ITILとは?
ITILは企業がITサービスを利用した業務改善をスムーズに進めることを目的とし、ITサービスマネジメント(ITSM)におけるベストプラクティス(成功事例)をフレームワーク化してまとめた書籍群のことです。
ITサービスの運用におけるデファクトスタンダードとして、世界中のITシステム運用の現場で役立てられています。
この記事では、自社でITサービスを活用した業務改善を検討している方や、ITILに興味を持っている方のために、ITILの概要や活用のメリット、導入方法などについて解説していきます。
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ITILの概要と歴史
ここでは、ITILの概要と誕生の経緯、そしてITILのバージョンについて解説します。
ITILはITサービスマネジメント(ITSM)のテンプレート
企業が業務における問題点の改善や、顧客への高品質なサービス提供を目指してITサービスの活用を試みても、ITに詳しくなければ、上手にITサービスを使いこなすことが困難です。
そこで、必要となるのが、ITサービスを活用したい企業をサポートする「ITサービスマネジメント(ITSM)」です。ITSMとは、わかりやすく言うとITに詳しくない顧客や営業部門がITサービスを活用するのを、ITに詳しい企業やIT部門がサポート・管理することです。
ITIL(Information Technology Infrastructure Library)は、このITサービスマネジメントを円滑にするために、ITサービスを適切に管理するために必要な事柄を整理するとともに、ITサービス活用の成功事例をまとめたテンプレートを書籍化したものです。
ITIL誕生の経緯
ITILは、イギリス政府の中央コンピュータ電気通信局から1989年に発行されたのが始まりです。当時、イギリスでは不況からの脱却を目指す取り組みの一環としてITマネジメント改革が行われました。
この改革の中で、ITマネジメントの成功のノウハウを反復可能なプロセスとして管理し、他の組織でも活用できるようにするために、ITを活用している企業の成功事例を集めて書籍化したものを「ITIL」として発行しました。
その後、ITILの普及促進を目的とするユーザ団体である「itSMF」が世界各国に発足し、日本にも特定非営利活動法人「itSMF Japan」が設立されました。ITILは、現在、世界のITシステム運用の現場で活用されているフレームワークです。
ITILのバージョン
ITILの初版は、1989年〜1994年にかけてリリースされました。その後、1999年〜2004年にかけて「ITIL V2」、2007年に「ITIL V3」、2011年にV3の改良版の「ITIL 2011 Edition」がリリースされました。2023年現在の最新版は2019年にリリースされた「ITIL 4」です。
ITIL活用のメリットとは
では、ITILを活用することで、企業にどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
ITサービス活用の適正化
企業がITサービスを上手く活用できれば、業務の効率化や顧客への高品質なサービス提供につながり、利益につながることが期待できます。
しかし、実際に企業がITサービスを運用しようとすると、問題やトラブルでITサービスが停滞したり、ITサービス運用に関する知識やノウハウが社内に蓄積されていないために、品質の高いITサービスを提供できなかったりするなどの問題があります。
そこで、ITILのフレームワークを導入し、成功事例に基づくIT管理プロセスを用いた高品質なITサービスの運用を適正に行うことで、ITサービスのメリットを最大限に活かすことができます。
将来的なコスト削減につながる
ITILを活用することで、中長期的なITコスト削減効果が期待できます。ITサービスを利用していると、日々のIT運用・保守に発生するコストのために、本来実現すべきITシステムの改善や効率化が後回しになり、なかなか実現できないという状況がしばしば起こり得ます。
ITILを参考にしてオペレーションを整備することで、このような無駄なコストの削減、ITサービス品質の向上を図ることができます。
インシデント減少を見込める
インシデントとは、ITサービスの停止やサービス品質の低下など、サービスの提供や業務に悪影響を与える出来事のことです。ITILは、ITサービスのインシデント管理のガイドラインとして活用することもできます。
ITILを導入することで、同様のインシデントが度々発生する、インシデント対応者同士での情報共有がうまく行かないなどの課題を解決でき、インシデントへの早期対応が可能です。
さらに、インシデントを引き起こす根本原因を調査し、恒久的な解決策を特定する問題管理プロセスを取り入れることで、インシデントの減少や防止が可能となり、ITサービスのレジリエンス(復元力)が向上することが期待できます。
ITILを活用できる仕事の年収
ITILを活用できると考えられるシステム運用の年収は「マイナビエージェント職種図鑑」での平均年収は448万円、経済産業省2017年発表の「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」から近い職種の顧客サポート/ヘルプデスクを参考にすると、平均年収390万円と分かりました。
国税庁2020年発表の「民間給与実態統計調査」における民間企業平均年収は433万円なので、システム運用は一般平均年収と同程度であることが分かります。
システム運用を担当するエンジニアは、ITILを活用するなどして、安定的で顧客満足度を高める高度な運用ができる知識やスキルを身に付けることで、高い年収を得られる傾向があります。
【参考】:マイナビエージェント職種図鑑 ※【平均年収 調査対象者】2020年1月~2020年12月末までの間にマイナビエージェントサービスにご登録頂いた方 【参考】:IT関連産業における給与水準の実態① ~ 職種別(P7) 【参考】:民間給与実態統計調査-国税庁
ITILを活用できない場合
ITIL活用のメリットは多くありますが、企業によってはITILの導入に前向きでなかったり、ITILを導入してもうまく業務改善できなかったりする場合もあるでしょう。
