ChatGPT Enterpriseが登場
ChatGPTの開発元として知られる米国OpenAI社は現地時間の8月28日に、企業向けのAIチャットサービスとなる「ChatGPT Enterprise」の提供を開始しました。利用料金や価格は未公表ですが、利用者数や利用条件によって異なると見られています。
これまでのOpenAIのスタンスでは、ユーザの情報、利用プロンプトデータはAIのトレーニングで利用されてきましたが、ChatGPT Enterpriseではトレーニングで利用されることはなく、またプロンブトや利用データの転送時には全て暗号化されるため、企業の機密情報が漏洩するリスクは軽減されます。
また、企業が独自にカスタマイズできるよう、APIの無償提供も行われる予定です。
このChatGPT Enterpriseは、米Microsoftが7月に発表した「Bing Chat Enterprise」と競合すると思われます。OpenAIによれば、ChatGPTは既にFortune 500企業の約80%以上に採用され、活用されていますので、日本での今後の広がりも注目されます。
この記事では、ChatGPT Enterpriseの概要や特徴、仕組み、活用事例などについて紹介していきます。今後、日本の企業や自治体などで導入が進むことが想定されますので、システムエンジニアや組織でAI活用推進に関わる方はぜひ参考にしてください。
【参考】:IIntroducing ChatGPT Enterprise| OpenAI 【参考】:仕事のためのAIを活用したチャット | Bingチャットエンタープライズ
ChatGPT Enterpriseの特徴
ChatGPT Enterpriseとは、ビジネス現場での利用を目指した企業向けのChatGPTですが、主に以下のような特徴を備えています。
【参考】:ChatGPT Enterprise| OpenAI
セキュリティ強化
利用情報をAIのトレーニングに利用しない、あるいはプロンプトなどのやり取りの情報は暗号化されるなど、セキュリティとプライバシーを重視した対策が講じられており、企業は安心して利活用することができます。
管理機能の強化
システムの管理者に向けた管理機能が強化されています。チームメンバーの管理、ドメインの認証、シングルサインオン機能などが備わっており、大きな組織や企業内での大規模利用を想定した対策が講じられています。
スピードと利便性追求
ChatGPT Enterpriseには利用制限が設けられておらず、しかもGPT-4が最大2倍のスピードで動作します。またプロンプトはこれまでのテキスト量の4倍まで入力が可能で、長文の翻訳や、要約が行えるようになりました。
データ解析ツールの強化
これまでコードインタープリターとして呼ばれてきたデータ解析ツールに無制限でアクセスすることが可能となり、リサーチ担当者、マーケティング担当者、データサイエンティストなど専門家の手を借りずにデータの分析や解析が行えます。
ChatGPT Enterpriseの仕組み
ChatGPT EnterpriseはOpenAI開発の最先端言語モデル、GPT-4をベースにしたサービスですが、チャットボットとしての性能も向上しています。
GPT-4は有料サービスのChatGPT Plusから利用可能であり、インターネット上のテキストデータを中心に、大規模な訓練データによるトレーニングを行っています。幅広いテーマに関して高度な知識を有し、より自然で滑らかな対話能力を備えています。
ChatGPT Enterpriseでは、次のような機能を活用することでそれらを実現しています。
RLHF機能
RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback)という、人間によるフィードバックデータから強化学習を行うアルゴリズムを採用しており、より人間に近い会話文の生成ができるようになっています。
コンテキストウィンドウ機能
コンテキストウィンドウ機能(チャットセッション中の情報を長期間、記憶として保持する機能)により、入力文字量が多くとも、これまでの会話内容を正しく理解できるようになっています。またコンテキストウィンドウは、32,000トークンと、通常のChatGPTの約4倍長くなりました。
Code Interpreter機能
ChatGPT Plusから提供が始まったプラグインのCode Interpreter機能を用いることで、様々な形式のファイルをChatGPTにアップロードし、Pythonを利用して様々な分析や処理が行えるようになりました。
Code Interpreterは、自然言語による質問や命令をコードに変換して実行し、その結果をテキスト以外に画像や音楽などで返すことができます。
ChatGPTの企業での活用事例
ChatGPTの活用例、活用評価から、これからのChaGPT Enterpriseの様々な活用策が見えてきます。ここでは、企業がChatGPTを活用し、その結果をどう評価しているのかについて、経済産業省の公表資料から見てみましょう。
