エンジニア版コミケ「 #技術書典 」が来場者1万人超えのイベントに成長した軌跡
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エンジニア版コミケ「 #技術書典 」が来場者1万人超えのイベントに成長した軌跡
一番ヶ瀬 絵梨子
2023.02.10
この記事でわかること
技術書オンリーの同人誌イベント「技術書典」は、いわばエンジニア版コミケである。
締切とイベント感があることで、Qiita等のWeb記事執筆が続かない人でも書ける。
技術書典を盛り上げるため、参加すること・本を読むことのハードルを下げる工夫がなされている。
オンライン開催の技術書典では、オフラインとは違う面白さや体験を追求している。

技術書の同人誌だけが集まる、技術書オンリーの即売会『技術書典』。2016年に始まり、今年9月に13回目が開催されました。

技術書典は、1日1万人の来場者があったこともあるという、エンジニアの大イベント!

今回は、技術書典の主宰者であるmhidaka(@mhidaka)さんにインタビューしました

エンジニアなのに、あえてのオフライン開催?

QiitaやZennの記事で、充分では?

そんな素朴な疑問もぶつけてみました。

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「技術書典13」イベント情報ページより

技術書の同人誌イベント『技術書典』は、エンジニア版コミケ

一番ヶ瀬 絵梨子

まずは、「そもそも技術書典って何?」というところから聞かせてください。

mhidakaさん

簡単に言うと、技術書だけの同人誌即売会です

2016年6月25日に、秋葉原の通運会館で開催したのが1回目でした。

一番ヶ瀬 絵梨子

同人誌イベントなので、エンジニア版コミケみたいなものですね。

初回は1日で1,400人もの来場者があったとか。これは大成功、ですよね。

mhidakaさん

そうですね。ただ、初回はとりあえずやってみようという、コンセプト実証型(PoC)の開催だったこともあり、非効率な部分が多かったです。

このままでは2回目の開催は難しいな、という状態でした。

mhidakaさん

そこで、エンジニアのイベントなんだからアナログな方法からは脱却しよう、とデジタルペイメントを導入するなど可能なかぎりシステム化しました

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第1回目は秋葉原の通運会館で開催。写真は会場入り口前に設置した立て看板。
一番ヶ瀬 絵梨子

現在は12回まで開催されたようですが、今どれくらいの規模ですか?

mhidakaさん

オフラインの来場者は、第7回の1万人が最高ですね

Webサイトに登録しているユーザーは約37,000人、同人誌を制作・販売している出展者は1,000サークルほどです。

一番ヶ瀬 絵梨子

最初の1,400人から、かなり大きくなっていますね。でも、このコロナ禍。オフライン開催は難しくなりましたよね?

mhidakaさん

2020年の第9回からは、オンラインでも開催しています。オフラインとのハイブリッド開催のときもあり、9月に開催された第13回は、オフラインは1日、オンラインは16日間実施されました。

一番ヶ瀬 絵梨子

かなり大規模ですが、運営メンバーは何人くらいですか?

mhidakaさん

運営はテックベース合同会社です。達人出版会(技術系の電子書籍専門出版社)・RubyKaigiの高橋征義さんと一緒に設立し、イベントを運営しています。

Web開発や広報は5~6人の有志スタッフが手伝ってくれています。オフライン開催もアルバイトにスタッフをお願いしていますね。

一番ヶ瀬 絵梨子

規模のわりに、かなりの少人数ですね。エンジニアとして勤務とのことですが、技術書典のイベント前に休みがちになったりとか、そういう影響はありませんか?

mhidakaさん

イベントは土日ですし、仕事はフルフレックスなので、そこは大丈夫ですよ。

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会場のブースに出展された同人誌。商業出版の雑誌とは異なり、出展者の趣味趣向が表紙に反映されることも多い。

●同人誌とは

同人誌(どうじんし)とは、同じ趣味や志を持つ個人またはサークル(同人)が、自ら資金を出して執筆・編集・発行する雑誌のこと。全国の書店やネット書店に流通する商業出版の雑誌とは別物。

