日本がDXの推進をすべき理由
日本がDXの推進をしなければならない理由は、ズバリ企業の競争力強化と事業成長のためです。2018年に経済産業省が「DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためのガイドライン」を発表しましたが、これがDXブームの契機となりました。
日本企業のIT化の遅れは、日本経済成長の阻害要因と見られています。陳腐化したレガシーシステム(技術刷新すべき既存のシステム)が足かせとなって、企業がITシステムの刷新に消極的になっているという現状があります。
こうした状況を打破しなければ、日本経済は大きな負の遺産を抱えたまま、ひん死の状態に陥るといった懸念があります。
これを打破する鍵がDXです。IT技術を駆使し、ビジネスモデルを抜本的に変革し、業務や組織、プロセスや企業文化を見直し、競争上の優位を確立することが企業に求められています。
2025年の崖とは
「2025年の崖」という言葉は経産省のDXレポートの中で用いられました。このまま2025年を迎えると、崖から転がり落ちるような危機が訪れるという比喩です。
レポートでは複雑化、老朽化した既存のシステムがそのまま残ると、国際競争への対応ができず、日本経済に大きなダメージを及ぼすということが述べられています。今後予想されるIT人材の引退や不足、既存システムに対するサポート終了などがこの経済停滞の要因になるというのです。
既に多くの企業は、新たなデジタル技術の活用によるビジネス変革の必要性を理解はしているものの、レガシーシステムの存在がこれを阻害しているのです。
DXレポートによると、21年以上も稼働しているレガシーシステムが2026年には、システム全体の6割を占めると予測し、この刷新に乗り遅れた企業は事業機会を失うというのです。またレポートでは2025年以降、最大で12兆円/年の経済損失が生じると推定しています。
日本のDX取り組み状況
日本は先進諸外国と比べてデジタル競争で大きく遅れています。日経BPの「DXサーベイ(900社の実態と課題分析)」によると、調査対象となった900社でも、「DXに本気で取り組み、成果を上げている」とした企業は全体の1/4、26.3%に止まっています。
デジタル先進国では大半の企業がDXに取り組んでいるという状況から見ても、日本のDX推進がかなり遅れを取っているということが分かります。
日本企業のDXの取り組み
DXの推進においては遅れをとっている日本企業ですが、中にはDXを推進して成果を上げている企業も少なからずあります。
こうした成果を上げている企業のDX事例について見ていきましょう。そこには何らかのDX成功の鍵があります。事例に学び、良い点は参考にして自社のDXを推進していくことが求められています。
DX導入の事例
日本でもDX推進を課題として掲げる企業が増加しています。ここでは主に、消費者と直接接点を持つ小売業、飲食業、タクシー業での導入事例を、実体験を交えながら紹介してまいります。
1.UNIQLO 小売業でDXに積極的な企業というと、真っ先に思い浮かぶのはユニクロでしょう。2020年6月にはOMO(リアルとバーチャルの融合)を実験店として原宿店、さらには同6月にマロニエゲート銀座2に旗艦店「UINIQLO TOKYO」をオープンさせるなど、DX推進の動きには目覚ましいものがあります。
アパレルの販売であればネットでも完結できますが、そうした中ユニクロはあえて店舗を出店し、UX(顧客体験)とショールームという機能を店舗に持たせ、ネットとリアルの良いところをうまく融合させています。
他に、アバレルチェーンでは類を見ないセルフチェックアウトシステムを展開し、店舗における決済という負担を軽減している点も目を引きます。小売業の最先端を走るユニクロのこうした姿勢は、創業社長である柳井氏のデジタルに対する造詣の深さと理解、リーダーシップに負うところが大きいでしょう。
2.トライアルカンパニー スーパーセンター(ディスカウト型の大型スーパー)を展開するトライアルカンパニーは、お客が自ら商品のバーコードをスキャンし、カートに設置されたタプレットで決済をする「スマートレジカート」を導入しています。
これと同様の取り組みを、大手スーパーのイオンも「レシゴー」として展開中です。
さらにトライアルでは、独自のAIカメラを開発し、売場の棚の状況をモニタリングして、商品管理や品揃えに生かしています。
その他、電子プライスカードを導入してリモートでプライス変更を行い、プライスカード付け替えなどの人的作業を不要にしています。
トライアルは自動発注、自動補充、無人店舗の開発にも取り組むなど、徹底的なローコスト運営を実現し、圧倒的なロープライスで顧客への還元を図っているのです。
参考:リテールガイド
3.はま寿司 大手外食グループのゼンショーホールディングス(牛丼チェーンの「すき家」などを展開)が手掛ける回転寿司チェーンの「はま寿司」はコロナ禍に対応し、店舗システムの全面刷新に取り組んでいます。
まず、衛生面に配慮しながら、出来立ての寿司をお客に届ける超高速レーンを導入しました。回転寿司屋でありながら、寿司は回転しておらず、お客が専用タプレットで注文したものだけが、お客の席に高速で届くという仕組みです。
これで同時に廃棄ロスを減らし、ロスを減らした分だけ寿司ネタを増量してお客に還元をしています。また専用のスマホアプリを開発し、お客はアプリを利用して時間予約をし、待ち時間ゼロで席に座れます。アプリにはおすすめ商品の紹介やクーポンがあり、お客にとっても利便性が大きく向上しています。
