「ビジネス戦闘力を高めるプログラミング」を提唱する人気プログラミング講師のいまにゅさん。
インタビュー後半では、業務にプログラミングを活用することで起きる具体的な変化や、いまにゅさんご自身が業務効率化のために使っているテクニック、今プログラミングを学ぶ人に人気のPythonの魅力、役立つライブラリなど、仕事で使える実践的な情報を教えていただきました。
前編はこちら↓
会社に依存している業務こそ、プログラミングで劇的に変わる
その業界やその会社独自の業務こそ、プログラミングが入る余地がある
「この業務にプログラミングが掛け算されると強い」、というのはありますか?
一般論で「◯◯とプログラミングの相性がいい」、というものではなく、属人的な業務に活用される方が多いので、みなさんその仕事を経験したことがある人間にしか思いつかないような発想をされます。掛け算する領域によって、「その人・その業務のパフォーマンス向上」がかなうのがプログラミングの強みだと僕は思っています。
なにか例に出していただけますか?
たとえば以前、僕が運営するスクールの受講生に、コロナワクチンの予約管理システムを作った医療関係の方がいました。
手動で行っていた予約管理が自動化できれば、大きなイノベーションですよね。
そうです。しかも、管理すべき予約データって、そのサービスによって違うから、絶妙に既存のパッケージ化されたシステムでは使いにくかったりする。
それは経理が使う会計ソフトとかにも言えそうですね。
そうですね。担当者が毎日独自に行っているルーチン業務だったり、その業種、もっといえばその会社に依存している独自の業務であればあるほど、プログラミングが入ることで効率化が実感できるんです。
しかも、会社としてシステムを入れるよりもコストをかけず、素早くできるわけですね!
この予約管理が1日10分、週5回の仕事だとしたら、システムで自動化・効率化することで、年間2,600分もの時間が有効に使える。もし社員10人がこの仕事から解放されたら、相当に大きなリソースが空けられますよね。
APIの活用で、オペレーションの効率化を実現
もう少し実例を教えてください。
たとえばマーケターの方であれば、プログラミングを習得することで日々のデータ収集を自動化できます。Web広告の運用担当者にとって地道で面倒な作業である運用成果のチェックも、プログラミングを使いこなせたら一瞬で終わってしまいますよ。
運用データをスプレットシートやエクセルにひとつひとつ転記する必要がなくなるんですね!いまにゅさんご自身の業務では、プログラミングスキルをどのように生かしていますか?
僕の場合、APIを使って既存のシステムを自社向けにカスタマイズすることが多いですね。
そうなんですね。どのように活用されるのでしょうか?
たとえば、僕の運営するプログラミングスクールでは、授業の質問をSlack内で受け付けているのですが、Slack上のボタンを押すと、質問を入力するフォームが出てくる仕組みになっているんです。フォームには、質問のタイトル、質問の背景、質問に該当する動画など、僕らが回答するために必要な情報が入力できるようになっています。
Slackの有料プランであれば、「ワークフロービルダー」でこれと同じ機能を実現できるんですけど、スクールで使っているのは無料プランなので、自らコードを書きました。それこそ、いまSlackには140名近いユーザーがいるので仮に有料プラン(約1,000円/1名)を全員分導入したとなると、毎月14万円かかるわけですよ。1年で約170万円。これをコードで削減できたのは非常に大きいです。
ツール内で完結できれば、別途別のツールを用意したりオペレーションを分ける必要がなくなりますね。
このフォーマットはバックオフィス運用にも応用できます。たとえば、経理に経費の申請をする際、Slackのワークスペース内でフォームを起動させて必要な情報を入力し、担当者にメンションするだけで、特定のフォーマットで書類を送信することもできるんですよ。
初心者でも10からスタートできるのがPythonの魅力
AI・機械学習から業務効率化までカバーできる「Python」
ビジネスパーソンがプログラミングを習得するのにおすすめの言語はありますか?
Googleワークスペースを使っている企業であれば、専用に開発されている「GAS」(グーグルアップススクリプト)※ はおすすめです。プログラミングでいろいろなことをしてみたい方には「Python」がおすすめですね。
※「GAS」(グーグルアップススクリプト)とは・・・?
「Python」はTIOBE Softwareが公開している、プログラミング言語の人気ランキング、「TIOBE index」でも2022年1月に1位を獲得していますね。なぜ今、人気を集めているのでしょうか?
ひとつは、数年前から注目されてきたAI・機械学習のニーズにはまっているためでしょうね。でもPythonの魅力はそれだけではないんです。
というと?
