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“東大中退”のProgate創業者村井氏が選んだ、働く喜びと自分の幸せを諦めない働き方とは【後編】
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“東大中退”のProgate創業者村井氏が選んだ、働く喜びと自分の幸せを諦めない働き方とは【後編】

一番ヶ瀬 絵梨子
2022.02.28
この記事でわかること
ゼロイチでサービスを作り上げるには、プログラミングスキルがマストである
資金調達を受ける成長ファーストの経営は、個人の幸せとバッティングしやすい面もある
成長スピードが遅いことだけが、自己資金経営の唯一最大のデメリットである
Anycloudが作りたいのは、どこでも働ける楽しさと健全なチーム作りを実現するプロダクト

何のために働くのか?

自分にとっての幸せとは何なのか?

大切なことだとわかりつつも、なかなか追求しきれない人生の問い。

それを常に考え、経営者として本気で実践している人たちがいます。

自分たちが本当に使いたいSNSアプリ『mio』を想い優先で自社開発し、Going my wayを貫くために自己資金での経営を貫く『Anycloud』

今回は、互いにスタートアップの起業を経験した後にこのスタイルに辿り着いた、CEOの村井謙太さんとCOOの清水一貴さんにお話を伺いました。

▼前編はこちら

SNS疲れに終止符。素の自分を出せるSNS『mio』が追求する“心理的安全性”の価値【前編】
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COO 清水一貴さん(左) / CEO 村井謙太さん(右)

Progate時代から変わらない、愛されるプロダクトを作る喜び

一番ヶ瀬 絵梨子

村井さんにとって、自分の幸せを追求することのプライオリティが非常に高いことはよくわかりました。

いま29歳でいらっしゃいますが、どんなキャリアを積んでこられましたか?

村井さん

最初に起業したのは、東大在学中です。

1、2年生のときは遊んでたんですけど、3年生になってそろそろ大丈夫かと思い始めて。

学生のうちにチャレンジしたいという気持ちで、熱意だけでテンション高く起業しました。

一番ヶ瀬 絵梨子

それが、Anycloudの前の『Progate』ですか?

村井さん

いえ、その前です。

当時は、サービスのアイデアは浮かぶものの形にできず、お金もないから外注もできず。

情熱もあって、友達にも「俺は起業する」とカッコつけているのに、ただただ時間だけが過ぎていくという無力感を味わいました。

村井さん

すごく消化不良で

ゼロイチで何かを作るには、プログラミングができないとノーバリュ―だな。」

「自分で作れないとダメだな」

と、痛感したんです。

それが、大学3年の秋に東大プログラミングサークル『ゼロワン』を立ち上げるきっかけになりました。

一番ヶ瀬 絵梨子

そこがプログラミングとの出会いだったんですね。

東大プログラミングサークル、かなりのパワーワードですよね。

村井さん

東大エンジニア集団だと名乗れば、受託開発の依頼があるだろうという狙いもありました。

実際、依頼をいただいたので、自分も本格的にプログラミングを勉強して、力をつけることができたんです。

一番ヶ瀬 絵梨子

知識を身に付けてから仕事を始めるのではなく、仕事にすることで勉強せざるを得ない環境に追い込むというお話は、フリーランスで活躍されている方からよく聞きます。

そこから、オンラインプログラミングサービスの『Progate』につながるんですね。

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画像出典:Progate
村井さん

Progateは、プログラミング学習時に自分が苦労したことを解決したいと思って立ち上げたサービスです。

東大の同級生だった加藤將倫(@cmasad43)と一緒に起業しました。

一番ヶ瀬 絵梨子

いまや世界100ヶ国以上で240万人に使われているサービスですよね。

自分の作ったサービスがそこまで広く評価されて使われるって、すごすぎて想像できないです……!

村井さん

ユーザーがファンとしてついてきてくれるプロダクトを作る、というのが、Progate時代も今も変わらない、自分にとっての喜びですね。

一番ヶ瀬 絵梨子

どう働くかの基本が、そこにあるんですね。

一番ヶ瀬 絵梨子

そういえば、村井さんは東大を中退されていますが、卒業しなかったのはどうしてですか?

