累計ダウンロード数300万以上。『集中』や『継続する技術』などのヒットアプリを多数開発しているのに、「アプリに広告を入れたくない」というこだわりで収益は赤字化。それでも「人の役に立つアプリを作ることができれば幸せ」と語る『株式会社bondavi』の代表、戸田大介さん。
「楽しそうだから起業」「無駄機能で黒字化を目指す」など、お話を聞けば聞くほど、独自の視点でアプリ業界を走ってきた戸田さんの頭の中が気になります……!
今回は、『bondavi』が徹底する“ユーザーファーストなモノ作り”の極意や、戸田さんがアプリを作る際に大切にしている“思い”にフォーカス。学生から社会人、凡人から天才まで、多くのユーザーを魅了するアプリ開発の秘密に迫ります。
前編記事はこちら↓
「市場も競合も意識しない」 アプリ作りの真意とは?
「個性的であることは目的じゃない」
戸田さんは、現在のアプリ市場の傾向をどう捉えていらっしゃいますか? また、自社のプロダクトを差別化するために意識していることがあれば教えてください。
これはいいことなのかわからないのですが、僕は市場とか競合とかをあまり意識しない方だと思います。 だから、「世の中にこんな人が何%いるから、その人に向けてこれを作ろう」という発想でモノを作るということがなくて。
それは意外です……! では、何を基準にデザインやアップデートを行うのでしょう?
僕の場合は常に「自分のアプリを使ってくれているユーザー」ですね。 ユーザーから「こんなことで困っている」という声が上がれば、「その問題を解決するためにどうすべきか」という発想で試行錯誤します。
結果として競合とは異なる機能が実装されたとしたら、他の人たちは気づいていないけれど自分たちのユーザーが求めている何かが実現できたということ。 でももし、競合と同じ機能が実装されたとしても、それが本当に必要なデザインならば、決して間違いではないと思っています。
「差別化」を目的にするのではなく、目の前のユーザーに向き合うことで結果的に『bondavi』らしいものが作られているのですね。
同じ目的を解決するためにたまたま違う表現をとって、それが個性になることはもちろんありえます。 でも、個性的であるために存在しない問題を解決しようとして、不要なものが入るのって本末転倒じゃないですか?
僕は、「他と違う個性」を求めたプロダクトよりも、「何かと一緒だけど、その何かよりも役に立つ」プロダクトのほうがずっといいと思うんですよ。
情報が伝わるデザインと、相手が不快にならない語りかけ方
『bondavi』のアプリは、シンプルで使いやすいUIやおしゃれなデザインでも知られています。 アプリのデザインはすべて戸田さんが手がけているということですが、デザインする際に意識されていることはありますか?
デザインに関しては、前職の広告代理店での経験が活きていますね。 僕は当時、UI/UXを改善するチームでデータアナリストとして働いていたのですが、そのチームで情報設計を担当していた先輩の仕事には大きな影響を受けました。
「デザインによってこんなにも情報の伝わり方が変わるんだ!」というのを間近で見てきたので、今も「デザインがユーザーに伝える情報」はすごく意識していますね。
デザインのみならず、アプリ内のライティングにもこだわりを感じます。 肩肘張らず、くすっと笑えるユーモアがありながらも、すごくユーザーに寄り添っている印象があって。
アプリを使っている人の反応を見ているとよくわかるんですが、人ってちょっとした言葉遣いの違いで「ん?」とつまずいてしまうんですよね。 ユーザーが素直に「やってみよう」と思えない時って「こうしたらよいのでは?」みたいにどこか上から目線で語りかけていたりする。
僕はできるだけ、自分が言われた時「なんだよ!」と思わない文章を心がけていて。そういう意味ではやはり、ユーザーの目線というのを大切にしていますね。
「本当に人の役に立つアプリ」を生み出す『bondavi』流メソッド
「表情」から読み解く小さな違和感
普段から、ユーザーの“小さな反応”をアプリ開発のヒントにされているのでしょうか?
意識的に探してはいます。ユーザーがアプリ画面を見た時に一瞬浮かべる戸惑いの表情って、すごく重要なコミュニケーションエラーが隠されている。 アプリをよりよくしていくためには、この一瞬の違和感を深掘っていく必要があると思っています。
具体例を教えていただけますか?
たとえば『継続する技術』のユーザーインタビューでは、目標を設定した後にユーザーが画面のいろいろな場所を触って何かを探している仕草が多く見られたんです。
何をしていたのですか?
僕も気になって聞いてみたところ、みなさん「目標って1個しか設定できないんですよね?」と聞いてくる。 この質問で、どうやら多くの方が、複数の目標を設定できると思い込んで設定画面を探してしまうということがわかりました。
なるほど!この経験はどのように改善に活かされたのでしょう?
