SESとは
ITエンジニアの皆さんの中には客先常駐の方もいらっしゃると思いますが、自身の契約が派遣契約なのか、SES契約なのか理解できていますか?
どちらも働き方に大きな違いはありませんが、法的に派遣とSESは大きく異なります。まずこのことを理解する必要があります。以下に、SESの定義や派遣などとの違いをまとめました。
SESは委託契約の1種
SESとは「System Engineering Service」の略称で、読み方は「システムエンジニアリングサービス」です。システムの開発・保守・運用に関する委託契約の一形態であり、委託を受けた業務に対してエンジニアの"労働"を提供する契約のことです。
システム開発の契約形態は大きく分けると、
A.顧客に依頼されたシステムを開発し、そのシステムに対する対価を得る
B.顧客のシステムの開発や保守、運用のためにエンジニアの労働を提供し、労働に対する対価を得る
の2パターンがありますが、SESはBパターンです。SES契約ではITエンジニアは客先常駐が基本ですが、新型感染症が心配される現状ではテレワークで対応しているケースもあります。
SESと派遣の違い
SESは客先へのエンジニア派遣であるため、派遣契約と同じだと思う方も多いでしょう。ここでは、SES契約と派遣契約の違いを解説します。
SESは「準委任契約」という契約形態で、仕事の指揮命令権は常駐先(クライアント)ではなく、派遣元のベンダー側にあります。
一方、派遣契約では仕事の指揮命令権は常駐先(クライアント)にあります。派遣契約には一般派遣と特定派遣の2パターンがあり、一般派遣は派遣会社に派遣登録をしているスタッフを派遣先企業に送り込みます。特定派遣は自社で直接雇用している社員を派遣先企業に送り込む形態です。
以前はITベンダーは特定派遣の形態でエンジニア派遣を行うケースが多数でした。しかし、平成30年10月以降は労働派遣法改正により特定派遣が禁止されたため、派遣元に指揮命令権があるSESに切り替わっています。
SESと請負の違い
次は、SES契約と請負契約の違いについてです。契約とは一定の法律上での効果を持った約束のことを指しますが、この約束内容がSESと請負では異なります。
SESの場合は一定の業務期間に決められた業務を行うことを約束するものですが、請負契約の場合は一定の業務期間に一定の成果物を収めることを約束するものです。つまり、請負契約では成果物責任があり、SESにはその責任がありません。
SIerは元請け、SESは下請け
SESと混同されやすいSIer(System Integrator)ですが、どのような違いがあるのでしょうか。
そもそもSIerとはシステムの開発・運用・保守を請け負うサービスです。SIerとSESの違いをわかりやすく述べると、SIerが元請けなのに対して、SESは下請けの立場にある点です。
クライアントから直接依頼を受ける企業が元請け、さらに2次3次と下請けの企業となるのがSESです。
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SESが「やめとけ」と言われる理由
ネット上で「SESはやめとけ」などという言葉が目にされるように、一部ではSES企業への就職に否定的な声があります。そう言われてしまう理由を4つ紹介します。
派遣先の労働環境が良くないことがある
SES派遣では基本的に職場を選べないため、稀に労働環境の良くない企業に派遣されることがあります。例えば、常駐先でパワハラ等が常態化していたら、自身に実害がなくとも気持ちよく働くことはできないでしょう。
また、SES契約として従事しているにも関わらず実態として派遣扱いだった場合(常駐先の指揮命令で動いていた場合)は、偽造請負にあたります。偽造請負は常駐先およびSES事業主が法令違反を犯していることになります。
職場を転々として落ち着かない
SES派遣では短期契約の場合、3ヶ月や半年というケースもあります。頻繁に職場が変わるのは人によっては大きなストレスになるため、自分に合っている働き方かどうかをよく考える必要があります。
仕事内容や職場の人間関係に慣れた頃に契約が終わるといったケースも少なくなく、常に新しい環境への適応が求められます。新しい環境に合わせるのが苦手な方は、精神的に辛いこともあるかもしれません。
報酬が少なくなる可能性がある
