
アイドルや声優と触れあっても大丈夫!?バーチャルイベントプラットフォームとしての「cluster」の舞台裏
「cluster」をご存知でしょうか?
「cluster」は、VRの多種多様なワールドを楽しんだり、イベントに参加することができるバーチャルSNSです。

もちろん、参加するだけではなく、自作のアバターやワールドをアップロードしたり、イベントを主催することもできます。
最近では、「バーチャル渋谷」や「バーチャルハマスタ」、「ポケモンバーチャルフェスト」が話題になりました。
アンドエンジニアが今回取材したのは、そんな「cluster」を運営しているクラスター株式会社の代表取締役の加藤さん。
バーチャルイベントの一大プラットフォームとしての「cluster」の表舞台と舞台裏を、加藤さんに直撃しました。

バーチャルイベントはリアルイベントよりも距離が近い!?

冒頭から不躾な質問で恐縮なんですけど、こんなご時世でありながら、「cluster」、ぶっちゃけ大盛況ですよね?

ですね。 本当にありがたい限りです。 「cluster」の登録者数もかなり増えました。

やっぱりそうなんですね! 私自身、「cluster」で8月10日から複数日開催された「ソードアート・オンライン アリシゼーション WoU - Virtual Meeting」に、参加してみたんですよ。 演者さんが客席側に紛れ込んでいたり、ワールドが作中の舞台まんまだったりと、内容ももちろんなんですけど、このイベントの体験そのものがとても楽しかったです!


ありがとうございます。 イベントを開催する側からすると、1000人の方に参加いただくだけでも大変なんですけど、このイベントには、数万人の方に、1か所に集まって、参加いただけたんですよ。

バーチャルイベントなのにすごい! ここまでいくと、もはやリアルイベントでは?

いや。それは違いますね。

(違った...。)

バーチャルイベントなので、リアルイベントでできることをそのままやっても絶対面白くないんですよ。 だからこそ、バーチャルイベントじゃないとできないことをやっているんです。 色々あるんですけど、その最たる例として、先に紹介いただいたイベントでも、警備員、いなくなかったですか?

「SAO アリシゼーション WoU - Virtual Meeting - ラース・コンソール」先の「SAO アリシゼーション WoU - Virtual Meeting -」の会場にもなったワールド。画像の子は警備員じゃなくて、筆者の会社のバーチャル従業員ゴリ沼りうさん。 (アンドエンジニア編集部が「cluster」で撮影)

確かに!特にライブとかのリアルイベントだと、演者さんの安全のために絶対いるはずなのに! おかげで、バーチャルなのにめっちゃ距離が近かったです!

そうですそうです。リアルだとどうしても難しいけど、バーチャルが故に、距離が近いという体験ができるんです。 もみくちゃになっても、手が触れる位置にいても、なんなら身体が重なる位置にいても大丈夫なんですよ! 「cluster」の運営をやって気づいたんですが、これは、本当にバーチャルイベントの大きなメリットだなと思います。
ボトルネックは膨大な数のアバターの描画。

そういえば、先の「SAO アリシゼーション WoU - Virtual Meeting」に、私は手持ちのiPhoneXRから参加させていただいたんです。 スマートフォンからアクセスするVRコンテンツであるうえに、同時アクセス数も多いから、ラグが起きたり、途中で落ちたりするのかなと思っていたんですが、それが全然ない。 これってどうやって捌いているんですか?

まず、リアルタイム通信については、弊社がオリジナルで作っているんですよ。 そのうえで、処理における一番最初のボトルネックとなるアバターの描画については、数十とか数百人で表示は切って、残りは他のユーザーからは身体が見えなくなる、ゴーストという形式にしています。

確かに、10000人が参加するイベントで10000アバター表示されたら、スマートフォンなんて描画に耐えられなさそうですよね。

そうなんですよ。プリミティブな四角形、サイコロみたいなオブジェクトを10000個描画するだけでも結構えげつないので。

あれ?見えなくなるだけってことは、つまり、別のインスタンス立てて、同じイベントの違う部屋にアクセスさせているというわけではないんですか?

いえ。裏でサーバーは分けているんですが、基本的には1か所に集まっていただいているんですよ。 だから、ユーザーにとっては、同じ空間にいるようには感じていただけると思います。


ただ、この仕様は苦肉の策ではあるんですけどね...。

え?同じ空間にいれるの、めちゃくちゃすごいと思ったのに...。 これが苦肉の策ってどういうことですか?

今は、早く入室したらちゃんと身体が表示されて、遅く入室したら身体が表示されなくなる仕様なんですよ。 だから、「ゴースト状態になって身体が見えない。演者さんから認識してもらえないのは寂しい」という意見をいただくことが多くてですね。

あぁ、なるほど。それは分かる気がします。

理想は、全アバターを表示できることなんです。 難しくはあるんですけど、技術が発展していけばそのうちできるようにはなると思うので、チャレンジしたいと思っています。

そうなったら、熱量が凄まじくなりそう! 一方で、いち参加者としては、他人のアバターが10000人分も描画されたら、邪魔だと思ってしまいそう。

そういう観点もあるので、難しいところではありますよね。
バーチャルイベントの、舞台裏としての「cluster」。

もっとエンジニアっぽい記事にしたいので、他にも、技術や機能の裏話、ありませんか?

