技術書の同人誌だけが集まる、技術書オンリーの即売会『技術書典』。2016年に始まり、2022年9月に13回目が開催されました。
技術書典は、1日1万人の来場者があったこともあるという、エンジニアの大イベント!
今回は技術書典の主宰者であるmhidaka(@mhidaka)さんにインタビューし、前編では技術書典についてお話を伺いました。
▼前編はこちら
この後編では、mhidakaさん自身の同人誌歴や、同人誌の作り方についてじっくり教えていただきます。
本を作ってみたい人、必見です!
きっかけはコミケ、技術書典主宰・mhidakaさんの同人誌歴
mhidakaさんは、Androidの技術書執筆サークル『TechBooster(テックブースター)』を主宰したり、Androidの開発者カンファレンス『DroidKaigi(ドロイドカイギ)』の代表理事をされたりしている、ソフトウェアエンジニアですよね。
同人誌を作るきっかけはなんだったんでしょう?
2014年のコミケです。自分たちで作った本を売れるイベントがあると聞いて、友達4~5人、TechBoosterのメンバーと参加してみたんですよね。
100冊くらい売れたんだったかな。かなり多い方でした。
実際にコミケに参加されていたんですね!技術書典のアイデアも、そこから?
思いがけず売れたことで、もっと尖った内容や趣味全開の個性的な技術書もウケるんじゃないかと思いました。
それで、技術書オンリーの即売会があってもいいなと。誰もやっていなくてニーズがあるなら自分でやりたい、という感覚でした。
mhidakaさんご自身、今も執筆を続けられていますよね。
技術の進化が早くて大変だなあと感じています。
開発と執筆を同時進行できるタイプではないので、1週間や1日など、それぞれの時間はくっきり区切っていますね。
ずっと書いていても、ネタは尽きないものですか?
仕事で困ったことを覚えておいて、それを解決できる本を書く、というようなこともあります。
みんなあまり書きませんが、失敗ネタもいい題材だと思いますよ。
●DroidKaigi(ドロイドカイギ)とは
同人誌の作り方~技術書典による「書きたい気持ちを折らない」工夫
そもそもの話になりますが、同人誌ってどうやって作るんですか?
文章や画像はGoogleドキュメント等でも書けるでしょうが、その後の想像がつきません。
一人ならGoogleドキュメントなどがおすすめです。複数人で書くとなると履歴管理が煩雑でストレスがかかるシーンもあります。
チームで作るなら、ソフトウェア管理の方法が便利なんです。書籍テンプレートを、GitHubに上げてありますよ。ライティング技術については、YouTubeで解説もしています。
ソフトウェア管理の手法で本作りをしようという発想、さすがエンジニアですね!
PDF出力して電子書籍の作成までできるんですね。それを印刷して製本すると、紙の本になるんですね。
そのあたりも自分でやって楽しみたい人もいれば、書く以外のことはおまかせしたいという人もいます。
後者の方が楽しく書き続けられるように、技術書典では、製本や販売、発送の請け負いもしているんです。
手厚い…!
とにかく、「書きたい」という気持ちを折りたくないんです。
在庫を抱えるとモチベーションが下がってしまうので、紙の本は作らず電子書籍だけもOKにしています。
表紙デザインなんかはどうですか?技術書典のバナーは、いつもすごくきれいなイラストですよね。
技術書典のイラストは、専門の方に依頼しています。
イラストに関しては権利の問題があるのでテンプレートの提供は難しいんですけどね…。いつかはやってみたい。
では、イラストの表紙を作っていらっしゃる方は、ココナラ(個人のスキルを売り買いできるWebサービス)とかを使っているんですか?
恐らくそうだと思います。
会社の有志で活動される場合は、社内のデザイナーさんが面白がって協力してくれることもあるようですね。
売れる同人誌とは?商業出版のベストセラーとの違い
たくさん売れる人気の本を作るにあたって、テーマの選び方にコツはありますか?