労働時間で報酬が支払われるSES契約では、時間外労働も抑制的で、報酬が低めになる可能性があります。また、発注先の企業とSES企業の間に複数の会社が関わっていることがあり、マージンが支払われる関係で報酬が少なくなる場合もあります。
満足のいく給料が支払われない可能性があることが、「やめとけ」と言われてしまう原因の1つと考えられます。
スキルアップしにくい
成果物責任がないSES契約では、単調な作業に就くケースもあり、そういったケースではスキルアップが難しくなるという側面があります。
常駐先によっては幅広いスキルを身に付けることが期待できますが、さらに上のスキルを身に付けるためには、資格取得など個人的な努力も求められます。職場でのスキルアップを期待する場合には、SESは不向きかもしれません。
偽装請負に注意
SES契約(準委任契約)の大きな特徴は、指揮命令権が受注側にある点です。これまで特定派遣でエンジニアを派遣していた際は、指揮命令権は客先(クライアント側)にありましたが、SES契約に変更することで、指揮命令権が派遣元(受注側)に移ります。
これに反し、従来通り客先(クライアント側)が常駐エンジニアに対して指示命令を行うと、「偽装請負」という状態になり、法令違反となります。現実には、常駐エンジニアが客先からの直接の依頼や指示を断ることは難しいため、偽装派遣が問題になりやすいです。
偽装請負を防ぐためには、クライアントからの直接的な指示命令を発生させないための取り決め、条件整備を整えることが必要です。
SESエンジニアとして働くメリット
以上のような理由から「やめとけ」と言われてしまうこともあるSESですが、SES企業で働くことで得られるメリットもあります。
残業が少ない
プロジェクトには納期がありますから、締め切り間際は忙しくなったり残業が多くなることがあります。しかし、SESの場合は先にも述べたように、成果物ではなく労働力の提供に対して対価が支払われる契約のため、労働時間が長くなるほどクライアント側にコストが発生します。
そのため、事前に取り決められている労働時間以上の労働を強いられることは基本的にありません。その分時間内に十分な質の仕事をする必要がありますし、残業代も発生しませんが、ワークライフバランスを考える上ではメリットと言えます。
人脈が広がる
SESエンジニアは新しい案件が入るたびに違う企業に出向いて仕事をすることになります。職場が転々とするのは人によってはストレスになりますが、多くの人に出会い人的ネットワークが広がるということは、その後のキャリアを考えるうえでもメリットとなるでしょう。
また、たとえ人間関係が悪くても、契約期間が終わってしまえばつながりを絶つことができるので、そういう意味では職場が定期的に変わるのも良いかもしれません。
幅広い経験を積める
案件ごとに携わるプロジェクトが違うので、幅広い分野の仕事を経験することができます。中には、SESエンジニアをやっていなければ関わる機会もなかったような分野の仕事もあるかもしれません。エンジニアにとって幅広い知識やスキルがあることは強みになります。
スキルアップがしにくい面があることも挙げましたが、自分の興味関心に関わらず色々な分野を知れることはスキルアップをするうえでも役立つはずです。SES企業への転職を考える人は、その会社はどのような企業と取引があるのかなども調べると良いでしょう。転職エージェントを利用すれば、求人票だけではわからない情報も知ることができます。
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SESエンジニアの年収
ここでは、システムエンジニアの年収を参考にしながら、SESエンジニアの年収について見ていきます。
システムエンジニアの年収は「マイナビエージェント職業別年収ランキング/職種図鑑」での平均年収は431万円(※2023年2月執筆時点)、経済産業省2017年発表の「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」から近い職種の「SE・プログラマ(顧客向けシステムの開発・実装)」を参考にすると、平均年収592万円と分かりました。
国税庁2020年発表の民間給与実態統計調査における民間企業平均年収は433万円なので、マイナビ調査でのシステムエンジニアの年収は一般平均年収よりもやや低め、経済産業省の調査ではやや高めであることが分かります。
