アジャイル開発は要件定義が必要?
アジャイル開発は、反復的かつ柔軟な手法でプロジェクトを進める開発モデルです。従来のウォーターフォール型開発が計画からリリースまでを一連の流れで進めるのに対し、アジャイル開発は小規模な単位での「スプリント」を繰り返し、逐次的に成果物(プロダクト)を完成させます。
「ウォーターフォール型開発では要件定義は必須だが、アジャイル開発では不要」と考える方がいますが、開発手法に関わらず要件定義は必要です。この記事では、アジャイル開発における要件定義の重要性や、従来の要件定義との違いについて解説します。
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アジャイル開発とウォーターフォール型開発の違い
アジャイル開発とウォーターフォール型開発は、どちらもソフトウェア開発の手法ですが、大きく異なる特徴を持っています。それぞれの特徴と、メリット・デメリットを確認しておきましょう。
ウォーターフォール型開発
ウォーターフォール型開発は、要件が明確で変化が少ない大規模システムの開発に向いています。その特徴とメリット・デメリットを見てみましょう。ウォーターフォール型開発の成果物一覧としては、要件定義書、基本設計書、詳細設計書、テスト実施報告書など、各工程ごとに成果物が決まっています。
■ 特徴 ウォーターフォール型開発は、全ての工程を順次進める線形的な開発モデルです。要件定義、設計、開発、テスト、リリースの順に、前の工程が完了してから次の工程に移るのが大きな特徴です。アジャイル開発が浸透するまでは、ウォーターフォール型開発がシステム開発手法の中心でした。
■ メリットとデメリット ウォーターフォール型開発の最大のメリットは、工程が決まっており、プロジェクトの計画が立てやすく、進捗管理がしやすい点にあります。
一方、ウォーターフォール型開発のデメリットは、開発の初期段階で全ての要件を決める必要があり、企業や市場の変化に対応しにくい点があり、一旦開発が進んでしまうと、後戻りが難しくなります。
アジャイル開発
システムの開発手法は、ウォーターフォール型開発から始まりましたが、2000年代以降では、アジャイル開発が注目されています。アジャイル開発は、大まかな仕様が決まったら「まずは作ってみる」という考えで、極力少ない工数と期間で開発を進めます。
開発の成果物としては、プロダクトバックログ、スプリントバックログ、インクリメントの3種類です。インクリメントとは、最終成果物で、ソフトウエアや新たな機能などです。
■ 特徴 アジャイル開発のアジャイル(Agile)は「素早い」を意味する英語で、短期間の反復的な開発サイクルを繰り返す開発モデルです。短い期間(スプリント)で機能を開発し、顧客のフィードバックを基に改善を繰り返します。
■ メリットとデメリット アジャイル開発の最大のメリットは、顧客のニーズに柔軟に対応できることです。早期に製品をリリースし、市場の反応を見ながら改善できる点にあります。
一方、アジャイル開発のデメリットとしては、全体的な計画が立てづらく、またドキュメント化が不十分になりがちな点にあります。
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アジャイル開発における要件定義の特徴と重要性
アジャイル開発では、要件定義は変化することを前提にしており、従来の詳細な要件定義書を作成するケースは少なくなります。しかし、プロダクトバックログやユーザーストーリーといった成果物で、基本的な要件の枠組みを管理することは、プロジェクトの進行に欠かせません。
要件定義の違い
ウォーターフォール型開発では、要件定義書として明確な要件を記述し、プロジェクト開始時に詳細に策定します。
一方、アジャイル開発では、 要件を具体的な文書化は行わず、プロダクトバックログやユーザーストーリーを使って柔軟に管理します。要件定義の「成果物」としてはリスト化される、プロダクトバックログが主な参考資料になります。
アジャイル開発における要件定義の特徴
アジャイル開発では、柔軟で実用的な要件管理が特徴です。ユーザーストーリーやプロダクトバックログは、開発チームが顧客の要求や目的を理解しやすくするための重要な成果物です。それぞれ見ていきましょう。
■ ユーザーストーリー ユーザーストーリーは顧客視点での要件を表現する手法です。例えば、「As a [ユーザータイプ]、I want to [機能] so that [目的]」という形式で要件を記述します。
■ プロダクトバックログ プロダクトバックログとは、プロジェクトで実現する機能の一覧です。プロジェクトの優先順位ごとに並べられ、要件定義の成果物として活用します。また、各スプリントでは、このリストからタスクを選択し、進捗に応じて内容が更新されます。
