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ランサーズが始めたAI×働き方の研究室「Lancers LLM Labs」が気になる!“設計書のない開発”を主導する入江 慎吾氏に話を聞いた
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ランサーズが始めたAI×働き方の研究室「Lancers LLM Labs」が気になる!“設計書のない開発”を主導する入江 慎吾氏に話を聞いた

原田さつき
2023.10.18
この記事でわかること
ランサーズは「Lancers LLM Labs」でAIをどう活用する?
AIは働き方をどう変えて、どんな仕事をなくすのか。
「MENTA」開発者が考える、AIに淘汰(とうた)されない生き方。

クラウドソーシングサービスを提供するランサーズが、2023年7月、生成AI・大規模言語モデル(LLM)の活用方法を研究する専門チーム「Lancers LLM Labs」をスタートさせました。

チームの責任者であるVP of GenerativeAIに抜擢(ばってき)されたのは、過去にアンドエンジニアでもお話を伺ったオンラインでメンターをマッチングするサービス「MENTA」の開発者、入江 慎吾(いりえ しんご)氏。

エンジニア特化の学習プラットフォーム「MENTA」が繋ぐ”新時代”の師弟関係とは
失敗してもおいしい個人開発のススメ!「MENTA」設立者が語る、すべての開発者が'10年構想'を意識すべき理由

同プロジェクトが目指す、「AI時代の新しい働き方」と「人にしかできない仕事」について、入江氏にお話を伺いました!

ランサーズの新プロジェクト「Lancers LLM Labs」って、どんな取り組み?

生成AI×働き方の研究室が稼働。今、ランサーズが取り組む理由

原田さつき

ランサーズがこの7月にスタートした「Lancers LLM Labs」とは、一体どういうものなのでしょうか?

入江さん

一言で言うと、今話題の生成系AIを使って自分たちの仕事の生産性を上げたり、新時代の働き方にコミットする新しいプロダクトを開発しよう、という、生成AI専門の研究チームです。

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「Lancers LLM Labs」について説明する入江さん
原田さつき

なぜいま、このタイミングでプロジェクトが始動したのですか。

入江さん

コロナウイルスが落ち着いてきたり、生成AIが出てきたりと、いまは社会が新しい働き方を受け入れ、大きな変革を遂げるべきタイミングです。弊社としても、このタイミングは次の一手を仕込む大切な種まきの時期なんです。

原田さつき

具体的に、どのような研究を行っているのですか?

入江さん

大きな動きとしてはふたつあり、ひとつめは生成系AIの情報のキャッチアップですね。いま、生成AIがどんなサービスに活用されているのか、世の中のニーズにどこまで応えられているのかを研究しています。

入江さん

もうひとつは、自社の業務効率化に向けた開発です。社内でヒアリングしながら、生成AIの用途を見つけ、ツールとしてのクオリティを追求しています。

原田さつき

サービスとしてのリリースを目指すのではなく、社内の業務に特化したツールの開発を行うのはなぜですか?

入江さん

自分たちが作ったもののクオリティに自分たちが満足できれば、社外からも求められるサービスになると思っているんです。

今のAIに足りないのは“クオリティ”!本当に使えるものを世の中に

原田さつき

「今、求められる生成AIを使ったサービス」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

入江さん

一言で言うと、実用性だと思います。2023年の頭にChatGPTが話題になって、生成系AIやLLMというものが一気に世の中に知られました。

入江さん

企業の中でも、こうした人工知能を活用して業務の効率化をはかろうという意識は高まっています。

原田さつき

そうですね。

入江さん

でも、いざ活用してみようとすると、AIが自分たちの業務にどう役立つのかをイメージできている人は少ないんです。

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ラボが目指すクオリティについて説明する入江さん
原田さつき

たしかに、ChatGPTのような比較的用途がわかりやすい既存のサービスでも、一般企業に浸透しているイメージがないですね。

入江さん

実際に、業界別の平均をとると生成系AIを業務に活用している企業は約15%ほどしかないのだそうです。※1

※1 参考:株式会社野村総合研究所 日本のChatGPT利用動向(2023年6月時点)
原田さつき

こんなに話題になっているのに、それだけなんですね!