SESエンジニアの年収は個人のスキルや案件次第で変わってくると考えられます。報酬が少ないと感じる場合は、より良い条件の企業へ転職する、マネジメントスキルを身に付けてキャリアアップするなどの方法があります。
【参考】:マイナビエージェント職業別年収ランキング/職種図鑑 ※【平均年収 調査対象者】2020年1月~2020年12月末までの間にマイナビエージェントサービスにご登録頂いた方 【参考】:IT関連産業における給与水準の実態① ~ 職種別(P7) 【参考】:民間給与実態統計調査-国税庁
派遣先の環境が良好かを見極めるポイント
SESとして働く上で重要なことの1つが、派遣先の仕事環境です。派遣先の企業の人間関係・仕事内容・待遇などは前もって調べ、ブラックリストに載るような企業でないことを確認しましょう。
ここでは、派遣先の企業がホワイト企業であるかどうかを見分けるポイントについて説明します。一概には言い切れませんが、以下のポイントに当てはまる企業は労働環境も良いことが多いです。
社長が元エンジニアである
社長がエンジニア出身の場合、現場の状況や業務内容への理解が深いため、開発環境の整備や従業員への配慮にも長けている可能性が高いです。このような企業では、SESで派遣されるエンジニアも良い環境で仕事ができるでしょう。
社長の経歴については会社のHP(ホームページ)に記載されていることが多いので、派遣先の企業のHPは必ずチェックしましょう。
給与が高い
派遣先企業の従業員の年収も要チェックです。年収が高い企業の場合、業績が良く、また人事評価制度がきちんと整備されている可能性が高いです。
業績が良いということは企業の開発力・従業員のスキルが高いことを示し、従業員の給与が高いことに繋がると言えます。年収は求人情報に記載されていることが多いため、必ずチェックしましょう。
自社製品が売れている
自社で開発している製品が売れている企業の場合、高い開発スキルと営業力があることがわかります。開発環境や社屋が整っている可能性が高く、開発スキルの高い社員と良い開発環境に囲まれて仕事ができるでしょう。
スキルの高い人が周りにいるとモチベーションが上がるだけでなく、自分のスキルアップに繋がる良いチャンスになります。
自社社員を大切にしている
企業が自社の社員を大切にしているかどうかも重要です。自社社員への待遇が悪い場合、SESとして働くエンジニアに対する待遇も良くない可能性が高いです。
自社社員への待遇は実際に働いてみないとわからないことも多いですが、企業の口コミサイトや求人広告などに情報が載っている場合があります。契約前に、会社概要や口コミといった細かい情報収集も怠らないようにしましょう。
SES事業を安定して行うには?
SES事業で新たにビジネスを立ち上げようと考えているエンジニアの方にとって最大の関心事は、「SESビジネスは儲かるのか」「将来性はあるのか」という点です。ここからは、SESのビジネスモデルについて、SES事業を行う企業側の視点で説明します。まずは、安定してSES事業を行うために理解しておくべきポイントについてです。
事業の仕組みとリスクを理解する
自社のエンジニアを客先に派遣し、エンジニアが働いた時間(技術力・労働力提供)分の対価として派遣料をもらう、というのがSESのお金の仕組みです。その派遣料から手数料(マージン)を差し引いて、エンジニアに給料を支払います。
SESは基本的に1ヶ月間の契約金額を定めた定額制が一般的ですが、超過勤務が発生した場合には両者の取り決めによって超過勤務料を支払います。
SESのリスクは、顧客から派遣の依頼がない期間も自社のエンジニアに給与を払う必要があることです。このリスクを回避する方法として、フリーランスと契約しフリーランスに客先常駐してもらう方法もあります。
優秀なエンジニアの確保
SES事業を行う場合エンジニアを採用しなければなりませんが、他社よりも条件が悪ければ優秀なエンジニアの確保は難しいでしょう。しかし、顧客からの派遣依頼がない期間(エンジニアが働いていない期間)にもエンジニアに給与を支払う必要があることから、安易に年収を高くするのは危険です。
そのため、常に顧客から派遣の依頼が来るよう、広告や営業で顧客を獲得する必要があります。広告費や営業コストも考慮してエンジニアに支払う給与を決定しましょう。その際、SES事業を行う他者企業と給与を比較したり、一般的なSEの給与についても把握する必要があります。
SESのメリット・デメリット
次に、事業者側の視点からSESのメリット・デメリットについて見てみましょう。
