DXやUX、CXをよく目にするけれど
日本は今やDX時代のど真ん中にあります。DXは2025年という期限が設けられ、どこの企業もDXに熱心に取り組んでいます。情報システム部門を分離し、DX推進部を新設した会社も少なくありません。そんな今、DXに加えてUX、さらにはCXまでと"X"が大流行りです。言葉が流行りだすと、今さら人に聞けないという方もいるでしょう。ここでは、ITエンジニアとしては押さえておきたいDX・UX・CXの違いや関係について解説します。
そもそもDXて何?
「失われた20年」と言われるように、この20年間以上日本経済は低迷しています。その原因の1つとして、諸外国に比べてデジタルの有効利用ができていない日本企業の弱点が指摘されています。2018年に「日本企業においてもデジタルトランスフォーメーションを進めるべきである」として、経済産業省が「DX推進ガイドライン」を作成し公開しました。このガイドラインでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)が「大きく変化するビジネス環境への対応に、IT技術を活用した業務改革が競争力を高めるにために欠かせない」としています。
この経済産業省の提起をきっかけにDXブームが巻き起こり、どこの企業もITシステムの刷新に取り組むようになりました。一方、この結果ITエンジニアの枯渇という問題が起きています。
2025年の崖とは
同レポートでは、DXへの取り組みの必要性として、DXが進まない場合には「2025年以降、年間で最大で12兆円の経済損失が生じる」と警告しています。日本の企業の多くには、バブル期に構築したレガシーのシステムがまだ数多く残っていますが、レガシーシステムは老朽化、複雑化しブラックスボックス化して、企業経営の足枷となっているのです。
これらを捨て、企業の競争力を高められるシステムに変えていかなければ、企業の存続自体が危うくなり、海外企業との競争にも勝てず日本経済の土台が揺らぐ事態に陥るというのが、2025年の崖です。一方、期待通りにDXが実現すれば、2030年には実質GDPが130兆円も増加するとの試算もあり、DXへの期待は高まっています。
なぜ「DT」ではなく「DX」なのか?
DX:DigitalTransformationのスペルからすると、デジタルトランスフォーメーションの略称は「DT」とするのが自然だと思われますが、なぜDXなのでしょう?
それは、""Transformation""は""X-formation""と表記されることがあり、その頭文字のXを取ってDXと呼ぶようになったからだそうです。ちなみにTransは交差を意味するCrossと同義で、CrossはXと省略されることがXの由来だそうです。
UXとは
さて、最近DX以上によく目にするUXですが、UXについての理解も深めていきましょう。
そもそもUXとは何か?
UXとは、ユーザーエクスペリエンス"User eXperience"の略語です。意味は「ユーザー(=顧客)が製品やサービスを通じて得られる体験のこと」です。
この顧客の体験を、顧客が望む姿により近づけることがUXの向上となり、UXの向上によって顧客の製品やサービスに対する価値が高まり、それがリピーターにつながるという考え方です。
UIとUXの違いは?
Web系のエンジニアの方にとって、UIは日常語だと思いますが、ではUIとUXは何が違うのでしょうか?
UIとUXは「UI/UX」のように一括りで使われることもあり、類似語のように思えます。また、時には混同して使われていることもありますが、実はUIとUXは別物です。
UIは""User Interface""(ユーザーインターフェイス)の略語で、ユーザー(顧客)と製品やサービスとのInterface(接点)のことで、製品やサービスの扱いやすさを表します。一方のUXは、製品やサービスの全体を通じて得られる体験を示す言葉です。
UIとUXの違いを一言で表すと、UIは「顧客との接点」でありUXは「顧客体験」です。また、質の良いUXを得られる製品やサービスは、優れたUIを実装しているといえます。すなわち、質の良いUXを得る条件として、質の高いUIが必要だということです。
例えば、iPhoneを使うことで得られる満足感や楽しさといった感動がUXです。そのUXは、iPhoneの持つデザイン性や優れた操作性などのUIによって得られているのです。つまり、UIはUXに包含される1つの要素と言えるでしょう。
UXは分かったけれど、CXとは?
