システムの土台を支える、インフラエンジニア。独学で経験を積める場がほとんどなく、長らく目立たない存在でした。
しかし、少ない初期費用で環境構築できるクラウドサービスが普及。ノウハウも溜まり始め、未経験者がインフラエンジニアを目指せる道が開けてきています。
今回は、三大クラウドのひとつであるAWS(Amazon Web Service)のオンラインスクール『CloudTech(クラウドテック)』を主宰するくろかわこうへいさんへのインタビュー第二弾。
前回はインフラエンジニアの現状と将来性についてお伺いしましたが、今回はクラウドサービスの勉強方法や現在のくろかわさんの仕事について、じっくり語っていただきます。
引き続き、くろかわさんの友人で、Flutter大学主宰のKBOY(@kboy_silvergym)さんも同席。
▼前回の記事はこちら
ブラック企業→ホワイト企業→上場企業→YouTuber→独立、くろかわこうへいの軌跡
くろかわさんのTwitterのプロフィール、簡潔で興味をそそりますよね。
華麗な転職を経て、今は1500名以上の有料会員を抱える『CloudTech』の主宰と、3万人以上の登録者数を誇るYouTube運営、さらに技術書も出版、沖縄移住。盛りだくさんですが、今おいくつですか?
37歳です。
その年齢でこの実績は、かなりすごいのでは…。
インフラエンジニアの経歴はあまり知る機会がないので、今日は詳しく教えてください。最初のブラック企業は、新卒入社ですか?
24歳で、いわゆる第二新卒で入りました。
銀行系のホストシステムやインフラまわりの担当でしたが、年収は200万くらい。残業は多いし、早く帰れる雰囲気じゃないし、学習できる環境でもなかったです。3年くらいいました。
そこからホワイト企業に転職されたんですよね?
そうですね、ホワイトなSESに移りました。サーバーのリプレイスなんかをやっていました。
みずほのプロジェクトに1年ほどいたのもこの頃です。
年収は大幅にアップして、450万円くらい。残業代も出る環境でした。
●SESとは
いい環境だったのに、辞めてしまわれたんですか?
SESだったので、いろんな案件を経験させてもらえましたよ。
インフラエンジニアとしての経験も積めました。
ただ、仕事に慣れてきた後半はぬるま湯状態になってしまって、それで転職しようかなと。ここには6年ほどいました。
転職エージェントに登録して思いがけないオファーに驚いた、とおっしゃっていましたが、それはこの時のことですか?
そうですね。当時の上司が自己評価を下げさせるタイプだったこともあって、「俺いけるじゃん」と自信になりました。
第一志望だったLINEは最終的に落ちちゃったんですが、GMOに入社して主任の役職を任されることになりました。
そこまでの大きな企業だと、かなり実績を重視されますよね。SESでは、それなりの規模のリーダー経験を積まれていたんですか?
サブリーダーでしたとアピールはしましたが、転職にあたってはサーバーの設計・構築のキャリアのほうを評価してもらいました。
ちょうどGMOがそういう人材が欲しいタイミングだったこともあると思います。
AWSを初めて触ることになったのもGMO時代で、必死で勉強しました。
当時は教材もまだ充実していなくて、自分が学んでいて苦しかったことが多かったんです。
AWSの勉強で同じ苦労を味わってほしくない、という気持ちで始めたのがYouTubeです。
なるほど、そのときの経験が今のお仕事につながっているんですね。
GMOは副業は禁止でしたが、YouTubeはすぐに収益化できるものではないし、もし登録者数が増えて会社に知られるレベルになったらそのとき考えればいいや、というくらいの気持ちでした。
それで本当に独立してしまったんですね!
YouTube活動できる企業への転職ではなく、独立を選んだ決め手はあったんですか?