SESのメリット
1.SESの案件は豊富にある システム要員をSESでまかなう企業が増えています。自社でエンジニア候補を採用して育てるよりも、SESで人材を確保した方が企業の負担が少ないためです。また、DXブームに伴ってどこの企業もシステム要員の増強が必要となっているため、案件は豊富にあります。問題は、派遣できるエンジニアをどう確保するかです。
2.起業しやすい エンジニアの確保さえできれば、設備投資もほとんど要らず、レンタルオフィスと携帯、パソコンがあれば直ぐに始めることが可能です。ITエンジニアの仲間を複数人集めて組めば、比較的簡単に始められるビジネスだと言えます。
3.継続的に収入が得られる SESは契約さえ取れれば、継続的に収入を得られます。また、契約期間が決まっているので、次の常駐先をあらかじめ決めておけば、中断期間が発生せず収入が途絶える心配もありません。
SESのデメリット
1.料金が後払いのため、運転資金が必要 SES契約では売上金が入金する前にエンジニアに対する給与、報酬が発生します。ある程度運転資金を確保しておかないと、資金ショートによる給与の未払が起きるリスクがあります。
2.雇用リスクがある エンジニアを社員として採用すれば、社保・雇用保険・賞与・福利厚生などの負担が発生します。また、簡単に解雇することもできないため、雇用に対する責任を負うことを認識する必要があります。
3.偽装請負のリスクがある 指揮命令権が受注側(ベンダー)にあるため、クライアントの指示命令に従うと偽装請負となるリスクがあります。法令に違反しないように注意する必要があります。
SESの将来性
SES事業の概要、法的側面から見たSESやメリット・デメリットについて述べてきました。では、SESの将来性はどうなのでしょうか?
派遣法改正により派遣はSES契約に1本化
先に述べた通り、これまでの労働者派遣は一般派遣と特定派遣に分かれていましたが、2015年9月30日から労働者派遣事業は「許可制」となり、2018年9月29日に特定派遣が廃止されました。
また派遣契約では同一職場への派遣期間の最大が3年に制約されたこともあり、特定派遣制度を利用して自社の社員を客先に常駐させていたITベンダーは、SES契約(準委任契約)に切替える必要が出てきたのです。すなわち、エンジニア派遣はSES契約に1本化されたと言えます。
IT産業の成長によりIT人材の需要が高まる
結論から言えば、SESには将来性があります。主な理由は次の通りです。
1.IT業界は成長市場である 各業界が低迷する中、DXやAIブームによってIT業界は成長を続けています。また、新型感染症の影響でテレワークという働き方が広まり、テレワークを支援するシステムやソフトウェアの需要が増えると予想されます。
2.IT人材の圧倒的な不足 政府の発表にもある通り、IT人材の不足が顕著になっています。IT人材が不足しているにも関わらずIT産業は成長を続けており、人手不足は今後も続くと予想されます。IT人材の需要と供給の関係から見ても、SES事業は今後も需要があると言えるでしょう。
3.新型感染症の現状を契機としたテレワークの浸透 他の業種と同じように、SESで派遣される従業員自身がテレワークをする可能性も高いです。テレワークによるSESが浸透すれば、コスト削減や生産性向上が期待できます。
このようにSESは将来性がある事業なため、先に上げたデメリットの解消に努めながら、SESでの起業にチャレンジしてみるのも良いでしょう。
SESはポイントを踏まえて活用を
以上、SESの定義や概要からメリット・デメリットまで、SES企業で働く人とSES事業を運営する側、双方の視点から解説してきました。いかがだったでしょうか。
SESに限ったことではありませんが、何かを始めようとする際には、そのもののメリット・デメリット、注意点などを的確に把握することが重要となります。自分に向いているのか、リスクへの対策が十分にできるかといったことをよく考えましょう。
SESの案件には様々なものがあり、高度なスキルや豊富な経験のある人を求めるものもあれば、まだキャリアが浅い人でも可能なものもあります。SESエンジニアとして働きたい人は、自身のスキルに合った案件が多いSES企業とマッチングする必要があります。
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