メタバースとVR
メタバース「meta verse」(仮想空間)とVR「Virtual Reality」(仮想現実)は何れも仮想という共通ワードを持ち、似た概念として受け止められがちです。両者は何が共通しており、何が異なるのかについて理解を深めておきましょう。
メタバースとは
メタバースは、ギリシャ語で超越したという意味の「meta」と、全世界を意味する英語の「universe」からuniを省いた「verse」を組み合わせた造語で、「超越した世界」を表しています。
メタバースは現実の世界とは異なる、デジタル上(インターネット上)の世界であり、利用者は自分の分身となるアバターとして行動し、他の利用者とコミュニケーションを取ったり、共同で作業をしたりすることができます。
メタバース市場では実際にビジネスが行われており、様々な稼ぎ方があります。例えば、メタバースに取り組んでいる企業で正社員として働いたり、フリーランスとして稼いだりすることも可能です。
メタバース内では主に仮想通貨(暗号資産)で取引が行われますが、これらは現実世界では一般通貨への換金が可能であり、メタバース上で主な収入を得ることもできます。
VRとは
VRは、英語の「Virtual Reality」の略語で、「仮想現実」と呼ばれ、実際には存在しないものや、実際に体験できないことをあたかも現実であるかのように見せる手段や技術のことです。
VRでは360度方向の映像、音響や触感などを体感するために、レンズが付いたVRゴーグルが利用されます。VRはゲーム市場や映画などのエンターテインメント分野、教育訓練やビジネス研修分野でも既に活用されています。
VRはVRコンテンツとVRゴーグルをセットで考える必要がありますが、先ほど紹介したメタバース上ではVRゴーグルは必ずしも必要ではありません。例えば、人気ゲームシリーズ「どうぶつの森」(任天堂)はメタバースの一例ですが、VRゴーグルなしでも楽しむことができます。
メタバースとVRChat
最近、メディアやSNSなどで「VRChat」という言葉をよく目にしますが、メタバースとVRChatは何が違うのでしょうか?VRChatは、メタバースの1つのサービスプラットフォームです。
VRChatは無料で利用できるソーシャルVRアプリです。利用者は、VR機器を装着してアバターの姿になり、世界中のユーザと会話やゲームを楽しむことができる仕組みです。VRChat内には「ワールド」と呼ばれるメタバース空間が無数に用意され、利用者は好きなワールドで遊ぶことができます。
VR/AR
VRとよく混同されがちなARという概念があります。ARは「拡張現実」と訳され、一般的によく知られています。ここでは、VRとARの違いについて理解を深めていきましょう。
ARとは
ARとは英語「Augmented Reality」の略で、増強された現実、すなわち「拡張現実」と訳されています。ARは現実世界にデジタル情報を付加することで、あたかも現実世界が拡張したかのように見せる技術の1種です。
例えば、現実世界の風景をスマートフォンやARグラスを通して見ると、現実の風景に画像や文字情報などのデジタルコンテンツが重ねられ、その風景に関する解説や新たなコンテンツを表示するといった使い方があります。
このARは既に、エンターテイメント業界・EC業界・教育関連・小売・営業支援など、様々な分野で活用されています。
ARの活用例
誰もが知るARの事例としては、ポケモンGOが有名です。他には、ファッション商品の試着、家具の自宅への試し置きなどがよく活用されています。こうした取り組みは、顧客の購買意欲を高め、リアル店舗への誘導に繋げたり、ECサイトでの購入率を高めたりといったマーケティング施策として広がりを見せています。
VRとARの違い
ARがデジタル技術を用いた拡張現実であることは分かりましたが、ではVRとARは根本的に何が違うのでしょうか。いくつかの視点で、VRとARを比較してみましょう。
▪世界観 VRはあくまでも仮想の世界ですが、ARは現実の世界である点が大きく異なっています。
▪ 技術面 VRは仮想の世界を見たり、感じたり、あたかも現実のように体験できる技術ですが、ARは現実の世界でありながら、デジタル情報が付加された、より便利な現実世界を拡張する技術です。
▪ メリット VRは体験をシェアしやすく、その体験では没入感が得られやすいのがメリットです。ARはコンテンツのシェアがされやすく、スマートフォンやタブレットで気軽に体験できるのがメリットと言えます。
▪ コスト VRはVRゴーグルやVRヘッドセットを主に用います。おすすめのVRゴーグルには値段が数万円以上のセットもあり、比較的コストが掛かります。ARはスマートフォンがあれば利用できるため、利用者のコスト負担は小さめですが、個別のアプリ開発ではコストが掛かります。
メタバースの方向性と3つの定義
ここまでメタバースとVR・ARの違いについて解説をしてきましたが、メタバースが今後さらに発展をしていくために定義されたものとして著名な定義が3つあります。ここでは、その定義について紹介をしていきます。
Matthew Ball氏の定義
