Amazonが提供するクラウドサービスプラットフォーム「Amazon Web Services」。「AWS」という略称は、聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。2006年、クラウドサービスの先駆けとしてサービスをスタートして以来、MicrosoftのAzure、GoogleのGCPとならぶ「3大クラウド」にまで成長したAWS。世界的なシェアを獲得するなど、AWSエンジニアのニーズは年々高まっています。
そんなAWSエンジニアの中から、厳しい条件をクリアしたトップレベルのエンジニアを選出、認定するプログラムや若手エンジニアを選出、表彰するプログラムがあることをご存じでしょうか?
今回は、AWSのパートナー企業である日立製作所にお邪魔して、AWSエンジニアを選出、認定するプログラム、「2023 Japan AWS Ambassadors」に選出されたマネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 デジタルサービス第1部 主任技師の富田琢巳さんと同事業部 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 主任技師の三木隆史さん、
さらに、「2023 Japan AWS Jr. Champions」に選出された、金融第二システム事業部 金融デジタルイノベーション本部 第三部 深井健大郎さんと、デジタルプラットフォーム事業部 ソフトウェア・サービス開発本部 アーキテクチャセンタ 福元駿汰さんの、計4名にインタビュー!
IT業界の第一線で活躍するAWSエンジニアの皆さんに、Ambassadorに選出、認定、Jr. Championに選出、表彰された感想や、優れたAWSエンジニアになるためのヒントを伺いました。
マネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 デジタルサービス第1部 主任技師 富田琢巳(写真左) マネージドサービス事業部 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 主任技師 三木隆史(写真右)
金融第二システム事業部 金融デジタルイノベーション本部 第三部 深井健大郎(写真左) デジタルプラットフォーム事業部 ソフトウェア・サービス開発本部 アーキテクチャセンタ 福元駿汰 (写真右)
「AWS Ambassadors」って、どうやったらなれるの?
3年連続選出されたエンジニアが語る、「AWS Ambassadors」に選ばれるポイント!
お二人は、「AWS Ambassador Partner Program」で選出、認定されたと伺っております。そもそも本プログラムは、どういったものなのでしょうか?
「AWS Ambassador Partner Program」は、AWSの高い技術力を持ち、AWSに関する情報発信を継続的に行っているAWSエンジニアを選出・認定するプログラムです。選出されたエンジニアは、「AWS Ambassadors」としてAWSに認定されるんです。
それは影響力がありそうですね。「AWS Ambassador Partner Program」には誰でも挑戦できるのでしょうか?
まず、AWSパートナー企業に所属している必要がありますね。AWSの認定資格を取得していること、AWSを業務で活用していること、などの条件もあります。
【参考】:APN Ambassador Programのご紹介、APN Ambassadorになるにはどうしたら? | AWS JAPAN APN ブログ
クラウド分野で遅れをとっていた日立製作所
お二人は2020年から3年連続で、「AWS Ambassadors」に選出されているそうですね。最初に「AWS Ambassador Partner Program」に挑戦しようと思われた経緯を教えていただけますか?
2019年に日立製作所内でクラウドCoEチーム所属のソリューションアーキテクト、通称「CCoE」の前身となる部門が立ち上がったことが始まりです。当時は世の中の主流がオンプレからクラウドサービスに移り変わるタイミングで、フロントSEを中心にクラウド案件も増えてきた時期ですが、当社はクラウド開発に関して遅れをとっていました。
意外ですね。
日立のフロント事業部のお客様からは「パブリッククラウドをやりたい」というオーダーが増えており、フロント事業側はそれに対応しようとしていたのですが、サービス&プラットフォームビジネスユニット事業側では、クラウドに対する熱量がそれほど高くなかったんです。
そこで、僕と三木、ほか2名のフロント事業に所属するエンジニアが、フロント事業側と、サービス&プラットフォームビジネスユニット事業側とのクラウドに対する温度差を埋めることを目的に、2019年に前述のCCoEの前身部門の立ち上げに参画しました。
その後、「クラウド案件のサポート」と、「クラウドエンジニアの育成」という2大トピックに取り組んでいったんです。
そんな中で2020年にAWSの認定制度があることを知り、社内でクラウドの認知を上げるために応募したのが最初でした。
選出経験、実際のところは業務にどう役立っている?
