から単体のサーバとして運用でき、初心者でも導入しやすくなっています。
固定制の料金体系
Amazon Lightsailは、パッケージごとの月額固定料金です。利用料金がわかりやすく、予算を立てやすいと言えます。また、単一サービスでWebサイトやWebサービスを開発できるので、コストを抑えることにも役立ちます。
AWSは月額固定料金のレンタルサーバやVPSと違い、リソースを使用した分だけ費用が発生する従量課金制です。サービスによって課金方式が異なり、システムが稼働した時間や使用した容量、データ転送量などに応じて費用が変わっていきます。
WordPressの自動インストールが可能
Amazon Lightsailは「WordPressの自動インストール」に対応しています。インスタンスを作成してWordPressの最新版を直接インストールできるため、ハードウェア環境との相性を考えたり、必要な関連ソフトウェアの導入に頭を悩ましたりする必要がありません。
また、Webサーバ起動後の作業ステップを減らすことにもつながります。
Lightsailを利用すれば、WordPressの初期環境構築までの時間が短くなり、AWS専用の開発スキルがなくてもサーバ構築のハードルを下げられるなどの特徴があります。
Amazon EC2への移行が可能
Amazon Lightsailで作成したインスタンスは、そのままAWSの別の仮想サーバサービスであるAmazon EC2に移行可能です。
たとえば、Amazon LightsailからAmazon EC2にWordPressを載せ替えると、Amazon S3やAmazon RDBなどの他のサービスと連携できます。そのため、Amazon EC2に移行することで、AWSの特徴である拡張性や冗長性の恩恵を受けられるようになります。
Amazon Lightsailの利用方法
続いて、Amazon Lightsailの基本的な使い方を解説していきます。
Amazon Lightsailを初めて利用する場合、まずはAWSアカウントにサインアップします。
Lightsailの利用開始
まず、AWSマネジメントコンソールで「Lightsail」を検索して、Amazon Lightsailの候補をクリックすることでアクセスできます。
最初に言語設定の画面が表示されますので、使用したい言語を選択して「保存」ボタンをクリックします。その結果、「Lightsailへようこそ!」と表示されますので「では、始めましょう」をクリックすることで利用を開始できます。
インスタンスの作成
サインアップした後は、インスタンスを作成します。まず、インスタンスロケーションを設定します。遠いリージョンを選んでしまうと遅延(レイテンシー)が発生するため、なるべくユーザに近いリージョンを選択しましょう。
その後、安全なチャネル経由でノードを認証して接続するため、「SSHキーペアの変更」をクリックして「新規作成」をクリックして表示されたポップアップから「作成」を選んでキーペアを変更します。
SSHキーペアの任意の名称を入力して「キーペアの生成」をクリックします。キーペアが作成されたら「キーのダウンロード」をクリックしてファイルをダウンロードします。これはSSHの秘密鍵で、1度だけダウンロード可能なので紛失しないように保管してください。
Lightsailリソース名を確認した後、「インスタンスの作成」をクリックするとインスタンスが作成されます。
【参考】:Amazon公式サイト「Amazon Lightsailの使用を開始する」
Amazon Lightsailの料金体系
Amazon Lightsailの料金は、月額固定料金制です。固定料金なので予算が立てやすく、その点では料金面でも初心者向けといえるでしょう。
具体的な料金は月額最低3.5米ドル(Linux/Unix)から最高240米ドル(Windows Server)まで14通りものプランが用意されています。その内訳は、Linux/Unixが7通り、Windows Server が7通りです。また、プランごとに仕様が異なり、必要に応じたスペックを選択できます。
Amazon Lightsailの無料利用枠
他のAWSのサービスと同様、Amazon Lightsailには無料利用枠が用意されています。
サインアップすると、1年間無料で50GBのコンテンツ配信ネットワーク(CDN)ディストリビューション、1年間無料で5GBオブジェクトストレージバンドル、3カ月間無料で一部のコンテナ、インスタンス、データベースのバンドルが利用可能です。
【参考】:Amazon公式サイト「Amazon Lightsail の料金」
Amazon EC2と比較したAmazon Lightsailのメリット
ここからは、より具体的にAmazon Lightsailを利用するために、特に類似したサービスとして比較される「Amazon EC2」の違いを見ていきましょう。
Amazon EC2とは「Amazon Elastic Compute Cloud」の略で、AWSが提供する「仮想サーバサービス」です。Amazon Lightsailtと同様、物理サーバの構築や環境構築作業をすることなく仮想サーバを用意することができます。
Amazon LightsailとAmazon EC2は、どのようなメリットの違いがあるのでしょうか。
必要な機能を一括で用意できる
Amazon Lightsailではコンピューティング環境だけでなく、ストレージやスナップショット、ロードバランサー、ファイアウォール、DNSなどいくつもの機能が用意されています。