Makers FundのベンチャーパートナーであるMatthew Ball氏は、メタバースの方向性について7つの定義をしています。
1.永続的であること メタバースはリセットや一時停止、終了することはなく、無期限に継続します。
2.同期的かつライブであること メタバースはすべての人に対して一貫してリアルタイムで存在する生きた体験を提供します。
3.同時利用者数に制限がないこと メタバースは同時ユーザ数に制限を設ける必要はなく、誰もがメタバースの一部になって、特定のイベント・場所・アクティビティに同時に参加できます。
4.経済性を持つこと メタバースは経済的「価値」を生み出し、幅広い「仕事」を創造し、所有・投資・販売などによって報われます。
5.デジタル世界と物理世界にまたがる メタバースはプライベートとパブリックのネットワーク、オープンプラットフォームとクローズドプラットフォームの両方にまたがるエクスペリエンスです。
6.相互運用性 メタバースはデータやデジタルアイテム、アセットやコンテンツに相互運用性があり、例えば特定のゲーム内で購入したスキンを他のゲームでも活用することができます。
7.コンテンツや体験によって構成される メタバースは個人やグループ、企業などによって提供された「コンテンツ」や「エクスペリエンス」によって構成されます。その中には独立した個人から、非公式に組織されたグループ、さらには営利目的の企業もあります。
【参考】:The Metaverse: What It Is, Where to Find it, and Who Will Build It
David Baszucki氏の定義
米Roblox社CEOのDavid Baszucki氏は、メタバースを構成する8つの要素について次のように定義しています。
1.Identity(アイデンティティ) 2.Friends(友達) 3.Immersive(没入感) 4.Low Friction(軋轢が少ない) 5.Variety(多様性) 6.Anywhere(地理的な制限なし) 7.Economy(経済システム) 8.Civility(社会的規範)
【参考】:Roblox CEO Dave Baszucki believes users will create the metaverse
Jon Radoff氏の定義
米Beamable社のCEOであるJon Radoff氏は、メタバースを構成する7つのレイヤーについて次のように定義しています。
▪ レイヤー1.経験: ゲーム・ソーシャル・eスポーツ・シアター・買い物・ゲーム・社会的体験・ライブ音楽など
▪ レイヤー2.発見: アドネットワーク、ソーシャルキュレーション等を通じて人々がその体験を発見すること
▪ レイヤー3.クリエイターエコノミー: メタバースはパイオニアの時代からエンジニアの時代、そしてクリエイターの時代へと変遷し、コードを知らなくともモノを作り、マネタイズするためのあらゆる環境が提供されている
▪ レイヤー4.空間コンピューティング: ジオメトリとアニメーションを表示する3Dエンジン、地理空間マッピング、音声とジェスチャーの認識、同時情報ストリームと分析をサポートする次世代ユーザーインターフェイスなど
▪ レイヤー5.分散化: エッジコンピューティング・マイクロサービス・ブロックチェーン技術・分散型金融など
▪ レイヤー6.ヒューマンインターフェイス: メタバースへのアクセスを助けるインターフェースのことで、ファッションと一体化した3DプリントのウェアラブルやVRヘッドセットから、高度なスマートグラスなどの未来技術等
▪ レイヤー7.インフラストラクチャ: 5Gネットワーク・6G・次世代モバイルデバイス、長持ちするモバイルバッテリーなど
【参考】:The Metaverse Value-Chain
メタバース市場の拡大
メタバースは「仮想空間」そのものを指し、社会生活を営む上で欠かせないコミュニケーションや共同作業が重視される空間であり、VRは仮想空間を体験するための「手段・技術」です。
メタバースを始めてみたいが、やり方が分からないという方が少なくありませんが、メタバースを始めたいならまずは仮想通貨取引所に口座を開設し、仮想通貨を購入することから始めてみると良いでしょう。
また、メタバースは複数の人の利用を前提にしていますが、VRは1人で体験することを前提にしています。VRを体験するには、VRゴーグルを装着すると、より臨場感を得ることができます。
このメタバースの世界市場は2021年時点で4兆円強でしたが、2030年には80兆円近くまで拡大すると見られており、メディアやエンターテイメント以外に教育や小売などあらゆる分野での活用が期待されています。
ここから見えてくるのは、今後のアプリ開発においては、メタバースとは無縁でいることが難しくなるばかりか、コードを知らなくともコンテンツを作れるクリエイターが活躍する時代が到来するということです。
ITエンジニアを目指す皆さんはこの記事を参考に、ぜひメタバースやVRに関心を寄せてみてください。
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