累計ダウンロード数300万「でも赤字」。bondavi株式会社に学ぶ、”幸せ"のモノづくり論【前編】
集中力を助け、仕事や勉強の生産性を高めるアプリ『集中』をご存じでしょうか。 タイマーをセットして集中する時間を決め、どれくらい集中できたか記録する、という一見“ありそう”なアイデアに、シンプルで使いやすいUIとユーモア。「広告ゼロ」という振り切ったユーザビリティーが話題を呼び、コロナ禍で在宅時間が増えたビジネスパーソンや、勉強に集中したい学生たちから支持されています。
開発したのは、アプリ開発会社『bondavi株式会社』の代表、戸田大介さん。アプリ制作への思いが強すぎて起業。社員を増やしたにも関わらず、収益の柱となっていた受注デザインの仕事を終了し、広告収益が入らないアプリをリリースし続けて経営は赤字に。
今回はそんな、少し変わった会社の実態から、「お金にならないのにどうしてそこまでするの?」という素朴な疑問、「愛されるアプリ」を作る秘けつまで、戸田さん本人に直撃。bondaviのアプリユーザーはもちろん、アプリ開発に関わる方も必見のインタビューとなりました!
アプリが大ヒットしたのに赤字続きのアプリ会社、『bondavi』の誕生秘話
自分のアプリがバズって感動。アプリ開発を仕事に
アプリ開発を仕事にしようと思った経緯を教えていただけますか?
もともとは会社員をしながら趣味でアプリを開発していたんです。当時は女の子がひたすら褒めてくれるアプリとか、けっこうふざけたものを作っていたんですが、あるとき僕の作ったアプリがメディアに取り上げられて。 すると、沖縄から北海道まで日本中の人からさまざまな反応が届いたんです。
それは嬉しいですよね。
僕、大学まではずっと地方の自分のいる地域しか知らなかったので、そのとき世界が開けたというか。自分1人で作ったものが世の中に広がって、いろんな人に影響を与えられるんだ、ということに感動しちゃったんです。
つい、「これ(アプリ)で生きていきたいなあ」って思ってしまって。先のことも考えずに「アプリ作りたいんで辞めます」と上司に(笑)それで現在に至ります。
フリーランスから起業し、仲間探し
始めはフリーランスとしてアプリ開発をされていたとか。
そうですね。最初は会社を作ろうとか、社員を入れようというつもりは全くなくて。何かきっかけがあったというよりは思いつきで、「会社を作って仲間と一緒にアプリを開発したらもっと楽しいんじゃないか」と。
フリーランスになった時といい、思いついたら即行動派なんですね! 現在のメンバーは、どのようなつながりで集まったのですか?
SNSで公募しました。TwitterやInstagramで募集要項を発表して、応募者の中から書類選考して、面談して……という一般的なプロセスを踏みましたね。 僕は一緒に働く仲間は慎重に選びたかったので、試験採用期間も設けました。
戸田さんが採用で重視したポイントが気になります。
一番大きいのは人間性ですね。僕が一緒にやりたいなって思えたかどうか。それと、ちょっと難しい質問にもまとまった答えを返せるような、頭の回転が早い方を求めていました。
ただ、エンジニア採用の際はスキルも重視したかったので、募集方法自体を工夫しました。
具体的には?
募集要項をプログラミング用語で書いたんです。解読できた人しか選考に進めない、みたいな(笑)
面白い!
今のメンバーと、日々の実務について教えていただけますか?
現在は僕のほかに、エンジニアであり開発担当の丸子、広報の松本の2名が社員として働いています。 アプリ開発に関しては、デザインやアプリ内のテキストは僕が、プログラムは僕と丸子がそれぞれにプロダクトを担当している形ですね。
ひとつのプロダクトを1人の開発者で担当するってあまりないですよね?
