AWS Cloud WANとは
AWS(Amazon Web Service)が2021年12月2日、ラスベガスで開催された同社イベント「AWS re:Invent 2021」にて発表した「AWS Cloud WAN」が注目を集めています。
AWS Cloud WANとは、企業のグローバルネットワークの構築や運用を簡素化するAWS提供のマネージド WAN サービスです。
AWS Cloud WANは複雑化する企業のオンプレミスのデータセンター、各事業拠点、クラウドをシームレスつなぐネットワークサービスで、ネットワークの構築や運用に関わるコスト削減の他、ネットワークやセキュリティ管理業務の集中化、自動化を実現します。
この記事では、この「AWS Cloud WAN」にフォーカスし、関連するキーワードなどを併せて解説をしていきます。
【参考】:「AWS Cloud WAN」を発表
AWS Cloud WANの特徴
「AWS Cloud WAN」の特徴を以下、挙げてみました。
1.企業のオンプレミスネットワークとAWSとをシームレスに接続できます 2.ネットワークをセグメント化してセキュリティを強化できます 3.ネットワーク全体を1つのダッシュボードに表示し、一元管理できます 4.ネットワークポリシーを使用して、サードパーティのSD-WAN製品を介したAmazon VPCとの接続が可能です
これまでの企業ネットワークでは、さまざまなネットワークが混在し、ネットワーク構築や運用管理に大変な労力やコストが掛かっていましたが、こうした問題を「AWS Cloud WAN」が解決してくれます。
AWS Cloud WANが実現すること
企業が「AWS Cloud WAN」を導入すると何が実現できるのでしょうか?「AWS Cloud WAN」によって容易に実現できることを見ていきましょう。
1.グローバルネットワークを構築する 各拠点からローカルネットワークプロバイダを介してAWSに接続し、AWSのグローバルネットワークを利用して、自社の各ロケーションをAWSのVPCに接続することで、自社のグローバルネットワークを構築できます。
2.自社のネットワークを拡張する 新たな拠点が追加されたり、新たな接続先を追加したりする日常的なネットワーク業務を自動化できます。
3.単一のダッシュボードで自社のネットワークを可視化する 自社のあらゆるネットワークのトラフィックを追跡し、ネットワークの状態を把握して、パフォーマンスを向上させたり、ダウンタイムを最小限にしたりなどの有効な対策を打てるようになります。
AWS Cloud WAN導入による企業のメリット
ここまで、AWS Cloud WANの特徴や、それによって実現できることを解説してきました。ではAWS Cloud WANの導入について、企業の経営層やクライアントに提案する場合、企業にとっての具体的なメリットを提示する必要があるでしょう。ここでは、企業にとっての具体的なメリットを解説します。
1.ネットワークの構築や追加に関わる期間短縮とコストの削減ができる 2.ネットワークの運用や管理に関わる人員、コストを削減できる 3.ネットワークのセキュリティを向上できる 4.BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策を実現しやすくなる
以上の効果が見込まれるのであれば、この提案が却下される可能性は極めて低くなるかもしれません。
AWS Cloud WANの接続イメージや提供地域
AWS Cloud WANはネットワークに関りが薄い方には、なかなかイメージがつかみにくいと思われます。ここでは、実際の接続イメージや、提供エリアなどについて紹介します。
接続イメージ
AWS Cloud WANは、以下のような拠点を対象にグローバルネットワークを構築できます。
【オンプレミス拠点】
・自社管理のデータセンター(ネットワーク機器・サーバー・ストレージ・アプリケーションなど) ・本社・支店・工場・物流倉庫・店舗・海外拠点など
【Amazon VPC】
提供エリア
現時点(2022.1末)では、以下の10のリージョンでプレビュー版の利用が可能です。
▪米国東部(北バージニア) ▪米国西部(北カリフォルニア) ▪アフリカ(ケープタウン) ▪アジア太平洋(ムンバイ) ▪アジア太平洋(シンガポール) ▪アジア太平洋(シドニー) ▪アジア太平洋(東京) ▪欧州(アイルランド) ▪欧州(パリ) ▪南米(サンパウロ)
自社のオンプレミスのロケーションから近いリージョンを選択し、可用性の高いグローバルネットワークにデプロイすると、AWS Cloud WANコンソールや専用のAPIを使用して、わずか数クリックでリモートのAWS VPSなどをグローバルネットワークに接続することができるのです。
いまさら聞けないAWS Cloud WANのキーワード
この度AWSが発表した「AWS Cloud WAN」の概要については理解できたでしょうか?「AWS Cloud WAN」の紹介記事の中には、いくつかキーワードがありましたが、それらについて初めて聞いた方、詳しくは分からないという方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、「AWS Cloud WAN」に関係するキーワードについて、簡単に解説します。いずれもエンジニアとしては押さえておきたい用語なため、この機会に理解を深めてください。
Amazon VPCとは