独立の理由は教えたい気持ちが高まったことですが、運営していく中で、AWSの知見がすごく求められていると実感できたことでしょうか。
もともと物作りが好きで、動画編集も全部自分でやってるし、寸劇ネタとか作るのも楽しいです。
でも、求められていてバリューが高いのは、AWSの教材ですね。
僕は寸劇シリーズ、好きだけどな~。
しっかり勉強できる教材だから、期待されている方が多いんですね。
真面目な人が多いですね。
あと独立に関しては、名前や顔を出すことに抵抗がなかったのも良かった点かなと思います。
たしかに、Webで活動するにあたってお顔と名前がわかると信頼度も高まりますもんね。
そういえば、独立のタイミングで渋谷から沖縄に移住されましたよね。ずっと沖縄の予定ですか?
リゾートが好きですし、寒いと起きられないタイプなので、気候的にはとても気に入っています。
最低2年くらいはいると思いますが、コロナが終わったら東京もまた面白そうだし、タイもいいなあと思ったり。
住む場所にとらわれる仕事ではないですもんね。数年ごとにいろんな場所に住む生活、楽しそうで憧れです。
無料でも手抜きなし。YouTubeだけで資格取得と就職を目指せる教材を提供
独立されて、教える立場に特化されたわけですが、まずはYouTubeチャンネルについて教えてください。どんな方をターゲットにされていますか?
AWSをこれから学びたい人と、AWSをいま学んでいる人ですね。AWSの資格を取りたい人にも役立つチャンネルにしています。
資格まで取れるんですか?YouTubeの勉強で満足できない人はオンラインスクール『CloudTech』の有料会員へ、という導線ではないんですね。
YouTubeで有料講座の情報も一部公開しているので、資格も取れますよ。
ハンズオンといってサーバーを構築する講座もYouTubeにあるので、完全に未経験の人に比べると有利に就職活動ができると思います。
YouTubeだけで、AWSの3つの基本サービスを有料級に学べるのが特長です。
ここまで学べば、次の段階の応用の勉強にも着手しやすい、というくらいにはしてあります。
●AWSの3つの基本サービスとは
そこまで無料で公開してしまって、大丈夫なんですか?
動画にもありましたが、YouTubeでは広告収益を得ていないんですよね。
これで満足して、有料のスクールに入る必要性を感じなくなってしまったりしないのでしょうか。
無料教材にも手を抜かず、学ぶために価値提供することを重視しています。
YouTubeではなく、Udemy(オンライン学習のプラットフォーム)にしようかなと思ったこともあるんですけどね。今は、無料教材で始めたからこそ認知も広がって良かったと思っています。
僕も有料のFlutter大学をやってるけど、Flutterの教材はすべてYouTubeに無料公開してます。くろかわさんもうちも同じです。
YouTubeは、あくまでも自走用の教材なんです。
KBOYさんは以前のインタビューで、「勉強して知識を身につけるコツは自分でがんばることだ」とおっしゃってましたね。
有料のスクールやコミュニティには、また別の付加価値があるということですね。
CloudTechの価値はロードマップ。AWSの基本が身に付きポートフォリオにもつながる
では、オンライン学習スクール『CloudTech』についてお伺いしていきます。
2021年1月15日18時にスタートして1年あまり、有料会員がなんと1500人超えです。CloudTechでは、どんなことができますか?
AWSはとにかく教材が膨大なので、CloudTechでは効率よく体系的に学ぶためのロードマップをしっかり提示しています。
ロードマップに沿って行くだけで、無理なく基本サービスを学べることを基本にしています。
現役のエンジニアの方もいるので、コミュニティではいろんな質問もできますし、勉強会やLINEの技術イベントもあります。
CloudTechは教材以外の部分もサポートする仕組みを備えた学習プラットフォームという感じです。
くろかわさんのお話を聞いていていいなと思うのは、アウトプットやポートフォリオにつながる課題カリキュラムがあることですね。
課題をこなすことで前に進みやすいのがいいと思います。
インフラエンジニアは特にアウトプットが重要だというお話でしたもんね。
勉強は1人でもできるけど、より効率よく実践的な学習をしたいという人にはとてもいい環境なんですね。勉強以外での交流の機会はあるんですか?
