ITエンジニアの中でも、とりわけその実態が知られていないのが「インフラエンジニア」。他のエンジニア職に比べてさらに男性比率が高い職種でもあります。
そんなインフラエンジニアの世界から、「インフラ女子」として“あるある漫画”を発信しているのが、なつよ(@infragirl755)さん。Twitterのフォロワーは1.2万人、2022年4月には書籍も発売になっており、“日本でいちばん有名な女性インフラエンジニア”と言えるかもしれません。
今回はなつよさんに、インフラエンジニアになった経緯や転職した理由、今後のインフラエンジニアの展望についてインタビュー。
後編では、インフラエンジニアのキャリアアップをテーマにお話を伺っていきます。
▼前編はこちら
パソコンを欲しがった結果が、インフラエンジニア!?
なつよさんがエンジニアになったきっかけは、なんだったんでしょう?今はTwitterで『インフラ女子の日常』を発信していらっしゃいますが、漫画も昔から?
もともと、絵を描くのが好きだったんです。中学時代からは父親のパソコンを借りて絵を描いていたのですが、やっぱり自分専用のパソコンが欲しくて。
高専に行けば1人1台のパソコンが手に入ると知り、パソコン欲しさに高専に進学したんです。
なつよさんのブログ『infragirl’s blog』にも、そのエピソードはありましたね。でも、本当にそれだけの理由だったんですか?
はい、本当にそうなんです。ペンタブ繋いで絵を描きたい、pixivに投稿したい、そんな理由で高専の電子情報工学科を志望しました。
若さってすごい…!でも、絵の道に進もうとは思わなかったですか?
わたしは漫画家になりたいというより、イラストを描きたかったんですが、美術部にも入ってなかったんです。
美術部の友達が上手すぎて、自分には無理だと思ってて。同人誌のイベントでペーパー(同人ペーパー)を置くことはあっても、その道へという感じではなかったです。
●同人ペーパーとは
実際に高専に入られて、どうでしたか?
数学・物理・電気工学…、プログラミングだけでなく、2進数とかアルゴリズムとかも勉強しました。
高専の勉強は、性に合ってたと思います。
学生生活も楽しかったですか?
15歳から22歳まで幅広い年代で過ごすのが楽しかったです。
研究室で、モンハンやったりもしましたね。今考えると近い年代ですが、15歳から見ると22歳なんて大人ですから。
卒業後は、就職されたんですよね。高専は大学に編入する人も多いですが…?
学科にもよると思います。うちの高専には商船学科があるのですが、そこはほとんどが就職でした。
わたしが通っていた電子情報工学科は、就職と大学進学の割合が半々くらいでした。リーマンショック後で求人が少ない時期だったので、マイナビなどの就活サイトにエントリーして就職活動しました。
高専生は推薦でサクッと決めるようなイメージを勝手に持っていましたが、普通に就職活動するんですね。
で、就職してインフラエンジニアに?
地元富山のSIerに就職したんですが、会社がISP(インターネットサービスプロバイダー)事業も手がけていて、配属先がプロバイダーの保守をする部署だったんです。
エンジニア=プログラマーといった感覚でいたので、驚きました。
●SIer(エスアイヤー)とは
実際に情報工学を学ばれていても、インフラエンジニアに対してはそのような認識なんですね。
そういう意味では『インフラ女子の日常』での発信、エンジニアを目指す方にはかなり有益ですね。
オンプレ中心から、フルリモートのクラウドエンジニアへ
新卒で就職後、プロバイダーを保守する部署に配属されたとのことですが、配属後はどんなお仕事をされていたんですか?
サーバやネットワーク機器が壊れたら復旧作業をしたり、古いOSやソフトウエアの更新作業をしたり、OSをインストールしたり…。
オンプレ(オンプレミス)中心だったので深夜作業も多かったですね。
●オンプレミスとは
苦労されたことはありましたか?
OSがLinux系だったのですが、Linuxを触ったことがなかったので、慣れるまでは戸惑いました。
深夜作業で古い建物内を1人で歩かないといけなかったりするのも、最初は怖かったです。8年ほど勤めました。
転職されて、2社目ですね。転職しようと思った理由は、なんだったんでしょう?