一方、Amazon EC2で提供されるのは、コンピューティング環境のみです。そのため、ストレージは「Amazon S3」、データベースは「Amazon RDS」など、他のサービスを組み合わせて必要な仕様を構成して申し込む必要があります。
サーバの作成が簡単
Amazon LightsailはOSやCMSなどがあらかじめ提供され、その中から必要なものを選択するだけでサーバの設定や、ブログを作成可能です。また、設定する箇所も少なく、操作も簡単です。
一方、Amazon EC2では必要なサービス構成を自分で考えて申し込む必要があります。また、設定やサービスの作成にはある程度の知識と操作が求められるのです。
サーバの複製・移転が簡単
Amazon Lightsailではサーバの複製を作ったり、サーバを移転したりする場合、サーバのスナップショットから直接次のサーバを構築できます。
一方、Amazon EC2は、インスタンスの作成に必要となる「Amazon マシンイメージ(AMI)」をスナップショットから1度作成して、そこから新しいインスタンスを作成しなければなりません。
予算が分かりやすくコストを抑えられる
Amazon Lightsailはパッケージごとの月額固定料金になっているため、料金が把握しやすく予算を立てやすいです。
一方、Amazon EC2の料金は使った分だけ支払う従量制です。月ごとの利用額が把握しづらいという面があります。また、必要な機能に合わせていくつものサービスに申し込んだり、アクセス増加によってデータ転送料金が膨らんだりすることもあり、合計金額が高くなる可能性もあります。
Amazon EC2と比較したAmazon Lightsailのデメリット
ただし、Amazon Lightsailは、Amazon EC2と比較したデメリットも存在します。具体的には、以下の点で注意が必要です。
柔軟性や自由度は高くない
Amazon EC2では、必要に合わせて自由に他のサービスを組み合わせられるので、データ転送量や変化にも柔軟に対応できます。
一方、Amazon Lightsailは、求められる仕様によっては機能の組み合わせや設定できる項目が少なくなったり、データ転送量の変化に対応できるような自由度はありません。
停止していても課金される
Amazon Lightsailの場合、インスタンスを使用中、つまりサーバが動作している状態でもサーバが停止している場合でも関係なく課金されます。
一方、Amazon EC2はサーバを停止している間は、インスタンスには課金されません。ただし、スナップショットを作成したEBSボリュームには課金されます。
利用用途に応じて使い分ける
次に、Amazon Lightsail、Amazon EC2の特性に合わせた利用用途を解説します。
Amazon Lightsailは、カスタムコードや一般的なCMSといった単純なWebアプリケーションやWebサイトに使用されます。具体的には、小規模なWebサイトやサービスの構築、テスト環境、開発環境、検証環境、教育環境などに適しています。
一方、Amazon EC2はHPC(ハイパフォーマンス コンピューティング)やビッグデータ、分析ワークロードなどの小規模からエンタープライズアプリケーションに対応できます。
Amazon Lightsailでは機能的に足りない、より拡張性のあるサーバに変更したい場合は、簡単にAmazon EC2へ移行できるウィザードが用意されています。「初期構築の簡単さを求めるか、リリース後の柔軟な拡張を求めるのか」、それぞれの特性を活かして使い分けてみてください。
AWS Elastic Beanstalkとの違い
Amazon EC2と同様、Amazon Lightsailの類似サービスとして名前が挙がるのが「AWS Elastic Beanstalk」です。
Amazon LightsailとAWS Elastic Beanstalkの違いについても解説します。
AWS Elastic Beanstalkとは?
AWS Elastic Beanstalkとは、キャパシティプロビジョニングや負荷分散、自動スケーリング、アプリケーションの健全性監視を処理することで、Webアプリケーションを管理したり、デプロイやスケーリングしたりできるサービスです。
インフラの知識がなくても、AWS上にアプリケーションをデプロイできる点が特徴です。
AWS Elastic Beanstalkに対する料金はなく、同サービスを使用して作られたアプリケーションを実行、保存に必要なリソースの利用料が発生します。
AWS Elastic Beanstalk、Amazon Lightsailの違い
AWS Elastic Beanstalk、Amazon Lightsailは、使用するリソースをどの程度制御したいかによって使い分けることが可能です。
インフラ管理の工数を抑えてアプリ開発に注力したり、各機能の設定をより細かく制御したりしたい場合は、Amazon Elastic Beanstalkを利用してみてください。
【参考】:Amazon公式サイト「AWS Elastic Beanstalk」
Amazon Lightsailは初心者でも簡単にサーバを構築できるサービス
Amazon Lightsailを使うことで、AWSの特別な知識がなくても簡単にWebサイトやWebアプリケーションなどの作成が可能です。
AWSの料金が気になったり、「手間がかかりそうだ」と感じたりしてAWSの利用をためらっているのであれば、Amazon EC2ではなく、Amazon Lightsailを先に利用してみてはいかがでしょうか。ぜひ、Amazon Lightsailを使いこなせるようになることをおすすめします。
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