書きたい気持ちを折らない工夫とは?技術書の作り方を"技術書典"の生みの親mhidaka氏に聞いてみた
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書きたい気持ちを折らない工夫とは?技術書の作り方を"技術書典"の生みの親mhidaka氏に聞いてみた
一番ヶ瀬 絵梨子
2023.02.13
この記事でわかること
技術書典主宰mhidakaさんの同人誌歴と技術書典を立ち上げたきっかけ
同人誌とは何か?商業出版の本との違いや技術書典による書きたい気持ちを折らない工夫
技術書典が目指す多様性の追求とは?

技術書の同人誌だけが集まる、技術書オンリーの即売会『技術書典』。2016年に始まり、2022年9月に13回目が開催されました。

技術書典は、1日1万人の来場者があったこともあるという、エンジニアの大イベント!

今回は技術書典の主宰者であるmhidaka(@mhidaka)さんにインタビューし、前編では技術書典についてお話を伺いました。

▼前編はこちら

エンジニア版コミケ「 #技術書典 」が来場者1万人超えのイベントに成長した軌跡

この後編では、mhidakaさん自身の同人誌歴や、同人誌の作り方についてじっくり教えていただきます。

本を作ってみたい人、必見です!

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「技術書典13」イベント情報ページより

きっかけはコミケ、技術書典主宰・mhidakaさんの同人誌歴

一番ヶ瀬 絵梨子

mhidakaさんは、Androidの技術書執筆サークル『TechBooster(テックブースター)』を主宰したり、Androidの開発者カンファレンス『DroidKaigi(ドロイドカイギ)』の代表理事をされたりしている、ソフトウェアエンジニアですよね。

同人誌を作るきっかけはなんだったんでしょう?

mhidakaさん

2014年のコミケです。自分たちで作った本を売れるイベントがあると聞いて、友達4~5人、TechBoosterのメンバーと参加してみたんですよね。

100冊くらい売れたんだったかな。かなり多い方でした。

一番ヶ瀬 絵梨子

実際にコミケに参加されていたんですね!技術書典のアイデアも、そこから?

mhidakaさん

思いがけず売れたことで、もっと尖った内容や趣味全開の個性的な技術書もウケるんじゃないかと思いました。

それで、技術書オンリーの即売会があってもいいなと。誰もやっていなくてニーズがあるなら自分でやりたい、という感覚でした。

一番ヶ瀬 絵梨子

mhidakaさんご自身、今も執筆を続けられていますよね。

mhidakaさん

技術の進化が早くて大変だなあと感じています。

開発と執筆を同時進行できるタイプではないので、1週間や1日など、それぞれの時間はくっきり区切っていますね。

一番ヶ瀬 絵梨子

ずっと書いていても、ネタは尽きないものですか?

mhidakaさん

仕事で困ったことを覚えておいて、それを解決できる本を書く、というようなこともあります。

みんなあまり書きませんが、失敗ネタもいい題材だと思いますよ

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mhidakaさん主宰のTechBooster。技術書典のほか、BOOTHでも技術書を販売している

●DroidKaigi(ドロイドカイギ)とは

Android開発者有志による実行委員会が主催している、エンジニアが主役のAndroidカンファレンス。Android技術情報の共有とコミュニケーションを目的に開催されている。

同人誌の作り方~技術書典による「書きたい気持ちを折らない」工夫

一番ヶ瀬 絵梨子

そもそもの話になりますが、同人誌ってどうやって作るんですか?

文章や画像はGoogleドキュメント等でも書けるでしょうが、その後の想像がつきません。

mhidakaさん

一人ならGoogleドキュメントなどがおすすめです。複数人で書くとなると履歴管理が煩雑でストレスがかかるシーンもあります。

チームで作るなら、ソフトウェア管理の方法が便利なんです。書籍テンプレートを、GitHubに上げてありますよ。ライティング技術については、YouTubeで解説もしています

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Github上で公開されている、書籍テンプレート
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技術書典のYouTubeには、「技術書を書いてみよう!」の再生リストがある
一番ヶ瀬 絵梨子

ソフトウェア管理の手法で本作りをしようという発想、さすがエンジニアですね!