AWS VPC(Amazon Web Service Virtual Private Cloud)のことで、一言で言えば、AWS利用者専用のプライベートなクラウド環境提供サービスです。
AWSには、仮想サーバーサービスの「Amazon EC2」、データベースサービスの「RDS」などがありますが、それらを利用する際の独自のネットワークサービスまでトータルで提供されるのがAWS VPCです。
AWS VPCはさまざまなセキュリティが確保されており、インターネット向けシステム、オンプレミス向けのシステム、或いはその組み合わせなど、さまざまな利用目的に対応しています。
SD-WANとは
「AWS Cloud WAN」はサードパーティのSD-WAN製品の利用も可とされていますが、そもそもSD-WANとは「Software Defined Wide Area Network」の略称で、物理的なWAN上に仮想的なWANを構築し、ソフトウェアを利用して管理する技術のことです。
インターネットVPNやIP VPNをソフトウェアで組み合わせて、仮想ネットワークを構築できます。このSD-WANにより、日本国内のみならず、日本と海外とのグローバルな拠点間の通信も含めて一元管理が可能です。
SD-WANのメリットとしては、
1.異なる特性の回線を使い分けることができる 2.ネットワーク管理に要する工数や時間を大きく削減できる 3.あらゆるネットワークを管理コンソールによってモニタリング(可視化)できる 4.閉域網とインターネットの併用による快適な通信環境を提供できる
といったものが挙げられます。まさに、「AWS Cloud WAN」はSD-WANによって構築され、同じポリシーによって他社のSD-WANとの接続が可能という柔軟さを担保しているのです。
BCPとは
BCPとは災害などの緊急事態においても、企業が事業の継続を可能とするための事業継続計画(Business Continuity Planning)のことです。
日本では東日本大震災をきっかけに、BCP(事業継続計画:Business Continuity Plan)が企業の重要な施策の1つとなりました。
今やITは企業の生命線ともなっており、自然災害などで企業の基幹システムが停止すると、企業の存亡に関わる事態に陥ることから、多くの企業がDR(災対環境:Disaster Ricovery)サイトの構築を模索しましたが、巨額のインフラ投資やランニングコスト、構築期間を要することから断念した企業も少なくありません。
そうした中、AWSの出現によってDR対策の可能性が大きく広がりました。AWSは世界中に拠点を配置し、『リージョン』を構成しながらサービスを広げています。
各リージョンは電力などのライフラインが独立し、あるリージョンが大規模災害の影響を受けても、他のリージョンがカバーできるため、容易にDRサイトを構築できます。
DRのレベルも、単なるバックアップから、ホットスタンバイのマルチサイトまで、さまざまな選択が可能で、予算に応じて柔軟に対応できる点も評価されてきました。
この度、AWS Cloud WANが提供されたことで、低コストで理想的なDR対策が行えるようになったと言えます。
AWS Cloud WANによってネットワークエンジニアはどう変わる?
ネットワークエンジニアの仕事は、ネットワークの設計から構築・管理・運用など非常に多岐に渡ります。時には、床を這いつくばってLAN配線工事を行うこともあるでしょう。では、AWS Cloud WANによってネットワークエンジニアの仕事はどう変わるのでしょうか?
ネットワークエンジニアは不要になる?
AWS Cloud WANを採用すると、ネットワークエンジニアの仕事の負荷は大きく軽減されます。たとえば、Flutter社(オンラインギャンブル)はAWS Cloud WANの採用によって、これまで新規事業部門のネットワーク構築に数カ月を要していたところを数日に短縮できたという事例もあります。(AWS社発表)
AWS Cloud WANのメリットは、ネットワーク構築やネットワーク運用・管理に要する工数やコストの大幅な削減が可能という点です。つまり、ネットワークエンジニアのルーティンの仕事が大きく軽減されるのは間違いありませんが、果たしてネットワークエンジニアは不要となるのでしょうか?
ネットワークエンジニアの仕事はより高度になる
AWS Cloud WANによって、確かにネットワークエンジニアのルーチン業務は大きく改善、軽減されるでしょう。しかし、それによってネットワークエンジニア不要論とはなりません。
ネットワークエンジニアは自社やクライアントに最適なネットワーク環境の提案を行う役割が求められます。既にあるネットワーク資産と新たなサービスを組み合わせた、最適なネットワークプランを企画しなければなりません。
最新の技術動向を見据え、より高いパフォーマンスを得られるネットワークの研究も行わなければなりません。テレワークが当たり前になった今日、モバイルネットワークとの融合も課題でしょう。
これまでルーチンワークに追われ、ネットワーク監視や障害対応にウエイトを置いた仕事から、よりクリエイティブな仕事に脱却できるチャンスでもあるのです。
またネットワークインフラが大きく変わることで、アプリケーションも変わる必要があります。プログラマーや初級エンジニアの皆さんも、ぜひネットワークの最新動向をチェックしましょう。
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