アプリ開発会社だと、フロントエンド側とバックエンド側などで、開発者を分けるのが一般的かもしれません。うちはプロダクトごとに担当者をはっきりと分けている方じゃないでしょうか。
広報の仕事はシンプルで、プレスリリースの準備をしたり、メディアの研究をしたりというところです。
ダウンロード数300万の大ヒットでも赤字で運営を続けるワケ
大ヒットアプリ『集中』。「自分が欲しい」がすべての原点
集中する時間と休憩する時間を決めて生産性を高めるアプリ、『集中』。1つの知識やスキルを習得するために30日間継続するためのアプリ、『継続する技術』など、開発されたアプリの累計ダウンロード数が300万を突破されました。 戸田さんがアプリ開発において意識されていることはどんなことですか?
僕は基本的に、「自分が欲しいと思ったアプリを作る」というところをスタートにしています。『集中』も、『継続する技術』もすべて、「こういうアプリがあったらいいのにな。でも今あるものってなんか違う」っていうところが出発点なんです。
たとえば、どんなところが違ったのですか?
そうですね。『集中』アプリなら、時間を設定できるタイマーアプリはたくさんあるんです。でも僕が欲しかったのは、用意されているボタンを押すだけでタイマーがスタートして、集中した時間を記録できるものでした。
『継続する技術』の場合は、目標をひとつだけ設定できるアプリが欲しかったんですよね。「走る」「筋トレする」「ダイエットをする」と、同時並行で何個も目標を設定するアプリはよくあるのですが、同時並行でいくつも目標を立てるって、僕にはできないので(笑)
アイデア自体はありそうだけれど、「自分が欲しいもの」という切り口で機能を見直すことで、結果的に使う人の動機や目的に寄り添っているのですね! ところで、コロナ禍で在宅ワークに切り替えたビジネスパーソンや、授業がなくなり家で勉強する学生さんが増えましたが、『集中』アプリのおすすめの使い方があれば教えていただけますか?
僕自身は、「何時から何時まで何セット集中する」ということをルーチンにしていますね。 具体的には、朝起きたら25分を3回。食事の後は25分を6回。日々のリズムが固定化されると、生産性が高まる気がしています。
かなり規則的な生活をされているのですね……!
ただ、多くの方はミーティングがあったり、業務連絡があったりして自分のリズムを作りづらいんじゃないかと思うので、あまり汎用的なアイデアではないかもしれません。
広告を載せずに、『無駄機能』で収益化目指す
『集中』アプリには、「応援コメントが名言風になる」「ドラマティックにタイマーを一時停止する」など、課金することで拡張できるユニークな『無駄機能』がありますね。
『無駄機能』は、「どうしたら不快な気持ちにならず、気持ちよくお金を払ってもらえるのか?」を突き詰めた結果なんです。
どういうことでしょう?
本来であれば、アプリを収益化するためには広告を入れなくてはいけない。でも僕、アプリに広告が入っていると「ウッ」ってなっちゃうんですよ。自分が使いたいものを作ることを前提にしているので、「広告が入ったアプリ」はどうしても作りたくないな、と。
かといって、必要な機能を有料化するというのも違う。自分が学生のころを振り返ると、アプリに課金するようなお金の余裕はなかったし、「課金しなくちゃ使えない機能って感じ悪い」と思っていましたから。
だから、本来の機能自体には影響しないけれど、課金することでちょっと楽しくなるようなバランスを考えられたのですね。
ただ、データを取ったところ実際に課金してくれた人の数値は全体の1%程度。99%のユーザーは課金せずに使っていますね(笑)
アプリはウケても収益は赤字。メンバーの反応は?
昨年6月のTwitterで、「売上の8割を占める受託デザインの仕事を終了した」とありましたが、現在メインの収入源は?
『無駄機能』ですね、はい。
課金率1%️のツイートでは「資金が尽きる前に黒字化しないと会社がつぶれるという状況」とありましたが、その後、収益に変化はあったのでしょうか。
あのツイートの後、ダウンロード数が増えてきたので若干は回復しました。プラス、買い切りスタイルだった『無駄機能』の価格を下げて月額制にしまして。それも少しは影響していますね。 一時的には課金率がガクンと減ったのですが、『集中』というアプリや『bondavi』のプロダクトそのものを応援してくれる方が増えたのではないでしょうか。
回復傾向とはいえ、赤字が続くことへの焦りはありませんか?