■ スプリント計画 アジャイル開発のスプリント計画とは、短期間(通常1〜4週間)で完了させるタスクの計画を立て、開発チームが達成するべき具体的な目標を明確にするプロセスです。プロダクトバックログから要件を選定し、具体的なタスクに分割して進めます。
■ 変化への対応 アジャイル開発では要件が変更される前提で進められるため、バックログやユーザーストーリーは常に更新され、最新の要求に合わせて変化させやすいのが特徴です。
アジャイル開発の要件定義のデメリット
アジャイル開発は開発工数が小さく、開発期間が短いのが大きな特徴ですが、デメリットはないのでしょうか?ここでは、アジャイル開発の要件定義のデメリットについて詳細を確認しておきましょう。
長期的な計画が難しい
アジャイル開発は短期間のスプリントごとに計画や要件を更新し、変化に対応しながら進めるため、詳細な長期計画を立てるのが難しいことがあります。特に大規模プロジェクトや複雑なシステムの場合、スコープや納期が不確定になりがちで、予算管理も難しくなることがあります。
ドキュメント不足になりやすい
アジャイル開発では動作するソフトウェアに価値を置くため、詳細なドキュメントの作成が省略されることが少なくありません。
その結果、進行中のタスクや成果物は最新のものに保たれますが、プロジェクトの経緯や技術的な判断を後で振り返るための資料が不足し、特にメンバー交代時やプロジェクト終了後に困ることがあります。
チームの熟練度や自律性が求められる
アジャイル開発では個々のメンバーがタスクを理解し、自律的に進行できることが重要です。メンバー間のコミュニケーションや協力が求められるため、熟練したエンジニアやリーダーシップを持つスクラムマスターなどが必要であり、特に経験の浅いチームでは円滑に進まない場合があります。
プロジェクトが無期限に継続するリスク
アジャイル開発では次々に要件が追加されたり、顧客の要望に応じて方向性が変わったりすることがあるため、プロジェクトがなかなか完了しないケースがあります。特に要件が曖昧な場合、終わりが見えずにリソースの消耗を招く可能性があります。
アジャイル開発の要件定義のメリット
以上、アジャイル開発のデメリットについて解説しましたが、アジャイル開発の要件定義には、次のようなメリットがあります。デメリットを回避しながらメリットを追求することで、素晴らしい成果を得られるでしょう。
顧客との密な連携が可能
アジャイル開発の要件定義は、顧客やステークホルダーと密に連携し、進行中のプロジェクトに直接反映させるための仕組みです。ユーザーストーリーやプロダクトバックログを用いることで、顧客が望む機能や要望を分かりやすく整理できます。
これにより、開発の各段階で顧客からのフィードバックを受け、リアルタイムで要件を調整することが可能となり、顧客満足度が向上します。
変化に柔軟な対応が可能
アジャイル開発は変化に対応することを前提としているため、要件の追加・修正に対して柔軟に対応できます。プロダクトバックログを基に、優先度に応じて取り組むべき機能を調整できるため、最重要な機能から優先的に実装し、他の要件はスプリントごとに評価しながら対応します。
このように、要件が変わりやすいプロジェクトでも適応可能で、リリース直前の大幅な設計変更や調整もスムーズに行うことができます。
品質の向上が望める
アジャイル開発では、スプリントのたびに完成度の高い部分的な機能がリリースされ、実際のユーザや顧客のフィードバックが次のスプリントに反映されます。この反復的なサイクルにより、要件の誤解や欠陥が早期に発見・解決されやすくなり、最終的なプロダクトの品質向上が期待できます。
また、スプリントごとにテストを行うため、潜在的なバグや仕様のズレを早期に修正でき、製品リリース後の品質問題を未然に防ぎやすい点もメリットです。
プロジェクトの透明性が高い
アジャイル開発では、要件定義がプロダクトバックログやユーザーストーリーに整理され、常に全員がアクセス可能な状態で管理されます。このため、チームメンバー全員がプロジェクトの進捗や優先事項をリアルタイムで把握でき、意思決定が透明になります。
また、要件や進行状況が視覚化されることで、顧客やステークホルダーも現在の状況を把握しやすく、プロジェクトの一体感が向上します。
早期の成果物が提供できる
アジャイル開発では、短期間のスプリントごとに部分的な機能が完成するため、リリースサイクルが早まります。このため、早期に成果物(MVP:Minimum Viable Product、または部分リリース)を顧客に提供し、早期にフィードバックを受けられます。
特に競争の激しい業界では、他社に先んじて市場投入するメリットが大きく、リリースのタイミングや製品の方向性を機動的に調整することが可能です。
