Azure OpenAI Serviceとは
2021年11月初めにマイクロソフト社がGPT-3言語モデルとAzureを組み合わせた「新Azure OpenAI Service」を発表して話題となりました。このニュースを見て、初めてGPT-3や、その提供元のOpen-AIを知った方も少なくないでしょう。 ここでは「新Azure OpenAI Service」のサービスについて知り、私たちエンジニアにとってどのような影響があるのかを見ていきましょう。
そもそもAzureとは
「Azure OpenAI ServiceWindows」の紹介に入る前に、Azureについて確認しておきましょう。Azureはマイクロソフト社が提供するクラウド・コンピューティングサービスで、AWSに次ぐ世界規模のクラウド提供事業者です。
Azureは2010年からサービスが開始され、PaaSやSaaSを中心にさまざまなクラウドサービスを提供しています。ちなみに「Azure」は英語の「青空」を意味し、その読み方は"アジュール"と発音をします。 現在、Azureのサービスを仕事で利用しているエンジニアも多いですが、Azureは個人での無料利用も可能なため、これを機会にぜひ試してみてください。
OpenAIとは
「新Azure OpenAI Service」に記されている「OpenAI」とは何者なのでしょう。OpenAIは非営利団体の1つで、2015年にイーロン・マスク氏ら、米国の投資家や企業家によって設立され、人工知能の研究を行っています。 「OpenAI」 は人工知能のオープンソース化を進めていますが、その目的は人口知能が人間の脅威とならないよう、社会全体の利益を優先することにあります。そのためには客観的な立場のAI研究機関が必要と考え、AIの推進を見守りながら主導権を取ろうとしているのです。
そんな「OpenAI」に対してマイクロソフト社は2019年より総額10億ドル(約1,100億円)らも上る投資を行い、「OpenAI」とマイクロソフトの関係が深まりました。その結果、今ではOpenAIのテクノロジーはマイクロソフト社のAI戦略の不可欠な要素となっています。
Azure OpenAI ServiceWindowsの概要
日本マイクロソフト社からは、まだ「Azure OpenAI ServiceWindows」の具体的なサービス内容や料金などの詳細が発表されていないため、ニュース以外の情報として日本マイクロソフト社が公表している抄訳記事や米国マイクロソフト社の英文記事を読むしかありません。 いずれ具体的なサービス内容、料金などは公表されるため、それまで待つことにしましょう。
【参考】:強力な GPT-3 言語モデルへのアクセスと Azure のエンタープライズ機能を組み合わせた新 Azure OpenAI Service を発表(マイクロソフト社日本語抄訳)
GPT-3とは
ニュースなどでも分かる通り、「Azure OpenAI ServiceWindows」は一言で説明すると「OpenAI」が開発した大規模言語処理モデルであるGPT-3をクラウド上で利用できるサービスです。ここからは、GPT-3について解説をしていきます。
GPT-3は大規模言語処理モデル
GPT-3はイーロン・マスク氏が共同代表を務める非営利団体の「OpenAI」が開発をしている大規模自然言語モデルの中でも最新のバージョンを指します。 前バージョンのGPT-2と比較して100倍の約1,750億のパラメーターを備え、既に5兆語を学習済で、NLPベンチマーク(英語圏の自然言語処理標準ベンチマーク)では最先端のパフォーマンスを実現しています。 この学習の結果、GPT-3は単語に続く次の単語の予測を高い精度で行い、まるで人が書いたような文章を自動的に生成することができます。 たとえば、「明日の天気は」に続く言葉を「晴れ」「曇り」というように予測変換できます。キーワードをいくつか与えてやると、小説などの長文を自動生成することも可能でしょう。
GPT-3の特徴
GPT-3の最大の特徴は、人が書いたものと同レベルの自然な文章を作成することが可能である点です。海外ではGPT-3を用いてブログを作成し、そのまま公開したところ、AIが書いたブログだと気付いた人はほとんどいなかったという事例もあるそうです。 GPT-4が出現するかどうかは分かりませんが、この事からもGPT-3の文書作成能力は人間のレベルにかなり近づいたと見てよいでしょう。
GPT-3の活用方法
GPT-3の活用に関してはさまざまな案が上がっているようです。列挙してみましょう。
▪社内で使う提案書や稟議書、マニュアルや連絡文書などもパラメーターを与えるだけで自動作成してくれるサービスが出現するでしょう。