村井さん

卒論だけが終わらなくて、4年間休学したあと、最終的に退学しました。

一番ヶ瀬 絵梨子

正直もったいなあと思ってしまうんですけど、ProgateやAnycloudの起業・経営を経験する中で、大学を卒業することへの価値観が変わった部分もあったんでしょうか。

村井さん

プログラミングは独学でどこまでも深められるし、学歴は無関係です。

自分はすでに起業しているので、東大を卒業するかどうかはもう関係ないな、と。そういう価値観にはなっていましたね。

働くことは、生きること。自分の幸せをコアに、意思決定したい

一番ヶ瀬 絵梨子

村井さんは『Progate』で、清水さんは旅人の求人サイト『SAGOJO』で、それぞれスタートアップの起業を経験していらっしゃいますよね。

どちらもスタートアップの成功例だと思うのですが、なぜAnycloudは自己資金なんでしょうか?

村井さん

それは最近もずっと考えてはいるんですけど……。

簡単に言うと、スタートアップとして投資家から資金調達を受けると、会社の成長ファーストになってしまうからですね。

目標をクリアしても、すぐに次の目標が設定されて、無限に成長していかないといけなくなるんです。

清水さん

成長スパンが、どうしても3~5年くらいに設定されてしまうんですよね。

村井さん

清水ともよく話すんですけど、「何を意思決定のルートとするか」「何をエンジンのコアにするか」ということって、とても大事だと思うんです。

資本主義だと、そのコアは会社の成長です。

でも僕にとっては、「何のために生きるのか」と「何のために会社やるのか」がかなり近いので、どうせ働くなら自分の幸せを目指そうよという想いがあるんです。

一番ヶ瀬 絵梨子

自分の幸せ。mioのコンセプトにも通じてきそうなお話ですね。

村井さん

どんどん豊かになっているのに、人々の幸福度があまり変わらない世界に違和感を持っています。

モノを豊かにするのもいいけど、普通に人間の幸せのために活動しようという想いが強いんです。

成長ファーストな世界だと生ぬるいことを言うなとなっちゃうんですけど、そこは自分のポリシーですね。

清水さん

成長を求めずにゆるくやりたい、という意味ではないですよ。

むしろ僕らとしては、会社が生まれてからなくなるまでに提供できるトータルの価値を最大化したいという想いが強いんです。

一番ヶ瀬 絵梨子

え、ちょっとお話が難しくなったかも!つまり……?

清水さん

目標設定する、成長スパンの違いです。

短期的な成長のためには今注力している事業を最優先するのが正解、でも長い目で考えると、チーム作りや新規事業など他の要素も同じくらい重要ってこと、ありますよね。

一番ヶ瀬 絵梨子

はい、それはよくわかります。大企業ならそれぞれのセクションや役割がありますが、小さな会社では取捨選択を迫られることもありますね。

村井さん

あと、若者への悪影響が指摘されているFacebook(Meta)のように、時代の変遷の中で、プロダクトの評価が変わることもあります。

利益を生み出しているかどうかだけではなく、「そのプロダクトは今本当に価値を提供しているのか?」という点も判断基準にしたい、という気持ちがあります。

清水さん

僕らは、「会社の長期的な価値の最大化に効くのはどの選択肢だろう」というのを、常にフラットな目線で検討・選択できる状態でいたいんです。

一番ヶ瀬 絵梨子

なるほど、とてもよくわかりました。

でも同時に、「自己資金で長期的に成長するより、資金調達して急成長するほうがトータルの価値が大きくなることも多いのでは?」という、素朴な疑問も湧きます。

村井さん

もちろん、それも本当です。

前にいたProgateにしても、世界中に価値を提供できるまでに急成長したのは初期から出資してくださった投資家さんがいるからです。

今でも、感謝の気持ちはとても大きいですよ。

村井さん

ただ、スタートアップにはスタートアップの掟や常識、空気感みたいなのがあって、レールを外れるのは難しい面もあるんです。

清水も言ったように僕らはチーム作りにも興味があるし、いろんな新規事業にも挑戦したい。そうなると、スタートアップという選択肢はなかなか難しいと感じるんです。

一番ヶ瀬 絵梨子

実際に2年実践してこられて、そのスタンスは変わりませんか?

村井さん

自己資金でGoing my wayというスタンスは変わりませんね。

資金調達しないぶん成長スピードが遅いですが、それ以外のデメリットは感じていません

ゆっくりでもちゃんと積み上げていけば、Progateのように多くのユーザーに使ってもらえるようなプロダクトを再度作ることも不可能ではないと感じています。

清水さん

もちろん、プライベートカンパニーだからといって、世の中に価値を与えないような会社であってはいけないと思っています。

個人の幸せを追求したいとは言いましたが、僕らにとって価値を世の中に与えるのも自分たちの幸せ、人生の意義として相当に大きいものなんです。

価値のあるプロダクトを作りたいですね。

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Anycloudの公式サイトより。村井さんと清水さんの明るい笑顔が印象的
一番ヶ瀬 絵梨子

Anycloudの公式サイトのお2人の写真、コーポレートサイトとは思えないほどの笑顔ですよね。

あの笑顔は、幸せを追求していくという理念を象徴してるんですか?

