WBSとは
「WBS」とはWork Breakdown Structureの略語で、”作業を分解して構造化する”手法であり、プロジェクト推進、プロジェクト管理の基本です。この「WBS」はプロジェクト・スケジュールを作成する上でも必須なのです。イメージとしては、プロジェクト全体の作業を洗い出し、大きな括りのタスクとして列挙します。
このタスクをさらに細分化していきます。細分化されたタスクは実施する順番に上から揃えていき、ツリー構造にしていきます。大きな括りから小さなタスクへと細分化していくため、重要なタスクが抜け落ちることを防げます。
WBSの目的
WBSの主な目的はプロジェクトなどの作業の明確化です。設定されたプロジェクトの目標を達成するために必要なタスクをすべて洗い出すことです。この洗い出されたタスクごとにスケジュールを設定します。この目的をブレイクダウンしたものは以下の通りです。
1.タスク項目ごとのスケジュールを作成する タスクを細分化することで、タスクごとに必要なリソースや掛かる期間が分かります。それぞれに人を割りあて、それぞれの所要期間を積み上げることで、プロジェクトのスケジュールの精度が上がります。
2.工数を見積もる 当初は漠然としていた作業(タスク)が、タスクを分解、細分化することで、それぞれのタスクが明確化され、それぞれの必要工数が明らかになります。この個々の工数を積み上げることで全体工数を割り出せます。
3.タスクに対する共通認識を得る 明らかになった各タスクを担当する際には、全体作業と自分の担当作業を対比させて確認することができるため、プロジェクト全体像が明確に見え、それぞれの担当者が共通認識を持てます。
またタスクそのものに漏れや重複、不要なものがあれば、誰もがそれを指摘でき、プロジェクトのさらなる効率的、効果的な運用が可能になります。
WBSの注意点
先に述べた通り、WBSの目的はプロジェクトのタスクを明確化することです。タスク内容を理解できておらず、分解を間違えると不明確なタスクが残ります。かといって、不明確なタスクを強引に分解しても、実際に作業に着手する際にズレが生じます。
不明確なタスクが残った場合は、無理に分解せず、そのタスクの前段階までの計画を進め、タスクが進む中で見えてきた部分から詳細化していくという方法もあります。
また、WBSは上位層や関連部門との共通認識を持つ上でも重要な役割があります。プロジェクトリーダーのために作るものではありません。必ず関係者で共有し、共通認識を持つことを前提として作成しましょう。
ガントチャートとの違いについて
「WBS」と「ガントチャート」を同じものと考える人がいますが、両者は別物です。ここを理解せず、WBSとガントチャートを同じと考えると、WBSの目的を見誤ります。
ガントチャートは、プロジェクト進捗管理に用いるスケジュール表の1つの形です。棒グラフで構成されており、縦軸に作業項目、横軸を時間として一目で全体像がつかめます。
一方、WBSはタスク項目を細分化した一覧表です。タスクはさらに細分化され、次第に可視化されていきます。それぞれのタスク項目ごとに、開始から終了までのスケジュールが設定されています。WBSには見積り工数や進捗状況などが記載されることが一般的で、これでプロジェクトの詳細までよく分かります。
つまりは、WBSは作業項目をできるだけ細かく洗い出したものであり、ガントチャートはそれをグラフ化したものであるという関係です。ガントチャートの作成にはWBSが必要であり、WBSとガントチャートは密接な関係にあると言えます。
WBSのメリットとデメリット
プロジェクトを進める上で重要なWBSの特徴や考え方、目的については理解されたかと思いますが、よりイメージを明確にするために、WBSのメリット、デメリットについて考察してみましょう。
メリット
WBSのメリットは目的とほぼ同じですが、改めてメリットについて整理しておきましょう。
1.タスクが明らかになる WBSは階層構造で作成していきますので、大きなところから詳細まで順にタスクを洗い出していくため、抜けや漏れが発生しづらく、かつタスクが明確になります。
2.効率的なスケジュールを組める WBSではタスクを明確にした後、ガントチャートでスケジュールを表します。タスク間の関連、クリティカルパスを明確にしておくと、より効率的なスケジュールを組むことができます。