▪FAQをマニュアルを読み込ませるだけで自動作成してくれるかもしれません。
▪より精度の高いチャットボットの開発、コールセンターオペレーターのAIへの置き換えが進むかもしれません。
▪議事録要約の自動作成なども可能でしょう。
▪製品情報からキャッチコピーを作成してくれるようなサービスも考えられます。
以上はほんの1例ですが、GPT-3の普及と活用により、人の仕事が大きく変わるかもしれません。
「GPT-3」、APIの人数制限を撤廃
2021年11月19日のニュースですが、「OpenAI」は、「GPT-3」のガイドラインを変更してAPI利用人数の制限を撤廃したと発表しました。 これまで「OpenAI」は、ヘイトスピーチなどの使用を禁止する目的で、コンテンツフィルターなどの安全装置を設け、さらにAPIの利用人数にも制限を掛けていました。 こうした制限を撤廃したのは、APIへのアクセスを解放することにより、より多くの開発者が未解決問題の解決や、有用なアプリへの活用など、AIを用いた創造的な方法を見つけられるようにとの思いからです。
招待制のAzure OpenAI Serviceとの関係は不明
マイクロソフト社は、「Azure OpenAI Service」の提供を「招待制で行う」と公表しています。その目的は、サービスが有害な目的で利用された、不要なものが生成されないように歯止めを掛けるという意図からですが、「OpenAI」のアクセス制限撤廃方針転換とは相容れないものとなるため、その動向が注目されます。
GPT-3のメリットとデメリット
GPT-3が大変優れた言語処理モデルであることは分かりましたが、そのメリットとデメリットについて考察してみましょう。
GPT-3のメリット
GPT-3はさまざまな分野で大きな成果が期待できますが、ここではビジネス分野に絞ってメリットを考えてみましょう。
1.文章作成作業の効率化
GPT-3は膨大なパラメーターを用いた本格的なディープラーニング(深層学習)を重ねた結果、状況に適した文章を作り出すことが可能です。このため、文章作成という面倒な作業の大部分を軽減し、効率化する可能性を秘めています。
2.迅速な情報共有と情報伝達
会議録の抄訳、報告書の作成などをGPT-3に任せることができれば、これまで何時間も要していた文書作成が瞬時に行え、情報伝達や情報共有を迅速に行うことが可能になります。
3.マイクロソフトのサービスとして急速な普及が期待される
「OpenAI」やGPT-3の存在を知る人は多くはありませんでしたが、マイクロソフト社のクラウドサービスとして提供されることになり、その認知度や信頼度は一気に高まるでしょう。この事で普及に繋がり、ビジネスサイドでは業務革新への期待が高まるでしょう。
GPT-3のデメリット
GPT-3の優秀さ、メリットはよく分かりましたが、残念ながらデメリットもあります。GPT-3の普及を促進するには、そのデメリットをいかに最小化するかが1つの鍵になるでしょう。
1.没個性化が進む
GPT-3は必要なキーワードを与えると、自動的に文章を作成できますが、キーワードが同じであれば、アウトプットの文章も同じものになります。 しかし、どんな文章にも作成者の個性が現われます。GPT-3の普及によって個性のない、味気ない文章が氾濫するかもしれません。文章にこだわりたい人、個性のある文章を書きたい、読みたい人たちはGPT-3の利用をためらうかもしれません。
2.犯罪などに使われるリスクがある
GPT-3が犯罪や悪事に利用される可能性は否定できません。
詐欺メールは文法が誤っていたり、独特のトーンがあったりして、比較的容易に気付きやすいのですが、この詐欺メールをGPT-3が作成したらどうなるでしょう。 パラメーターさえ正確であれば、完璧に近い文章を作成してくれるでしょう。これに騙される人が増えるリスクがあります。
また事実と異なるフェイクニュースをGPT-3に作らせ、世の中を混乱させる人が増えてくるかもしれません。そのためGPT-3に善悪の判断が行える能力を追加する必要が生じることも想定されます。
GPT-3の今後とエンジニアとの関わり
GPT-3は言ってみれば、「文章自動作成ツール」ですが、そのクオリティの高さから世界的に注目を浴びています。さらに、マイクロソフト社が莫大な投資をして、このGPT-3をサービスとして提供を始める以上、その普及は急速に進むかもしれません。エンジニアの皆さんも、この製品を利用したシステムやサービスに関わることがあるかもしれませんので、この記事を切っ掛けに、ぜひこれからも注視してみてください。
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