大手企業に勤めるAIエンジニアであり、YouTubeで40万人以上、TikTokで50万人以上のフォロワーを持つインフルエンサーであり、ヒューマンビートボックスでライブに出演するパフォーマーでもあるTOMOKIN(@TOMOKIN_Voice)さん。
前編では、パラレルキャリアの築き方についてお話を伺いましたが、後編のテーマはAI。
TOMOKINさんには、AIエンジニアとしてAIの基礎から最新事情までをお聞きしていきます。
▼前編はこちら
そもそも、ロボット・AI・生成AIはどう違う?
基本的すぎてお恥ずかしいのですが、そもそもAIとロボットの違いがよくわかっていません。
ロボットは、定型作業を自動で繰り返してくれるものです。答えを導きだしたり、何かを作り出したりすることはありません。
一方のAIが、「ビッグデータ(従来のシステムなどでは記録や保管、解析が難しい巨大なデータ群)を活用する」というのは言葉の知識として知っていますが...。
AIは、蓄積されたビッグデータを元に答えを導くので、判断が必要な業務をこなせるのです。経理の計算をするのがロボットだとしたら、経理担当者の役割をできるのがAIです。
最近よく聞く「生成AI」はまた違うんですか?
AIはビッグデータから答えを導いていますが、生成AIはパターンや関係性を学習して新しいコンテンツを創造することができます。何もないところから、と言うとさすがに大げさですが、生成AIは従来のAIに比べると少ない条件や手順で使えるのが特徴です。
ChatGPTの登場で、生成AIは爆発的に話題になりましたね。試すのが面白いのは実感としてありますが、今までの生成AIとの決定的な違いがあったんでしょうか?
やはり、一般の人にも使いやすいツールであることでしょうね。今までは必要な答えを導くためのチューニングが難しくて、そこにエンジニア力が必要だったんです。ChatGPTは、それがない点が大きいです。
今フリーランスにならないのは、AIのキャリアを追求するため
TOMOKINさんがAIに触れたきっかけは、入社6年目のときのアメリカへのAI研修だとおっしゃっていましたね。社内公募で立候補されたと。
2017年から2018年にかけてですね。
5~6年前というと、日本ではまだそれほどAIという言葉は普及していなかったような気がします。アメリカではどうでしたか?
アメリカでは2017年当時、AIはすでにホットなジャンルとして扱われていましたね。今からなら、日本で第一人者になれる可能性があるとも感じました。
音楽やYouTubeと同様、偶然の出会いを自分のものにしていくTOMOKINさんの力がここでも発揮されたんですね。
ざっくりでいいのですが、AIエンジニアを目指すためのロードマップはどんなものでしょう?
まずはプログラミング言語のPython(パイソン)を学び、Pythonのライブラリを使って機械学習を自分で作ってみることです。それから、AIはとにかく専門用語が多いので、専門書を買って何度も読むことも大事です。
おすすめの専門書があれば教えてください。
『AI白書』と『人工知能は人間を超えるか』、この2冊はおすすめです。
・「AI白書 2023」AI白書編集委員会 - KADOKAWA
・「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」松尾豊 - KADOKAWA
ロードマップで言うと自分の場合は、会社がAIを投資する価値のあるジャンルと位置付けていることで、仕事としてAIを勉強できる環境にあります。大手だと、その傾向は強いし、強みですね。
パラレルキャリアを展開しやすいフリーランスではなく、会社員を続けているのもそれが理由ですか?
そうですね。会社員であることにこだわっているわけではないですが、AIエンジニアとしてのキャリアを追求するには、今はこの会社にいるのがベストだと考えています。
開発業務にとどまらない、AIエンジニアの仕事
2021年、AIエンジニアの資格試験「AWS Certified Machine Learning - Specialty」に合格
またそもそもの話になってしまうのですが、AIエンジニアは何をする人なんでしょう?具体的に何をする人なんでしょう?
