小中学生の「将来なりたい職業」として、エンジニアやプログラマーが上位に挙がるようになってからずいぶん経ちます。
しかし、その言葉で多くの人がイメージするのは、ゲームやアプリを開発する人。あるいは、世界的な大手IT企業で華々しく活躍する人ではないでしょうか。
エンジニアの実態はもっと地味で泥臭い……とはよく言われることですが、その中でもあまり目立たず、縁の下の力持ち的存在なのが「インフラエンジニア」です。
今回は、インフラエンジニアとしてキャリアをスタートし、今は教える側としてオンラインスクール『CloudTech(クラウドテック)』やYouTubeチャンネルを運営しているくろかわこうへいさんにインタビュー。
「インフラエンジニアとは?」といった基礎から、インフラエンジニアの転職事情やキャリアアップ術まで、じっくり語っていただきました。
またインタビューには、以前アンドエンジニアに登場してくださった、アプリエンジニアでFlutter大学主宰のKBOY(@kboy_silvergym)さんも同席。
実はKBOYさんのインタビュー時にくろかわさんと仲良しだというお話が出たのがきっかけで、今回の取材につながっているんです。
インフラエンジニアとアプリエンジニアの対比もお楽しみください!
インフラエンジニアのスキルアップは、いかにして「運用・保守」から「設計・構築」へ行くかが鍵
エンジニアというと、アプリやゲームのプログラマー、企業でシステム開発をしている人というイメージですよね。
インフラエンジニアって、どんな存在で、何をする人なんでしょう?
インフラエンジニアは目立たないですから、わかりづらいですよね。
インフラエンジニアは縁の下の力持ち、バンドで言うとドラムみたいな存在です。
アプリやシステムを動かすためには、プログラムだけでなく、プログラムを効率よく安全に、安定的に動かす環境を整えることも必要です。
インフラエンジニアは、プログラムを動かすための土台作りの仕事ですね。
なりたいと思ってなれる職種なんでしょうか?
就職した会社でたまたま配属されたことがインフラエンジニアのキャリアのスタートだった、という人がほとんどだと思います。
というのも、企業のインフラ環境は大規模で高額なので、個人では練習の場を作れないんですよね。
なので長年、“未経験者NGだけど未経験者が自力で経験者になる道がない”という未経験のジレンマがある職種でした。
ただ、近年はAWSなどのクラウドサービスが登場して、クラウド上で環境構築できるようになりました。
高額なサーバーを買わなくても、ソフトウエア開発感覚で勉強できるようになったので、未経験から目指す道も開かれています。
●クラウドサービスとは
仕事内容としては、運用や保守と呼ばれる作業でしょうか。
夜中でも携帯が鳴って呼び出されたり、同じ人が10年以上担当していたり、そんなイメージもあります。
たしかに24時間体制で三交代といった勤務形態もあります。
安定第一で最先端の技術を使うメリットが少ない職種なので、長年にわたって同じ人がずっと担当しているというケースも多いのも事実ですね。
1つのシステムの土台を支え続ける仕事は立派ですが、どんどんスキルアップしていきたいと考える人には不向きな気がしてしまいます。
運用・保守のインフラエンジニアにはそういう面もありますが、新規案件の際は、環境を設計・構築するという仕事があります。
スキルアップを目指す人には、設計や構築の仕事を任せてもらえるように勉強して、どんどんアピールしていくという選択肢が用意されていますよ。
“未経験のジレンマ”が崩壊し、クラウドエンジニアはブルーオーシャン状態に
さきほどクラウドサービスのお話が出ましたが、とても大きな変化ですよね。
そうですね、クラウドサービスに触れるインフラエンジニアを指す「クラウドエンジニア」という言葉もあるくらいです。
一般的には、パブリッククラウドのうち、3大クラウドのいずれかを触れる知識がある人をクラウドエンジニアと呼ぶことが多いです。
●パブリッククラウドとは
●3大クラウドとは
未経験のジレンマも解消された今、クラウドエンジニアの将来性ってどうですか?
クラウドエンジニアは「業界最後のブルーオーシャン領域」です。
その意味するところは、手軽に触れて手順が共通化されているので独学しやすく、ソフトウエアエンジニア並みの収入が得られること。
そしていまでも人手不足なのにさらに需要が増えていく見込みで、かつまだあまり知られていないところにあります。
クラウドソーシングのサイトを見ていても、LP(ランディングページ)作成のような案件は副業でやっているエンジニアの応募が殺到するような状態です。
その点、インフラエンジニアはライバルが少ないですね。
企業から大きな責任をまかされるケースが多いのもあって、副業では難しい案件が多いという理由もあります。
せっかくの機会だから聞きたいんですけど、AWS以外のクラウドはどうなんですか?
