ムーンショット型研究開発制度とは?狙いや考え方をわかりやすく解説
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ムーンショット型研究開発制度とは?狙いや考え方をわかりやすく解説
アンドエンジニア編集部
2023.02.04
この記事でわかること
ムーンショット型研究開発制度とは、破壊的なイノベーションを創出する日本の研究開発の試みを指します
社会的に困難な課題に対処するため、ムーンショット目標として9つに分類されています
2040年から2050年にかけて重要と考えるテーマを研究開発し、エンジニアの英知が求められます

ムーンショット型研究開発制度とは

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ムーンショット型研究開発制度とは、今後生じる社会的に困難な課題に対処するために、破壊的なイノベーションを創出し、研究開発を推進する日本の試みを指します。具体的な課題としては、少子高齢化や大規模自然災害への備えや対応などが挙げられます。

【参考】:内閣府 ムーンショット型研究開発制度とは

ムーンショット型研究開発制度の基本的な考え方

ムーンショット型研究開発制度の基本的な考え方についてですが、2013年(平成25年)に創設した革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)がルーツとなります。ImPACTでは5年間の時限的な試みとして、ハイリスクであるがハイインパクトが期待できる研究開発のテーマや構想・アイデアを広く研究者から募集したものです。

このような試みは、海外でも広くイノベーションの創出を目的として行われており、我が国においても破壊的なイノベーションの創出を目指し、ムーンショット型研究開発制度として正式な制度として発足しました。

【参考】:内閣府 ムーンショット型研究開発制度の基本的考え方について

そもそもムーンショットとは?

ムーンショットという用語ですが、1960年代の米国の有名な月面着陸プロジェクトであるアポロ計画に由来しています。1960年代のうちに月面に人類が着陸し、無事に帰還させるという壮大な計画でした。米国は困難に打ち勝ち、無事にこのプロジェクトを成功させました。

これらのことから、現在では実現が困難な壮大なプロジェクトを目標に掲げる際に「ムーンショット」と呼ぶことが増えてきています。実現できれば大きなインパクトがあり、技術的な革新が期待できます。野心的な事業戦略を軌道に乗せる際にも用いられ、ビジネス用語としても活用機会が増えています。

例えば民間でも、トヨタ自動車のスマートシティ型モデル都市「Woven City」は、未来都市の実証実験を行うムーンショット目標と考えることができます。

【参考】:TOYOTA WOVEN CITY

ムーンショットでエンジニアができること

ムーンショット型研究開発制度そのものは官庁および実施機関・機構の活動ですが、関連する活動を俯瞰するとエンジニアができることは多数あります。

直接的な活動としては、ムーンショット型研究開発制度の目標に挙げられている個々のプロジェクトに参加することです。各目標に対し、具体的なプロジェクトが5から10程度計画され研究開発が実施されています。

さらにプロジェクトのフェーズが進むと研究から開発への以降が進んでいきます。そこでは、産学共同で開発が期待できます。民間企業に従事される方も、製品化に向けて腕を振るうことができます。

ムーンショット型研究開発制度の担当府省と推進体制

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ムーンショット型研究開発制度には、担当する府省(内閣府ならびに関係省庁)が割り当てられています。その中で、ムーンショット目標の決定、研究開発構想の策定と推進のための指導、研究開発の実施の区分に分担が整理されます。全体を進めるにあたって統制のための会議体が設定されています。具体的な研究推進体制は、以降で解説していきます。

【参考】:内閣府 ムーンショット型研究開発制度とは 研究推進体制

ムーンショット目標の決定

ムーンショット目標の決定は、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)、および首相官邸の健康・医療戦略推進本部によって行われます。決定した目標はプロジェクトを推進する文部科学省・経済産業省・農林水産省、内閣府および関係省庁である厚生労働省・文部科学省・経済産業省に提示されます。

【参考】:内閣府 総合科学技術・イノベーション会議

会議体の設定(戦略推進会議)

戦略推進会議は、研究開発の推進や研究開発成果の実用化の加速のために、産業界・研究者・関係府省などで構成される会議体です。各研究推進法人から進捗の報告を受け、全体を通してプロジェクトを調整し予算など資金配分についても助言を行います。

研究開発構想の策定と推進のための指導

研究開発の実施に向けた研究開発構想の策定と推進のための指導は、研究推進法人を所管する関係府省が行います。具体的には、内閣府ならびに文部科学省・経済産業省・農林水産省・厚生労働省が対応します。

研究開発の実施

目標達成に向けた研究開発の実施は、それぞれの公的機関・機構が担当します。

具体的には、科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、生物系特定産業技術研究支援センター(BRAIN)、日本医療研究開発機構(AMED)が、主管する業務を実施します。研究開発のマネジメントを行うPD(プログラムディレクター)を任命して全体を管理し、進めます。

【参考】:科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業 【参考】:新エネルギー・産業技術総合開発機構 ムーンショット型研究開発事業 【参考】:生物系特定産業技術研究支援センター ムーンショット型研究開発事業 【参考】:日本医療研究開発機構 ムーンショット型研究開発事業

ムーンショット型研究開発制度の目標一覧

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全ての目標は「人々の幸福(Human Well-being)」の実現を目指して設定されています。「社会」「環境」「経済」の3領域を細分化し、9つの目標が設定されています。

