スクレイピングとはデータを収集・加工すること
スクレイピングという言葉は英語で「scraping」と書き、日本語では「こする」「削り取る」という意味を持つ単語です。またIT業界でのスクレイピングは、任意のサイトの情報を収集・加工することで必要なデータを抽出することを指します。
スクレイピングはツールを使用して自動的にデータを収集、加工することが多いですが、ツールの中にはノーコードでスクレイピングできるツールもあり、Webマーケティングなどの分野で注目を集めている技術です。
しかし、スクレイピングを行う際には、セキュリティや法律的な観点から注意すべき点がいくつかあります。注意点をしっかり確認せずにスクレイピングを行った場合、法律に触れてしまう可能性もあります。
そこで本記事では、スクレイピングの概要やツール、注意点などを解説します。これからスクレイピングをしようと考えている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
スクレイピングの活用場面
スクレイピングはWebサイトのデータを自動的に収集・解析しますが、具体的にどういった場面で活用するのでしょうか。ここでは、スクレイピングの活用場面をいくつか紹介します。
Webマーケティングのデータ解析
スクレイピングは、Webマーケティングなどで大量のデータを解析したい場合に使われます。例えば、ECサイトのデータを解析して、自社の売上向上を目指す場合などが挙げられます。
競合している会社や、同じような商品を取り扱うサイトのデータを収集し、データの加工ができれば、そこから自社の価格や品揃えが適切か判断できます。この際に他社のWebページを1ページずつ手動で調べていくのは大変ですが、スクレイピングであれば効率的な調査が可能です。
ニュースやトレンドの収集
世の中の動きを知ることで、市場の動向に適応したり、顧客ニーズの変化に対応できたりします。手動でリサーチするのは時間的・人員的なコストが多くかかりますが、スクレイピングによって関連トピックの情報を自動で収集できます。
例えば、SNSやニュースサイトをスクレイピングし、特定のキーワードやトピックに関する投稿数や言及頻度を集計することで、トレンド情報を収集します。これらの情報は、マーケティングやコンテンツ制作に活かすことも可能です。
このように、効率的にトレンド情報を収集するには、スクレイピングが役立ちます。
コンテンツ収集と集約
イベントの情報や商品レビューなど、特定の情報を収集したい場合においても、スクレイピングが役立ちます。コンテンツのニーズを調べることで、ユーザに対する有効なアプローチを行えます。
例えば、映画や書籍のレビューに関する情報を集め、それらのジャンルにアプローチできるユーザに向けて自社サービスを勧めます。さまざまなユーザの声を拾うことで、マーケティング戦略に活かせるでしょう。
SEO分析
SEO分析においても、スクレイピングは非常に有効です。競合サイトのSEOパフォーマンスをリサーチし、自社サイトのSEO戦略に活かすことができます。スクレイピングによってGoogleの検索結果ページを解析し、競合の順位や内容を把握できます。
また、自社サイトと競合サイトの検索順位の変動を追跡していくことで、最適なSEO戦略を練ることも可能です。Webサイトを運営する際には、欠かせない分析手段と言えるでしょう。
学術データの収集
卒論やレポートを作成する際に、特定分野の学術データが必要になるケースがあります。無数にあるデータの中から、必要なデータのみを手動でピックアップするのは簡単ではありません。
そこで、スクレイピングを活用することで、論文のメタデータの抽出や、研究データの集約などが自動化され、効率的に学術データの収集を行えます。データ収集にかかる時間を短縮できるため、その分執筆への時間を増やせて質の高いレポートを作成できます。
スクレイピングはクローリングやAPIとは違う
スクレイピングに似たものに、よくクローリングやAPIが挙げられますが、こちらは意味合いが異なりますので注意しましょう。ここからはクローリングやAPIとスクレイピングの違いについて解説します。
クローリング
クローリングとは、Googleが行っている情報検索の技術を指します。Googleのサイトのインデックスは、クローラというソフトウェアが管理しています。そして、このクローラがサイトを巡回することをクローリングと呼びます。