また、会計は入店時に発券されたシートをレジに持っていくだけで決済が行え、従来のように店員が皿数を数えるという動作が不要になりました。
これらの取り組みによって、人と人の接触を避け、サービスや品質は向上し、コストカットやロス削減につなげるなど、顧客と店舗の双方に大きなメリットをもたらしています。
4.スターバックス コーヒーショップのブランドとして顧客から圧倒的な支持を得ているスターバックスコーヒーは、早くからDXやCX(カスタマーエクスペリエンス)の向上に取り組んできました。
DXやCXの向上は目的ではなく、彼らが「スターバックス体験」と呼ぶ「顧客満足実現」の1つの手段なのです。
スターバックスの従業員はパートナーと呼ばれ、スターバックスが掲げる「Our Mission and Values」の精神を全員で共有し、「Our Mission and Values」の精神がが店舗設計、サービス、ITや経営意思決定、マーケティングなど全ての企業活動に生かされています。
最近では、「スターバックスさくら2020」と題するAR(仮想現実)を利用したお花見体験の提供や、スマホのアプリで事前に注文と決済が出き、店舗に着くと直ちに商品を受け取れる「モバイルオーダー&ペイ」など、デジタルを使ってCXを向上させるという取り組みを続けています。
「スターバックスに行けば、すてきな体験がある」という顧客の意識が定着することで、さらにリピーターが増えていくという考え方が、スターバックスのDXの根底にあるのでしょう。
5.JapanTaxi(日本交通) コロナ禍で苦境に立たされているタクシー業界ですが、ここでも積極的にDXに取り組んでいる企業があります。日本交通からスピンオフしたJapanTaxiです。JapanTaxiは日本版Uberですが、運転手と乗客の双方に好評です。
乗客はスマホでJapanTaxiのアプリを立ち上げ、ボタンを押すだけで周辺にいる空車タクシーがすぐに迎えに来てくれるという便利アプリです。
アプリでは迎えに要する時間や推定運賃も分かります。また決済機能があり、タクシー内のQRコードを読み取って、目的地に到着する前に決済ができます。運転手にとっても、お客を乗せる前から目的地が把握でき、しかも現金のやり取りがなく、運転に専念できます。
このライドシェアサービスの便利さは、外国でUberを利用するとよく分かります。運転手と会話する必要がなく、言葉も問題はありません。乗る前から運賃が決まっており、運転手にわざと遠回りさせられて運賃を余分に取られる心配もありません。
車を降りた後、運転手の評価を付けるようになっているので、運転手も良い評価を得るために必死ですから、自らサービスに努めます。中にはドリンクサービスまでしてくれる運転手もいるほどです。
白タクが禁止されている日本では、まだまだ配車アプリで利用できるタクシーが多いとは言えませんが、今後さらにこうした配車アプリの活用が広がっていくでしょう。
DX成功のポイント
DXを推進している企業、DX推進に成功した企業には共通するポイントがあります。その共通項がDX成功の秘訣と言えるのではないでしょうか?ここでは、DX成功のポイントを3つにわけて解説します。
トップの理解とリーダーシップ
DX推進にはトップの深い理解とリーダーシップが必要です。成功している企業のDXはトップダウン型が大半です。DXはシステム部門だけでは進められません。
特にレガシーシステムを多く抱えた企業は、既存システムの改廃に膨大なコストが掛かります。トップの大英断がなければ、なかなかGOサインが出ません。
徹底した顧客第一、現場主義
「DXの推進は政府方針だから」、「DXがブームだから株主対策で実施する」と考えた企業の多くはDXに失敗します。
なぜならDXは顧客の理解と顧客満足の裏付け、現場の理解と協力が無ければ絵に描いたモチで終わってしまうからです。DXは顧客第一、顧客視点・現場視点で取り組むことが大事です。
情報共有と意識合わせ
DXはトップから現場まで、全社一丸となって進めるものです。DXは「IT技術を駆使し、ビジネスモデルを抜本的に変革し、業務や組織、プロセスや企業文化を見直し、競争上の優位を確立すること」だからです。
業務、組織が変わるためには、全ての従業員の理解と協力が欠かせません。そのためには徹底した情報共有と教育が必要です。それができて初めて全従業員の意識が1つになります。
DX時代とITエンジニア
DXはIT人材抜きでは実現し得ません。しかし一方では、IT人材の絶対的な不足が国家的な問題にもなっています。ITエンジニアである皆さんの力が求められています。
DX時代に対応するために
DXはデジタル化であり、ITを徹底活用することです。DXを進める上ではIT技術に関する知識や経験が求められます。よってDX人材が求められていると言ってもよいでしょう。
DXではこれまで以上にクラウドやAI・データ分析、アジャイル開発、マイクロサービス・アーキテクチャーといった技術が求められます。DXを推進するITエンジニアには、そうした技術を積極的に体得していくことが求められます。
ITエンジニアはDXの旗手であれ
日本は残念ながら、デジタルにおいては遅れをとっています。アジアでは韓国、台湾、中国に先行されています。この現状を打破し、日本が経済大国として再生していく鍵はDXです。
DXは企業や組織だけではなく、日本の国家的課題です。今こそ、ITエンジニアである皆さんが必要とされているのです。この記事を読まれた皆さんにはぜひ、日本のDX推進の旗手として活躍をしていただきたいと願っています。
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