PDF出力して電子書籍の作成までできるんですね。それを印刷して製本すると、紙の本になるんですね。

mhidakaさん

そのあたりも自分でやって楽しみたい人もいれば、書く以外のことはおまかせしたいという人もいます。

後者の方が楽しく書き続けられるように、技術書典では、製本や販売、発送の請け負いもしているんです

一番ヶ瀬 絵梨子

手厚い…!

mhidakaさん

とにかく、「書きたい」という気持ちを折りたくないんです。

在庫を抱えるとモチベーションが下がってしまうので、紙の本は作らず電子書籍だけもOKにしています。

一番ヶ瀬 絵梨子

表紙デザインなんかはどうですか?技術書典のバナーは、いつもすごくきれいなイラストですよね。

mhidakaさん

技術書典のイラストは、専門の方に依頼しています

イラストに関しては権利の問題があるのでテンプレートの提供は難しいんですけどね…。いつかはやってみたい。

一番ヶ瀬 絵梨子

では、イラストの表紙を作っていらっしゃる方は、ココナラ(個人のスキルを売り買いできるWebサービス)とかを使っているんですか?

mhidakaさん

恐らくそうだと思います。

会社の有志で活動される場合は、社内のデザイナーさんが面白がって協力してくれることもあるようですね。

売れる同人誌とは?商業出版のベストセラーとの違い

一番ヶ瀬 絵梨子

たくさん売れる人気の本を作るにあたって、テーマの選び方にコツはありますか?

mhidakaさん

たくさん売るコツとなると、流行の技術を扱いましょうとしか言えないですね…。

今だと、AWS(Amazon Web Services)とかReact(Meta社がコミュニティとともに開発しているUI構築のためのJavaScriptライブラリ)とか。

mhidakaさん

でも流行のテーマは、Webのリファレンスも充実しています。

以前の同人誌は商業出版の本ではカバーできないスピード感やニッチ感を埋めるのが使命でしたが、今は自発的なアウトプットの場としての意味が大きいと感じています

一番ヶ瀬 絵梨子

本を作ること自体に大きな意味があるんですね。

mhidakaさん

誰かに届いた、自分の能力が向上した、という実感はモチベーションになりますからね。

それに著書があると、どんなスキルを持つ人なのかが一目でわかりますよね。自分で書いた技術書は、ポートフォリオを兼ねた名刺のようなものです

mhidakaさん

そして、その積み重ねがキャリアにつながるとベストですよね。

でも、大前提として、発信する楽しみや本を作る楽しみ自体も大事にしてほしいと思っています。

一番ヶ瀬 絵梨子

流行の技術以外に、人気の本の傾向はありますか?

mhidakaさん

企業の“中の人”が出す本はだいたい人気が出ますね

例えば、楽天グループのラクマの現場から発信されている『RAKUMA TECH BOOK』(楽天グループ株式会社ラクマ事業部 DevRelチーム著)とか。

一番ヶ瀬 絵梨子

有名企業のエンジニアや有名なサービスを提供しているエンジニアがどんな仕事をしているのか見たい、彼らの知見に触れたいと思う人は多そうですもんね。

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技術書典オンラインマーケットには、ラクマのほかサイバーエージェントやグリー、MIXI、Mobility Technologies、Cybozu、KLabなどのサークルも出典している。
一番ヶ瀬 絵梨子

技術書典のオンラインマーケットで長く売れ続けている、ベストセラーみたいな本はないんですか?

mhidakaさん

技術書典のイベントでは、今気になっているジャンルの本を思い切りよく買う人が多いので、どうしてもイベント初出の新刊が人気になりますね

mhidakaさん

それに長く読まれるべき内容の本は、同人誌や商業誌といった垣根を超えて伝わってほしいんです。

なので、技術書典を運営しているテックベースでは、クラウドファンディングで技術書を販売できるPEAKSというサービスもやっています。

一番ヶ瀬 絵梨子

クラウドファンディング…?