このクローリングの目的は、サイトのコンテンツを発見し、Googleのインデックスに登録することを目的としています。そのため情報を収集、加工するスクレイピングとは違うものだと理解しましょう。
【参考】:Google 検索における情報の整理方法
API
APIとは「Application Programming Interface」の略称で、Webサービスが提供しているアプリケーションを指します。APIは提供元のサービスが出す公式のものです。
一方でスクレイピングは非公式のツールですので、APIとは異なります。APIを使うだけで欲しいデータが得られる場合には、こちらを使用した方が安全と言えるでしょう。
スクレイピングのメリットとデメリット
スクレイピングはマーケティングなどの分野を始めとして、非常に役に立つツールだと分かりました。そんなスクレイピングですが、メリットだけでなくデメリットもいくつかあります。
ここからは、スクレイピングのメリットとデメリットを解説します。
スクレイピングのメリット
スクレイピングのメリットは、自分の欲しい情報だけを抽出して取得できることです。また情報量が膨大な時にも、自動的に情報を収集してくれるスクレイピングは非常に役に立ちます。
自動化による時間や手間の短縮が見込めますので、スクレイピングによって作業効率の向上も期待できるでしょう。
スクレイピングのデメリット
スクレイピングのデメリットは、迷惑行為となったり、利用規約や法律に抵触する恐れがあることです。例えばWebサイトの中には、利用規約にスクレイピングが禁止と明言しているサイトもあります。スクレイピングを実施する前には、必ず事前に利用規約を確認しましょう。
またスクレイピングはツールや調べる内容によっては、対象のサイトに重い負荷をかけてしまう可能性があります。実際にスクレイピングを行う場合は、必ず負荷を考慮したうえで実施しましょう。
その他にも、スクレイピングをする対象のサイトから、不審な動きをしていると思われてしまった場合には、アクセス拒否をされる可能性もあります。
このように、スクレイピングにはデメリットも多くあります。後述でスクレイピングに関する注意点について解説するので、スクレイピングの実施を検討する場合は、ぜひ参考にしてください。
スクレイピングのツール
スクレイピングの概要を押さえたところで、次はスクレイピングができるツールを紹介します。ただし、実際にスクレイピングを行う際には、調査をする対象のサイトの利用規約などを必ず事前に確認しましょう。
Octoparse
Octoparseはコーディング不要のスクレイピングツールです。クリックだけでデータを抽出でき、取得するページも制限なしで利用できます。基本的には無料で使用できますが、複数人で使用する場合やスクレイピングの規模が大きくなる場合には、有料プランも用意されているようです。
【参考】:誰でもWebスクレイピング
ParseHub
ParseHubは無料でデータ抽出ができるスクレイピングのツールです。ウェブサイトを開き、抽出したいデータをいくつか選択するだけで、データを取得できます。このParseHubはコーディングが必要ないため、コードを記述する手間も不要です。
また、スクレイピングした結果をJSON・Excel・APIなど複数の形式で結果のダウンロードできるのも魅力の1つと言えます。
さらにParseHubは初心者向けにチュートリアルを用意しており、テキストと動画で学べるため、学習コストもそれほどかからないでしょう。
【参考】:A free web scraper that is easy to use 【参考】:ヘルプセンター
Common Crawl
Common Crawlは、非営利団体が運営するオープンソースのツールです。インターネット全体のWebページを毎月、または数ヶ月ごとにクロールしてデータを収集・更新しています。
Common Crawlのデータセットは、AWSのAmazon S3というサービス上にあるため、Amazon S3からデータをダウンロードして利用可能です。オープンソースなので無料で使用できます。
【参考】:Common Crawl - Open Repository of Web Crawl Data
import.io
import.ioは、直感的なUIで簡単にスクレイピングができるツールです。ノーコードで操作できるため、コードが書けない方でも使いやすいツールと言えます。