「AWS Ambassadors」として選出、認定されて、社内での反応はいかがですか?
クラウドスペシャリストとして認知頂く事が増え、案件を通して相談が集まるようになっていますね。その中で、優秀な人財(人材)に出会う機会は増えてます。
「AWS Ambassadors」に選出されたことは、業務の中で役立っているのでしょうか。
やはりAWSに認められたAWSエンジニアということで、社内外で名前がフィーチャーされる点では役立っていますね。有名になったことで、「AWS Ambassadors」に選出されたエンジニアが営業の顧客提案に同行するとクライアントからの信頼が得られますし、社内に専門家がいることが知れ渡り、クラウドに挑戦する人も増えました。
社内でクラウドに対する向き合い方がガラリと変わったのですね。個人の仕事にも変化はありましたか?
仕事の内容やクラウドへのモチベーションに変化はありませんね。強いて言えば、AWSについて問い合わせがあった時、AWSに直接つなぐ機会は増えました。
もともと、私はビジネスサイドの人材育成、富田は技術サイドのエンジニア育成と、コンビのようにやっていますから、それぞれが自分の業務を通してクラウドのムーブメントを盛り上げていくのが今のフェーズだと思います。
富田はこう見えて、鬼軍曹的なところがあって、部下に恐れられているんですよ笑
「Japan AWS Jr. Champions」は難関?選ばれた二人が振り返る
次世代を担うAWSエンジニア、「Japan AWS Jr. Champions」とは
深井さんと福元さんは、「Japan AWS Jr. Champion Partner Program」で、「Japan AWS Jr. Champions」に選出されたそうですね。「Japan AWS Jr. Champions」と「AWS Ambassadors」の違いを教えていただけますか?
「Japan AWS Jr. Champion Partner Program」は、今年からスタートした日本独自の表彰プログラムです。富田さんや三木さんが選出された「AWS Ambassadors」は、AWSエンジニアのトップ・オブ・トップと呼べる技術者で、かつ影響力がある方を選出、認定するのに対し、「Japan AWS Jr. Champions」はAWS Partner Network (APN) 参加企業に所属し、AWSを積極的に習得して周りに影響を与えている、社会人1年目から3年目の若手エンジニアにフォーカスしています。
次世代を牽引するAWSエンジニアということですね。ちなみにお二人は、それぞれ社会人何年目にあたるのでしょうか?
私は今年4年目で、表彰時は3年目。福元は今年3年目なので、表彰された時は2年目ですね。
今回の表彰は、まさに大抜擢ですね!どのような観点が「Japan AWS Jr. Champions」の評価の対象になるのでしょうか?
AWS に関して実践してきた技術的な挑戦や、コミュニティのリードなど自ら起点となって周囲に影響を与えているか、アウトプットを通じて周囲へ貢献しているか、という点です。
AWSに触れて気づいた、勉強よりも大切なこと
「Japan AWS Jr. Champions」に選出されるには、社会人1〜3年目であることのほかに、認定資格を3つ取得する必要があるのだそうですね。業務と並行しての試験勉強は大変でしたか?
どうでしょう…。もちろん、試験勉強は必要ですが、私の肌感で言えば、実務でどれだけAWSを使ってきたかが重要な気がします。AWSに触れる環境にいれば、座学で身につくことは自然に身につけられますから。
たしかに、座学だけではイメージしにくいことも、体験を通すことで理解がスムーズになりますよね。周囲への影響力という点では、具体的にどのような活動が評価されたと感じていますか?
僕は、社内のいろいろなプロジェクトに技術支援をしにいく部署に在籍しているのですが、参画したプロジェクト内でAWSに関する提言をしていたことが評価されたのかなと思います。
深井さんはいかがでしょう?
