【後編】AIネイティブ世代が増えると、職場はどう変わる? Google検索世代が学ぶべきマインドセットとは
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【後編】AIネイティブ世代が増えると、職場はどう変わる? Google検索世代が学ぶべきマインドセットとは
金子 茉由
2024.07.08

前回のインタビューでは、日本最大規模のプログラミング学習を展開するライフイズテック社の讃井(さぬい)さん、樋口さんにAIネイティブ世代が過ごしてきた教育環境について伺いました。後編では、「AIネイティブ世代」を職場で受け入れるにあたり、企業側に必要となる視点や心がまえをご紹介します。

生成AIの活用スキルは読み・書き・そろばんレベルに

金子 茉由

2029年には、新課程の教育を受けた若者たちが新卒で入社するとのこと。「AIネイティブ世代」を受け入れていくにあたって、企業側はどのような意識を持つべきでしょうか。

樋口さん

まず、AIネイティブ世代を受け入れる手前の段階として、企業側が“この波にいち早く乗らなければ”という危機感を持っているかが大切だと考えています。肌感覚としては、2023年夏頃から生成AIを使うための社内環境の構築や、従業員の利用を促しはじめているお客様が増えた印象です。

樋口さん

弊社がお話をお伺いする企業の多くで、これまでのデジタル系研修には進んで参加しなかった方々も、生成AI関連のセミナーや勉強会には積極的に申し込んでいる、とお聞きします。そのくらい多くのビジネスパーソンにとって、生成AIの動きは関心の高いテーマであり、いわゆる“読み・書き・そろばん”と同じレベルで誰もが身につけておくべきスキルとして認識されているのだと思います。

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樋口さん

そのうえで、非AIネイティブ世代とAIネイティブ世代の違いを1つあげるとすると、前者は「Google検索世代」だということです。かれこれこの40年間、検索して答えや正解を探すということを続けてきたわけですね。だからこそ、生成AIを一度使ってみて、自分が思うような結果が生成されなかった時に、“なんだ、使えないな”という感覚に陥ってしまうという傾向も否定できません。

金子 茉由

たしかに、期待していた回答が得られずに“その程度なのかな”と思った経験があります。

樋口さん

そうなんです。もしかしたら、自分のほうがAIよりも有能だと思いたいなど、人間ならではの精神性も影響しているのかもしれないですね。いずれにしても、生成AIの特徴を理解して、どのように業務に活用できるのかを考えることが非AIネイティブ世代の私たちに求められることかと思います。

樋口さん

実際に2023年の夏には、経済産業省が提唱する「デジタルスキル標準」の改訂が行われ、生成AIに関する記載が加わりました。私たちの行動様式を変えるのはとても難しいことではありますが、マインド・スタンスの部分をアップデートしない限り、企業全体の競争力も落ちてしまうのではないでしょうか。

業務プロセス全体を俯瞰し生成AIの組み込み方を考える

金子 茉由

日々の業務場面で生成AIとうまく共存していくためには、どのような心がまえが必要ですか?

樋口さん

生成されたアウトプットに対して、きちんと人間がフィードバックをしていくことです。追加でプロンプトを入れたりといったことも含め、インプットスキルとフィードバックスキルを人間側が身につけていく。with AIという視点を持つことで、個人や組織のこれまでの成功体験を超えるスピード感で、高品質のアウトプットや成果が出せるようになるのではないかと考えます。

樋口さん

ちなみに、プロンプトの技術は単なる“野菜の切り方”を覚えるようなイメージに過ぎません。いちょう切りを覚えただけでは何の料理にもなりませんので、料理=みなさんの業務全体を見たときに、どこにその切り方を入れていく必要があるのかを考えられるようになることが重要です。当社としても、各お客様の業務における生成AIの使い方を考えていただくようなワークショップを実施したりしています。

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金子 茉由

そのようなワークショップや教育は、どの階層のビジネスパーソンに行うことが有効ですか?

樋口さん

まずは役員の方から始めたいというご相談が増えている印象です。生成AIの枠組みをご理解いただいたうえで、実際に手を動かしてもらいながら、生成AIを用いた商品企画などを行ってもらうイメージです。人間の頭だけでは思いつかなかったアイデアを生成AIに出してもらいつつ、そのアウトプットをどう使っていくかを考え、自社や業界のビジネスへの活用方法をみなさんで議論していただいています。

樋口さん

また、全社員向けの教育を行ったり、本年度は新入社員研修でも生成AIを組み込んだりする企業も増えました。他の技術に関してもそうですが、若いから使えるというだけではなく、リテラシー教育を受けているかどうかの違いが大きいと思っています。生成AIを使ったときに、人間がどう「評価」を入れていくかという思考はどの世代にも必要であり、アウトプットをうまく活用しながら調整していく力が求められているのです。