最初の会社は、待遇は良かったんですが、古くても安定している技術を好む会社だったんです。
CI/CDやパイプラインも使わず、新しい技術を使うよりもテスターを大勢雇って人海戦術で検証していく、というような。新しい技術に触れたくなったというのが、転職の動機ですね。
今はクリエーションラインという会社で、クラウド(クラウドサービス)中心のインフラエンジニアとして働いています。
●CI/CD、パイプラインとは
●クラウドサービスとは
転職先はどうやって探したんですか?
SNSで声をかけてもらったのがきっかけです。CTOが富山出身で、富山ゆかりの人が多い会社なんです。
スタートアップ企業でまだ成熟していない部分もありますが、もっとよくしていこう、どんどん発信していこうというマインドのある会社です。
リモートワークには慣れましたか?
チームメンバーにはたまに会いたいなと思いますが、リモートワークのほうが自分には合っていると思います。
コロナ禍で妊娠・出産することになったので、フルリモートでいろいろ助かりました。
疑問を持てば勉強する――それがキャリアアップの基本
なつよさんはオンプレからクラウドへ移られましたが、オンプレとクラウドってどんな違いがありますか?
オンプレとクラウドは、まず操作方法が大きく違いますね。
オンプレだとVM(バーチャルマシン)を建てるのに2時間かかっていたのが、クラウドだとワンクリックです。それにオンプレだとロードバランサーなどの機器が高いんですが、クラウドは自動でスケールとスケールアップをしてくれるのでラクですね。
●VMとは
●ロードバランサーとは
インフラエンジニアは昔ほど大変ではない、というのは本当のようですね。
でも、そんなに違うのであればオンプレからクラウドへのキャリアチェンジは難しいのでは…?
もちろん、勉強しないといけないことは多いです。でも、オンプレとクラウドは別物ではないですよ。
オンプレ時代の知識も半分くらいは使えましたし、新しいことを勉強するというよりはオンプレ時代の知識をアップデートしていくイメージです。決して、いままでの勉強が無駄にはなるわけではありません。
インフラエンジニアのキャリアアップとしては、クラウドを目指すほうがいいんですか?
時代がクラウドに移っているのは事実ですね。フルリモートで働きたいなら、クラウド一択です。でも、オンプレが時代遅れというわけではないですよ。
どんなクラウドも、大元をたどればオンプレで動いています。クラウドにアクセスするまでに使われている「オンプレ」を守る道を極めるのも、かっこいいと思います。
ではインフラエンジニアがキャリアアップしていくうえで、何を大切にすればいいでしょうか?
何よりも大事なのは、目の前の仕事に疑問を持つことです。
インフラエンジニアの仕事って、最初は「このスクリプトを実行しておいて」というような単純作業をこなすことが多いんです。でもそこで言われたことをやるだけでなく、「なんでこうしないといけないのか」を考えることが大事です。
「もっといい効率のいいコマンドはないか」「本当にこのスクリプトでいいのか」と、考えていくんです。
もっとよくしたいと考えると、本を買ったり、勉強会に参加したりといった行動につながっていきますよね。知識が深まり、輪が広がれば、キャリアアップの道は必ず拓けていきます。
どの仕事にも必要な心構えですが、キャリアのスタートが単純作業になりがちなだけに、よりそういった姿勢が大事なんですね。
【取材後記】
たまたま配属されてインフラエンジニアになり、新しい技術を求めてステップアップしたなつよさん。
だからこそ、勉強するジャンルの指定でなく「目の前の仕事に疑問を持てば道は拓ける」というアドバイスに説得力がありました。
育休復帰後に漫画まで描くのは大変かもしれませんが、『フルリモートインフラエンジニアの日常』の発信に期待したいです。
【関連リンク】
Twitter:https://twitter.com/infragirl755
著書「インフラ女子の日常」:https://www.amazon.co.jp/dp/4863543840
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