●PoC(概念実証型、コンセプト実証型)とは

PoC (Proof of Concept)とは、新しい概念やアイデアの実現可能性をはかるための工程。実際の運用と似た環境で、簡易的なサービス・プロダクトで検証し、問題点や改善点を洗い出す。

●RubyKaigiとは

日本で開催されている、オブジェクト指向言語のRubyに関するイベント。2013年からは第一公用語が英語となり、1~2割が海外からの参加者。一般社団法人 日本Rubyの会が開催している。

QiitaやZennとは何が違う?技術書典がオフラインで開催しつづける理由

一番ヶ瀬 絵梨子

商業出版の技術書ではカバーしきれないスピードやニッチさで、同人誌が求められるのはよくわかります。

ただ、IT業界にいるエンジニアたちが、わざわざオフラインイベントに集まるというのが、なんかちょっとピンと来ないのですが…。

mhidakaさん

もともとエンジニアには、カンファレンスや勉強会で集まるという土壌があるんです。

それに、本を直接手に取ることや、著者に実際に会える喜びといったことには、やはり価値があると思っています

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来場者が技術書典の会場で書籍を手に取って読んでいる様子
一番ヶ瀬 絵梨子

エンジニアのオフラインイベント自体は、すでに定着している文化なんですね。

でも今は、QiitaやZenn、noteといった個人が無料で即時に発信できるWebメディアもあります。オフラインでしか手に入らない情報は少ないと思うのですが、オフライン開催の技術書典ならではの特徴があるのでしょうか?

mhidakaさん

いちばん大きいのは、締切の有無ですね。書きたい気持ちがある人はたくさんいますが、締切がないとなかなか書けないものなんです。

一番ヶ瀬 絵梨子

Webでは書いていない出展者さんも多いんですか?

mhidakaさん

技術書典だけという人は、2~3割はいると思います。締切とイベント感があるのって、やっぱり全然違うんですよ。半年ごとにイベントに向かって盛り上がっていく感じですね。

それから、「今回間に合わなかったけど、次」と思えるように、継続して定期的に開催するのも大事だと思っています

一番ヶ瀬 絵梨子

おまつりみたいですね。

では、オンラインイベントとオフラインイベントでの差はありましたか?例えばオフラインだと、営業トークの上手な出展者さんの本がよく売れるとか…。

mhidakaさん

オフラインイベントは独特の雰囲気があります。トークというより売り切れるかもという心理が影響していると思います。

そのため、オフラインの来場者のほうが勢いよく買いますね。気になった本はどんどん買って行かれます。

一番ヶ瀬 絵梨子

なるほど!オンラインだと吟味してしまうのはわかる気がします。

一番ヶ瀬 絵梨子

定期的なイベント開催のために、工夫していることはありますか?ファンミーティングがあるようですが、普段から交流は盛んなのでしょうか?

mhidakaさん

技術書典内での交流というのは、普段は特にないですね。

ファンミーティングでは、キャンペーンのお知らせをしたり、Webサイトの機能改善や参加者の要望やほしいものなどのフィードバックをもらったりしています

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次回の技術書典について、事前に情報を得られる場としても活用されている。
一番ヶ瀬 絵梨子

イベントとイベントの間の時間は、次回に向けての準備期間なんですね。

託児所が設置されたこともあるそうですし、来場者ファーストなイベントですよね。

mhidakaさん

土日に開催しているイベントですが、託児所があれば、「子どもと一緒に行こうかな」と思えますからね

ご家族も同業種ということも多い業界なのでパートナーと来られる方もいますし、来たい人が気軽に来れるようにしたいんです。

一番ヶ瀬 絵梨子

託児所は有料でしたか?

mhidakaさん

有料です!と周知するのも面倒なので、わかりやすく無料にしたように思います

オンラインもオフラインも、いろんなギャップを埋めながら進めていきたいと思っています。

イベントの継続性は重要、でも、0円の本も売る

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2022年9月現在の、技術書典のスポンサー企業。
一番ヶ瀬 絵梨子

お金についても、お伺いしていいですか?