村井さん

めちゃくちゃ笑ってますよね。

僕としては、清水はもっと締まった写真のほうがいいんじゃないかと思ったんですけどね(笑)。

清水さん

何枚か撮ってもらった写真を各自で選んだんですけど、なぜか2人とも爆笑してる写真を選んだんですよ(笑)。

一番ヶ瀬 絵梨子

偶然だったんですね!かなり気になってたので、聞けてよかったです。

お話を聞いていても、お2人にすごく似合っているサイトだなと思いますよ。

受託開発の利益で、自社開発。自己資金経営は、自給自足スタイル。

一番ヶ瀬 絵梨子

2019年に創業されたAnycloudですが、今は何人ですか?

村井さん

自分と清水の2人で、ほかに業務委託のエンジニアが5~6名所属しています。

一番ヶ瀬 絵梨子

mioではマネタイズできていないとのことでしたが、Anycloudの経営は別事業の利益で行われているということですよね?

村井さん

受託開発で利益を上げて、その資金で自社開発のプロダクトを作るという自給自足の流れです。

一番ヶ瀬 絵梨子

受託開発は、どんなスタイルで受けていらっしゃるんですか?

村井さん

ITに詳しくないクライアントなら、まるっと開発を請け負うこともありますし、スタートアップ企業のようにITに詳しいクライアントならプロジェクトメンバーの1人として参画することもありますし。いろいろですね。

一番ヶ瀬 絵梨子

受託開発は、基本的に業務委託のエンジニアさんたちですか?

村井さん

そうですね。

自分と清水は受託開発のディレクションがメインなので、去年はそれ以外の時間はずっとmioの開発につぎ込んでいましたね。

村井さん

ただ、mioのように2人だけで開発していてもなかなか埒が明かないので……。

受託開発を増やして利益の基盤を作って、いろんな事業をやれるようにするのが当面の目標です。

元、悩みを相談できる副社長同士。今は同じ志を持つ共同経営者

一番ヶ瀬 絵梨子

話が前後しますが、そもそも、村井さんと清水さんの出会いは、いつですか?

清水さん

学生時代に旅行系メディアをやっていて、その関係で参加した飲み会で村井に出会ったんですよ。

起業家の人が多い飲み会だったんですが、学生は自分たちだけだったので意気投合して。

村井さん

Progate時代も、毎月ランチするくらい仲が良くて、会社経営のこともよく相談してました。

一番ヶ瀬 絵梨子

そのころから、いつか一緒にやりたいねと話されていたんですか?

村井さん

当時はそこまで具体的ではなかったですね。

当時はお互い会社の副社長という立場だったので共通の悩みも多くて、頻繁に相談し合う関係という感じでした。

一番ヶ瀬 絵梨子

その後、それぞれが副社長の立場を退いてAnycloudを起業ということになるわけですが……、その流れについてお伺いしてもいいですか?

普通の転職よりデリケートな気がしますが、円滑に進めるために気を付けた部分はあるんでしょうか。

村井さん

僕はわがままを言わせてもらって、わりとスパッと辞めましたね。

代表と二人三脚でやってきた会社でしたけど、ある程度、権限移譲できてたフェーズでもありましたし。

代表も、謙太はやりたくなったらそうするんでしょ、行ってらっしゃい、みたいな理解を示してくれましたね。

村井さん

代表には迷惑をかけてしまった部分もあると思いますが、快く送り出してくれたことには感謝しています。

一番ヶ瀬 絵梨子

清水さんは新卒で入った会社を辞めてSAGOJOを立ち上げて、その後Anycloudに移っていらっしゃいますよね。

どんな感じでの転職でしたか?

