PMBOKとは
PMBOKの読み方は「ピンボック」で、PMBOKは体系自体を指す場合とPMBOKのガイドブック「PMBOK GUIDE」を指す場合の2通りあります。PMBOK GUIDEはITエンジニアで知らない人はいないくらい有名な本です。プロジェクトマネジメントの世界標準と言われるこの教科書は、米国のプロジェクトマネジメント協会によって1986年に刊行されました。2021年に改訂第7版が発刊され、日本語版も発売されています。
【参考】PMI日本支部
PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識を体系的にまとめた本
PMBOKは「Project Management Body of Knowledge」の略語で、日本語に訳すと「プロジェクトマネジメントの知識体系」となります。PMBOKは体系そのものを指す場合もありますが、IT業界ではPMBOKの知識体系を解説したガイドブックを指すこともあります。
ガイドブックを発行しているのは、アメリカのプロジェクトマネジメント協会(PMI)です。1987年に初版が出版され、最新版として2021年7月2日に第7版が発刊されています。また、第7版は第6版までの内容からかなり変更されているため、これからPMBOKを読む方は注意してください。
第6版までのPMBOKの内容
PMBOK第6版までは、プロジェクトの成功・失敗の目安になるのがQCD(品質・費用・納期)としています。QCDのどれか1つでも想定から外れるとプロジェクトは失敗です。PMBOKは所期のQCDを達成するために必要なものとして、「プロジェクト憲章」「5つのプロセスの遂行」「10のエリアの管理」を挙げています。以降でそれぞれについて解説します。
プロジェクト憲章
PMBOKガイドは、プロジェクトの立ち上げには「プロジェクト憲章」が必須だとしています。プロジェクト憲章とは「プロジェクトのオーナー(経営者またはスポンサー)が発行する、プロジェクトを正式に認可する文書」のことです。プロジェクトマネージャーが、会社のリソース(人・モノ・カネ)をプロジェクト活動のために使用する権限を与えることを許可する文書を指します。
なお、プロジェクト憲章に書かれるのは下記の事柄だとされています。
・プロジェクトの目的
・プロジェクトのゴール
・前提条件と制約条件
・スケジュール
・予算
・リスク
・PMの名前とその責任範囲
・ステークホルダー(利害関係者)
上記の項目を詳細に記すとプロジェクト計画そのものになります。憲章の段階ではプロジェクト計画の大枠が記され、「見通しの立たないことがたくさんある中で、あらかじめ決めるべきことは決める」というのがプロジェクト憲章です。
日本のプロジェクトではこのような「憲章」を作らずに、「一生懸命頑張ろう!」というスタンスでプロジェクトを立ち上げるのが普通ですが、上手くいった場合はそれで良いとして、炎上したときに責任問題などでシコリを残すことが少なくありません。
プロジェクトマネジメントの5つのプロセス
PMBOKは、QCD(品質・費用・納期)の管理には「5つのプロセス」を着実に実行することが肝心だとしています。
1.立ち上げプロセス
プロジェクトのオーナーがプロジェクト憲章を発行して、プロジェクトの立ち上げを認可します。プロジェクト憲章では、プロジェクトの目的・ゴール・予算・スケジュール・プロジェクトマネジャーの責任範囲などが定義されます。
2.計画プロセス
プロジェクトマネジャーによって、ゴールまでのハイレベルな(=おおよその)作業計画が立てられます。計画は実行プロセスの進展によって詳細なものになり、当初の計画が変更されることもあります。
3.実行プロセス
立案した計画に基づいてチームがタスクをこなします。
4.監視・コントロールプロセス
タスクの進行・次工程への受け渡しで、確実な検査・検証が行なわれているかどうかを監視します。進行中に生じたさまざまなトラブルへの対応も必要です。
5.終結プロセス
プロジェクトのQCD(品質・費用・納期)を検証・評価してプロジェクトを終結します。プロジェクトの完遂までに獲得した経験・ノウハウの蓄積や伝達も、終結プロセスの大切な要件です。
プロジェクトマネジメントの10の知識エリア
PMBOKは、「5つのプロセス」を遂行するためにマネジメントを10のエリアに分け、「10の知識エリア」を作成しています。「5つのプロセス」を「10の知識エリア」で定義する考え方で管理することで、計画的にプロジェクトを遂行できるとの考えです。以下で「10の知識エリア」について詳しく説明します。
1.統合管理
他の9つのエリアを統合する全体管理です。各エリアのマネジメントは相互に関連しているので、全体を調整・管理します。
2.スコープ管理
プロジェクトの仕事の範囲と目指す成果物が何であるかを明確にします。求められる範囲をカバーするのはもちろん、面白そうだからと余計なことをしないように管理します。
3.スケジュール管理
プロジェクトがスケジュール通りに進むよう調整します。各工程に遅れが生じていないかどうかを定期的にチェックし、納期に間に合うよう管理します。
4.コスト管理
与えられた予算をオーバーしないように管理します。ある程度の想定外を見込んだ予算設定やコスト計算をした上で、適切なコスト管理をする必要があります。
5.品質管理
求められる条件を満たした成果物を目指し、テストを重ねバグを取り除くことで品質を管理します。特に、最終工程の直前に原因不明の不具合が発生しないよう、適切に検証プロセスを実施することが重要です。
6.資源管理
プロジェクトを完成するための人材や物資(ヒトとモノ)の管理です。第5版までは「人的資源管理」となっていましたが、第6版で人と物を含めた「資源管理」に改められました。プロジェクトを成功させるのに見合った人材・チームと必要な物質を調達・管理します。
7.コミュニケーション管理
実際にプロジェクトを動かすのはあくまで人間のため、コミュニケーションの良し悪しはプロジェクト成功の大きな要因になります。コミュニケーション管理にはチーム内だけでなく、社内外のすべての利害関係者とのコミュニケーションが含まれます。
8.リスク管理