現在の職場で改善が見込めない場合は、良好なIT環境の職場で安心して働くために、転職を考えるもの1つの方法です。
ITILの構成要素とは
ITILは、バージョンにより構成内容が異なります。ここでは、バージョンごとにITILがどのような要素で構成されているか見てみましょう。
ITIL V2の構成要素
ITサービスマネジメントの成功事例をまとめた最初のITILは、40冊以上にもなる書籍群だったため、内容の重複や不整合があり、それらを整理・統合して7冊にまとめたものが「ITIL V2」としてリリースされました。
7冊は以下の構成になっており、これによって、業務を「プロセス」という単位に分け、役割と責任を明確にして運用する「プロセスアプローチ」と、実在の企業に適用されて効果があった成功事例である「ベストプラクティス」による改善をもたらすことを目指しています。
・サービスサポート ・サービスデリバリ ・サービスマネジメント導入計画立案 ・ビジネスの観点 ・アプリケーション管理 ・ICTインフラストラクチャー管理 ・セキュリティ管理
この中でも、特に「サービスサポート」と「サービスデリバリ」の書籍はV2の中心的な内容としてよく知られています。
「サービスサポート」には、ITサービス運用におけるユーザからの問い合わせや障害の管理、問題解決の流れがまとめられています。「サービスデリバリ」では、高い費用対効果・サービスレベルでITサービスを利用するための準備やコストなどを説明しています。
ITIL V3の構成要素
ITIL V3は5冊の書籍にまとめられたもので、V2の「サービスサポート」、「サービスデリバリ」の考え方を引き継ぎながら、「サービスライフサイクル」という概念を取り入れたものです。
サービスライフサイクルは、ITサービスの戦略立案・設計・移行(立ち上げ)・運用というITサービスの「ライフサイクル」の流れに沿って、サービスの価値を高めるための5つの構成要素で構成されています。
5つの要素は、以下のように定義されています。
1.サービス・ストラテジ サービス・ストラテジ(サービス戦略)は、企業の事業目標に応じてどのようなITサービスを設計・開発・実装していくか、役割と要件を整理し、戦略としてまとめたものです。戦略立案のために、財務管理・需要管理・サービスポートフォリオ管理・事業関係管理などについて整理します。
2.サービス・デザイン サービス・デザインでは、求められるITサービスの費用対効果・品質などを実現するための、ITサービスの設計について解説されています。サービスカタログ管理・キャパシティ管理・サービスレベル管理・ITサービス継続性管理・可用性管理・情報セキュリティ管理・サプライヤー管理などで構成されます。
3.サービス・トランジション サービス・トランジションでは、ITサービスの立ち上げや、現在利用中のサービスから新しいサービスへの移行において、変化による組織への影響を抑制し、スムーズに移行を進めることが解説されています。
移行の計画立案・変更管理・サービス資産と構成管理・リリースと展開管理・サービスの妥当性確認とテスト・変更の評価・ナレッジ管理の要素で構成されています。
4.サービス・オペレーション サービス・オペレーション(サービスの運用)では、顧客の要件を満たすために不可欠な、ITサービスを提供するための運用方法を体系化しています。サービス・オペレーションには、イベント管理・インシデント管理・問題管理・要求実現・アプリケーション管理という管理プロセスが含まれます。
5.継続的なサービス改善 継続的なサービス改善では、安定的なITサービスの提供を目指した問題の特定や報告、改善などについて解説されています。ITサービスの改善を繰り返し高い品質のサービス提供を続けられるよう、他の4つのサービスライフサイクル全体を通して、継続的に行われるプロセスです。
ITIL 4の構成要素
2019年に発表されたITIL 4では、サービスライフサイクルの代わりに「サービスバリューチェーン」という概念が導入され、従来「プロセス」と呼ばれていた機能は「プラクティス」と表現されるようになりました。
また、より現代的なアプローチを目指し、機会・需要から価値を生み出すSVS(Service Value System)という概念や、アジャイル・DevOps・リーンなどの新しい要素が取り入れられています。
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ITILを実際に導入するには
では、実際にITILを導入し、活用するにはどうしたらよいのでしょうか。
書籍や資格試験を活用してITILを学ぶ
ITILに関して日本語訳された書籍も多く存在し、ITILを活用できる知識を持つことを認定する資格試験もあります。
資格試験では、イギリスのAXELOS社が主催するITIL認定試験が広く知られています。基礎レベルのITILファンデーションから、最上位のITILマスターまで5種類の認定資格が用意されています。書籍や資格試験の勉強を通してITILについて学ぶと良いでしょう。
ITILツールやサービスを活用する
近年は、ITILを活用するためのツールやプラットフォームも多く提供されています。ヘルプデスク機能を中心としてITILをベースとしたプロセス管理やインシデント管理ができるものもあり、ITサービスの品質向上や改善に役立ちます。
既存ツールやサービスを利用するには費用が必要ですが、ITサービスの高度な運用に向けて、これらのサービスを活用することも検討すると良いでしょう。
ITILを取り入れてITサービスをさらに活用しよう
ITILには、ITサービスを活用して効率や品質を向上するITサービスマネジメントにとって重要な要素が詰まっています。ITサービスの導入や運用に取り入れることで、ITILの考え方を業務改善に活かしていきましょう。
改善すべき業務上の問題がなかなか解決されない職場で働き続けるのは大変なものです。職場によっては、ITILの導入に積極的でなかったり、導入してもうまくITサービスが活用できなかったりする場合もあるでしょう。そういった場合は、より働きやすい会社に転職を考えるのも良いでしょう。
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