EVMとは
EVMとは「Earned Value Management(アーンド・バリュー・マネジメント)」の略語で、プロジェクトにおける計画、作業工程、成果物などを全てコストに換算し、「計画(予算)」と「実績」、「要したコスト」を比較して、「どの程度進んだのか」「費用はいくら掛かったのか」を把握するための手法です。
これらを分析することで、プロシェクトの進捗状況を把握し、将来的に発生する可能性のある問題を予め察知します。このようにEVMはコストの視点を取り入れたプロジェクト管理の有効な手法のひとつです。
EVMの歴史的背景と現状
EVMは元々、米国総務省における物資調達規則の一部として制定されたのが始まりです。その後、国家的なプロジェクトのパフォーマンスを上げるために何度も見直しが行われ、発展を繰り返しています。
EVMの大きな特徴は、従来のプロジェクト進捗管理においてはメジャーな指標だった時間軸だけではなく、コスト指標を取り入れた点です。日本においては、経済産業省においてEVMに関するガイドライン策定の動きがあり、今後政府案件では、受注条件に「EVM」を用いた管理の採用を含めるべきとの意見もあります。
これまで利用されることが多かったのは、PERT図とWBSという手法
これまでIT開発のプロジェクトでは、プロジェクト管理にPERT図やWBSがよく利用されていました。これらは時間軸(スケジュール)でプロジェクトを管理する手法です。
PERT図は、なじみのある方が多いと思いますが、プロジェクトの流れや所要時間を図に表し、業務計画を立てます。
複数の作業が並行して行われるプロジェクトでは、1つの作業が遅れると他方の作業が遅れ、結果として全体が遅れます。このように、各作業間の依存関係や重要性がよく分かり、進捗管理がしやすいというメリットがあります。
一方でWBSも、よく用いられる手法なのでご存知の方が多いと思いますが、プロジェクトの目的達成に必要なタスクを洗い出し、各タスク毎のスケジュールを明確にします。各タスクの工数も見積もるため、全体工数が把握でき、進捗管理がやりやすくなるというメリットがあります。
いずれも進捗管理の指標は時間です。それらに対し、コストとスケジュールの両面から管理するのがEVMです。
EVMを簡単に説明すると
あなたが仮にプロジェクトリーダーを任され、EVMを用いたプロジェクト管理を行うことになったとしましょう。プロジェクトメンバーには、EVMについて説明をしなければなりません。
しかも簡潔に、分かりやすく説明をしなければ、メンバーはあなたに従わないかもしれません。かといって、勉強会を開くほどの時間もありません。そんな時は次のような説明してみてください。
「EVMはプロジェクト管理の手法で、すべてをコストに換算し、計画に対して進捗をコストで管理するやり方です」と。
では続いてEVMに対する理解を深めるため、EVMを採用するメリット、デメリットについて考えてみましょう。
EVMのメリット・デメリットについて
経済産業省によるガイドライン策定を筆頭に、日本国内において導入しようという動きが高まっているEVMですが、メリットだけではなく、もちろんデメリットも存在します。
ここでは、そんなEVMのメリットとデメリットを解説します。
EVMのメリット
前述の通り、EVMはコストによる管理を取り入れたプロジェクト管理手法です。それを踏まえたうえで、次の2点がメリットとして挙げられます。
1.プロジェクト管理をより客観的に管理ができる 従来のプロジェクト管理手法はあくまでもスケジュール面の進捗管理が主であり、「計画に対して遅れている」「計画よりも早く進捗している」という点でしか、進捗が把握できませんでした。
EVMにはコスト指標が加わり、コストマネジメントの要素が入ることで、より客観的、合理的な判断や意思決定を促すことができます。
2.プロジェクトの予測精度が高まる プロジェクト管理にコスト指標が加わったことで、将来予測の精度が高まります。例えば、プロジェクトの折り返し地点で、スケジュール進捗率が50%、予算進捗率が50%なら、プロジェクトは予定納期と予定コスト内で収まる可能性が高いことが分かります。
仮に予算進捗率がスケジュール進捗率を上回っている場合は、コスト圧縮策を講じる必要が出てきます。逆に予算進捗率がスケジュール進捗率を下回っている場合は、さらなるリソース確保が可能と判断され、いずれにしても早めの対策を打つことができます。
EVMのデメリット
一見、万能に思えるEVMですが、次のようなデメリットを抱えており、プロジェクトの前に何らかの補完策を講じておく必要があります。
1.品質コントロール機能がない EVMにはコストとスケジュール以外の指標がなく、品質を管理するためには別の管理手法を追加する必要があります。
2.クリティカルパスが不明確 プロジェクトの工程にはクリティカルな工程があります。この工程を他の工程と同様にコストだけで管理すると、その工程で問題が発生した際に、他の工程や全体工程に影響を及ぼす可能性があります。
クリティカルパスはプロジェクト管理の基本ですので、必ずこの管理手法を除外しないよう気を付ける必要があります。
EVMの構成要素