プロジェクトの遂行プロセスで発生するリスクを予測し、リスクを回避・最小化するためのマネジメントです。また、リスク管理はコミュニケーション管理やスケジュール管理などと深く関わっています。
9.調達管理
プロジェクトを進める上で必要なサービスや製品(ツール)の調達を管理します。
10.ステークホルダー管理
クライアント・経営層・社内関係部署など、プロジェクトに関係するステークホルダー(利害関係者)との連絡や情報の共有などを管理します。
PMBOK第7版の変更点
2021年夏にPMBOKの第7版が米国PMIでリリースされ、日本語版は2021年10月26日にリリースされました。第6版までは「プロセス重視」で行われていた構成が、「原則・原理」を重視するという方針に変わりました。また、成果物にスポットが当たっていたのに対し、第7版では成果物がもたらす「価値提供」にフォーカスした内容に変更されています。
第7版で内容が大幅に変更された理由
第7版で内容が大幅に変更された理由は、ウォーターフォール開発を前提とした論理的な内容のままだと、アジャイル開発での臨機応変なプロジェクト進行に対応できないためです。ウォーターフォール開発とは、プロジェクトの立案・計画・設計・テスト・リリースといった決められた順番でプロジェクトを進める方法です。
一方でアジャイル開発とは、工程を細かく区切り短期間で運用・テストといった一連の作業を繰り返すことです。工程を細かく区切ることで、問題・課題・トラブルに対処しやすく後戻りが少ないといったメリットがあります。
ほかにも、プロジェクトに関わる人間の個性や問題に臨機応変に対応する重要さについて加筆されており、第6版までよりも実践で役立つような内容になりました。
計画通りの成果物よりも価値提供を重視
第6版までは、予定通りの成果物を提供するという考え方だったのに対し、第7版では過程の中で価値を見出しながら成果物を作り上げるといった考え方に変更されました。また価値は作業の中でその都度創り出すものとし、アジャイル開発に沿った考え方になっています。
「5つのプロセス」と「10の知識エリア」の消滅
第6版までのPMBOKで中心的な考えであった「5つのプロセス」と「10の知識エリア」がなくなり、第7版では新たに「12の原理・原則」と「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」が登場しています。
第6版まではプロジェクトを「5つのプロセス」に分け、各プロセスを「10の知識エリア」と呼ばれる管理意識を持って計画的にプロジェクトを遂行するという考え方でした。計画的にプロジェクトを遂行することに重きを置いており、突発的なトラブルや臨機応変な対応についてはあまり言及されていないことが難点でしたが、第7版では臨機応変な対応や適応性に重きが置かれています。
12の原理・原則の登場
第7版では「12の原理・原則」というプロジェクトに対する行動の心得が登場しています。「12の原理・原則」では、プロジェクトに関わる人とのコミュニケーションや、各工程で発生する変化を受け入れる適応力の重要性を主張しています。以下で「12の原理・原則」を紹介します。
1.スチュワードシップ:責任感を持って作業を請け負う
2.チーム:互いに尊重し合うチームを作る
3.ステークホルダー:ステークホルダー(利害関係者)と連携する
4.価値:価値の創造を重視する
5.システム思考:システムの相互作用を理解し、評価・対処する
6.リーダーシップ:リーダーシップを発揮する
7.テーラリング(対応):状況に応じた調整を図る
8.品質:プロセスと結果に品質を取り入れる
9.複雑さ:複雑さに対応・適応する
10.リスク:リスクへの対応を最適化する
11.適応性と回復力:適応力と回復力を備える
12.チェンジ(変革):想定している状態に達するように変化を受け入れる
8のプロジェクト・パフォーマンス領域の登場
第7版で登場した「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」は、プロジェクト達成に向けて活動する範囲を8つの領域に分けています。また、「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」で定める領域では、「12の原理・原則」の心得を持って活動するとしています。以下で「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」を紹介します。
・チーム
・ステークホルダー
・開発アプローチとライフサイクル
・計画
・不確実性
・デリバリー(提供・納品)
・測定
・プロジェクト作業
PMBOKを読んだだけではプロジェクトのマネジメントはできない
経営学を体系的に学んでも、現実の企業経営に必要なノウハウを十分に身につけることができないように、PMBOKを学ぶだけで腕利きのプロジェクトマネジャーになれるわけではありません。
また、プロジェクトの現場をある程度経験していないと、PMBOKガイドブックに書かれていることの意味を本当に理解することはできません。
PMBOKは知識を整理するツール
第7版ではプロセス方法が変わり、それまで「知識領域」とされていた部分は「実行・遂行領域」「能力療育」を中心に構成されています。しかし、現場における実践的な手段は、従来通り別に考える必要があります。PMBOKはプロジェクトマネジメントを学び理解するためのツールとして活用するのがおすすめです。
個人の性格やコミュニケーションの重要性が足りていない
経営学の教科書が経営者や営業マンの個性について触れていないように、PMBOKはプロジェクトで働く人のキャラクターについては多くを語っていません。しかし、実際にプロジェクトを進めるのは人間で、そこにはさまざまな「人間的要素」が絡み合っています。
第7版では人間同士のコミュニケーションの重要性について追加されましたが、PMBOKを読むだけではコミュニケーション能力は上がりません。プロジェクトのマネジメントにはPMBOKで知識武装をするだけでなく、個人の性格や相性といった部分を加味することも重要です。
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