先ほどもお伝えしたように、Pythonは汎用性が高い言語です。ベースになる書き方さえ習得すれば、AI・機械学習のほかにも、アプリケーションを作ってみたり、業務効率化に活用したりとプログラミングでできることの可能性が広がるんですよ。
なるほど。特定の業務だけにハマるものではないんですね。
たとえば、業務効率化というところで言えばVBAも人気ですよね。でもVBAってExcelの自動化に特化したものなので、VBAを学んだ人が「ちょっとAIもやってみよう」というわけにはいかないんですよ。
でもそれがPythonならできてしまう、と。
「Pythonで業務を効率化してみました」「ちょっとAIをやってみようかな。アプリケーションも作ってみよう」と、いろんな利益をまたぐことができる。
グイグイ活用していけるわけですね。楽しそう。
ライブラリを活用すれば、複雑な機能も数行のコードで実装できる
最初に学ぶ言語という観点で、非常にハードルが低いのもPythonの魅力です。
なぜハードルが低いのでしょう?
ほかの言語に比べてライブラリが非常に充実しているので、書く行数が少ないんです。場合によっては、ほかの言語で十数行ものコードを書かなくてはいけないことがたった数行で実装できたりもします。
プログラミングに触れてこなかった人でも、ライブラリがあることで0からじゃなくて1や10からスタートできるのですね。
そうですね。国内外の優秀な人たちが作った機能がまとめて提供されているので、アルゴリズムを理解するところから始める必要がないんです。キャンプ場で自ら薪を拾い集めるところから始める状態なのか、必要な道具が用意されていてあとは組み立てるだけなのか、というくらい違います。
Pythonのライブラリでおすすめのものがあれば教えてください。
用途ごとによく使われるものをご紹介すると、AI・機械学習には「scikit-learn」(サイキット・ラーン)、データ収集などに使うディープラーニングなら「PyTorch」(パイトーチ)、Excel自動化であれば、「OpenPyXL」(オープンパイエクセル)、自動化全般は「selenium」(セレニウム)あたりが有名ですね。 僕が使うとすれば実務の効率化なので、セレニウムが多いかもしれません。
ビジネスが変わる、真のプログラミング“実践本”
学ぶモチベーションを高めるケーススタディが満載
いまにゅさんが11月に発売された、『今日からできる! Python業務効率化スキルが身につく本 』について教えてください。
タイトル通り、ビジネスで活用できるPythonの実践本です。プログラミングをビジネスに生かして、ビジネス戦闘力の高い非エンジニアとして活躍されたい方にぴったりの内容になっています。
本書の構成でこだわった部分はありますか?
一般的には基礎を解説してからケーススタディに入る教本が多いと思いますが、学ぶモチベーションを上げるという意味でも、先にケーススタディを紹介して楽しい部分をメインにすることを意識しました。とはいえ0から学びたい方にも手にとっていただけるよう、2章目に基礎的な部分の解説を収録しています。
業務効率化に役立つテクニックがたくさん詰まっていると思いますが、「これも入れておきたかった!」ということはありますか?
テクニックではないのですが、前編でお話ししたようなプログラミングに対しての考え方は、もっとしっかり入れたかったんですよね。
教科書で覚える勉強ではなく、実践して身につけていくという部分ですね。
僕の好きな『アオアシ』という漫画に、「自分でつかんだ答えなら、一生忘れない」というセリフが出てくるんです。
これってプログラミング思考そのもので、書いたコードにエラーが出たら、それは「不正解」ではなく、「フィードバック」なんですよ。だからフィードバックをどんどん受け取っていく姿勢がめちゃくちゃ大事。
たしかに、トライした結果理解するのが一番ふに落ちますよね。
「コードを書かなくても解決できること」を前提にする
プログラミング学習にありがちだとおもうのですが、プログラミングに夢中になりすぎて手段が目的になってしまうことを避けるにはどうすればよいでしょうか。
僕もスクールの受講生の方によく話しますが、プログラミングはあくまで手段であって目的ではないんですよね。それを前提とした上で、プログラミングですべてを解決しようと思わないというのがひとつあると思います。
意外な答えです。
実際、自分でプログラムを書かなければいけないケースよりも、世の中にある無料のツールで解決できるケースのほうがめちゃくちゃ多いんですよ。だから、自分でコードを書く以外にも課題解決の選択肢があるというスタンスでいれば、手段が目的になることは防げるし、プログラミングを使った新たな課題解決のアイデアも浮かんでくると思います。
ありがとうございます。最後に、いまにゅさんの書籍でプログラミングを学ぼうとしている方にメッセージをお願いします。
プログラミングって、学んで終わりじゃ意味がないんです。本書を読み終えた方は、「スタートラインに立った」という認識で、ぜひ実際の業務に役立ててみてください。
〈取材後記〉
「プログラミングは実践あるのみ!どんどん手を動かすことで応用力が身につき、この技術が何に使えるかと考えるようになるんです」と目を輝かせて語ってくれたいまにゅさん。
プログラミングで業務が効率化・自動化できるということ自体、知らなければ出てこない発想。だからこそ、プログラミングを学んでいるだけで、ビジネス戦闘力で差をつけられるんですね。春から新社会人になる方にも、ぜひ参考にしてほしいお話でした!
【関連リンク】
code4biz:https://code4biz.jp/
いまにゅのプログラミング塾:https://youtube.com/@imanyu_programming
いまにゅさんTwitter:https://twitter.com/03Imanyu
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