私の場合は、所属元の業務でそこまでのアウトプットはできていないのですが、それ以外の業務を通してAWSを推進したことが評価につながったと考えています。
たとえば、社内で勉強会を主催したり、新人だけで案件を完成させるというプロジェクトで、AWSチームを取りまとめ、要件の確定や技術の検討を行ったりしましたね。
「AWS Ambassadors」の三木さんと富田さんの存在は、「Japan AWS Jr. Champions」への挑戦に影響していますか?
もちろんです。「AWS Ambassadors」は、AWSに触れたことがある人ならば、誰もが知っている認定プログラムです。AWSをやるならば「AWS Ambassadors」を目指すという風潮があるくらい、憧れの存在ですからね。
それに、弊社は資格取得のサポートや勉強会など、AWSを学びたい人が堂々と挑戦できる環境が整っているんです。これは「AWS Ambassadors」のお二人がいるからこその文化だと思います。
「Japan AWS Jr. Champions」に選ばれてみて、意識はどう変わった?
「Japan AWS Jr. Champions」に選出されてみて、変化を感じたことはありますか?
やはり、ちょっとした有名人になったなと感じます(笑)AWSに関する質問や相談をしていただくことも増えましたね。
私の場合は、もともとAWSを推進する部署にいたので、周りの人もAWSに詳しいんです。だから周囲の反応はそれほど変わっていませんね。ただ…、「おい、チャンピオン!」なんていじられることは増えました笑
「チャンピオンなのにわからないの?」とか言われたらどうするの?
そこは、ジュニアなので勘弁してくださいと(笑)というのは冗談ですが、そういう意味では、「もっと感度を高めて勉強し続けなくては!」と気合いが入りましたね。
僕の場合、「Japan AWS Jr. Champions」に選出されたエンジニアが集まる月2回のオンラインミーティングで、他社のJr. Championと話したり、意見を聞いたりすることで、クラウドに関する感度やモチベーションを維持しています。みなさん、アウトプットの意識が高いので、すごく刺激になるんです。
「AWS Ambassadors」選出者が語る、活躍するエンジニアの共通点とは?
本質を深く見つめて、手段を広く持つ
三木さんと富田さんは、たくさんの若手エンジニアを見てきたと思いますが、活躍するAWSエンジニアにはどんな共通点がありますか?
これはAWSエンジニアに限ったことではないのですが、技術者においては本質を追求できるかどうかが成長できるかどうかに大きく関わっていると思います。
詳しく教えてください。
たとえば、顧客やAWSに詳しくないエンジニアから「サービスの使い方」について質問があった時、それを真に受けて「使い方」を説明しているような技術者はそこで成長が止まってしまうんです。反対に、「なぜその質問が出てきたのか?」を考えて、課題を深掘りし、別の方向から提案ができるエンジニアは、ぐんぐん伸びます。
本質を深掘れば、答えは1つじゃないということでしょうか?
求める結果を出すための手段がいくつもあると気付けば、他の手段についても学ぶと思います。そうやって、思考を先へ先へと展開して、スキルを上げていけるかどうかが分かれ道になるのではないでしょうか。
クラウドの世界は、とにかく進化のスピードが早いんです。構築から数ヵ月後にサービスの内容が変わっているなんてことも珍しくない。だからこそ、このスピード感に対応するためにも、「どれだけの候補をテーブルに上げられるのか」が大事なんですよね。
本質を追求できるエンジニアになるためには、日々、どんなことを意識すれば良いのでしょうか?
私が大切にしているのは、「びっくりする気持ち」を持ち続けること。どんなにキャリアを重ねても、常に新しい情報や技術に貪欲に向き合って、面白がることが、エンジニアの馬力になると思うんです。
若手エンジニアの立場として、深井さんはどう考えていますか?
お二人のおっしゃる通りだと思います。加えて、僕自身は「投げ出さない」ということも大切にしていますね。
というと?