import.ioではログイン後のデータの取得やサイトのスクリーンショットの取得、スケジュール設定機能など、さまざまな機能が提供されています。無料トライアルもあるため、気になる場合はチェックしてみましょう。
【参考】:Import.io
WebHarvy
WebHarvyはノーコードでスクレイピングができるツールであり、マウスをクリックするだけでスクレイピングが可能です。また、画像のスクレイピングも可能であり、オンラインショップやイメージギャラリーから画像を収集することもできます。
WebHarvyを使用して取得したデータはExcel、XML、CSV、JSON、TSVファイルなどで取得できます。無料トライアルも用意されていますが、制限を解除するためにはフルバージョンの購入が必要です。
【参考】:WebHarvy Web Scraping Software | No-Code Web Scraper
Webスクレイピングに適したプログラミング言語
Webスクレイピングに適したプログラミング言語として、最もよく活用されるのが「Python」です。
Pythonにはスクレイピングをサポートするための「BeautifulSoup」や「Requests」などのライブラリが豊富にあります。これらを活用することでデータを簡単に抽出したり、HTTPリクエストを簡単に送ったりできるなど、Webスクレイピングにおいては欠かせません。
【参考】:PyPI · The Python Package Index
その他にも、JavaScript(Node.js)やRuby、PHPなどのプログラミング言語もスクレイピングに適しています。
JavaScriptは動的コンテンツのスクレイピングに、Rubyは「Nokogiri」ライブラリで高速な解析を実現し、PHPはサーバサイドでスクレイピングを実行したい場合など、それぞれメリットを活かせるシチュエーションで使い分けましょう。
スクレイピングを行う際の注意点
メリットとデメリットで解説したように、スクレイピングを行う際には気を付けるべき注意点がいくつかあります。ここからは注意点について、詳しく解説します。
データの負荷がかかる
情報を取得するために、サイトに何度もアクセスをしてしまうとWebサイトのサーバに負荷をかけてしまいます。手動でサイトにアクセスしている時はそれほど意識しませんが、スクレイピングの際は自動で何度もアクセスをかけていないか注意を払う必要があります。
あまりにもアクセスを集中させてしてしまうと、Dos攻撃というサイバー攻撃だと受け取られる可能性がありますので気を付けましょう。
利用規約で禁止されている場合は違法になることも
利用規約とは、Webサービスなどを運営している事業者が定める利用に関するルールです。多くのWebサイトには利用規約が記載されており、ここにスクレイピングの禁止が明示されている場合は、スクレイピングは行えません。
スクレイピングが禁止されているWebサイトでスクレイピングを行うと、違法な情報収集となってしまいます。損害賠償などの大きな問題に発展する可能性もあるため、注意しましょう。
著作権や個人情報保護法に注意する必要がある
Webサイトのコンテンツには著作物や個人情報を含む可能性があるため、スクレイピングを行うことで、著作権や個人情報保護法を始めとした法律に抵触する恐れがあります。
スクレイピングはツールなどを使用して自動的にデータを収集するのがメリットではありますが、一方で自動的に上記のようなデータも収集する恐れがあります。
そのため、調査する対象のデータはどういったものを扱うのか事前に必ず調べておきましょう。個人情報や著作物については、以下のリンクから確認できます。
【参考】:著作物 – 第2条(定義) | 文化庁 【参考】:著作権 | 文化庁 【参考】:1-1.「個人情報」って何だろう?~その1:あなたを特定できる情報~ 【参考】:「個人情報保護法」を分かりやすく解説。個人情報の取扱いルールとは? | 政府広報オンライン
正しくスクレイピングを活用して業務を効率化しよう
本記事を通して、スクレイピングは便利な技術ではあるものの、利用規約などに注意した上で行わなくてはならないものだと分かりました。マーケティングやデータ解析などでスクレイピングをしようか検討している方は、ぜひ本記事で紹介した注意点に配慮してから、スクレイピングを行いましょう。
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