中国が、脳波タイピングの世界記録を樹立。毎分140文字相当で、指のタイピング速度を上回る
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中国が、脳波タイピングの世界記録を樹立。毎分140文字相当で、指のタイピング速度を上回る
牧野武文(まきの・たけふみ)
2020.01.05

天津大大学院生の魏斯文さんが、毎分691.55ビットの世界新記録を樹立

中国の北京で、2019年9月に開催された世界ロボット大会で、脳波タイピングの速度記録に挑戦するコンテンストが開催された。3人の選手が出場し、その中で天津大学の大学院生である魏斯文さんが、毎分691.55ビットの世界新記録を樹立して優勝した。

この速度は、英文入力に換算すると、1文字あたり0.413秒に相当するという。英文の場合、一般には1分あたり100文字が速いタイピングの目安になっている。この世界記録は、毎分140文字程度に相当するため、指によるタイピングよりも速く入力ができたことになる。

どうやって脳波を使って文字入力する!?

ところで、脳波タイピングというのは、いったいどうやって脳波を使って文字入力をするのだろうか。

これにはSSVEP(定常状態視覚誘発電位)と呼ばれる脳波を利用する。清華大学の高小榕教授チームが開発したシステムでは、PCの画面にアルファベットの一覧が表示され、すべての文字が異なる周期で明滅をしている。この中から、入力をしたい文字を注視すると、その文字の明滅周期と同期したSSVEPが発生する。これをヘッドギアの電極で捉え、文字周期とシンクロするSSVEPを観測したら、その文字が入力されたと見なす。

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脳波タイピングの仕組み。ディスプレイ上の文字は、それぞれ異なる周期で明滅をしている。入力者が入力をしたい文字を注視すると、明滅周期にシンクロした脳波が発生する。これを観測して、文字入力をする。A Dynamic Windwow Recognition Algorithm for SSVEP-Based Brain-Computer Interfaces Using a Spatio-Temporal Equalizer, Chen Yang他より引用

端から見ていると、入力者はただ画面を見て集中しているだけで、指1本動かしていない。まるで、念力で文字入力をしているかのように見える。

しかし、この脳波タイピングは誰にでも簡単にできるというものではないようだ。今回のコンテンストでは、3人の選手が出場したが、第2位の記録は毎分451.99ビット、第3位は毎分410.38ビットと、指によるタイピングよりも遅い速度でしかなかった。

しかも、この3人は、脳波タイピングの精鋭たちだった。清華大学の高小榕チームでは、脳波タイピングのコンテストを過去3回開いていて、毎回2000人ほどがタイピングスピードを競っている。今回のコンテストに参加したのは、いずれも決勝進出者で、脳波タイピングの世界記録を樹立することを狙ったイベントだった。

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北京で開催された世界ロボット大会での、脳波タイピングコンテストの様子。規制テープ内に立っているシャツの人が、このシステムを開発した精華大学の高小榕教授。マカオ大学ニュースページより引用

脳波タイピング、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者などのコミュニケーション手段として期待

このような脳波タイピングの研究は、例えば、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者などのコミュニケーション手段として活用されることが期待されている。ALS患者は、舌やのどの筋力も弱まり、言葉を発することが難しくなる。また、手足の運動麻痺も進行すると、筆談やジェスチャーも難しくなる。

そこで、一般的に用いられているのが、文字盤を使う方法だ。指が動かせる状態であれば、文字盤を指差す方法、あるいはキーボードをタッチする方法で、文字を入力することができる。

手足の運動麻痺も進んでしまった場合は、透明の文字盤を使い、読み手と患者が東名文字盤上の文字を通過するように視線を合わせ、瞬きを合図として文字を決める。

しかし、読み手が常に必要になる上に、患者の負担は大きく、さらに入力にも時間がかかる。患者がSNSなどを使いたいと思っても、短文を入力するだけでも、長い時間と患者の負担と周囲の手助けが必要になる。

脳波タイピングは、このような問題を解消し、患者が誰の手を借りることもなく文字入力をすることができるようになると期待を集めている。

さらに、入力できるのは文字だけではない。単語を表示して、より簡単に意思を伝えることも可能であるし、車椅子や家電製品のコマンドを並べて表示して、自分で制御することも可能になってくる。

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脳波タイピングは、ALS患者などのコミュニケーションツールとして期待をされているが、乗り越えなければならない課題も多い。現在も、研究者たちにより、日々改良されている。写真は、精華大学チームの開発による最新型のヘッドギア。「2018年脳機接口研発熱点回眸」(陳小剛他)より引用

一般の人も、意外なところで使う機会が今後出てくる可能性

ただし、高小榕教授によると、まだまだ脳波タイピングの実用化にはいくつもの課題があるという。そもそも、適性のようなものがあり、かなりのトレーニングを積まないとスムースに入力できるようにはならない。

今回のコンテンストでは、事実上のトップ選手3人が出場したが、それでも手によるタイピング速度を上回る好成績をあげたのは、優勝した魏斯文さんのみだった。新しいコミュニケーション手段として利用できるようになるまでは、まだまだ時間がかかる。

しかし、専門家からは、別の形で普及する可能性も指摘されている。それは脳波タイピングをすることが、集中力を養い、創造力、記憶力、注意力を向上させることがわかっているからだ。文字入力をすることが目的ではなく、集中力を養うトレーニングとして使われるようになる可能性もあるという。

このようなSSVEPを利用した入力装置の研究は、中国だけでなく、日本でもその他の国でも行われている。一般の人でも、意外なところで使う機会が今後出てくるかもしれない。

ライター

牧野武文(まきの・たけふみ)
テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。
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