AWSを利用して開発環境を構築する
ITエンジニアの皆さんにとって、最適なシステム開発環境を手にすることは大きな関心事であり、課題でしょう。開発プロジェクトが決まっても、開発環境の構築に手間取り、開発着手が遅れるという事例も少なくありません。
そのような問題を解消する方法として、AWSの開発環境を利用するという方法があります。まず、従来の開発環境の構築方法について確認し、AWSを利用すると、それがどう変わるのかを検証していきましょう。
開発環境を構築するとは
開発環境は、効率的・効果的なシステム開発を行うための環境です。この開発環境の構築には、「開発者が自由に、快適な使える環境」や「本番環境と同一環境」が求められるのが普通です。
また、一般的にはチーム体制で、複数の開発エンジニアによって使える環境であることが必要です。
こうした条件を満たすために、オンプレミス環境では、本番で利用するサーバーやデータベースソフトなどを先行導入するケースが一般的でした。中には、テスト機と本番機として、2セットを購入するケースもあり、経営陣から見ると、「無駄使いが多いシステム部門」という偏見を招くことも少なからずありました。
AWS Cloud9は開発環境構築で最も手軽な方法
クラウドサービスが普及するまで、開発環境を整えるのは本番環境を構築するのと同じくらい大変なことでした。今はクラウドサービスが豊富にあり、早ければ10分ほどで開発環境を整えることが可能です。その中でも、1年間無料で試せるAWSのCloud9が注目を浴びています。AWSでは、必要な時に必要なだけサーバー・ストレージ・データベースを利用することができるので使い勝手が良さが人気の理由です。
AWS Cloud9とは
では続いてAWS Cloud9について見ていきましょう。「Cloud9」のネーミングの由来は"Cloud nine"で、"seventh heaven"と同様に、とても幸せな気持ちを表すときに使われる"Cloud nine"です。
そんなCloud9はブラウザを利用したIDEで、JavaScriptやPythonなど、プログラミングに必要な言語やツールが用意され、直ぐに開発作業に着手することができる点が特徴です。"
IDEとは
先ほどIDEという言葉が出てきたので、IDEについて確認しておきましょう。IDEは、英文ではIntegrated Development Environmentと記し、統合開発環境のことを指します。IDEでは、アプリケーションの開発に必要となる言語・エディタ・コンパイラ・デバッガーソフトウェアなどが全て揃っており、開発者にとっては大変便利なサービスです。AWSはクラウド環境でのIDEをCloud9として提供しています。
AWS Cloud9のメリット
Cloud9がクラウドベースの便利なIDEであることは分かったと思います。AWS Cloud9の利用メリットは数多くありますが、ここでは、代表的なメリットを挙げてみましょう。
ブラウザだけで直ぐに開発に着手できる
AWS Cloud9はブラウザ上で利用できるツールです。一般的なIDEでは、必要なソフトウェアをローカル環境にインストールし、プログラミング環境を構築しなければならないため、その手間がかかります。一方、Cloud9はインターネットに繋げてブラウザさえあれば、直ちに利用を始めることが可能で、面倒な環境構築の必要性がありません。
多くの言語に対応
AWS Cloud9は、JavaScript・PHP・Python・Rubyなどの主要な言語に対応しており、プログラミングのツールが予め用意されています。必要な言語が揃い、開発に必要なファイル・SDK・プラグインなどのインストールの必要がなく、また各種設定も不要です。これがCloud9のメリットであり、人気の秘密です。
チームメンバーと共同作業が可能
AWS Cloud9では、クラウド環境でプラウザベースのため、離れた場所にいるチームメンバーとも共同で開発作業が行えます。
共同作業では他のチームメンバーのコーディング内容を同時に確認ができ、相互にIDE内でチャットを利用して連携ができるため、開発作業の効率が上がります。
ローカルでのテストも可能
AWS Cloud9では、コードやプログラムをサーバーレスで実行可能なサービス「Lambda」をローカルで利用することができます。AWS Lambdaをローカル環境で利用することで、サーバー上でのプログラムデバッグ時間が削減でき、またEC2の利用料金削減に繋げられます。(トライアル期間中はEC2は基本的に無料)
AWS Cloud9は無料利用が可能
AWS Cloud9は、最初の1年間は無料で利用が可能です。追加料金なしで、コード編集やデバッグ機能などを無料で利用可能なのはありがたいですね。また、AWS Cloud9の開発環境では、LinuxサーバーやWindowsサーバー(英文タイプ)を無料で利用できます。AWS Cloud9自体は無料ですが、無料枠には制限があり、その制限を超えたり、有料オプションを選択したりすると利用料金がかかる点は予め理解しておきましょう。
AWS EC2は従量課金?
