何のために働くのか?
自分にとっての幸せとは何なのか?
大切なことだとわかりつつも、なかなか追求しきれない人生の問い。
それを常に考え、経営者として本気で実践している人たちがいます。
自分たちが本当に使いたいSNSアプリ『mio』を想い優先で自社開発し、Going my wayを貫くために自己資金での経営を貫く『Anycloud』
今回は、互いにスタートアップの起業を経験した後にこのスタイルに辿り着いた、CEOの村井謙太さんとCOOの清水一貴さんにお話を伺いました。
『mio』が目指すのは、中高生が友達とつるむ感覚で使えるリアルなSNS
2021年11月に、新しいSNS『mio』をリリースされましたよね。
“友達ともっと仲良くなれるSNS”がコンセプトだそうですが、どういうことですか?
友達の数やいいねに価値を置いておらず、素の自分を出しやすいという意味です。
投稿をきっかけにコミュニケーションが生まれるSNSアプリという点ではTwitterやInstagramなどの既存のSNSと同じですが、投稿に対するリアクションやコメントは他の人からは見えないようになっています。
飾らない日常の投稿をきっかけにDMで会話が始まり、その会話が周りには見えないということですね。
SNSというよりも、教室や休憩室でのリアルな会話に近いですね。
僕が欲しいのは、中高生のころ、自然と仲良くなった友達と、休み時間や帰り道でいつもつるんでいたような、あの感覚なんです。
そんな理由から、疎遠になった人とは自動で友達解除されるなど、リアルな友達関係に近い距離感を作り出す工夫をしています。
友達の自動解除!
それはあとでじっくりお聞きするとして、2022年1月現在、mioの会員数はどれくらいですか?
2021年1月からのユーザーテストに参加してくださった方が約1000人。
現在の会員数は、まだ全然少なくて3000数百人くらいです。
これだけいろいろなSNSがある中、一企業が自社開発した新しいSNSを3000人がインストールしているのは、すごいことだと思いますよ。
mio内は、盛り上がっていますか?
いったん気に入ってくれた方は、とてもアクティブですね。
友達の数は関係なく、少ない人数とのつながりでも頻繁に投稿される方が多いです。
それはぜひ使ってみたい……のですが、会員登録しても、つながっている友達がいないと投稿できないんですよね。
今までのSNSは、友達とつながる前に使い勝手を試す感じで始めていたので、おっと!という感じでした。
そうなんです。
ほかのSNSは登録して有名人をフォローすれば、ROM専(他人の投稿を見るだけ)でも楽しめるんですが、mioは友達を誘わないと始められないので、最初のハードルは高いですね。
ただ最近、Facebook連携で友達を探す機能を実装しました。今まではID検索のみで、mio外の場所で友達を誘う前提だったので、最初のハードルはかなり下がったと思います。
すでに使っている友達を探せるのはいいですね。実名が原則のFacebookだと、相手の素性を知っているので、他のSNS連携よりも安心感はありそうです。
ただ、せっかくmioを使うのに、つながりたくない人に見つかる確率が上がるのはちょっと気がかりではあります。そのあたりはどういう判断だったんですか?
不本意につながるリスクについては、もちろん検討しました。
でも、交流がなければいずれ自動解除される機能があるので、「1人目の友達が見つからない問題」を解決するメリットのほうが大きいと判断しました。
Facebook連携したとはいえ、これでユーザー数をどんどん増やしていこうと思っているわけではありません。
例えばTwitterなら、誰とでも自由につながれるので、ユーザー数が価値になりますよね。
でもmioは友達とだけつながるクローズドなSNSなので、総数が何人だろうとユーザーにとっては関係ないんです。
友達の数が少なくてもアクティブな方も多いし、そういう方が友達を招待して少しずつ増えていくというのが、僕たちの想定するmioの広がり方です。
「これは、自分の幸せにつながるのか?」――コロナ禍で感じた既存SNSの不自由さ
そもそもですが、どうして新しいSNSを作ったのですか?
これだけ多様なSNSがある今、企業の挑戦としては、正直かなり無謀だと思うのですが。
きっかけはコロナです。僕は淋しがりやなので、リモートワークで人に会えないのがすごくキツかったんです。
でも、そんな淋しさをうまく解決してくれるSNSがなかったんですよね。
最初は自分でSNSを作るつもりはなかったですよ。こんなにあるのに、いまさら?と。
でも、自分は起業してるんだし、ないなら自分で作ればいいじゃんという発想になっていきました。
ほかのSNSは、村井さんが欲しいものとどこが違ったんですか?