「社会」の領域は、少子高齢化や労働人口減少に対応するイノベーションが対象です。「環境」は、地球温暖化などの地球環境の保全・回復と都市文明の発展を対象とします。「経済」は、AIや量子コンピュータなどを活用した人類の活動領域を拡大することがねらいです。

【参考】:内閣府 ムーンショット型研究開発制度

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ムーンショット目標1「身体、脳、空間、時間の制約からの解放」

ムーンショット型研究開発制度の目標1は、「身体、脳、空間、時間の制約からの解放」です。

具体的には、人の持つ身体的能力や認知能力・知覚能力をICTやロボットの技術で拡張し、遠隔操作することで生活様式を転換していきます。2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現することが目標です。

【参考】:内閣府 ムーンショット目標1 【参考】:内閣府 ムーンショット目標1 紹介ページ

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ムーンショット目標2「疾患の超早期予測・予防」

ムーンショット型研究開発制度の目標2は、「疾患の超早期予測・予防」です。

疾患のメカニズムを解明し、100歳まで健康の不安なく生活を送ることを想定しています。パーキンソン病など、健康寿命の妨げになる発症の予測から抑制・予防を目指す取り組みを進めていきます。2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現することが目標です。

【参考】:内閣府 ムーンショット目標2 【参考】:内閣府 ムーンショット目標2 紹介ページ

ムーンショット目標3「自ら学習・行動し人と共生するAIロボット」

ムーンショット型研究開発制度の目標3は、「自ら学習・行動し人と共生するAIロボット」です。

少子高齢化時代に対応できるロボット制御や、無人化から完全無人化に向けた産業革命を支えるAIロボットの開発などをテーマに挙げています。2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現することを目標とします。

【参考】:内閣府 ムーンショット目標3 【参考】:内閣府 ムーンショット目標3 紹介ページ

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ムーンショット目標4「地球環境再生」

ムーンショット型研究開発制度の目標4は、「地球環境再生」です。

地球温暖化問題の解決(Cool Earth)と環境汚染問題の解決(Clean Earth)をテーマに掲げて、温室効果ガスの循環や環境汚染物質の資源化・無害化などを目指します。2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現することが目標です。

【参考】:内閣府 ムーンショット目標4 【参考】:内閣府 ムーンショット目標4 紹介ページ

ムーンショット目標5「2050年の食と農」

ムーンショット型研究開発制度の目標5は、「2050年の食と農」です。

微生物や昆虫などを活用した完全資源循環型の食料生産システムを開発し、食料の無駄をなくした合理的な食料消費に向けた解決方法を開発していきます。2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出することを目標とします。

【参考】:内閣府 ムーンショット目標5 【参考】:内閣府 ムーンショット目標5 紹介ページ

ムーンショット目標6「誤り耐性型汎用量子コンピュータ」

ムーンショット型研究開発制度の目標6は、「誤り耐性型汎用量子コンピュータ」です。

日本の技術レベルを高め、ネットワーク・ハードウェア・ソフトウェアを駆使して大規模化・高速化した量子コンピュータを開発し、量子誤り訂正の実効性と耐性を高めることを目標とします。2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現することが目標です。

【参考】:内閣府 ムーンショット目標6 【参考】:内閣府 ムーンショット目標6 紹介ページ

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ムーンショット目標7「健康不安なく100歳まで」

ムーンショット型研究開発制度の目標7は、「健康不安なく100歳まで」です。

医療ネットワークを充実させ、健康格差を解消することで生活の質を高める(QoL)ことを目標とします。ミトコンドリアの先制医療などにおいて、すでに病気克服に向けた活動が進められているプロジェクト分野も出始めています。2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現することを目標とします。

【参考】:内閣府 ムーンショット目標7 【参考】:内閣府 ムーンショット目標7 紹介ページ

ムーンショット目標8「気候制御による極端風水害の軽減」

ムーンショット型研究開発制度の目標8は、「気候制御による極端風水害の軽減」です。

短期的には予測精度を高めて被害を軽減し、将来的には台風や豪雨などの激甚化に備えて発生強度・タイミング・発生範囲などを制御し、被害を軽減することが目標です。2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し、極端な風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現することを目標とします。

【参考】:内閣府 ムーンショット目標8 【参考】:内閣府 ムーンショット目標8 紹介ページ

ムーンショット目標9「こころの安らぎや活力を増大」

ムーンショット型研究開発制度の目標9は、「こころの安らぎや活力を増大」です。

短期的に文化・伝統・芸術など、こころと深く結びつく要素を抽出・測定し、こころの安らぎや活力を増大する要素技術を創出していきます。将来的には、こころ豊かな状態を叶える技術を確立していきます。2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現することが目標です。

【参考】:内閣府 ムーンショット目標9 【参考】:内閣府 ムーンショット目標9 紹介ページ

エンジニアの活躍の場がさらに広がります

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ムーンショット型研究開発制度では、量子コンピュータやAIなどのITからロボティックス、農業・医療など多方面がカバーされます。それぞれの領域では、破壊的なイノベーションが期待されています。

エンジニアの活躍が求められる本研究開発を通じて、プロジェクトの理解と意欲的な挑戦に貢献するために、自己研鑽に励みましょう。

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