たくさん売るコツとなると、流行の技術を扱いましょうとしか言えないですね…。
今だと、AWS(Amazon Web Services)とかReact(Meta社がコミュニティとともに開発しているUI構築のためのJavaScriptライブラリ)とか。
でも流行のテーマは、Webのリファレンスも充実しています。
以前の同人誌は商業出版の本ではカバーできないスピード感やニッチ感を埋めるのが使命でしたが、今は自発的なアウトプットの場としての意味が大きいと感じています。
本を作ること自体に大きな意味があるんですね。
誰かに届いた、自分の能力が向上した、という実感はモチベーションになりますからね。
それに著書があると、どんなスキルを持つ人なのかが一目でわかりますよね。自分で書いた技術書は、ポートフォリオを兼ねた名刺のようなものです。
そして、その積み重ねがキャリアにつながるとベストですよね。
でも、大前提として、発信する楽しみや本を作る楽しみ自体も大事にしてほしいと思っています。
流行の技術以外に、人気の本の傾向はありますか?
企業の“中の人”が出す本はだいたい人気が出ますね。
例えば、楽天グループのラクマの現場から発信されている『RAKUMA TECH BOOK』(楽天グループ株式会社ラクマ事業部 DevRelチーム著)とか。
有名企業のエンジニアや有名なサービスを提供しているエンジニアがどんな仕事をしているのか見たい、彼らの知見に触れたいと思う人は多そうですもんね。
技術書典のオンラインマーケットで長く売れ続けている、ベストセラーみたいな本はないんですか?
技術書典のイベントでは、今気になっているジャンルの本を思い切りよく買う人が多いので、どうしてもイベント初出の新刊が人気になりますね。
それに長く読まれるべき内容の本は、同人誌や商業誌といった垣根を超えて伝わってほしいんです。
なので、技術書典を運営しているテックベースでは、クラウドファンディングで技術書を販売できるPEAKSというサービスもやっています。
クラウドファンディング…?
簡単に言うと予約販売です。
書く気持ちを折りたくないという話にもつながるのですが、本を作ったのに売れ残ったらモチベーションが下がりますよね。
でも、「こんな本を作ります」とクラウドファンディングで購入者を募り、目標の支援者数に達成した場合にのみ執筆、ということにすれば売れ残ることはありません。
なるほど、安心できるし、待っている人がいると思うとやる気も出ますね。
PEAKSのクラファンに参加できるのは、現在は技術書典のアワードなどで入賞した人だけといった条件は設けていますけどね。
技術書典は興味のシード(種)を見つける場所、PEAKSはイベントを超えて伝える場所といった位置付けです。
もっと広げていくために、多様性を追求したい
技術書典ではオンラインとオフラインのさらなる融合を目指していくとのことでしたが、今後の方向性について展望はありますか?
特定の人に刺さることも大事ですが、多様性を追求して、もっといろんな人に来ていただけるイベントにしたいと思っています。
それは、技術書典立ち上げ時からの構想ですか?
第1回は実験というか、技術書の同人誌イベントの開催自体が目的でした。
多様性については、技術書典を続けていく中で意識するようになってきた感じです。
イベント会場の託児所も、多様性の許容ですよね。それに、オンラインマーケットに並んでいる本も、かなりバラエティ豊かです。
在宅ワーカーのためのオートミールレシピ本まであって驚きました。
何がどこで役立つかわからないという理由もあって、仕事術のようなソフトスキルの本もOKとしているんです。
「数学を駆使してポーカーに勝つ方法」みたいな本もありますよ。出版社のオライリーさんが、料理本を出してバズるなんてこともありました。面白いですよね。
●オライリーとは
他にも何か、多様性で意識されていることはありますか?
イベントが多様であるために、スタッフの価値観も多様であるべきだと考えています。
技術書典のボランティアスタッフには、エンジニアとしてマジョリティ層とは言えない女性のコアメンバーもいますしね。
「何かしたい、書きたい」と思いながらも、迷っている時間のほうが長い人のほうが多いと思うんです。そして、1人でできる人ばかりではありません。
技術書典では、きっかけがなく行動できないでいる多様な人たちをすくい上げて、盛り上げていきたいと思っています。
今後の技術書典で、どんな多様な本が出てくるか、楽しみにしています!
取材後記:
製本や販売の請負い、ライティングの指南、クラウドファンディング、託児所…、「ちょっと書いてみたいかも」「ちょっと覗いてみたいかも」というレベルのささやかな気持ちを逃さず、すくい上げて行こうとする強い決意を感じました。
ライターのひとりとして、書く楽しさ、伝わる喜びを再度見つめなおしてみようと思います。
【関連リンク】
技術書典:https://techbookfest.org/
技術書典(Twitter):https://twitter.com/techbookfest
技術書典(YouTube):https://www.youtube.com/c/techbookfest
mhidakaさん(Twitter):https://twitter.com/mhidaka
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