誰もが憧れる、華やかなプロスポーツ選手。
しかし成功するのはごく一部で、たとえ成功したとしても引退後に苦労するケースが少なくありません。
そのため、スポーツに賭けるかどうかを迷ったり、スポーツの道に進むことを親に反対されたりするアスリートが多いのが現状です。
今回は、Jリーグからのオファーを受けながらもケガでプロを断念し、現在はシリコンバレーでエンジニアとして働く酒井潤さんにインタビュー。
後編では、アスリートのセカンドキャリアの考え方と、アスリート×エンジニアというキャリアの掛け算について伺っていきます。
▼前編はこちら
セカンドキャリアを早めに意識するのは正解?
正解がない問題だと思うのですが、プロを目指すアスリートはセカンドキャリアを早めに考えるほうがいいと思われますか?
一心不乱にそれだけに打ち込む、いわゆる“サッカーバカ”みたいなタイプのほうがいい、という考え方もありますよね。
それは、本当に難しい問題ですね。
実際、プロとして成功しているアスリートには、その道以外考えていなかった人も多いと思います。低い可能性に賭けられるからこそ大成できる、という一面はたしかにあります。
でもやはり、低い可能性ではあるんですよね。
そうです。脇目もふらず突き進んでも、成功するのは氷山の一角です。諦める力も必要です。
それに、セカンドキャリアを頭に入れているからといって成功できないわけでもありません。だから自分としては、多少はセカンドキャリアを考えておくほうがいいんじゃないか、と思いますよ。
サッカー選手ならサッカー教室を開くなど、そういう道を選ぶ方が多いですか?
たしかに、セカンドキャリアでもそのスポーツに関わっていくことだけを考える人が多いですね。
でもそれで成功するのは、かなり難しいことです。そのスポーツと関わり続けようとするのは良いことでもありますが、そこしか見えないのは欠点でもあります。
そんなに厳しいんですか?
例えばコーチの場合、引退した有名選手が教室を開くとそこが流行ります。となると、元有名選手でさえ厳しい競争にさらされる。
無名のアスリートとなると、さらに厳しいんです。
そのスポーツで食べていくという道は、有名選手たちと競争しなければならないんですね…。
自分は、食べていくためにどうすればいいかを考えて、IT系の大学院に進んでエンジニアになりました。
大好きなサッカーがビジネスにつながればいいなという気持ちはありますが、今は楽しみ優先で、無料で子どもたちにサッカーを教えています。
安定した収入が確保できていれば、そのスポーツにかかわることでQOLを上げるという選択もできるようになるんですね。
アスリートのセカンドキャリアとして、エンジニアは意外とアリ!
アスリートの方がセカンドキャリアとして他業種を選ぶ場合、営業職や飲食業などが多い印象もあります。
酒井さんが選択されたエンジニアは、かなり珍しいですよね。
屋内でずっと座ってパソコンに向かう仕事ですし、理系の勉強をしなければならないイメージもあるので、スポーツとは真逆の世界だと思われがちではありますね。
実際、どうですか?
アスリートとエンジニアは、意外と親和性が高いと思いますよ。
医師や弁護士など難関資格がないとなれない職業をゼロから目指すのは、さすがに大変です。
でもエンジニアは、スキルさえあれば学歴や資格がなくても働けます。
勉強はなんとかなるものですか?
教材は豊富にあるので、パソコンがあれば勉強はできます。
大学にもよると思いますが、大学では一般教養の授業などもある分、実践的な勉強はそこまで多くないこともあるので、情報学部卒レベルの人には追いつきやすいと思います。
エンジニアと言っても職種や言語は多様なので、自分に合う仕事を見つけられる可能性も高いです。
勉強はつらいし疲れるものですが、アスリートは「つらいときほど諦めず、その限界を超えてがんばれば成長できる」ということを経験として知っているし、そのマインドが培われています。
スポーツと勉強、ジャンルは違えど通じるものはあります。
スポーツ引退後にゼロから目指す職業として、たしかにアリですね。
人材不足で求人も多いですし、フリーランスや正社員、リモートワークなど、働き方の幅も広いですしね。
海外志向の人にもおすすめですよ。
アメリカの場合、就労ビザ取得者のうち85%はエンジニアです。教授や教育職でも就労ビザは取れるものの、割合としては実はわずかなんです。
日本人エンジニアは、シリコンバレーで生き残れるのか
海外のお話が出たのでお伺いしたいのですが、IT最先端のアメリカで、日本のエンジニアはやっていけますか?
酒井さんは実際に活躍されていますが、一般的にはどうでしょう?
日本のエンジニアが負けているということはないと思いますよ。頭の良さも変わりません。
ただ、アメリカでは学生時代にがっつりインターンで働くので、大学卒業時点の能力を比較すると、2~3年ほどの差があります。
日本で2~3年働けばアメリカの大卒に追い付けるし、4~5年も働けばエンジニアとして充分アメリカでやっていけるはずです。
アメリカ人と日本人、文化の差みたいなものは感じますか?