例えばインフラエンジニアなら「サーバーやネットワークなどのIT基盤を扱う人」など、「〇〇エンジニア」という言葉にはそれぞれ定義がありますよね。AIエンジニアは、どうなるのかなと。
まず浮かぶのは、クライアントの求める生成AIのモデルを作る、生成AIを組み合わせる、といった、AI技術を使った開発の仕事ですね。でもほかにも、企業がAIを利用するにあたってのガイドラインを作るのもAIエンジニアの仕事になると思います。
たしかにガイドラインは重要ですね。「AIを活用したい」とは考えていても、具体的に何をどうすればいいのか、どんなルールを守ればいいのかまではわからないという企業は多いと思います。
他にも、「AIについて説明する」というのもAIエンジニアの仕事になってくると思います。企業がAIやAIを組み込んだサービスを活用するにあたって、説明する人も必要になるはずですから。
なるほど。どんなAIがどう使われているか、どこまでがAIなのかといったことがわからないと、使う側は不安ですし、正しく使いこなせないことも起こりそうですもんね。
あとは、フォローアップですね。AIが使っているデータはだんだん古くなっていきますので、そのままではAIの精度が下がっていきます。そろそろ追加学習が必要だ、といったフォローアップもAIエンジニアの仕事になると思います。
AIエンジニアの仕事、幅広いですね。「AIを使えるエンジニア」と聞くだけでは全然ピンと来なかったものが具体的にイメージできるようになりました。
精度が上がり、規制も進む。AIがますます活用される社会へ
Chat GPTで遊んでみるのは楽しいですが、誤情報も多いですよね。データが古いということ以前の問題も多くて、重要な場面では使えないのではないかと感じてしまいます。
現状はそうですが、これからはそういったハルシネーション(事実に基づかない内容)の少ない精度の高いAIが出てきて、AIの活用範囲はどんどん広がり、「人にまかせるのではなくAIにまかせる」といったことも増えていく見込みです。
わたしはライターという職業柄、デザインや写真といったクリエイティブな仕事をしている人が周りに多いんです。AIの本格的な活用には期待はしていますが、やはり、権利関係が心配です。
権利関係については、今後規制が進んでいくと思います。特にデザインについては、商標登録もあって類似性がわかりやすいです。ただ文章に関しては、ちょっと難しいかもしれないですね。
Web上の文章に関しては人の手でも簡単にコピペできますしね。文章のコピペ問題は、AIが作ったかどうか以前の話かもしれません。
「AIについてどれだけ考えられるか」が、今後の道を分ける
AIを活用したい気持ちはあっても、具体的なイメージが湧きづらい人は多いと思います。今後進化していくAIを、仕事に採り入れるコツはありますか?
まずは、自分の仕事で、「ここが非効率だ」「これの負担が大きい」と感じる部分にAIを使えないかと考えてみることですね。
なるほど。ただ、AIの仕事かロボットの仕事か、判別できる自信がないです。
効率化や自動化を考えた結果、AIではなくロボットの仕事だったということもたしかに多いです。でも、ルーチンワーク的でありながら考えなければならない要素のある仕事や、プロの相談役を雇いたいような分野の仕事で、AIを活用できる可能性があります。
最新のAI技術を活用すること自体が目的になってしまいがちですが、AIの活用ではなく仕事の効率化が目的ですもんね。結果的にAIでなかったとしても、仕事を最適化することが重要ですね。
AIに関しては、「AIに仕事を奪われる」という話と「AIで仕事がラクになる」という話の両方があります。AIに仕事を奪われる側になるか、AIを使う側になるかの差は、どこで生まれるのでしょうか?
AIを使う側になるかどうかは、AIの仕組みや活用方法についてどれだけ考えられるかがで決まると思います。
常に自分ごととして考えて成果につなげる、非常にTOMOKINさんらしいお答えですね。今後AIエンジニアとして、TOMOKINさんにどんな出会いがあり、どんな方向へキャリアを積んで行かれるのか、発信を楽しみにしています。
【取材後記】
TOMOKINさんのお話を聞き、この時代に「AIはよくわからない」とスルーするのは危ないしもったいない、と再認識しました。AIを使える側になれるよう、能動的に考えてチャレンジしていく癖をつけていこうと思いました。
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