このときは、「目標はひとつ」というのがこのアプリのコンセプトでもあったので、修正するのではなくトップ画面に説明を入れることで対応しましたね。
「ユーザーファースト」なアップデート
『bondavi』のアプリは常にアップデートされ続けていますが、「ユーザーファースト」なアップデートのために心がけていることがあれば教えてください。
僕の場合「自分が欲しいアプリを作る」というのが出発点だったので、もともとユーザーファーストの最初に来るユーザーが自分だったんです。 そこから「人の役に立つものを作る」ということに目的を広げていった時、まずは「自分と人の違い」を1個1個吸収していく必要がありました。
どんな方法でしょう?
具体的には3つあって、そのひとつが「文面の情報」を読み込むこと。 たとえば、アプリの「ご意見フォーム」から届くメールや、アプリストアでの評価などです。
ユーザーの意見の中には、単刀直入にバグを訴えるメールもあれば、「会社から疲れて帰ってきて、どうしても『継続する技術』を開く気になれない」というような抽象的なメールもある。 でも、実際に人が継続を諦めるのって、こういうリアルな瞬間じゃないですか。
とてもよくわかります……。
僕は抽象的な本音の中にこそ、アプリ改善のヒントがあると思っているんです。 だからこのメールを読んで、「疲れて帰ってきたときにもアプリを開いてもらうためには?」という視点でアップデートを考えましたね。
他の方法も教えていただけますか?
ふたつめは、「定量のデータ」をとることですね。 僕はもともとデータアナリストの仕事をしていたので、『bondavi』でもデータから仮説を立てて改善する、ということは日常的に行っています。
みっつめが、先ほどもお話ししたユーザーインタビューです。やはり、1対1の会話や相手の表情からは、メールやデータからは絶対に出てこない情報が得られるので。
「役に立つアプリ」を生む『bondavi』流メソッド
お話を伺っていると、戸田さんのモノ作りの根本にあるのは、「人間への興味」なのかなと感じます。
そうですね。アプリを作っていると「人間が使うものを作ってるんだな」ということをすごく意識します。
もし、別の技術やきっかけがあったら、「人間への興味」はまた違った形で表現されていたのでしょうか?
あると思います。実は僕、高校では建築を勉強していたんです。 建築ってアプリ開発に通じるものがあると僕は思っていて。
と言うと……?
デザインというプロセスを経て最終的にできるものは「建築物」という物質だけど、本当に作ろうとしているものはその中にある空間や暮らしなんですよね。
僕らも、プログラミングやデザインというプロセスを経て目に見える「アプリ」を作っているけど、本当に作りたいのは「勉強に集中できた」「筋トレが続いた」というユーザーの体験。 暮らしや体験のような目に見えないものを作っていくという部分で、今でも建築にはすごく興味がありますね。
とても興味深いお話です!
『bondavi』らしいプロダクトを生み出す、社長の「凡人力」
「毎日を少しずつ豊かにする」プロダクト
戸田さんにとって、『bondavi』らしいプロダクトとはどんなものですか。
あまり言葉にしたことがないのですが、なんとなく思い描いているのは「毎日の暮らしにちょっと役立つもの」とか、「平和で誰も傷つかないもの」ということでしょうか。
『bondavi』の理念も、「特別じゃない毎日を、少しずつ豊かに」というものですよね。
僕は1年に1度来る特別な日よりも、毎日会社に行って家に帰るとか、ご飯を食べるとか、そういう普遍的な日々の営みを豊かにすることに関心があるんですよ。
だから、アプリ開発においても「自分が毎日使えるかどうか?」を自問しながら作っているんです。そういった意味で、「毎日」というのはひとつのキーワードになっているかもしれません。
凡人であることがアプリ作りに活きている
『bondavi』という社名の由来には、「凡人にも、ダヴィンチのような天才にも、人を選ばずに使ってもらえるような、普遍的な価値のあるアプリが作りたい」という思いが込められているそうですね。 戸田さんはご自身のことを「凡人」と表現されていますが、その理由は?
僕の周りにはすてきな人がたくさんいるので、「自分が人より優れている」という考えは持ちたくないなと。 その上で、「天才じゃなきゃ偉くない」みたいな世界観は苦手なので、「凡人も天才も仲良く平和にやっていきたい」という願いを込めたつもりです。
では、凡人であることがアプリ開発に活きている部分はありますか?
ありますね。アプリの目的として、僕は基本的に「全員にとって再現性のないことは目指さない」んです。
極端に言えば、「IQを100上げる」とか「東大を目指す」と言うようなことでしょうか?
そうです。めちゃくちゃ頭のいい人にむけて、膨大なデータを見せて「あとの解釈はお任せします」みたいなことは絶対にやらない。
たとえば、「東大に行くような頭のいい人でも、普通に3日坊主になったりするよね」という誰にでも起こりうる課題を探して、誰もが実行できるプロセスで『物事を継続する』という実現可能なスキルを身につけてもらう。 そういう発想は、「凡人の目線」から生まれてくるのではないでしょうか。
まさに、「凡人からダヴィンチまで」ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!
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