初心者向けのプログラミング学習サービスとして、100以上の国で利用されている『Progate(プロゲート)』。2014年にサービスが開始し、今では300万人以上のユーザー数を誇っています。
そんなProgateに2022年11月、新サービス『Progate Path(プロゲートパス)』が登場しています。 『Progate』との違いは、実務に近い経験をできるカリキュラムになっていること。学んだことを実際の現場でどう生かせるのか見通しづらい、実務スキルのなさゆえに採用で不利になる、という問題を解決するのが狙いです。
Progate Pathの具体的な内容は、プログラミングを学んだ経験のあるアンドエンジニア編集部員が体験して前回の記事にまとめています。
今回の後編では、Progate創業者でありCEOの加藤 將倫さんとProgate PathのPdMである福井 達也さんに、Progate Pathのリリースに至る経緯や今後の展望をお伺いしました。
加藤 將倫氏
1993年愛知県生まれ。小中学校時代をオーストラリアのパースで過ごす。 東京大学工学部在学中の2014年7月にオンラインプログラミング学習サービスのProgateを創業。 『Forbes 30 Under 30 ASIA 2018 (Forbesが選ぶアジアを代表する30才未満の30人)』に選出される。
福井 達也氏
アドテクノロジー関連企業にてエンジニアとしてシステムの開発・保守・運用に携わる。 2019年4月にProgateに入社し、「Progate」のコンテンツや「Progate Journey」の制作に携わる。 現在は「Progate Path」のPdMとコンテンツリードを担当し、企画開発を進めている。
門戸を開くProgate、ゴールが見えるProgate Path
今回はProgate Pathのお話をメインに伺いますが、まずはProgateからProgate Pathに至る経緯をお聞かせ願えますか?
Progateは2014年にスタートアップとして立ち上げたサービスです。最初はスタートアップやベンチャー界隈を中心に使っていただいていたんですが、2018年のProgateのアプリ版のリリースや、2020年頃のプログラミング義務教育化の流れの中で、より広い層に使っていただけるようになりました。
ユーザーが大幅に増えたことで、創業当初の課題だった「プログラミングの楽しさを伝えたい」「始めるのは難しくないことを伝えたい」といった部分が一定達成できるようになったのはすごくよかったです。
小中学校で必修化されたり、大学共通テストの科目になったりして、プログラミングは全員が身につけるべきといった空気もありますよね。素朴な疑問ですが、本当にみんなが学ぶべきなんですか?
選択肢が増えると言った意味では、誰もが一度触れてみることはとても大事だと思っています。その上で、触ってみて合わないなと思った人が我慢して嫌々学ぶ必要まではないと思います。ただ、プロダクトマネージャーとかWebデザイナーとか、エンジニアに隣接する領域で働く人はプログラミングに触れておくほうが仕事はスムーズになるでしょうね。
子どもはどうでしょう?誰もがエンジニアになるわけではないですが、ITスキルは必要ですよね。
僕自身はプログラミングを始めたのが大学生になってからだったのですが、もっと早いうちに技術に触れることができていたら大きなアドバンテージになっていただろうなと思います。なのでエンジニアになるわけではなくても、子どもはみんな早いうちに一度触れて、選択肢の一つとして知ることができる機会があったほうがいいと思います。
話を戻しますと、2018年のアプリ化後、2020年からはコロナ禍ですね。リモートワークが広がったり、いわゆる“おうち時間”も増えたのでさらに伸びたのでは?
はい、コロナでオンラインでの学びが加速したことで、ユーザー数は一気に増えました。ただ、Progateのユーザーが増えた結果、プログラミング教育の難しさもより実感することになったんです。
プログラミング教育の難しさとは?
プログラミングを学ぶこととそのスキルを実務に生かすこととのギャップです。様々な層のユーザーが増える中で、何かを作りだしたり、エンジニアとして働いたりして世の中に価値を提供していくとなると、Progateだけでは足りないよねという声がより一層聞こえるようになってきました。そのことが、今回の新サービス『Progate Path』の構想につながっていきました。
Progateで学んだことを活かして、実務に近い経験ができるカリキュラムですね。企画からリリースまではどれくらいの期間でしたか?
2021年頃から企画して、リリースしたのは2022年です。
Progate Pathをより有用なサービスにするために、意識したことはありますか?
Progateは、プログラミングを学び始めるハードルを下げることに集中したので、学習の入口から設計しました。一方のProgate Pathは、学んだ結果を見通せることを重視したので学習のゴールから逆算して設計しています。そういう意味では、真逆のアプローチで企画されたサービスです。
実務スキルを身につければ、キャリアパスを見通せるようになる
Progate Pathのサービスを開発するにあたって、カリキュラムのレベルや内容はどんな風に決めていったんですか?
自分たちの原体験とユーザーの声を参考に決めていきましたね。順番としてはまず自分たちの原体験としてどんなことに困ったか、意見を出し合いました。とはいえ、今となっては自分たちの学習時の記憶が薄れていることも多いので、Progateのユーザーさんにヒアリングしたり、TwitterなどのSNSで聞いてみたりもしました。
すると、勉強したけど実務を経験する機会がない、志望企業があるけど募集要項が実務経験2年以上なので応募できない、といった声があることがわかりました。
Progate Pathのサイトにも「『最初の一歩』のその先へ」というキャッチコピーがありますが、プログラミングを学んだあとのキャリアパスが見通せない悩みは切実なんですね。
Progate Pathがあることで、エンジニアの道を諦めなくてよくなるとしたら画期的だと思います。
Progate Pathが定義する実務感=自由度の高い実装・評価ができること
Progate Pathで定義している「実務感」とは、どんなものでしょう?