自分がオンラインスクールをやっているからではないですけど、やっぱりwebや書籍で知見が溜まっているAWSが学びやすいですね。
シェアもいちばん多いですし、今後3~4年は、この傾向は変わらないと思っています。
GCPの需要はちょっと少ないので、AWSの次に勉強するならAzureでしょうか。
インフラエンジニアには錯覚資産も重要。未経験者は資格取得とアウトプットを
独学でクラウドエンジニアのスキルを身につけた人が就職するには、どうすればいいのでしょう?新卒でもなく、職歴もなくても採用してもらえますか?
エンジニアのいいところは、学歴が関係ないところです。
今は、独学できる教材も揃っていますしね。ただ、クラウドエンジニアを含めたインフラエンジニアの場合、アプリのように「自分はこれを作りました!」という成果物を示せないので、AWS認定資格やLPIC(Linux技術者認定試験)などの錯覚資産があるといいですね。
●錯覚資産とは
錯覚資産とおっしゃいましたが、資格を即戦力の証明と解釈する企業は少ないですよね。資格だけで中途採用を勝ち取るのは厳しいように感じますが……。
クラウド系やサーバーまわりの資格だけでなく、ネットワーク系やデータベース系も勉強したり、インフラエンジニアとしてできることをとにかく増やしていく気合も必要です。
アプリエンジニアは「作ってナンボ」だから、そこは全然違うところですね。
ブログや勉強会で発信するだけでは、「で、あなたは何を作ったの?」という感じになります。
ほんとに全然違いますね。KBOYさんの記事には「陽キャ集団」とありましたが、それに比べると技術記事をコツコツ書くインフラエンジニアは陰キャかもしれません(笑)。
▼KBOYさんの取材記事
“Flutter”だけでも食っていけます。『天才プログラマーKBOY』主宰の「Flutter大学」は陽キャ集団だった【前編】
くろかわさんは全然陰キャじゃないですよ(笑)。落ち着いてるけど、普通に明るいお兄さんって感じです!
ジュニアエンジニアは社内営業も有効。転職活動で自分の市場価値に驚き
就職の話の続きですが、経験者の方のキャリアアップはどうですか?
ジュニアエンジニアの場合は、未経験者同様、錯覚資産やアウトプットが重要です。
でも、いろんな会社の案件を広く担当しているような会社では、転職の前に「自分の資格を生かせる案件はないか?」と、社内でアピールするのも有効ですよ。
●ジュニアエンジニアとは
そんな異動願いが認められるものですか?
クラウドサービスのスキルを持つ人はまだ少ないので、設計・構築が必要な新規案件があれば行かせてもらえることもあります。
僕もSESにいたとき、LPIC-2を取ったあたりで、上司や営業担当に新規案件に入りたいとアピールして入れてもらいました。
僕はSIerとかの経験はなくベンチャーにいたし、成果物が見えやすいアプリエンジニアでもあるので、持っているスキルはTwitterとかでつながっている社外の人にも知っている感じでしたね。
だから、社内営業っていう感覚は全然なかったです。
会社によっても職種によっても違うんですね。
●SIerとSES
同じ人が10年保守というお話もあったように、インフラエンジニアの経験はどうしても固定されがちです。
なので、異動が難しければ転職していろんな経験を積むのもいいですよ。
あと、スキルとはちょっと話がずれますが、人間関係の問題なのに「あいつは仕事ができない」って思われてしまうことありますよね。
社内で付いたイメージを変えるのってすごく難しいので、そういうときにも転職をおすすめしたいですね。
転職先はどうやって探すんですか?フリーランスが利用するようなサイトや、転職エージェントなど、いろいろありますが…。
僕はマイナビなど大手の転職エージェントにひととおり登録していました。
思いがけない大企業からオファーが届いて、驚くことも多かったです。
今の自分にどれくらいの価値があるのかを測るためにも、転職エージェントは有効だと思いますよ。
【参考】:マイナビエージェント
もちろん、スキルアップのためには今の仕事を地道に積み重ねることが第一です。
自分の経歴を定期的に棚卸して、いつでも転職できる準備を整えておくといいですね。
(取材後記)
錯覚資産という言葉を何度か使ったくろかわさん。しかし、お話を聞けば聞くほど、ちゃんと勉強して得る資格は、即戦力スキルではなくても“錯覚”ではないのだろう…と感じました。
インフラエンジニアとして活躍してきたくろかわさんが、教える側に集中することにした理由は、第二部で。
【関連リンク】
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