mhidakaさん

簡単に言うと予約販売です

書く気持ちを折りたくないという話にもつながるのですが、本を作ったのに売れ残ったらモチベーションが下がりますよね。

でも、「こんな本を作ります」とクラウドファンディングで購入者を募り、目標の支援者数に達成した場合にのみ執筆、ということにすれば売れ残ることはありません。

一番ヶ瀬 絵梨子

なるほど、安心できるし、待っている人がいると思うとやる気も出ますね。

mhidakaさん

PEAKSのクラファンに参加できるのは、現在は技術書典のアワードなどで入賞した人だけといった条件は設けていますけどね。

技術書典は興味のシード(種)を見つける場所、PEAKSはイベントを超えて伝える場所といった位置付けです。

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PEAKSでは、クラウドファンディングへの出資のほか、出版された本の購入ができる

もっと広げていくために、多様性を追求したい

一番ヶ瀬 絵梨子

技術書典ではオンラインとオフラインのさらなる融合を目指していくとのことでしたが、今後の方向性について展望はありますか?

mhidakaさん

特定の人に刺さることも大事ですが、多様性を追求して、もっといろんな人に来ていただけるイベントにしたいと思っています。

一番ヶ瀬 絵梨子

それは、技術書典立ち上げ時からの構想ですか?

mhidakaさん

第1回は実験というか、技術書の同人誌イベントの開催自体が目的でした。

多様性については、技術書典を続けていく中で意識するようになってきた感じです。

一番ヶ瀬 絵梨子

イベント会場の託児所も、多様性の許容ですよね。それに、オンラインマーケットに並んでいる本も、かなりバラエティ豊かです。

在宅ワーカーのためのオートミールレシピ本まであって驚きました。

mhidakaさん

何がどこで役立つかわからないという理由もあって、仕事術のようなソフトスキルの本もOKとしているんです。

「数学を駆使してポーカーに勝つ方法」みたいな本もありますよ。出版社のオライリーさんが、料理本を出してバズるなんてこともありました。面白いですよね。

●オライリーとは

オライリー(オライリーメディア)は、技術書の出版、ウェブサイト作成、カンファレンスの開催などを主業務としているアメリカのメディア企業。日本法人は、オライリー・ジャパン。料理の科学に着目し、プログラマーやエンジニアが理解しやすい表現を駆使した料理本『Cooking for Geeks』(日本語訳は2016年刊)がベストセラーになっている。
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技術書典には、ダイエットや巣ごもり生活のコツなどエンジニア向けのライフハック本も並ぶ
一番ヶ瀬 絵梨子

他にも何か、多様性で意識されていることはありますか?

mhidakaさん

イベントが多様であるために、スタッフの価値観も多様であるべきだと考えています

技術書典のボランティアスタッフには、エンジニアとしてマジョリティ層とは言えない女性のコアメンバーもいますしね。

mhidakaさん

「何かしたい、書きたい」と思いながらも、迷っている時間のほうが長い人のほうが多いと思うんです。そして、1人でできる人ばかりではありません。

技術書典では、きっかけがなく行動できないでいる多様な人たちをすくい上げて、盛り上げていきたいと思っています

一番ヶ瀬 絵梨子

今後の技術書典で、どんな多様な本が出てくるか、楽しみにしています!

取材後記:

製本や販売の請負い、ライティングの指南、クラウドファンディング、託児所…、「ちょっと書いてみたいかも」「ちょっと覗いてみたいかも」というレベルのささやかな気持ちを逃さず、すくい上げて行こうとする強い決意を感じました。

ライターのひとりとして、書く楽しさ、伝わる喜びを再度見つめなおしてみようと思います。

【関連リンク】

技術書典:https://techbookfest.org/

技術書典(Twitter):https://twitter.com/techbookfest

技術書典(YouTube):https://www.youtube.com/c/techbookfest

mhidakaさん(Twitter):https://twitter.com/mhidaka

ライター

一番ヶ瀬 絵梨子
心理学科卒業後、新卒未経験でSI企業に就職し、Java系のSEとして10年。 結婚出産を経て、2015年にトラベルライターに転身。 現在はMONOLISIX株式会社に所属しweb編集やマーケティング業務にも携わっている。 新婚旅行では1年かけて世界50ヶ国を巡るほどの旅行好き。 日々の晩酌が何よりの楽しみ。
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