技術書典にはスポンサーがついていますが、運営の収支はどんな感じでしょうか?

mhidakaさん

収入はスポンサーの協賛金、イベントの入場料、オンライン販売の手数料等です。

収益は継続性を考えると重要ですが、初参加の人のハードルを下げるため割引キャンペーンもしています。場合によっては主催者側の自費負担になることもありますね。

一番ヶ瀬 絵梨子

自費負担になることもある状態で技術書典を運営していることに、周囲は反対しませんか?

mhidakaさん

心配してくれている友人も多いです(笑)。幸いにして周りは、「mhidakaはやりたいんだろうな」という感じで手伝ってくれています。

mhidakaさん

技術書典でマネタイズしたいわけではなく、「もっと新しいことをしたい」「技術的な進歩に追従してもりあげていきたい」という感覚です

なので、損をしないように運営していければいいと思っています。

一番ヶ瀬 絵梨子

技術書典のオンライン販売サイトに0円の本もありますよね。それは、その運営方針とも関係があるんでしょうか?

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アニメ・漫画をモチーフにした本も多く出展されている。
mhidakaさん

0円の本が売れても収入にはなりませんが、本を読むことのハードルを下げるために、0円の本もあっていいと考えています

でも、価値のあるものにはきちんとお金を払うという感覚は持っていてほしいですし、0円の本だけでは技術書典は続きません。

なので、「0円の本だけを絞り込む」という機能は付けてないんですよ。

一番ヶ瀬 絵梨子

あくまでも、自分が読みたい本を探した結果、0円の本に出会う、という過程になるんですね。

今後目指すのは、オフラインとオンラインの融合

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一番ヶ瀬 絵梨子

最近開催された「技術書典13」はオンラインとオフラインの両方ですね。

mhidakaさん

オンライン開催で遠方の人も参加できるようになったので、オンラインをやめることは考えていません

いったん参加してくれた人が来れなくなってしまうようなことはしたくないですからね。

一番ヶ瀬 絵梨子

オフラインの良さはさきほどお伺いしましたが、オンラインでも類似体験ができる工夫などされているんでしょうか?

mhidakaさん

必ずしも、オフラインに似た体験や感覚が必要だとは思っていません。

オフラインのような現場の熱気はなく、パラパラめくる立ち読みもできない代わりに、オンラインにはオンラインの良さがあります。

mhidakaさん

YouTubeの配信で著者に解説してもらったり、検索したいワードをタイトルだけでなく本文すべてから全文検索できるようにしたり。各々の楽しさがあっていいと思っています。

一番ヶ瀬 絵梨子

著者にじっくりお話を聞くのは、イベント会場では無理ですもんね。

そして、全文検索!ニッチな情報を探している方も多いでしょうから、それはすごく便利ですね。

mhidakaさん

両方開催することで運営の負担が倍になる、ということは避けたいですが、これからはもっと、オフラインとオンラインが相乗効果を生むような融合を目指していきたいと思っています。

mhidakaさん

即売会スタイルだけでなく、ノウハウを伝えるカンファレンスもいいかもしれないですよね。本作りだけでなく、技術を端緒とするクリエイティブ全般にかかわっていけるイベントに育てたいです。

取材後記:

技術書オンリーの即売会イベントが、ここまで盛り上がっていることにまず驚きました。

そしてお話を伺ってみると、技術書典を広げ、盛り上げていくための工夫が随所に!

今後、オンラインならではの試みがどのように進化していくのか楽しみになりました。

後編では、mhidakaさん自身の同人誌歴や、同人誌の作り方についてもお話を伺いました。

▼後編はこちら

書きたい気持ちを折らない工夫とは?技術書の作り方を'技術書典'の生みの親mhidaka氏に聞いてみた

【関連リンク】

技術書典:https://techbookfest.org/

技術書典(Twitter):https://twitter.com/techbookfest

技術書典(YouTube):https://www.youtube.com/c/techbookfest

mhidakaさん(Twitter):https://twitter.com/mhidaka

ライター

一番ヶ瀬 絵梨子
心理学科卒業後、新卒未経験でSI企業に就職し、Java系のSEとして10年。 結婚出産を経て、2015年にトラベルライターに転身。 現在はMONOLISIX株式会社に所属しweb編集やマーケティング業務にも携わっている。 新婚旅行では1年かけて世界50ヶ国を巡るほどの旅行好き。 日々の晩酌が何よりの楽しみ。
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