ここまでで、EVMの概念はある程度理解されたかと思います。続いて、EVMの構成要素について触れておきます。次の(a)から(e)まで、5つの構成要素(指標)は頭に入れておいてください。
(a). PV (Planned Value)-計画価値
計画作成段階で見積もった予算を意味し、ある期限までに完了しなければならない作業に対する総予算・総コストのことです。たとえば「〇〇ツールの開発にあたり、1カ月間に必要な予算はいくらか」という視点で、主に開発要員のコストを推定して算出することです。
1カ月間に人件費が50万円/月の初級プログラマーを投入する計画であれば、PVは50万円です。50万円が基準値(ベースライン)となり、60万円/月の中級プログラマーを投入した場合は、10万円のコストオーバーが発生し、この10万円が基準値からの遅れと判断されます。
(b).AC (Actual Cost)-実際に要したコスト
ACは実コストのことで、ある時点から特定の時点までに要したコストのことです。
例えば「〇〇ツールの開発にあたり、1カ月で実際にかかったコストは60万円」というようにACを用いて表現します。
(c).EV (Earned Value)-出来高実績値
EVMのEVのことで、「出来高実績値」とも訳されます。作業の達成度を時間で判断するのではなく、金銭的価値に置き換えて判断します。
AC(実際に要したコスト)に対するEV(出来高実績値)の比率をCPI(Cost Performance Index)と称します。CPIは「コスト効率指数」という指標で、『EV ÷ AC = CPI』の算式で表され、1を下回るとコスト超過と判断します。プロジェクト進行管理で、コストが予算内に収まっているか否かを判断する際に用います。
(d).SV (Schedule Variance)-スケジュール差異
SVはスケジュール差異を示します。EV(出来高実績値)と、PV(計画価値)の差分です。
『EV ‐ PV = SV』の算式で表され、結果がプラスなら、オン・スケジュールと判断し、結果がマイナスならスケジュール遅延と見なします。
例えば、「〇〇ツールの開発」にあたり、2カ月目までのEV(出来高実績値)が80万円、2カ月目までのPV(計画価値)が70万円なら『EV(80万円)-PV(70万円) = SV(10万円)』で、スケジュールは計画よりも早く進んでいると判断できます。
(e).CV (Cost Variance)-コスト差異
CVはコスト差異を示します。AC(実際に要したコスト)と、EV(出来高実績値)との差分です。
『EV-AC = CV』の算式で表され、結果がプラスなら、その時点でのコストは予算内、マイナスの場合は予算オーバーと判断できます。
例えば、「〇〇ツールにあたり」、2カ月目までのEV(出来高実績値)が70万円、2カ月目までにのAC(実際に要したコスト)が90万円なら、『EV(70万円)-AC(90万円)= CV(-20万円)』となり、予算オーバーと判断します。
以上5項目がEVMの基本的な指標です。EVMに対するイメージが明確になったのではないでしょうか?まずはプロジェクト管理でこの5つの指標を実際に用いてみることをおすすめします。
EVMの実践を
従来型のIT開発プロジェクトにおいて、主に重きを置かれたのはスケジュールでした。納期厳守のためにSEやPGの徹夜を黙認するような風潮すらありました。この結果、プロジェクトが終了してから、予算オーバーが発覚するという事態が常態化してきました。
これは、日本のIT開発の生産性が高まらない1つの原因と見られています。EVMがそのスケジュール偏重のプロジェクト管理を打破する1つの手段です。
EVMと聞くと、何か難しいことのように感じますが、この記事をお読みになられた方は意外に簡単だということを理解されたと思います。
EVMの3本の曲線
EVMでは、EV(出来高実績)、PV(計画価値)、AC(実コスト)の各指標について縦軸をコスト、横軸を期間とするグラフで、3本の曲線で表します。
このグラフを基にして、リソースの使用状況が明瞭になり、完成時点の数値まで見積もることができます。EVMの管理をする上で、このグラフを用いることで「予算に対して、消費したコストは下回っているのか、上回っているのか?」、「使用したコストに対して、成果は上回っているのか、下回っているのか?」が一目瞭然となり、プロジェクト内の情報共有や上層部への進捗報告にも有効なツールになるでしょう。
EVMをうまく活用するために
EVMは計画と実績の見える化です。各指標は数字で表さなければなりません。数値化するには人的資源能力や品質出来高をいかに定量的に把握するかによって、精度が変わってきます。まずはこれらの指標の客観的根拠をしっかり形成することが求められます。
正しい人事評価制度、品質評価の仕組みが必要になります。関係者で知恵を出し合って、皆が納得し得る基準を設けることで、プロジェクト管理の精度はさらに高まり、メンバーのモチベーションアップにもつながるでしょう。
記事をお読みいただいた皆さんがEVMを更に理解し、自身の関わるプロジェクトに採用されることを願っています。
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