メーカー勤務エンジニアから銭湯経営者。「非エンジニアコミュニティ」で見えた自分の価値
エンジニアから銭湯経営者という異色の経歴を歩む角屋(かどや)文隆さんは、いかにして異業種に飛び込み、銭湯経営者となったのか。その苦悩の道のりについて聞いてみると、キャリアに悩むエンジニアたちが参考にしたい視野の広げ方とキャリア戦略が見えてきた。
(※この記事は全2回の連載の2回目です。前回の記事はこちら)
いきなり手伝うことになった銭湯の経営。ピンチの中で気がついたエンジニアの強み
IT系以外の分野に転職するエンジニアって珍しいですよね。角屋さんは大手メーカーのエンジニアから銭湯のオーナーに転職されたわけで、かなり勇気のいる決断な気がしますが…
自分から銭湯の経営を継いだわけじゃなくて、母が怪我をして、大変だから手伝いだしたのがきっかけだったんです。自分もエンジニアを続けていくと思ってたし、まさか転職するなんて思ってなくて。
意図せず全然違う分野で仕事をすることになってしまったわけですね。分野が違うとエンジニアの経験が活かせないと思うのですがですが、実際どうですか?
銭湯向けにWebサイトを制作したり、一般企業から業務システムの開発も受注しているので、半分エンジニア、半分銭湯という感じなんですけど、エンジニアの経験は銭湯経営にめちゃくちゃ活きてます。
エンジニアってカイゼン文化があったり、自動化したり楽したりする仕組みづくりを得意としてたりするじゃないですか。たとえば、そこに掃除ロボットがあるんですけど…
あ!下に隠れてますね!
銭湯の脱衣所とか休憩スペースみたいな広い場所を掃除しようと思うと、かなり大変なんですよ。掃除機を使おうにもコードの長さが足りないし、バッテリーも持たない。
金春湯さんは家族経営だから人手が少ないし、掃除をするためのバイトを雇ってもかなりの人件費が発生しそうですね。
でも、掃除ロボットならあっという間だし自動化できますよね。こういうアイディアって当たり前のことといえばそうなんですけど、自分が経営に入るまでやってなかったんです。
「掃除ロボット買えばいいじゃん」って、言われてみたらそうなんだけど、なかなか思いつかないですよね。銭湯で掃除ロボット走ってるイメージがないし。
エンジニア的な発想は他でも活きてて、例えば来客数を集計するシステムを作ったりとか。まだ手打ちですけど、いつかカメラを使って自動で集計できたらいいと思ってます。
エンジニア的な発想で日々の仕事を楽にしたり自動化したりできる業界って、実は多いのかもしれませんね。
異業種のコミュニティに飛び込んで気がついたエンジニアの価値。「Excelでマクロ組めたら、神」
キャリア選びに悩んでいるエンジニアって多いと思うんですけど、エンジニアから銭湯経営者という異分野への挑戦をされている角屋さんから、読者に向けたアドバイスってありますか?
決して転職を勧めるわけじゃないんですけど、後輩にはエンジニアの少ない分野や趣味のコミュニティに参加してみるといいよって言ってます。
自分の場合、銭湯好きな人が集まるオンラインサロンがあって、銭湯再興プロジェクトって言うんですけど。銭湯の経営を継ごうかなって考え始めたときに、このオンラインサロンに入ったんです。
そこはデザイナーやカメラマン、営業マンとかいろんな業種の人がいるんですけど、エンジニアは少なくて。そこで気がついたのが、自分が持ってるエンジニアのスキルってこんなに重宝されるんだ、ってことなんです。
僕たちって普段、エンジニアのコミュニティの中で生きてますよね。で、そこにはめちゃくちゃ技術力ある人がたくさんいて、その人達と自分を比較せざるを得ないわけじゃないですか。だから欠点ばかり見えてくる。
エンジニア同士で比較すると、自分はディープラーニングができないとか、データベース触れないとか、上を見たらキリがないというか。
非常に耳が痛い話ですね。自分もよく言います。あれを勉強しなきゃとか、あれができないとダメだとか……向上心はもちろん大切ですけど、自分を追い詰める方向に行くと良くないですよね。
でも、ひとたび非エンジニアのコミュニティに参加してみると、YouTubeのアカウントを作れるだけでもすごいことなんだって気がつくんですよ。PCと別にディスプレイの電源つけられたらすごいとか、Excelでマクロ組めたら、神、みたいな。もちろんHTMLとCSSでWebサイト作れるのはすごいことなんです。
確かに。「すごいスキル」の定義って場所で変わりますし、活かせる場所を見つけられなかったら宝の持ち腐れ。スキルを伸ばすことも大事だけど、スキルを活かす場所を見つけることも大事なんですね。
自分の勤めていた会社は割と大きなメーカーだったので、どんどん優秀な後輩が入ってくるんです。それを見て「俺なんて…」って言う人がいっぱいいるじゃないですか。でもそれってエンジニアの狭い世界で比べてるからそうなるんであって、自分のスキルが価値を持つ場所って、結構あると思うんですよね。
最近だとプログラミングスクールを卒業して、現場に配属されて自分のスキルの低さに絶望する人もちらほら見ます。異業種からエンジニアになった人こそ、以前自分がいた分野でエンジニア的な能力が活かせるかどうかの視点を持っているはずなので、エンジニアの視点だけにとどまらない事が大事なのかもしれません。
コミュ力は関係ない。「エンジニア流」で新しいコミュニティに飛び込もう
エンジニアの中にはいろんな勉強会やカンファレンスに出席してどんどん人脈を広げる人がいますが、そういった方はまだ少数で、多くの人は新しいコミュニティに行くのが苦手だと思います。角屋さんは銭湯のオンラインサロンに飛び込んでいったわけですけど、そういうのは得意なんですか?
いやいや、私もそういうのが得意なわけではないです。確か銭湯のオンラインサロンの第1回の集まりは、様子見でスルーしたと思います笑
うわ、すごくわかります。「行けるには行けるけど、ちょっと様子見ておこう…」みたいな笑
でも、やりようはあるんですよ。Facebookのグループがあったので、メンバーの名前からTwitterとかを調べて、事前に情報をインプットして、次の回の会話のネタにしたり。
たしかに自分もこのインタビューのために金春湯さんのツイートめっちゃ読みました笑
集まりはだいたい2時間くらいなので、そのぶんの会話のネタをネットから集めるのなんてエンジニアは割と得意なはずじゃないですか。得意なやりかたでコミュニケーションしていけばいいですよね。
その場で気の利いた会話を考えなくても、事前に用意すればいいわけですもんね。
趣味のコミュニティってネット上にたくさんある。そして、エンジニア的なスキルが求められているコミュニティがその中にたくさんあるわけですよね。
自分の趣味でいいので、何かエンジニアの少ないコミュニティに顔を出してみると、これまで狭い世界で比べて落ち込んでた自分のスキルの価値に気がつくかもしれません。
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