【参考】:ChatGPT時代に企業はAIとどう向き合うべきか | 経済産業省
AIアシスタントConnectAIの事例
パナソニックグループの「パナソニック コネクト株式会社」では、ConnectAIと命名するChatGPTを利用した社内サービスを導入し、企業内でのAI活用に関する実績をあげています。ここでは、その成果と評価についてまとめてみました。
■ 導入目的 初めにConnectAIの導入目的について確認しておきましょう。この目的が後ほどの評価を行う上で大変重要な目標となります。
1.業務生産性向上 言語モデルAIは、定型業務以外に、情報収集・情報整理・ドラフトの作成といった非定型の業務プロセスでも活用が可能です。
2.社員のAI活用スキル向上 従来のキーワードでの検索から、自然言語を用いたプロンプトエンジニアリングのスキル向上によってアウトプットの精度を高めることができます。
3.シャドーAI利用リスク軽減 企業が対応しなくとも、社員はパブリックAIを利用するようになり、結果として情報漏洩リスクが高まります。その対策として、しっかり管理された社内AIを提供、活用することでAI利用リスクの軽減を図れます。
■ 活用実績 ConnectAIを実際に導入した結果、3ヶ月間で以下の実績が示されました。想定以上の利用があったことが伺えます。
1.想定の5倍以上の活用 導入当初、1日1,000回の利用を想定していましたが、実際には5倍以上の利用実績がありました。
2.社員が日常的に業務に利用 使うことを強制していないツールにも関わらず、その利用回数は上昇傾向を維持していました。
3.想定以外の有効利用実績 専門領域や、製造業らしい素材などに関するプロンプトが多数作成されており、身近なアシスタントとして有効利用したことが分かりました。
4.不適切利用なし 期間中に84件の不適切利用アラートが上がりましたが、人間による確認の結果、重大な問題はないと判断されました。
5.生成AIは技術革新と認識 生成AIは単なる一時的なブームやトレンドではなく、インターネットやスマホなどと同じ技術革新と認識できました。
■ 業務生産性向上の効果 3ヶ月間の実証実験によって、具体的には次の成果が確認されています。その効果は明確な数値として定量的に評価されています。
1.プログラミング業務 コーディング前の事前調査時間が3時間から5分に短縮しています。
2.社内広報業務 約1,500件のアンケート結果の分析業務が、従来の9時間から6分に短縮しています。
3.想定以外の有効利用実績 専門領域や、製造業らしい素材などに関するプロンプトが多数作成されており、身近なアシスタントとして有効利用したことが分かりました。
ChatGPT Enterpriseの活用の可能性
ChatGPTの活用事例から、企業では次のような分野で活用できる可能性があることが分かってきました。 ChatGPT Enterpriseの導入によって、具体的には以下のような活用の可能性が想定されます。
■ コミュニケーションツールとして ChatGPT Enterpriseを利用して、チームメンバー同士のコミュニケーション、顧客とのコミュニケーションをサポートし、改善できます。メールやチャット文を自動生成したり、あるいは添削したり、外国語を翻訳することに活用できます。
■ コーディングの加速 ChatGPT Enterpriseをコーディングやデータ分析に役立てることができます。例えば、コードの生成や修正、コーディングエラーの解決、データの可視化などに活用できます。
■ ビジネス情報の探索 ChatGPT Enterpriseでは複雑なビジネス問題や情報について、迅速な回答ができます。市場動向や競合分析に関する情報、財務予測や戦略立案などにも利用可能です。
■ クリエイティブワークの支援 ChatGPT Enterpriseは、社員の創造性や発想力を高める支援が可能です。例えば、ロゴなどのデザイン、キャッチコピーやスローガンの生成、ブログ記事の執筆などが行えます。
【参考】:Introducing ChatGPT Enterprise | OpenAI
ChatGPT Enterpriseの可能性
ここまで、ChatGPT Enterpriseの特徴や仕組み、企業での活用例などを紹介してきました。実証実験では具体的な成果が見えており、今後急速に企業利用が広がっていくことが想定されます。
しかし一方で、業務活用における課題も見えています。例えば、自社固有の質問には回答できない、最新情報に関する質問には回答できない、回答の正確性が担保できないといった点です。
今後の企業での活用には、個々の企業の事情に合わせたカスタマイズが必要であり、エンジニアのスキルが問われてくるでしょう。皆さんの会社でもChatGPT Enterpriseの導入が決まると、エンジニアの手が必要になってきます。これを機会にChatGPTの活用についてスキルアップを図ってみましょう。
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