入江さん

話題だから使ってみたけど、「どう使えるのかよくわからないな」と思われてしまうと、たんなる流行り物で終わってしまいます。だから、プロダクトとしての精度を高めていくことで、ちゃんと使えるレベルのものを作る必要があると思っているんです。

「普通のサービスは作らない」 。Labs流の開発スタイル

原田さつき

具体的に「ちゃんと使えるレベル」とはどのようなことを目指しているのでしょうか?

入江さん

そうですね。例えば、弊社では毎年行われる社内研修ために、担当者が事前に資料を作成するのですが、これまではウェブリサーチでその年のトレンドや傾向のような差分をアップデートしていたんです。

原田さつき

時間がかかりそうですね。

入江さん

はい。そこでAIを活用することで、最新の情報を自動で集めるだけでなく、規定のフォーマットに整えて、わかりやすい文章に直し、資料に貼るだけの状態にしてくれるとしたらどうでしょう?

原田さつき

実用的です!でも、クオリティを追求しだすと、時間もそれなりにかかりそうですよね。「リリースに間に合わない!」ということもあるのでは。

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「Lancers LLM Labs」の開発スタイルについて語る入江さん
入江さん

それはないんです。というのも、現状ラボでは従来型のサービス開発のような開発期間を設けて設計書を作って…というフローをあえて踏まないようにしているので。

原田さつき

なぜでしょう?

入江さん

ゴールを決めると、今できることからしか発想できないんです。だいたい決まったものを作って、売上はどれくらいを目指して、という話になると、やっぱり普通のサービスしかつくれませんよね。

入江さん

もちろん、それはそれで必要なことですが、僕ら「Lancers LLM Labs」がとるべきスタイルではないと思っています。だから、いまのところは開発目的や目標を決めず、いろいろなアイデアを自由に試しているところなんですよ。

原田さつき

なるほど、だからラボ(研究室)なんですね!なんとなく「Lancers LLM Labs」のことがわかってきました。

「まだ8時間働いてるの?」AI時代の働き方を考える

「生産性=働く時間」の時代は終わった!?

原田さつき

ラボが動き出す動機として、ランサーズ社内での、具体的な働き方の課題はあったのでしょうか?

入江さん

いいえ。弊社が企業として働き方に課題を持っていたからラボが生まれたのはなく、働き方に問いかけ、新しい働き方を提案してきた企業として、いち早く生成AIを活用したアクションを始めたというほうが近いですね。

入江さん

でも、個人的には今の働き方に課題を感じることが多々あります。

原田さつき

例えばどんなことでしょうか?

入江さん

僕が一番言いたいのは、この時代に労働時間の基準が「1日8時間」になっているのはおかしいんじゃないか、ってことですね。

原田さつき

厚生労働省が定めた労働時間に関する制度※2ですね。たしかに、「使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。」という規定を受けて、日本企業の多くは勤務時間を8時間に定めています。

入江さん

過去にはより長い時間働き続けた時代もあったのですが、アメリカのフォード・モーター社が1922年に週5日40時間勤務制を導入したことをきっかけに、「1日8時間」が世界のスタンダードになったんです※3。

原田さつき

ちょうど100年ほど前のことなんですね!

入江さん

そうです!インターネットやAIが発達している現代に、100年前の働き方を続けているってどう考えてもおかしいでしょう?人間の集中力を考えれば、1日3、4時間、短い時間で集中して成果を上げる方が、絶対に効率的だと思うんです。

原田さつき

同席している編集部のスタッフが激しくうなずいています(笑)

やらないことを決めて、やることだけをやるために

原田さつき

では、労働時間を凝縮してより効率的に成果を出すことが「Lancers LLM Labs」の最終的な目標のひとつといえるのでしょうか?

入江さん

そうですね。人間がやらなくていい業務は、AIを使ってどんどんなくしていけます。やらなくていいことがなくなれば、その人の能力が本当に必要な業務に専念できる。そこまでやってくれるツールであれば、AIは本当に人をアシストできる実用的な存在になれると思っています。

原田さつき

勤務時間が凝縮されることで、たんに生産性が上がるだけでなく個々の能力が研ぎ澄まされるということも言えそうですね。

入江さん

弊社は「個のエンパワーメント」をミッションとして掲げています。僕らラボは個人の能力を増幅させる装置としてAIを使って、個人のエンパワーメントを果たし、ひいては社会の、日本のエンパワーメントにつなげることを目標のひとつにしているんです。

原田さつき

適切な労働時間以外では、「個のエンパワーメント」するために何が必要だと思いますか?