そうですね。文字通りの舞台裏の話になるんですけど、そもそも、バーチャルイベントを運営するためのシステムって、実は、世の中にあまり存在してないなと思っていてですね。

でも、「FORTNITE」のなかではライブが行われたり、バーチャルイベントとは少し違う文脈かもしれませんが、「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」や「アイドルマスター シャイニーカラーズ」ではゲーム内で映像配信のイベントをやっていますよ。



あとは、「VRChat」や「NeosVR」なんかでも、時折バーチャルイベントが開催されていますよね。


そうですよね。もちろん、こうした事例があることは承知しています。 ただ、イベント参加者が見えている以上に、イベント運営に求められる機能って、実は色々あるんですよ。

ほうほう。例えばどんな機能がありますか?

例えばですけど、こんな感じのプロカメラマンモードっていうのがあります。 これは、映画館のパブリックビューイングでも使えるようなプロっぽいカメラワークを、コントローラーを使って、リアルタイムに実現できるんです。 結果として、FPSが得意な社員がカメラマンを担当したりします。


めちゃくちゃかっこいい! しかも、プロのカメラマンにわざわざお願いする必要もないんですね。

そうなんです。それに、リアルイベントだと、カメラって数百万円とか数千万円かかったりするんですけど、それが980円の市販のコントローラーでも大丈夫なんです。

銀行員が泣いて喜ぶレベルのコストカットだ!

あとは、演出やサウンドをウェブの画面から操作できたり、イベント用にエモーションを追加したりもできますね。 逆に、アバターやエモーションを制限したり、参加者が舞台には上がれないように制限することもできます。 あとは、JASRACとNexToneとの包括契約を行っているので、音楽の権利については、利用者側での個別の契約や利用料の支払いが不要なんですよ。

痒いところまで手が届きすぎてる...。

こういうところは、イベントの運営者の方に、喜んでいただけていると思います。 なので、先程仰っていただいた通り、他のゲームなどのプラットフォームでも、もちろんバーチャルイベントを開催することはできるんですよ。 ただ、0から運営していくのは相当な手間と時間とコストがかかるんです。 だからこそ、「cluster」ではそういうところが吸収できるので、そこがひとつの強みだと思っています。
「cluster」はインターネットに熱狂感を乗せる

突然ですけど、私、プロ野球では横浜DeNAベイスターズなんですよ。 だからですね、コロナウイルス禍でなかなか外出が億劫になってしまう今、「バーチャルハマスタ」のイベントには本当に感謝しているんです。


ありがとうございます! でも正直、動作環境にもよるかと思いますが、テレビ中継を見てるほうが、きれいに動画みれるじゃんって思いませんでした?

ソ、ソンナコトナイヨー...。 それに、なんか「動画で見ればいい」というのは、少し違うのかなって。

そうなんですよ!スポーツ観戦や音楽ライブのイベントで、わざわざ現地に行くのは、ただの情報としてイベントを観るためじゃなくて、 そのイベントを体験して、熱狂感を感じるためだと思うんですよね。 だからこそ、ああいう形で、「バーチャルハマスタ」をやらせていただきました。

確かに思い当たりますね。体験として、とても楽しかったです!

私が結構思っていることとして、今までのインターネットって本当にITだったと思うんですよ。 文字通りのインフォメーション・テクノロジーで、事象を情報として伝達するために、デジタル化、すなわち、抽象化が必要な技術だったんです。 SNSでのコミュニケーションなんかは、その最たる例じゃないでしょうか。


(会話の偏差値がめちゃくちゃあがってる...。)

その抽象化のなかで、無駄な部分として削ぎ落とされる情報のひとつが、熱狂感なんですよね。 だからこそ、「cluster」では、これまで削ぎ落とされてきた無駄な部分を、インターネットに乗せることにトライしています。

なるほど。そういえば、「cluster」にはサイリウムを振れる機能もありましたね。 元オタクとして、この機能が大好きなんですけど、今思うと、この機能も熱狂感とかライブ感を生み出してくれるなと。

「『SAO アリシゼーション WoU - Virtual Meeting - 展示ワールド』でサイリウムを振る」サイリウムを振って応援すると楽しい!負けないでキリトくん!!! (引用: ワールドのページ)

ありがとうございます。 リアルな音楽イベントでもサイリウムは欠かせないので、やっぱり、サイリウムは絶対欲しいという思いがあって、実装に至りましたね。

そうだったんですね。 そもそも、こうした熱狂感についての気づきを得るに至った、何かきっかけみたいなものってあるんでしょうか?

そうですね。今でこそ、コロナウイルス禍で多くの人が引きこもって、人に会えない辛さとか、イベントのありがたみみたいなものが、見えるようになってきたと思うんですよ。 でも、私はそれとは別に引きこもっていた時期があって、その時期にこういう集まってる感じとか熱量とか熱狂感みたいなものって、インターネットには乗っかっていないんだなって気づきました。

こうした、「まだインターネットに乗っていない体験をインターネットに載っけよう」というのは、「cluster」の基本思想なんです。 この体験というのが、先にもお話した、人と人とが集まっている感じとかなんですよね。 だから、「cluster」は「※cluster」っていう名前なんです
※ cluster … 「集まる」や「集団」を意味する英単語

おお。すごく合点がいきました! 今はまだバーチャルイベント参加者でしかないですが、いずれは熱狂感を生み出す側にもまわってみたくなりました。 その際には、何卒よろしくお願いします!

ライター

編集部オススメコンテンツ
アンドエンジニアへの取材依頼、情報提供などはこちらから