Twitterは好きですが、そのころは炎上や激論も多くて、交流のためのSNSとしては心理的に良くないと感じることが多かったんです。
Instagramは、男性の友人があまり使っていない。Facebookは結婚や転職などライフイベントの報告が多くて、自分としては気軽な日常を発信しにくい場になっていました。
それに、どのSNSも、つながる人は増える一方で減ることがなく不可逆ですよね。
関係性の薄い人やステークホルダーも増えてくるので、使い続けるに従ってどんどん自由な発言がしにくくなるんです。
それは、すごくよくわかります。Facebookは公開範囲を細かく設定できる機能がありますが、投稿の内容ごとに変えるのは正直面倒ですね。
自分が求めているのは、本当に大切だと思う友達との気の置けない交流ができる、心理的安全性の高いSNSなんです。
だから、コロナで人に会えない中で既存のSNSを使っていると、「この中に自分の友達っているのかな」「ここでの交流は自分の幸せにつながっているのかな」と、思うようになったんですよね。
mioの開発は、自分が欲しいからというのが動機だったんですね?
そうです。
社会のニーズに応えるためではなく、自分が欲しいプロダクトを作りたかったからです。
でも、mioみたいなSNSを欲しいと思っているのは自分だけではない、という確信はありましたよ。
リアルな人間関係を追求したら、友達が自然消滅するSNSができた
友達の数やいいねに価値を置かないSNSとのことですが、具体的にどんな仕様なんでしょうか?
繋がっている友達の名前や人数、いいねの数や投稿に対するコメントは他人から見えないようになっています。
投稿にリアクションすると、DMで1:1の会話が始まります。
友達が見えないこと以外は、Instagramのストーリーズで実現されていませんか?
その機能はそうですね。
Instagramのストーリーズは友達と交流するツールとして非常に優れたプロダクトだと感じているので、ベンチマークしています。
Instagramとの違いはどういう部分ですか?
友達が増えすぎて投稿しづらいとか、あの人には見られたくないなというフラストレーションがないように作っているのが、Instagramとの大きな違いですね。
友達が逓増して減らないという従来のSNSの構造を変えないかぎり、「新しい場所が欲しくてmioを始めたのに3年経ったら他のSNSと同じになってしまった」となるはずです。
意図せずつながってしまった仕事関係者や、試しにつながったけど違ったなという人を解除できなければ、当然そうなりますよね。
それは、仲のいい友達と密にコミュニケーションを取れる場を作るうえで弊害になると考えているので、友達との関係を維持しつつ、切れるところは切れていくという、心理的安全性の高い世界観を作りこんでいるのがmioのバリューかな、と思ってます。
具体的には、どんな仕組みが用意されていますか?
親しさで関係性が変わるフレンドポイントや、関係性を維持するために強制的にインタラクションを生む仕組みなどですね。
●インタラクションとは
友達解除もあり得る、フレンドポイント
ひとつずつ、じっくりお聞きしたいですね。フレンドポイントとは?
リアクションやメッセージの量だけでなく、インタラクションの時間別分布や投稿の公開対象に選ぶ頻度など、多面的につながりを評価する仕組みです。
フレンドポイントによって友達は1stサークル、2ndサークル、3rdサークルに分かれます。
それぞれのサークルで、どんな権限があるんですか?
2nd以上は、お互いに位置情報を共有できる機能が解放されます。
いまのところ1st限定の権限はないですが、親しさの度合いを測れますね。
3rdより下に「その他友達」という位置付けがあり、「その他友達」枠にいる間が一定期間続いた上で、諸条件を満たすと友達が自動解除される仕組みです。
ちなみに、フレンドポイントは、直近の親しさの比重が大きいという特徴があります。
つながってからの単純な累計ではないんです。
過去の親友よりも最近知り合ったばかりの友達に親しみを感じたり、何年も離れていたのに仲直りしたり、という流動的で可逆的な人間関係がmio内にあるんですね。
友達の自動解除も、親しさの度合いによって決まるんですよね。
事前に通知が来て、リアクションを増やせば解除を阻止できるような仕組みでしょうか。
事前の通知はなく、いきなり友達解除です。
それはまた思い切りましたね。通知なしにした理由はなんですか?
もうすぐ解除になりますよ、という通知が来る心理的負担が大きかったんです。
通知が来ると、「何らかのアクションを起こして解除を防ぐ」「通知を無視して解除を待つ」の二択になりますよね。
それって実際、自分から能動的に友達を解除するのと変わらない強いストレスがかかってしまうな、と。
自分で解除するストレスを減らすための機能なのに、通知がバッド体験になっては意味がないので、解除の条件を厳しくしたうえでいきなり解除することにしました。
たしかに、通知が来るよりも気づいたら外れててほしいですね。
「自分で解除するのも、つながったままでいるのもしんどい」という関係性はSNSのあるあるなので、これは画期的ですね!