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入江さん

一番必要なのは、人に会ったり、経験を積んだり、本を読んでインプットしたりと、世界を広げて、人生を豊かにすることじゃないでしょうか。

入江さん

これからは単に作業スピードをあげるだけでなく、しなくていい仕事は全てAIに任せていく時代になります。そのぶん、人間にしかできない仕事は、人間の豊かな思想や感情が必要になってくると思うんです。

原田さつき

人生を豊かにするためにも、ライフワークバランスの見直しが必須ですね。

入江さん

僕自身も、かつては夜中まで働き詰めだったことがありました。でも今は、自分の時間を持つために、やらないことはスッパリ手放し、仕事をスリム化しています。1日、1日計画を立てて、その日やるべきことを整理して取り組むと、「できたこと」がはっきり目に見えるので、自分の成長が感じられて充実感がありますね。

原田さつき

生産性が上がれば、働き方が変わり、人生が豊かになる。人生が豊かになれば、さらなる生産性アップや自分のアップデートにつながる、という好循環が生まれるのですね!

好きなことと価値を結びつける。“研究者”のススメ

「弱いAI」は脅威になる?AIが消す仕事と効率化する仕事

原田さつき

すでに議論し尽くされている話題ではありますが、AIと働き方を研究する入江さんは、「AIは人の仕事を奪うのか」という疑問にどう答えますか?

入江さん

AIって、考え方として大きく二種類に分けられていて、ひとつが意志を持って人間をコントロールする「強いAI」、もうひとつが、人間の意志に沿って仕事をサポートする「弱いAI」と言われているんです。

原田さつき

聞いたことがあります。人間の仕事を奪うのは、「強いAI」なんですか?

入江さん

そうとも限りません。少なくとも今の段階で、AIが意志を持って何かを判断するということは、個人的には難しいと思っています。つまり、「強いAI」はまだ実現していないフィクションの話です。そして、今世の中に出てきている「弱いAI」は、すでに人の仕事を奪っています。

入江さん

とくに顕著なのがクリエイティブの業界ですね。今実際に起きていることで言えば、ゲームやアニメの業界では、声をインプットするだけでAIが声優のように演技をします。背景のような画像をAIが生成すれば、アニメーターの仕事は減るし、エキストラの役目も無くなります。

原田さつき

たしかに、イラスト生成AIについてもこのような課題が議論されていますね。対策はあるのでしょうか?

入江さん

今あげたような仕事に関しては、実際にAIの仕事の精度が上がっていけば個人レベルでは対策しようがなく、業界でルールを作り、クリエイターを保護していくという形になると思いますね。

入江さん

もうひとつ言われているのが、直接的に仕事を奪われるのではなく、仕事をスリム化することで現場に必要な人材はより絞られるだろうという問題です。AIによる効率化が成功し、エンジニア1人がこれまでの3倍の仕事をこなせるようになれば、その分人は減っていくので。

原田さつき

個人のエンパワーメントを上げるためにAIを使うことは、雇用を減らすことと表裏一体なのですね。

入江さん

ただ、IT業界においてはAIによって仕事が消えるばかりではなく、AIが出てきたことで新しい仕事が生まれていくと思っています。AIコンサルだったり、企業にチャットボットを入れる業務だったり、AIを使いこなすために必要な仕事は次々出てくるのではないでしょうか。

自分をブラッシュアップできる人材は消えない

原田さつき

エンジニアという仕事において、AIが仕事をスリム化しても、“消えない人材”になるためには何が必要ですか?