富田さんがおっしゃった通り、この業界は流行り廃りが激しく、自分の作ったものが1年後にはダメになっているということはよくあります。そんなときに、過去に作ったものに対しても真摯に立ち向かう貪欲さが必要なんです。1回作ってみておしまいではない。それが大変でもあり面白さでもあります。
定量的なアピールだって、できた方が絶対にいい
これからAWSエンジニアとして活躍していきたい方に、アドバイスをいただけますか?
まずは、「資格取れよ!」ってことですね(笑)われわれエンジニアって、技術やキャリアがあっても、実際のところはどれだけできるかなんて証明できないじゃないですか。そういう意味では、資格は持っていて損はない。定量的な評価をアピールできますからね。
僕らの世界では、お客様に選ばれる基準が4つあると言われているんです。
1つ目は、どれだけのお付き合いがあるか、2つ目は、どんな実績があるのか、3つ目は、自社ならではの得意分野、4つ目が、技術レベル。この4つで言えば、技術レベルを客観的に保証してくれるのが資格です。
他の要素は個人レベルではどうにもなりませんが、資格を持っていれば選ばれる軸のひとつは持てるということですね!
はい、弊社はAWSの資格取得支援にも力を入れており、およそ2,000名という有資格者数を誇っています。
たくさんのエンジニアに指導してきたと思いますが、AWSの資格試験をパスするコツはあるのでしょうか?
強いていうならば、AWS的な思考力を身に付ける、ということでしょうか。伝えるのが難しいのですが、AWSって、考え方が独特なんです。
具体的に教えてください。
あくまで一例ですが、僕みたいなデータセンターをベースとするシステム設計を行ってきたオンプレベースのエンジニアは、リスク回避するような訓練を受けてきているので、試験の回答もリスク回避の視点で選ぶ。でも、AWSの場合は、その視点で選ぶと不正解だったりすることがあるんです。
もう少し詳しく教えてください。
たとえば、4択の問題があって、2択までは絞れる。でも、残った2択は、「動くか動かないか」というテクニカル的な視点で考えると、どちらも正解なんです。だから、コスト優先だったり、アジリティ優先だったり、運用優先だったり、「AWSだったらどっちか?」という観点が必要です。
それはやっかいですね。
最初は私もなかなか理解できなかったのですが、AWSの思考が身につけば、そんなに難しくはないんです。クラウドのシステム設計をリスキリングする習慣ができているので、今では、3年ごとに更新する試験でもすんなり解けるようになりましたよ。
AWSを学ぶなら、止まっている余地はない!
深井さんと福元さんは、実務でAWSの考え方に触れていたので試験に関しては苦戦しなかったのでしょうか?
そうかもしれませんね。
では、福元さんは、試験勉強以外のところでAWSを学ぶ上でのスランプはありましたか?
スランプと言われると思いつかないですね。AWSのサービスはとにかく種類が多く、進化も早いので、学ばなくてはいけないことばかりなんです。だから、スランプがないというより、止まっている余地がないという表現の方が近いかもしれません。
逆に、深井さんと福元さんが効果を感じた学習法があれば教えていただきたいです。
ぼくは、実機で作ってみるのが一番身につくと思います。AWSは公式のレファレンスが充実しているので、どんどん触ってみるのがおすすめですね。
僕の場合は、プライベートアカウントでAWS公式のワークショップを活用しています。AWS側でテンプレートを用意してくれて、実際に手を動かせるので、初心者の方も参加しやすいと思います。
<編集後記>
第一線で活躍する日立製作所のエンジニア。しかも、「AWS Ambassadors」と「Japan AWS Jr. Champions」の方にお会いするということで、当日は若干の緊張があった編集部ライター。でも、日立製作所のエンジニアの皆さんはとても気さくで、お話していると、エンジニアという仕事への実直な愛を感じました。
後編では、AWSの基礎知識や魅力について、「AWS Ambassadors」と「Japan AWS Jr. Champions」の視点から深掘ります!
▼後編はこちら
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