3.各担当の分担が明確になる タスクを分解することによって、タスク内容が明らかになり、役割分担がしやすくなります。各自の責任範囲や各タスクが明確化され、プロジェクトをより効率的に進めることができます。
4.工数見積もりがしやすくなる WBSでタスクを分解し、抽出することで工数見積もりがしやすくなり、工数見積もりの精度が上がります。全体工数が正確に把握できるため、プロジェクト計画の精度も上がり、また進捗状況の管理がしやすくなります。
5.進捗管理がしやすくなる プロジェクトの遅れがタスクレベルで分かるため、タスクごとに割り当てる要員の変更、人員の追加投入など、柔軟な対応によって進捗管理が円滑に行いやすくなります。
6.関係者と共有しやすい プロジェクトではかならず意思決定機関、上位層への報告や調整、関係部署の協力などが必要になります。WBSによって客観性が高まり、情報を共有しやすくなるため、プロジェクトの進捗報告や協力要請などを行いやすくなります。
以上がメリットとしてあげられます。続いて、デメリットをみてみましょう。
デメリット
1.各タスクの依存関係が分かりづらい WBSはタスクの洗い出しには有効ですが、タスク間の依存関係などが分かりにくく、例えば「Aタスクが終了するまで、Bタスクは着手してはいけない」といったタスク間の関係性が直ちに把握できないといったデメリットがあります。
ガントチャートだけでは分からない相互依存関係について、あらかじめ明確にし、チャート上で分かるようにしておく必要があります。
2.作成に手間が掛かる WBSでは必要なタスクを全て洗い出し、さらに分解しなければなりません。初めてのプロジェクトでは、階層構造でタスクを全て洗い出すというのは大変骨が折れることです。できるだけ多くの知恵を集めることが必要ですので、経験者や有識者の意見をうまく集めることが求められます。
3.アジャイル開発には不向き 従来型のウォーターフォール開発ではWBSは大変効果的ですが、最近のアジャイル開発には向いていません。WBSを用いるか否かは、プロジェクトの性質によるということを理解しておく必要があります。
WBSの種類
プロジェクト管理に使用されるWBSには2つの種類があります。WBSはプロジェクトごとに作成しなければなりませんが、以下の2つのタイプをもとにプロジェクト内容に合わせたテンプレートをいくつか用意しておけば、手間を省くことができ、抜けや漏れのリスクも抑えられます。
なお、WBSテンプレートはインターネット上のものをダウンロードしてカスタマイズすることもできますし、アプリやソフトなどのプロジェクト管理ツールを導入してWBSを利用することもできます。
プロセスを軸としたWBS
プロセスを軸としたWBSでは、「〇〇を〇〇%アップさせる」といった目標とする成果物が明確でない中長期的なプロジェクトでよく使われます。
このタイプのWBSはプロジェクトの作業段階を軸としており、それぞれの部門で行われるタスクは階層ごとにクリアされていきます。「何を行うか」に重点を置いているので、タスクは動詞形で表記されます。
成果物を軸としたWBS
成果物を軸としたWBSは、具体的な成果物(アイテム)を基に考えられます。最終的な成果物を作成するために必要な部品や要素を明確にし、それを順序立てて構造化します。目標とする成果物がはっきりしているプロジェクトで使われます。
それぞれのアイテムがどのように関連し合っているのかがわかりやすく、費用やリソースの精査もしやすいです。一般的には短期的なプロジェクトで用いられることが多いです。
WBSの作り方について
WBSには進める手順があります。手順を無視すると、タスクの漏れ、重複、作業順序の不整合などが起こり、WBSのメリットを得にくくなります。 最低限、次の手順は順守してください。
1.作業の分解
WBSを作成するまで、必要とされる作業はまだ曖昧なままです。この塊を作業工数が明らかになるまで分解することで、作業の内容や作業の範囲がより明確になります。この作業はプロジェクトリーダーだけで進めてはなりません。割り当てる担当者や関係者のコンセンサスを取ることです。
最初に全体予算から全体工数を決め、これをタスクに落としていくような方法で進めると、必ずギャップが生じます。面倒でもタスクを可視化できるまで、詳細に分解し、必ず担当者の同意を得ることが必要です。
2.作業の順序を決める
作業の洗い出しと分解ができたら、作業順序を決めていきますが、その際には作業ごとの依存関係を明らかにします。たとえば、「Aタスクが終了したらBタスクに着手とする」「CタスクとDタスクは相互依存関係がないので、同時並行で進める」といったタスク間の関係を設定します。