AWS Cloud9は、仮想サーバーサービスのAWS EC2を利用する場合に、利用した分だけ課金される従量課金です。ただし、無料利用枠でAWS Cloud9を利用する場合は、AWS EC2の1年間無料利用が可能です。ちなみに、無料利用できるサービスは次の通りです。
■コンピューティング:Amazon EC2 750 時間/月
■ストレージ:Amazon S3 5GBの標準ストレージ
■データベース:Amazon RDS 750 時間
■コンピューティング:AWS Lambda 1,000,000 件/月の無料リクエスト
以上のような、約70のサービスが無料で1年間試用できます。
AWS Cloud9の利用方法
AWS Cloud9を利用する際には、以下の手順を踏む必要があります。
メールアドレスやパスワード入力・アカウント選択・基本情報入力・支払方法・セキュリティ・サポートプラン選択の6ステップの手順がありますが、予め必要なものを用意しておくと10分程度完了します。
参考 : 「AWS Cloud9 の開始方法」
最初に必要なもの
AWS Cloud9の利用にあたっては、最初にメールアドレスとパスワードが必要です。最初にAWSアカウントを作成しますが、AWSアカウントの作成にはメールアドレスとパスワードの入力が前提です。
AWSに登録するメールアドレスは、AWSとのやり取りに利用します。また、複数人でAWSからの通知情報などを共有する場合には、メーリングリストの利用が可能です。
アカウント選択
AWSのアカウントは、個人利用の「パーソナル」と、法人利用の「プロフェッショナル」の2種類があるため、利用目的にあわせてアカウント種類を選びます。
「パーソナル」と「プロフェッショナル」には、AWS上で利用できる機能に差はありませんが、「プロフェッショナル」を選択するとアカウントの作成時に「会社名」の入力が必要です。
基本情報入力
AWSアカウントの種類選択をしたら、続いて基本情報を入力します。
アカウントの作成に必要となる基本情報は、氏名・(会社名)・連絡先電話番号・国・住所・郵便番号です。これらの項目をすべて入力し終えたら、利用規約の「AWSカスタマーアグリーメント」に同意し、【続行ボタン】をクリックします。
支払い方法入力
AWS Cloud9の利用にあたり、利用料金の支払い方法について入力を行います。無料利用枠での登録でも、支払い方法の入力は必須です。
料金支払い手段は、クレジットカードとデビットカードの2種類だけです。支払い代行を利用する場合を除いて、口座振替はできません。利用できるクレジットカードは、VisaやMasterCardなどの国際ブランドのカードです。カード情報と請求先住所を入力すると、支払い方法に関する入力が完了します。
入力したカードの有効性を確認するために、1USD/EURでの請求が発生しますが、有効性が確認された後に、その請求が削除され相殺されます。
セキュリティチェック
支払方法の入力が済むと、次は新規に作成したアカウントの本人確認が目的で「セキュリティチェック」があり、電話またはSMSによるセキュリティチェックが行われます。
AWSから認証コードが送られてくるため、その受取り方法及び国コード(81)を選択し、電話番号を入力するとスマホなどに4桁の検証コードが届きます。その検証コードを入力して合致すれば、本人確認が完了します。
プラン選択
最後のステップで、AWSサポートプランを選択します。
無料利用枠での登録の場合は「ベーシックプラン」と、有料サービスには「開発者プラン」「ビジネスプラン」に加え、「エンタープライス゜」の3種類があります。このいずれかを選択すると、AWS Cloud9の利用が可能です。
有料サービスのAWSサポートプランは、AWSアカウント作成後に検討してから申し込みをすることができるため、よく分からない場合は、無料の「ベーシックプラン」を選択しておいても構いません。以下に、参考程度に各プランの内容についてまとめました。
他にもエンタープライズプランがあり、ミッションクリティカルなシステム、大規模システムなど影響の大きなシステムを抱えるユーザーに向けたサービスです。月額15,000USDとかなり高額ですが、専門家の強力なサポートが強みです。
■ベーシックプラン
無料プランのベーシックプランでは、サービス状態ダッシュボード・製品 FAQ・リソースセンターやフォーラム、および健全性チェックサポートなど、一通りのサポートが無料提供されます。それら以外の製品操作や設定方法、障害原因の切り分けなど、技術的な問題に関する対応を求める場合は有償プランの選択が必要があります。
■開発者プラン
開発者プランは有償サポートで、月額29USD(約3,100円)が必要ですが、ベーシックプランの機能に加え、クラウドサポートアソシエーツの利用、システム障害対応などの機能が追加されます。
本格的なシステム開発での利用、AWSの有識者がいないチーム利用の場合は、この開発者プランを選択することをおすすめします。
■ビジネスプラン
ビジネスプランでは、本格的な開発や本番環境移行などで、より踏み込んだサポートを受けられます。
利用料金は月額100USD(約10,600円)ですが、プロによる日本語サポートを24時間365日利用可能です。ビジネスに直結する障害などは、初回応答時間が1時間以内と素早い対応をしてもらえます。
AWS Cloud9を試してみよう
ここまで、AWS Cloud9の概要・利用メリット・料金・利用手順などを解説してきました。
AWS Cloud9は、あっという間に登録できて、クラウド上でシステム開発環境がすぐに作れ、チーム利用ができる大変便利なAWSのサービスです。個人利用や無料での利用も可能なため、ITエンジニアの皆さんはぜひAWS Cloud9の利用を検討してみてください。
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