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樋口さん

仮にAIネイティブ世代の新入社員が職場に増えたとしても、その会社の事業や業務においてどのように活用していくかは、就業経験がない状態では分からないはずです。必然的に上司や先輩とコミュニケーションを取る必要が生まれますし、その際に受け入れ側が意図を持った的確なアドバイスができる状態になっていることが望ましいのではないでしょうか。

金子 茉由

マネジメント側の工夫も求められるということですね。

樋口さん

はい。生成AIにも得意、不得意がありますから、日ごろの業務プロセスのどの部分を生成AIに任せ、どこで人間が評価を入れるのか、業務全体のマネジメントの視点からとらえていく必要があるかと思います。また、プレイヤー側の人材も、自分の仕事設計全体のなかで、どう生成AIと役割分担をしていくかを考えて、生成AIと協働できるになると、困った時にChatGPTやCopilotに頼るだけでは得られない成果を獲得できるにようになるでしょう。

デジタルイノベーターの創出を目指して

金子 茉由

生成AIの浸透により、今後の教育はどのように変わっていきますか?

讃井さん

樋口の話にもあったように、さまざまな業界の仕事ですでにAIの活用が進んでいます。同時に、社会ではAIの使用有無ではなく、創出した成果によって評価がなされます。これまでの教育は、覚えた知識の正確さが問われる「知識習得」や、教室内に閉じた探究型教育に代表される「知識深化」がゴールとなっていました。今後はより実社会の課題をふまえた「知識創造」や「社会創造」の部分に学習の軸足が移っていくはずですし、AIを使ってより深い学びを実現することが求められていくでしょう。

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讃井さん

我々も実際に中高生向けの教育を行うなかで、AIネイティブ世代のすごさは身をもって実感しているところです。例えば、AIでゲームプログラミングを行うコースでは、最初にゲームの作り方の初歩を学んでもらったら、すぐにAIを使って開発に入ります。画像生成AIを用いてステージの雰囲気を変えたり、音楽生成AIを使ってBGMを作ったり。

讃井さん

また、「●●の動作をさせたい」と考えたときに、どんなプログラムを書くべきかAIに相談をすれば、すぐに示唆をもらうことができるため、自分がイメージするものをスピーディにたくさん作れるようになります。通常は企画を考えて音楽を作ったりCGを作ったりプログラムも書いたりと、数週間かかるようなものがたったの数時間でできてしまうんですよ。完成物のクオリティやオリジナリティも桁違いに素晴らしいですね。

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金子 茉由

すごいですね!

讃井さん

しかも、子どもたちもしっかりと成長していて、1日体験会を経て「AIを使って課題解決ができそうだ」とか、「世界を変えられそうだ」という非認知能力が向上するなど、AIリテラシー以外の能力も高まっているんです。結局は、大人がきちんとしたリテラシー教育を提供できれば、子どもたちはしっかりと学ぶことができます。技術面だけでなく、自己効力感や課題解決能力など、ポジティブな学習効果が見られるのです。

讃井さん

さらに、よく教育現場で懸念されるような、「子どもたちは生成AIの言うことを鵜呑みにするのでは?」「AIを利用すると自分の頭で考えなくなるのでは?」という事態もほとんど見られませんでした。むしろ、目的を持ってAIを活用することで、批判的な思考がベースとなり、いまいちなアウトプットが生成された場合に問いかけ直すなど「AIとの対話」を始めるんです。生成されたアウトプットをたたき台にしながら、ときに批判的に思考しつつ、もっと良いアイデアを創り出していく感覚です。

金子 茉由

なるほど、そのようなポジティブな側面にもっと注目が集まるといいですよね。

讃井さん

そうですね。大人がどういう学習体験や創作体験をデザインするかによって、子どもたちのAI利活用の仕方も変わってきます。子どもたちの可能性に低い天井をつけなければ、AIネイティブの可能性は大いに伸びるのではないかと感じます。

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金子 茉由

最後に、今後の展望を教えてください。

讃井さん

『Society 5.0』に求められる人材は「デジタルイノベーター」。つまり、自ら課題を設定して、次世代のテクノロジーを活用し、社会を良くするアクションまで実現できる人材だと考えます。このような人材を増やしていくこと。そのための経験を提供し、アウトプットだけでなくアウトカム、すなわち社会の変化まで創造できる人材を育成していくことを目標にしながら、引き続きより効果的なAIとの付き合い方を世の中に提案していければと思います。

ライター

金子 茉由
12年勤務した大手人材会社を退職後、フリーランスライターに転身。会社員時代からIT業界のクライアントとの相性がよく、さまざまなIT系企業の採用活動支援や、エンジニアのスキル開発・育成支援業務に携わってきた。いまの一番の関心ごとは、子ども向けプログラミング教育の未来について。
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