清水さん

最初の会社は、インターンで半年、新卒で入社して半年ほどでした。

会社に伝えたのは辞める1ヶ月前くらいだったのですが、上司が背中を押してくれました。

気を遣わずに…というか、気を遣えずに辞めました。

清水さん

でも、SAGOJOからAnycloudに移るときは、村井ほどタスクを移譲できていなかったのもあって、すぐにとは行きませんでした。

「これさえ押さえておけば大丈夫」というところまでドキュメントを残したり、設定を済ませたり、そこはかなり気を遣いましたね。

一番ヶ瀬 絵梨子

経営陣であるだけでなく、タスクをたくさん抱えている立場なら、それは大変だったでしょう……。

清水さん

社内や投資家の方との調整もありましたし、辞めると言ってから実際に辞めるまで1年くらいかかりました

僕が先に辞めると言い出したのに、3ヶ月後くらいに村井は一瞬で辞めちゃうし(笑)。

一番ヶ瀬 絵梨子

どこまでスムーズかは状況にもよるでしょうが、スタートアップで重要な立場にあったお2人が、今2人だけの会社でこのスタイル。

自分の生き方に、強い意志があるんだなと感じます。

どこでも働ける楽しさと健全なチーム作りを、ソフトウエアで提供したい

一番ヶ瀬 絵梨子

Anycloud創業時、村井さんはnoteに「事業は何でもいい。要は時代に合わせてわくわくすることをやりたい」と書かれていました。

これからやりたいこと、興味を持たれているジャンルはありますか?

村井さん

会社としては、今年は受託開発を増やすことをメインに考えています。

自己資金でプロダクトを作るためには、ここは非常に重要なところなのでしっかり力を入れます。

清水さん

この記事を見て声をかけてくれる企業さんがあったら嬉しいですね!

村井さん

その他は、短期的に何をするかにはあまり重きを置いてないので、ざっくりとですけど、興味があるジャンルとしては、VRですね。

Progateの前から興味を持っているんですが、当時はまだ早すぎるかとやめたんですけど、そろそろかなと。

村井さん

そうはいってもまだ普及期ではないですけど。

でも、2年後くらいにわりといいデバイスが出てくるくらいのフェーズには来てるし、VRが来ると、かなりいろんなパラダイムが変わるんじゃないかと思ってます。

一番ヶ瀬 絵梨子

どんな時代になりそうですか?

村井さん

自分はメタバースはあまり詳しくないですけど、小さな画面でデジタル活動をしてるのが、もっと3次元的になっていくんじゃないかとか、可能性を感じますね。

研究したい分野です。

清水さん

僕も村井と同じで、VRとか技術をウォッチして、チャンスがあればやっていきたい気持ちは同じですね。

村井さん

あと、バーチャルオフィスも作ってみたいですね。

去年の10月頃、清水と1ヶ月くらい石垣島で過ごしたんですよ。土地が変われば人も変わるし、すごく楽しかったんです。

でも今はまだ、リアルで会わないと提供できない価値が多いですよね。そういうのをもっとオンラインで探って、どこででも働ける楽しさを実現したいですね。

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Anycloudではバーチャルオフィスを導入している
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バーチャルオフィスを作りたいと思ったきっかけのひとつである石垣島の観光
清水さん

自分たちがリモートやってて、「もっとリアルに近いコミュニケーションができればな」と思うことも多いですからね。

一番ヶ瀬 絵梨子

やっぱりここでもmio的な要素が欲しくなるんですね……!

作るスキルがあるだけに、いろんなアイデアが出そうですね。

村井さん

どうしても、リアルに近い洗練されたプロダクトを追求したくなっちゃいますね。

社内で使うツールは僕たちも作りやすいし、他の企業さんに提供していくという展開もわかりやすいですしね。

清水さん

自分自身としては、チーム作りに関心が高いです。

プロダクトの成長よりもチームの健全さやチームの良さを追求したいんです。

そして、いいチーム作りのためのコツや手段を、ソフトウエアで提供できたら面白いなと思ってます。

個人の幸せと、作りたいものを作る幸せを諦めず、自分で会社を作る。村井さんと清水さんのスタイルは、エンジニアやクリエイターにとってのひとつの理想形だと思いました。

起業家としての経験と腕一本でやっていける実力を両輪に、次はどんなプロダクトを世に提供してくれるのか、とても楽しみです。

【関連リンク】

株式会社Anycloud:https://anycloud.co.jp/

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https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.anycloud.sns_app

ライター

一番ヶ瀬 絵梨子
心理学科卒業後、新卒未経験でSI企業に就職し、Java系のSEとして10年。 結婚出産を経て、2015年にトラベルライターに転身。 現在はライターのほか、webディレクターや広報の業務にも携わっている。 新婚旅行では1年かけて世界50ヶ国を巡るほどの旅行好き。 日々の晩酌が何よりの楽しみ。
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