作業(タスク)を進める順番の設定をしていく中で、クリティカルパスが明らかになります。クリティカルパスは、プロジェクトの進行に重大な影響を及ぼすタスクの連なりです。
クリティカルパス上にある作業が遅延すると直ちにプロジェクトそのものが遅れます。クリティカルパスは誰もが分かるように表記しておきましょう。
3.作業を構造化する
作業の順序が決まったら、次にそれらを構造化します。構造化というのは、例えて言えば、パズルのピースを組み立てるようなものです。WBSでは抽出した作業を、次のようにレベル(階層)別に分解して並べていきます。
▪レベル0はプロジェクトの目標 ▪レベル1はレベル0を達成するための重要なタスク要素 ▪レベル2はレベル1を実務レベルのタスクに細分化したもの ▪最下層は実務として行うレベルのタスクとなります。
このように同じレベルのタスクをまとめ、続いてその下の同じレベルのタスクをまとめます。こうして作業を構造化することで、作業の抜けや漏れを防ぐことができます。
4.作業の時間を見積もる
WBSの重要な要件として、作業時間の見積もりがあります。見積もり方法には決まったものはありません。過去の類似作業を参考にする、チームメンバーと相談する、有識者の意見を聞く、何人かで見積もって加重平均を取る…といった方法などがありますが、いずれにしてもチームメンバーや作業担当者のコンセンサスを得ることが重要です。
SEとしてWBSをいかに活用するか
SEやPM経験者の大半の方はWBSを利用されているでしょうが、同様に今後、SEやPM、ITコンサルタントを目指す方には、WBSはぜひとも習得しておいてほしい手法です。このWBSを活用する上で意識しておいてほしいことについて述べてまいります。
関係者とのコンセンサスづくり
WBSは合理性、客観性が求められます。プロジェクトリーダーの独断で作成してはならないということです。プロジェクトリーダーとして使いやすいWBSである必要性はありますが、WBSはプロジェクトリーダーのためにあるのではなく、プロジェクト全体のためです。
通常、プロジェクトを推進するには予算が必要であり、予算承認は経営層やシステム部門の長が行います。彼らの理解と承認がなければ予算は付与されません。またプロジェクトの大半は社内の関係部署が深く関わります。
営業支援システムの開発であれば、営業部が受益者、およびシステムオーナーとなります。経理システム、人事システム、受発注在庫管理システムなど、必ず主管部門との連携、協力が必要です。
つまりプロジェクトにはプロジェクトメンバー以外に関わる人、主管部署、関係部署が多く存在するということです。こうした関係者のコンセンサスを得るための共通基盤としてWBSは重要です。WBSに記された全体工数は予算獲得のための根拠であり、スケジュールも主管部署や関連部署にとっては重要な情報です。
このようにWBSは関係者のコンセンサスを得る上で大変重要だということを胸に刻んでおいてください。
WBSは進捗管理だけではなく、成果物でもある
WBSはプロジェクト管理の手法であると述べました。プロジェクトには必ずアウトプット(成果物)があります。ハードウェア、ソフトウェア、開発ドキュメント、運用ドキュメントなどがあります。こうした成果物の全てがWBSに網羅され、WBSそのものがプロジェクト管理と同時に成果物となるのです。
WBSはプロジェクト成果物の一部であるという意識を持ってWBSを活用することがプロジェクトの成功につながるのです。
WBSを適切に活用しよう
以上、WBSとは何か、その目的やメリット・デメリット、作り方まで解説してきました。WBSはプロジェクト推進において非常に大きな役割を果たします。また、ガントチャートと併用することでさらにプロジェクトを管理しやすくなります。
一方で、アジャイル開発には不向きといったデメリットもあります。WBSを作成する際には、プロジェクトの性質に合っているかどうかやどのようなWBSを作成すればよいかについて、よく考えなければいけません。
WBSのメリットは、WBSを適切に作成し活用することで得ることができます。この記事で解説したことを参考にしながら、ぜひプロジェクト推進の現場で役立ててください。
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