技術書の同人誌だけが集まる、技術書オンリーの即売会『技術書典』。2016年に始まり、今年9月に13回目が開催されました。
技術書典は、1日1万人の来場者があったこともあるという、エンジニアの大イベント!
今回は、技術書典の主宰者であるmhidaka(@mhidaka)さんにインタビューしました。
エンジニアなのに、あえてのオフライン開催?
QiitaやZennの記事で、充分では?
そんな素朴な疑問もぶつけてみました。
技術書の同人誌イベント『技術書典』は、エンジニア版コミケ
まずは、「そもそも技術書典って何?」というところから聞かせてください。
簡単に言うと、技術書だけの同人誌即売会です。
2016年6月25日に、秋葉原の通運会館で開催したのが1回目でした。
同人誌イベントなので、エンジニア版コミケみたいなものですね。
初回は1日で1,400人もの来場者があったとか。これは大成功、ですよね。
そうですね。ただ、初回はとりあえずやってみようという、コンセプト実証型(PoC)の開催だったこともあり、非効率な部分が多かったです。
このままでは2回目の開催は難しいな、という状態でした。
そこで、エンジニアのイベントなんだからアナログな方法からは脱却しよう、とデジタルペイメントを導入するなど可能なかぎりシステム化しました。
現在は12回まで開催されたようですが、今どれくらいの規模ですか?
オフラインの来場者は、第7回の1万人が最高ですね。
Webサイトに登録しているユーザーは約37,000人、同人誌を制作・販売している出展者は1,000サークルほどです。
最初の1,400人から、かなり大きくなっていますね。でも、このコロナ禍。オフライン開催は難しくなりましたよね?
2020年の第9回からは、オンラインでも開催しています。オフラインとのハイブリッド開催のときもあり、9月に開催された第13回は、オフラインは1日、オンラインは16日間実施されました。
かなり大規模ですが、運営メンバーは何人くらいですか?
運営はテックベース合同会社です。達人出版会(技術系の電子書籍専門出版社)・RubyKaigiの高橋征義さんと一緒に設立し、イベントを運営しています。
Web開発や広報は5~6人の有志スタッフが手伝ってくれています。オフライン開催もアルバイトにスタッフをお願いしていますね。
規模のわりに、かなりの少人数ですね。エンジニアとして勤務とのことですが、技術書典のイベント前に休みがちになったりとか、そういう影響はありませんか?
イベントは土日ですし、仕事はフルフレックスなので、そこは大丈夫ですよ。
●同人誌とは
●PoC(概念実証型、コンセプト実証型)とは
●RubyKaigiとは
QiitaやZennとは何が違う?技術書典がオフラインで開催しつづける理由
商業出版の技術書ではカバーしきれないスピードやニッチさで、同人誌が求められるのはよくわかります。
ただ、IT業界にいるエンジニアたちが、わざわざオフラインイベントに集まるというのが、なんかちょっとピンと来ないのですが…。
もともとエンジニアには、カンファレンスや勉強会で集まるという土壌があるんです。
それに、本を直接手に取ることや、著者に実際に会える喜びといったことには、やはり価値があると思っています。
エンジニアのオフラインイベント自体は、すでに定着している文化なんですね。
でも今は、QiitaやZenn、noteといった個人が無料で即時に発信できるWebメディアもあります。オフラインでしか手に入らない情報は少ないと思うのですが、オフライン開催の技術書典ならではの特徴があるのでしょうか?
いちばん大きいのは、締切の有無ですね。書きたい気持ちがある人はたくさんいますが、締切がないとなかなか書けないものなんです。
Webでは書いていない出展者さんも多いんですか?
技術書典だけという人は、2~3割はいると思います。締切とイベント感があるのって、やっぱり全然違うんですよ。半年ごとにイベントに向かって盛り上がっていく感じですね。
それから、「今回間に合わなかったけど、次」と思えるように、継続して定期的に開催するのも大事だと思っています。
おまつりみたいですね。
では、オンラインイベントとオフラインイベントでの差はありましたか?例えばオフラインだと、営業トークの上手な出展者さんの本がよく売れるとか…。
オフラインイベントは独特の雰囲気があります。トークというより売り切れるかもという心理が影響していると思います。
そのため、オフラインの来場者のほうが勢いよく買いますね。気になった本はどんどん買って行かれます。
なるほど!オンラインだと吟味してしまうのはわかる気がします。
定期的なイベント開催のために、工夫していることはありますか?ファンミーティングがあるようですが、普段から交流は盛んなのでしょうか?