システムエンジニアの年収
アジャイル開発の役割を担うシステムエンジニアの年収を見ていきましょう。一般的なシステムエンジニアの平均年収は「マイナビエージェント職種図鑑」によると、431万円(※2024年11月執筆時点)と算出されています。
また、経済産業省2017年発表の「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」における「エンジニア/プログラマ」の平均年収を参考にすると、592万円でした。
国税庁2020年発表の民間給与実態統計調査における民間企業平均年収は433万円ですので、システムエンジニアの平均年収は一般の年収よりも、やや高めであると言えます。
また、アジャイル開発は日本ではまだ十分に浸透しておらず、DX開発などアジャイル開発が適したケースでも、ウォーターフォール型開発手法が使われているケースがあります。そのため、アジャイル開発の経験やノウハウを有するシステムエンジニアの需要は高まっていくと見られます。
【参考】:マイナビエージェント職種図鑑/システムエンジニア ※【平均年収 調査対象者】2020年1月から2020年12月の間でマイナビエージェントに登録いただいた方 【参考】:IT関連産業における給与水準の実態① ~ 職種別(P7) 【参考】:民間給与実態統計調査-国税庁 【参考】:アジャイル領域へのスキル変革の指針 アジャイル開発の進め方|情報処理推進機構 IPA
アジャイル開発の要件定義の実践
アジャイル開発では従来の詳細な要件定義書を用いず、柔軟かつ継続的に要件を見直すため、実践的な要件定義がプロジェクトの成否を左右します。ここでは、アジャイル開発の要件定義を実践する上で重要な手法やツール、プロセスについて解説します。
ユーザーストーリーの作成
ユーザーストーリーは、アジャイル開発における基本的な要件の単位であり、顧客やエンドユーザーの視点から必要な機能を短い文で表現します。
これにより、開発チームがユーザの意図を理解しやすくなり、顧客価値に直結する開発が可能となります。ユーザーストーリーを作成するのは主にプロダクトオーナーで、基本的な形式は以下の通りです。
「As a [ユーザータイプ]、I want to [機能] so that [目的]」の形で短く記述し、顧客視点での要件を簡潔に記します。必要に応じてタスクを分割し、スプリントで達成可能な単位にまとめます。
例:「As a shopper, I want to add products to a cart so that I can purchase multiple items at once.」
スプリント計画の立て方
スプリント計画は、各スプリント(通常1〜4週間)の開始時に行われる重要なプロセスです。プロダクトオーナーがプロダクトバックログから優先度の高い要件を選定し、チームがスプリントでのタスクを設定し、取り組むべき課題を明確にします。
スプリント計画では、タスクに必要な工数見積もり、目標の明確化、役割分担が決められ、チーム全員が目標を共有し、効率的に進められるよう進行管理を行います。
要件定義のツール
アジャイル開発で、バックログ管理やタスクの進捗確認に役立つ代表的なツールを紹介します。これらのツールを使うことで、プロジェクト全体の要件や進捗状況が可視化され、チーム全員が同じ情報を共有しながらスムーズに開発を進められます。
◼︎Jira バックログやユーザーストーリー、スプリントの進行状況を視覚的に管理するためのツールです。10ユーザまでは無料で利用可能です。
【参考】:Jira | 課題 & プロジェクト管理ソフトウェア | Atlassian
◼︎Trello カンバン方式でタスクを視覚化し、チーム内で進捗やタスクの状況を簡単に共有できます。Freeプランのユーザ数上限は10名までです。
【参考】:どこにいてもチームのプロジェクトを管理 | Trello
◼︎Confluence 要件定義の成果物やユーザーストーリー、バックログの内容をドキュメント化し、チーム全体で参照できるようにします。無料枠はJiraと同じく10名です。
【参考】:Confluence | リモートに最適なチームのワークスペース | Atlassian
アジャイル開発手法を体得してさらなる活躍を
ここまでアジャイル開発の要件定義について、ウォーターフォール型開発との違い、概要やメリット、デメリット、要件定義の実践について解説してきました。
アジャイル開発は書籍やオンライン学習サイトでも学べますが、理解を深め実践力を身につけるには、アジャイル開発を強みとしている企業で、社内研修やOJTで学び、実際にプロジェクトに参加するのが早道です。
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