過去の現場で見てきた日本人は、きっちり仕事をするという印象です。担当外への影響も考えて動いてくれる人が多いので、チームで働きやすかったですね。
アメリカ人は、言われたことしかなかったり、あわよくば手を抜こうとする人もけっこういるので、日本人だけのチームで働けたらいいだろうな、と思いますよ。実際、今の環境では無理ですけど。
日本人エンジニアへの評価、高いですね!アメリカで働くにあたって、気を付けたほうがいい点はありますか?
日本のエンジニアは専門性が薄い人が多いのと、英語への苦手意識があるので、実際に働くとなるとそこで差はあるかもしれないですね。
自分は、Pythonに一点集中したんですが、そういった課題は情報さえあれば解決できることです。
そのために、発信されているんですよね。どんな内容ですか?
Udemyでは、シリコンバレーでエンジニアとして働きたい人に役立つ技術的な知識を教えています。
シリコンバレーに転職するには、現地のトレンドを知っておく必要があるからです。
☆酒井さん執筆の「Python」に関する本「シリコンバレー一流プログラマーが教える Pythonプロフェッショナル大全」が2022年8月に発売されます!
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YouTubeはどんな内容ですか?
YouTubeでは、転職準備や文化の違い、ビザなど、海外に転職するにあたって必要になる情報の発信です。
自分自身、TOEIC500点台のときにシリコンバレーの日系企業へ転職しているので、情報が入手できずに諦める人を減らしたいですね。
酒井さんは、ドコモ入社2年目で、TOEIC300点台だったんですよね。
英語ができる友人と外国人のいるお店に飲みに行ったり、外国人駐在員の家にホームステイさせてもらったり、外国人のサッカーチームに入ったり……、英語はとにかく実践で身につけました。
日本人は中高で基本的な文法や基礎的な単語は習得しているので、恥ずかしがらずにとにかく外国人に話しかけるという環境に身を置けば、話せるようになります。
海外の人と一緒に楽しめる特技や趣味があるといいですね。
酒井さんの場合は、サッカーですね。
英語力が低くても、スポーツは一緒に楽しめますからね。アスリートは、そういう意味でもアドバンテージがあります。
もちろん、世界的な人気のアニメなんかを共通の話題にするのもいいと思います。
実際にアメリカへ渡ったあとの生活は、どうでしょう?
就労ビザは3年ですが、6年まで延長できます。その後、永住権(グリーンカード)を申請するという流れです。
日本人は不法滞在も少なく信頼されているので、永住権を取るのは難しくはありません。大学院を出ていると、よりラクですね。
就労ビザで働いている間は、懸念事項はないですか?
解雇や倒産で給料の支払いが止まると就労ビザが無効になって、不法滞在になります。
自分もリーマンショックで会社が潰れた経験があるのですが、転職できず帰国した人も少なくありませんでした。
就労ビザで働いている間は特に、情勢を注視して転職に備えておく必要はありますね。
複業するにも、柱は必要。複業成功のためには、バランスを考えて。
酒井さんは副業の本も出されていますね。
セカンドキャリアを選ぶ際、ひとつに絞らないほうがいいんでしょうか?
いつ何があるかわからない時代なので、収入減を複数持つのは大事ですよね。
とはいえ、柱は必要です。柱がないうちにいろいろ手を出しても、どれも中途半端でふわふわしてしまうので、成功は難しいと思います。
最初は本業ひとつに集中、ですか?
本業と副業のバランスには気を付けたほうがいい、ということです。
柱ができるまでは副業の割合は小さく、柱がしっかりしたら、横に広げるように副業にも力を入れていく。そんな形がいいと思います。
SNS発信はどうでしょう?
SNSを始めるのは賛成です。でも、いきなりSNSで何か始めようとしても、当然無理ですよね。
情報収集や輪を広げるためにSNSを活用しながら、いずれ何かを始めるときにフックとして使うのがいいんじゃないでしょうか。
いろんな人とかかわり、広い視野でセカンドキャリアを考えてほしい
畑違いの道を選んだ1人として、セカンドキャリアを考えるアスリートにアドバイスをお願いします。
繰り返しになりますが、アスリートには限界を超えてがんばれるマインドがあります。しかも、体力もある。
自分は大学院でITの勉強をしましたが、その力があったからこそモノになるまで努力できました。
だから、セカンドキャリアを選ぶ際に経験してきたスポーツにこだわり過ぎるのはもったいないです。
【取材後記】
“アスリートは、他のジャンルでも成功できる力があるのに"、"日本のエンジニアは、充分に海外でやっていけるのに"。
酒井さんの言葉の端々からは、情報不足や思い込みで諦めてしまう人が多いことをもったいなく思う気持ちが伝わりました。
酒井さんの情報発信が、1人でも多くの人に届くことを祈っています。
【関連リンク】
公式サイト:https://sakaijunsoccer.appspot.com/
Udemy:https://www.udemy.com/user/jun-sakai/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCqRPKFts1Puj6Wn7U4e3ppA
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