そうですね。でも結果的にこれでよかったと思っています。このまま赤字が続いて会社がつぶれそうになったらまた元の受注スタイルに戻せばいいし、それまでの間好きなアプリ開発に専念できるんだったら十分幸せなので。
『無駄機能』という現在の収益スタイルを、スタッフの方はどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?
実は先日、コロナが落ち着いたタイミングで飲み会があり、アプリの収益や会社の状況について2人がどう思っているのかを聞いてみたんです。 広報の松本は、「ユーザーのために広告を載せないということはすごく共感しています!」と話してくれました。ただ、「広告なしでどれだけできるのか、正直不安と楽しみな気持ちが半々」だと……(笑)
率直な意見ですね(笑)
開発担当の丸子はもう少しシビアで、「『無駄機能』で黒字化を目指してると聞いたときはふざけてるのかなと思っていた」と。
ただ、丸子もユーザーインタビューやレビューで「アプリが本当に役に立っている」という声に触れて、「この方針も間違っていないのかも」という気持ちに変わりつつあるようです。
稼げなくても、“企業として”アプリを作り続ける理由
本当にいいアプリを、世の中に届けたい
失礼ですが、収益化に振りきらないにも関わらず、どうしてアプリ開発を趣味ではなく“企業として”続けられるのでしょうか?
僕の中では2つの理由があるんです。ひとつめは「1人でやるよりも優秀な仲間がいたほうが、より人の役に立つことができる」ということ。 丸子も松本もとても優秀で、丸子は開発を初めて2年しか経っていないにも関わらず、すごく複雑なコードもかける。作りたいものに手が追いつかない時、戦力になってくれる仲間がいることは本当にありがたいですね。
まさに右腕!
松本も、広報経験がなかったにも関わらず、独学で成長して会社を支えてくれました。彼女が入社してからの1年半で、会社やアプリのことをメディアに取り上げていただく機会は格段に増えました。
そうだったんですね!でも、そもそもどうして技術者ではなく広報を募集されたのですか?
先ほどもお話しした通り、僕らのアプリは広告を入れていないので、『bondavi』という会社をいかに世の中に知ってもらえるかが会社存続の肝になります。松本が『bondavi』と社会との接点を作ってくれたことで、僕は開発に専念することができているんです。
お2人の存在が『bondavi』のモノづくりを支えているんですね!
はい。彼らの働きで生産性が上がり、そのぶんユーザーのためにできることが増えていることは確実です。結果的に『bondavi』としてよりよいプロダクトを発信することにつながっているのではないでしょうか。
ふたつめは単純に、「仲間がいたほうが楽しい」ということですね。自分たちが作ったものが人の役に立った時とか、会社が成長したときに、一緒に「やったー!」と喜べる人がいるっていうのは素直にうれしいことなのかも。
『bondavi』が “チーム”として目指す未来は?
今後、会社の拡大は考えていらっしゃいますか。
「メンバーを増やす」ということはあまり考えていませんね。というのも、人が増えると、1人ひとりに目配りすることが難しくなると思っていて。
具体的にどういった点が?
僕は、一緒に働いてくれる人のことをじっくり時間をかけて考えたいんです。今も、メンバーがいい仕事をできるように働く環境を整えているところで。 もしメンバーが10人、20人に増えた時に、間にマネージャー職を置くことで全員がハッピーに仕事ができる方法をちゃんと考えられるのか。僕自身、その辺りの組織論はまだまだ慎重に検討する余地があると思っています。
なるほど。
ただ、人員的な規模を広げようというところではなく、アプリのダウンロード数や会社自体の認知という部分はどんどん広げていきたいと思っています。というか、広げないとつぶれちゃうっていう状況なんですが……。
今後会社として目指す方向性があれば教えてください。また、アプリ開発以外でやりたいことや現在構想していることはありますか?
まずは、今作ってるアプリのクオリティアップを一番に考えています。コードに関してもデザインに関してもまだまだ未熟で学ぶべきことがたくさんありますし、僕だけでなく丸子も松本も成長の余地があるので。 もしかして、10年後とか20年後とかに本当に満足のいくアプリが作れるようになっていたら、そこで初めて違うことを考えられるかもしれませんね。
後編記事はこちら↓
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