Progate Pathでは、実務感があるというのは、解法に自由度があるということだと考えています。学習段階とは違い、実務は問題が解決すれば基本的にそれでOKです。なのでProgate Pathでは、正解にたどりつく道筋は自由である、ということを大事にしています。
でも実際の現場では、今起きている問題しか見なかった結果、別のバグを引き起こしてしまうこともよくありますよね。目の前の問題が解決すればそれでいいというわけでもないと思いますが、そこは大丈夫でしょうか?
それももちろん考慮しています。他のコードを誤って触っていないかなど、別の箇所に影響がないかどうかのチェックもタスクに入れています。
それはまさに実務的ですね。ハマりやすいアンチパターンにひっかからないようにする工夫もありますか?
アンチパターンの一覧を出すような機能は今のところありませんが、他の人の回答を参照できるようにしたり、「ひとまず解けたけどこれでいいのか?」という疑問を持った人が質問してフィードバックを受けられるようにする仕組み作りを考えています。
Progate Pathでは開発環境を構築したり、バグを修正したりといったタスクをこなしていくようですが、具体的にはどんなことができるエンジニアになれることを想定しているんでしょう?
エンジニアの仕事はざっくり分けると企画・設計・実装・評価ですが、Progate Pathで目指すのは実装・評価ができるレベルです。例えば、小さなバグ修正の場合は、バグ調査が評価、バグ修正が実装、動作確認が評価。機能追加の場合は、機能の実装と動作確認による評価、ですね。
実際の現場では、新規システムの開発に最初から入ることはあまりなくて、誰かが作ったもののバグを直したり、誰かが作ったものに機能追加したりするほうが多いですもんね。
今後、よりステップバイステップで学べるようにタスクを増やしていく予定です。また、テストケースを考えたり、テストコードを入れたりといった、テスト工程のタスク追加も考えています。
学ぶ順番は自由。興味とニーズで選べる学習方法。
Progate Pathでは2023年7月時点で「Webエンジニアコース」と「個別タスクの買い切り」を選べるようですが、どういう違いがあるんですか?
「Webエンジニアコース」は、体系的に学ぶことを重要視したカリキュラムで、一方の「個別タスク」は、問題解決の方法にたどり着くための実務感を重要視したカリキュラムになっています。
「バグは直せるけど基礎の理解が足りてないエンジニア」は、実際多いですよね。ということは、個別タスクをこなしてからWebエンジニアコース、という流れのイメージでしょうか?
どちらが先、ということではありません。まずは体系的に理解したい人もいれば、先に問題解決力を身につけたい人もいます。それぞれの興味やニーズで選んでいただければいいと思います。
たしかに。ところでProgate Pathには楽しく学習できるような工夫はありますか?Progateは、かわいいにんじゃわんこのキャラクターがいますよね?
パズル感覚の楽しさがあるという声はいただいていますが、正直今は、楽しさという意味ではちょっと弱いですね。難しいという反応も多いです。キャラクターでの演出予定はないですが、もう少し楽しめる要素は加えたいと思っています。
たしかに、学ぶ楽しさって、キャラクターやゲーム要素だけではないですよね。ゴールを見据えて挑戦すること自体を楽しいと感じる人も多いのではないでしょうか。
学習サービスの枠を超えた、Progate Pathの展望
Progate Pathは今後、どんな層に、どのように広がっていってほしいと考えておられますか?
やはり、学生ですね。社会人になってからのジョブチェンジのコストを考えても、学生時代にキャリアパスを見通せるほうが絶対いいので、インターンシップのマッチングにも力を入れたいと思っています。
インターンシップのマッチングは、なぜ重要なんでしょう?
実はインターンシップって、人脈に恵まれないと経験できないのが現実なんですよ。しっかり勉強してスキルを身につけるだけではダメなことも多いんです。
今の学生さんたちは、気軽に体験しているイメージを持っていたんですが、違うんですね。
そうなんです。なので、Progate Pathを使ってインターンシップの情報収集したり、マッチングできるようにしたいんです。Progate Pathでどんな課題をこなしたかを企業が見て、求めるスキルを満たしているか判断できる、とか。
それは、インターンシップだけでなく中途採用の求人にも役立ちそうですね。実際に働いたという意味での実務経験がなくても、実務スキルが見える化されていれば採用の道が開けそうです。
学生みんなに、とのことですが、実際にインターンシップで実務を経験している人にもProgate Pathのカリキュラムは有効ですか?
インターンシップ経験者は現場の実務感を知っているだけに、Progate Pathのカリキュラムを楽しんでこなしてくれる傾向にあるなと感じています。
実際に経験していることが整理されてタスクになっていると、よりゲーム感覚で楽しめるのかもしれませんね。体系的に理解するという意味でも役立ちそうです。
長期的には、学生はProgate Pathで学ぶのが当たり前、という時代になってほしいと思っているんです。
その域まで目指しておられるんですね。そうなるともう、学習ツールやWebサービスという枠を超えた位置づけの場になりますね。
Progateは「創れる人を生み出す」というミッションを掲げているんですが、Progate Pathは、楽しく、コミュニティとして学習が広がっていくような場所になっていくといいなと思っています。
Progate Pathで創り続けてくれたり、後輩に教えるような関係性ができたりしたら嬉しいですね。
<取材後記>
過去のインタビューで、「Progateで学んだ」「今はProgateがある」という言葉を何度聞いたかわかりません。 今回、「Progateで気軽に楽しく学びを始め、Progate Pathによって学びをキャリアに生かす」というストーリーが出来上がったことを直接聞く機会をいただけて光栄でした。 コミュニティーとしてさらに発展していくProgate Pathに期待しています。
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