入江さん

ひとつ言えるのは、AIを避けるのではなくどのように使えるのかをどんどん研究していかなくてはいけないということですね。

入江さん

そして、やはり人生を豊かにすることです。AIを有効に活用するには、人間の考える力が不可欠です。常にアンテナを張り、インプットして自分をブラッシュアップしていけば、AI時代も必要とされるエンジニアになれるのではないでしょうか。

原田さつき

ありきたりな表現ですが、前向きに努力し続けることが大切なんですね。

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AI時代も消えない人材について語る入江さん
入江さん

努力と考えず、楽しんでしまえばいいと思うんです。「これやりたい!」と思う気持ちに素直になって、いろんな場所に行ったり、いろんな人に会ったりして、全力で自分の好奇心を育てる。業務効率化によって時間ができた時に、そうやって動けるかどうかが大きな差になるんじゃないかなと。

原田さつき

入江さんご自身も、ラボでの仕事を楽しんで取り組まれている印象を受けます。

入江さん

そうですね。僕は好きなことだけやらせてもらっているので、恵まれていると思います。ただ、自分だけ楽しんで終わってしまったらただの趣味で終わってしまいますよね。

入江さん

仕事に必要なのは、好きなことを突き詰めた先に、社会にとって価値あることに結びつけるバランス感覚だと思います。

10→100よりも、0→1を追いかける働き方が好き

原田さつき

入江さんは専門学校卒業後に、制作会社勤務、フリーランスを経て、2018年にMENTA株式会社を立ち上げ、AIを使ってプログラミングを教えたい人と学びたい人のマッチングサービス「MENTA(メンタ)」を開発・提供されていました。ご自身で育てたサービスを手放し、「Lancers LLM Labs」の責任者になるまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

入江さん

そもそもMENTAを開発したのは、長年受託開発をしてきて、自分のサービスを作ってみたいという発想からだったんです。

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入江さん

プログラミングというところに絞ったのは、当時プログラミングスクールが流行していたけれど気軽に通えるものがなかったこと、自分自身が独学で学ぶ中で会社の先輩がメンターとなってくれたことが大きかったと思います。

原田さつき

世の中的なニーズとご自身が感じた課題感が一致したということですね。

入江さん

その後、サービスが拡大していく中でMENTA株式会社の運営に限界を感じた時、ランサーズの事業内容と自分が希望する働き方ができる点に魅力を感じて、ランサーズの子会社としてMENTA株式会社をグループ化するという選択を取りました。

原田さつき

「Lancers LLM Labs」を立ち上げるまでは、どのような業務をされていたのですか?

入江さん

最近開発したのは、「PILE(パイル)」というプログラミング学習アプリです。これは、私自身が生成AIを実験的に使ってみたいと思い企画したサービスで、AIが作った問題を、スマホで問いて学習できるものです。MENTAよりもより基礎的な部分をフォローしていて、プログラミングの入り口を楽しんで味わってもらえるように設計しました。

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好奇心を追いかけてたら、AIの研究が仕事になった

原田さつき

このころから、生成AIに興味を持たれていたんですね。

入江さん

そうですね。生成AIについて社内でいろいろと発信していたら、ラボの立ち上げを任されたという経緯です。

原田さつき

挑戦を決めた理由はなんだったのでしょうか?

入江さん

3年ほどランサーズで働いてみて、個人でやるよりも関わる仕事の範疇(はんちゅう)が広くなったと言うことは感じていました。

入江さん

でも、僕はすでにあるものを成長させる1→10(イチジュウ)の仕事はあんまり得意じゃなくて、何もないところからサービスを生み出す0→1(ゼロイチ)の仕事の方が好きだったんです。そんなときにラボの話が浮上して、ぜひやってみたいと思いました。

原田さつき

今現在、ラボはどのような座組みで動いているのでしょうか?

入江さん

現在、メンバーは6名います。

原田さつき

それぞれどんな役割なのでしょうか?

入江さん

僕はチームの責任者である「VP of GenerativeAI」として動き、チームが何のためにどう動くか、という意思決定を行います。全体としてどのようなことをやるか決め、あとはサーバー、フロント、デザインなどわかれて開発を進めています。

原田さつき

AIへの好奇心や探究心を持った研究者が集まっているのですね!今後のアウトプットが楽しみです。本日はありがとうございました。

◆ランサーズ株式会社 ( LANCERS,INC. ):https://www.lancers.co.jp/

ライター

原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、2018年にフリーランスのライターに転身。取材記事から広告、会報誌の編集や記事ディレクションまで、ライティング周りの幅広い業務に携わる。現在は渋谷のWEB制作・マーケティング会社にデスクを置き、日々エンジニアに囲まれて仕事をしている。
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