雑談の場はありますけど、オフ会はやったことがないですね。陰キャなんで。
でも、CloudTechのメンバーと作った書籍(『AWSエンジニア入門講座――学習ロードマップで体系的に学ぶ』)の出版記念パーティーはやりたいなと思っています。
全然陰キャではないと思いますが(笑)。
KBOYさんの『Flutter大学』にはシェアハウスまであるだけに、雰囲気はだいぶ違うなと感じますね。
『Flutter大学』に比べて、わいわい楽しくという感じではないですね。
うちは、「AWSがんばるぞ、ついてこい!」「わかりました!」みたいなノリです。
このあたりは、主宰者の性格が色濃く出る部分ですね。
Twitterでも、その片鱗は感じられますね。では、より良い勉強の場を得るために有料会員になる人が多いのでしょうか?
それもあると思いますが、クラファンに近い感覚で有料会員になってくれている人も多い印象です。学びたいだけではなく、人として応援しようと思ってくれているというか。
CloudTechには、買い切りのゴールドプランもありますもんね。月額制のサブスクだけだと抜けるタイミングに迷いますが、これなら「YouTubeで勉強させてもらってありがとう!」という感謝の気持ちで買う気にもなるかも…。
今、無料会員も合わせると何人くらいで、どんな構成なんですか?
有料会員は1500人を超えたところで、無料会員はその5倍くらいです。属性は有料会員しかわからないのですが、95%は男性です。
書籍を作ったメンバーには女性もいますよ。年齢層は高めで、20~30代が6~7割、40代以上の方も多いです。
現役エンジニアも多いですか?
未経験で勉強中の方と現役エンジニア、割合としては半々くらいですね。
その運営を、くろかわさんがおひとりで?
運営自体は1人ですが、公式メンターもいますし、コミュニティ内の活動を手伝ってくれたり、イベントを主催してくれたりするメンバーが6~7人います。
書籍を作るときは、40名以上のメンバーに制作協力もしてもらいましたし、メンバーみんなで最終レビューもしました。
それで著者がくろかわさんではなく、「CloudTechロードマップ作成委員会 (著), くろかわ こうへい (監修)」となっているんですね。有意義なコミュニティですね。
エンジニアを育て生み出すために。目先のストック収益よりも、大きなコミュニティを目指したい
今は、エンジニアや技術顧問はやってないんでしたっけ?
やってないですね。現役のエンジニアでないのは弱点ではあるんですが、そっち系で自分ができることは他人もできると思うので。
自分は、育てることに専念したほうがいいと思っています。
ということは、今の収益源はCloudTechのみですか?
でも料金体系的に、月会員の獲得はメインではありませんよね。ストック収益ではなく、新規入会やゴールドプランのフロー収益が柱なのは不安ではありませんか?
●フロー収益、ストック収益とは
明確に試算したわけではありませんが、ストック収益にして卒業される方から会員資格をはく奪するよりも、永久ライセンスにすることで大きなコミュニティを作ることを選んだ形です。
次の一手を考えるとき、そのほうがいいかなと。
なるほど!次の一手があるんですね。
個人事業主ではなく株式会社化されていることにも関係があるんでしょうか。
法人向けに展開したいという気持ちは当初からあるので、その信頼性のために株式会社でスタートしたというのはありますね。
学校へのアピールなんかも考えられていますか?
取材にあたって周りの若手エンジニアにも話を聞いたのですが、エンジニアの専門学校に行っていた人でも「学生時代はインフラエンジニアが何をしているのか全然わからなかった」と言っていて…。
今のところは考えていませんが、たしかに学生にももっとアピールしていけるといいですね。
今後は、法人向けの企業研修など、エンジニアを生み出すほうでバリューを強化していきたいと思っています。
(取材後記)
アプリエンジニアのKBOYさんは陽キャで、インフラエンジニアのくろかわさんは陰キャ!?そんなネタも飛び出す楽しい取材でした。
くろかわさんがまず作ったのは、誰もが無料で学べる環境と、効率的な学習のためのプラットフォーム。まさに“インフラエンジニアを育てるためのインフラ”です。
インフラのプロが狙う、次の一手が楽しみです。
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