技術書典内での交流というのは、普段は特にないですね。
ファンミーティングでは、キャンペーンのお知らせをしたり、Webサイトの機能改善や参加者の要望やほしいものなどのフィードバックをもらったりしています。
イベントとイベントの間の時間は、次回に向けての準備期間なんですね。
託児所が設置されたこともあるそうですし、来場者ファーストなイベントですよね。
土日に開催しているイベントですが、託児所があれば、「子どもと一緒に行こうかな」と思えますからね。
ご家族も同業種ということも多い業界なのでパートナーと来られる方もいますし、来たい人が気軽に来れるようにしたいんです。
託児所は有料でしたか?
有料です!と周知するのも面倒なので、わかりやすく無料にしたように思います。
オンラインもオフラインも、いろんなギャップを埋めながら進めていきたいと思っています。
イベントの継続性は重要、でも、0円の本も売る
お金についても、お伺いしていいですか?
技術書典にはスポンサーがついていますが、運営の収支はどんな感じでしょうか?
収入はスポンサーの協賛金、イベントの入場料、オンライン販売の手数料等です。
収益は継続性を考えると重要ですが、初参加の人のハードルを下げるため割引キャンペーンもしています。場合によっては主催者側の自費負担になることもありますね。
自費負担になることもある状態で技術書典を運営していることに、周囲は反対しませんか?
心配してくれている友人も多いです(笑)。幸いにして周りは、「mhidakaはやりたいんだろうな」という感じで手伝ってくれています。
技術書典でマネタイズしたいわけではなく、「もっと新しいことをしたい」「技術的な進歩に追従してもりあげていきたい」という感覚です。
なので、損をしないように運営していければいいと思っています。
技術書典のオンライン販売サイトに0円の本もありますよね。それは、その運営方針とも関係があるんでしょうか?
0円の本が売れても収入にはなりませんが、本を読むことのハードルを下げるために、0円の本もあっていいと考えています。
でも、価値のあるものにはきちんとお金を払うという感覚は持っていてほしいですし、0円の本だけでは技術書典は続きません。
なので、「0円の本だけを絞り込む」という機能は付けてないんですよ。
あくまでも、自分が読みたい本を探した結果、0円の本に出会う、という過程になるんですね。
今後目指すのは、オフラインとオンラインの融合
最近開催された「技術書典13」はオンラインとオフラインの両方ですね。
オンライン開催で遠方の人も参加できるようになったので、オンラインをやめることは考えていません。
いったん参加してくれた人が来れなくなってしまうようなことはしたくないですからね。
オフラインの良さはさきほどお伺いしましたが、オンラインでも類似体験ができる工夫などされているんでしょうか?
必ずしも、オフラインに似た体験や感覚が必要だとは思っていません。
オフラインのような現場の熱気はなく、パラパラめくる立ち読みもできない代わりに、オンラインにはオンラインの良さがあります。
YouTubeの配信で著者に解説してもらったり、検索したいワードをタイトルだけでなく本文すべてから全文検索できるようにしたり。各々の楽しさがあっていいと思っています。
著者にじっくりお話を聞くのは、イベント会場では無理ですもんね。
そして、全文検索!ニッチな情報を探している方も多いでしょうから、それはすごく便利ですね。
両方開催することで運営の負担が倍になる、ということは避けたいですが、これからはもっと、オフラインとオンラインが相乗効果を生むような融合を目指していきたいと思っています。
即売会スタイルだけでなく、ノウハウを伝えるカンファレンスもいいかもしれないですよね。本作りだけでなく、技術を端緒とするクリエイティブ全般にかかわっていけるイベントに育てたいです。
取材後記:
技術書オンリーの即売会イベントが、ここまで盛り上がっていることにまず驚きました。
そしてお話を伺ってみると、技術書典を広げ、盛り上げていくための工夫が随所に!
今後、オンラインならではの試みがどのように進化していくのか楽しみになりました。
後編では、mhidakaさん自身の同人誌歴や、同人誌の作り方についてもお話を伺いました。
▼後編はこちら
【関連リンク】
技術書典:https://techbookfest.org/
技術書典(Twitter):https://twitter.com/techbookfest
技術書典(YouTube):https://www.youtube.com/c/techbookfest
mhidakaさん(Twitter):https://twitter.com/mhidaka
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