話しかけないといけない環境を作る、強制インタラクション
では次に、強制的にインタラクションを作る仕組みについてお伺いできますか?
mioには、タイムラインロックという機能があって、一定期間リアクションせずにいると、相手の最新投稿が見られなくなるんです。
最新投稿を見たければ、何かリアクションしないといけないんですよ。
単純に考えると不親切な機能ですが、その意図は?
リアルでの友達関係でも、もともとは部活が一緒だったり席が隣だったりして、強制的に話しかけざるを得ない空気に置かれたことがきっかけだったりしませんか?
ただ集められて「仲良くしてね」と言われても、関係性は生まれないですよね。
面倒な機能だと感じる人は多いでしょうが、中長期的には良い人間関係のきっかけになると考えてます。
言われてみれば、たしかに……。
リアルの友達関係をSNSでロジカルに再現すると、友達が自然消滅したり、面倒なハードルをわざと置くことになったりするわけですね。
mioの発想、おもしろいですね。
開発は2人だけで!予想以上に交流しないユーザー同士に四苦八苦
SNSを一から自社開発されたわけですが、開発チームはどんな体制でしたか?
開発は、清水と僕の2人です。
デザインまわりは清水の奥さんで、3人で仕様を相談することも多かったです。
妻は副業なので、メインは村井と僕ですけどね。
これを、2人で!それは最初から最後まで大変だろうとは思いますが、特に苦労した部分はどこですか?
まずは友達の自動解除機能ですね。そもそも、消すか消さないかでかなり迷いました。
mioには友達を1stから3rdに分けるサークル機能がありますが、それだけのほうがマイルドかな、と判断して、テスト期間中の一時期は解除機能を止めていたこともありました。
友達を自動解除するアイデアは早い段階であったんですけど、バッド体験になるなら、ないほうがいいのかもね、と。
個人単位で公開範囲を設定できる機能もあるので、それでいいのかもしれない、とか、そのへんも考えましたね。
でも、非公開対象にする友達とつながり続けるくらいなら、やっぱり友達を解除するほうがいいんじゃないかと。
自動解除すると決まったあとは、どんな条件で消すかという部分で躓きましたね。
最初は「1ヶ月連絡を取り合わなければ消す」としたんですが、これが意外とすごく外れるんですよ。
忙しくて1ヶ月ログインしてなかった、数ヶ月ROM専だった、なんてことは普通にありそうですよね。大人の1ヶ月は、あっという間ですし。
それで、フレンドポイントで判断するようにしたんですが、それでも半分くらい切れるような事故が起きて。
ああ、それもなんかわかります。SNS投稿を見て近しい気持ちでいても、実はコメントやリアクションはあまりしていないってことも多いですよね。
でもそれは悪いことじゃなくて、少ない交流で親近感を保てるのはSNSのいいところでもあり……。ユーザーとしては、友達自動解除には高い精度を求めてしまいそうです。
ですよね。アルゴリズムは詳しく言えないんですけど、最終的に「これはどう考えても友達解除したいと考えているに違いない」というレベルに限定した解除に絞りました。
自分も今、mio上で30人くらい友達がいるんですけど、最大で50人くらいだったのがそこまで減りました。
今残っているのは本当に交流がある人たちですね。
定量的な評価は難しいんですけど、友達が解除されたときに「そうだろうな」という納得感があるので、精度は上がっていると思います。
納得感のある秘密のアルゴリズムの精度、すごいですね!
そういえば御社の事業内容に機械学習も入っていましたが、そのアルゴリズムにAIは使われているんですか?
使ってないです。このあたりのアルゴリズムを含め、2人で考えて内製で作っています。
Anycloudが重視するのは、 会社の成長 < 愛されるサービスを作る喜び
mioは無料アプリですが、有料サービスや広告表示での収益はあるんですか?
いまのところ、mioではマネタイズできていないです。
でも、スタートアップ的にmioだけに絞ってとにかく伸ばすみたいなスタイルは取らないつもりでいます。
えっ、それでいいんですか?
うちは自己資金でAnycloudを経営しているので、会社の成長を最優先させる必要はないんです。toCでのマネタイズはどうしても難しいですしね。
収益面では今後、toBの受託開発等で利益を上げていきたいと考えているし、それで自分たちが作りたいと思うプロダクトを作って、それがユーザーに愛されたら嬉しいです。
「本当に仲のいい友達とだけつながっていたい」という、mioのコンセプトにも通じる経営スタンス。"イマドキ"ですが、企業としてどんな将来像を描いているのか気になるところです。
スタートアップの起業を経てAnycloudにたどり着いたお二人の経営理念と人生観については、後編で!
▼後編はこちら
【関連リンク】
株式会社Anycloud:https://anycloud.co.jp/
mio 友達ともっと仲良くなれるSNS:
https://apps.apple.com/jp/app/mio/id1549128006
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.anycloud.sns_app
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