UXについて理解されたと思いますが、他に似たような言葉でCXというものが注目されています。CXは""Customer eXperience""(カスタマー・エクスペリエンス)の略語なのですが、UXに対して、わざわざCXという言葉があるのには実は意味があります。
CXはUXよりも更に広い概念です。UXが製品やサービスに関することならば、例えば、製品に付帯する保証・サービス・メンテナンス・コールセンターの対応・販売員や営業のレベルの高さなど、顧客にとっての全てのタッチポイントがCXの範囲なのです。
製品やサービスは次第に同質化しており、それだけでは差別化となりません。製品やサービス+αがより質の高いCXを生み、それが顧客の支持を得る要素となるのです。以上を式にしてみると、
UI<UX<CX の関係になります。
DXとUXの関係
続いて、DXとUXの関係について考えてみましょう。両者は全く別物ではなく、表裏一体の関係でもあるのです。
DXの目的はUX?
日本ではDXはまだまだスタートしたばかりですが、海外ではDXは当たり前になっています。例えば、中国ではオンラインとオフラインの境界がなくなり、消費者はネットとリアルの区別をすることなく購買行動をしています。
中国のアリババが展開するHemaというスーパーでは、スマホ1つで全ての買い物が完結します。注文した商品も希望すれば自動的に自宅に配送され、決済も全てスマホ決済です。こうした取り組みは日本でも「店舗DX」として注目され、UNIQLOやイオンなどが取り組みをしています。
こうして世界はデジタル化に向けて大きく動いていますが、デジタル化が当たり前になると、その次の時代が訪れます。それを「アフターデジタル」と呼びます。「アフターデジタル」では、顧客は製品やサービスに価値を見出すのではなく、体験に価値を見出すようになると言われています。
すなわち、UXであり、その先にあるCXが重要になります。DXは単なるデジタル化ではなく、デジタルを用いてUXやCXの価値を高め、顧客に支持され、愛される企業を目指すことなのです。
UXの実現がビジネスの課題
これからは製品やサービスの品質だけではなく、顧客体験であるUXの質を高め、CXの実現が問われる時代に移行していきます。これまでの顧客管理では、個人の属性を収集することに力を入れていました。性別・年齢・地域・趣味などの属性データを集めるために顧客カードを発行し、入会申込書のデータを入力していました。
今は、スマホに登録された会員カードやポイントカードが購買や決済と連動し、行動情報としてビッグデータに蓄積をされていきます。
顧客が店舗の近くに来れば、プッシュ通知でスマホに顧客が喜びそうなクーポンやセール情報を送り、自店に誘導することが可能になりました。スマホを通じて顧客は便利で楽しい体験を何度もできるようになっています。これがUXです。
このUXを実現することが企業の発展には欠かせません。そして、その後押しをするのがDXです。DXは単なるデジタル化ではなく、UXやさらにはCXを実現するための手段であり、1つのステップだという認識を持つことが大切です。
ITエンジニアはUXを意識しよう
ここまでDXとUXの関係について説明してきました。そして、UXはDX化の目的の1つだということがお分かりいただけたと思います。私たちITエンジニアは、ただ単に仕様に従ってシステムを開発すれば良いという時代は終わったのです。
ITエンジニアは、UXを意識しながらシステムを開発する時代が訪れたと考えましょう。なぜなら、UXの得られないシステムは顧客に受け入れられなくなっているからです。
徹底した顧客目線がUXの鍵
Webエンジニアの皆さんはUIを意識してWebデザインをされているでしょう。確かにUIは重要です。顧客の目を引く・見やすい・操作性が良い・入力しやすいことは絶対条件でしょう。しかし、UIはそれで良いのかもしれませんが、UXはそれだけでは得られません。
そのサイトを実際に利用してみて、何らかの感動や満足感が得られなければ、顧客は戻ってこないかもしれません。より良いUXという付加価値を付けるには、1度システム開発という立場を離れ、顧客目線ですべてを見ることです。
例えば、以前は予約サイトなどで、誤入力をすると先頭から入力をし直さなくてはならないような作りのサイトがよく見受けられました。そんなサイトは仮にUIは良くとも、UXでは完全に失敗です。このサイトで誤入力を経験した顧客は2度とそのサイトを利用しないでしょう。
逆に、わずかな入力で簡単に予約が行えるようなサイトはまた利用しようと思うでしょう。その違いは、目線が開発側や企業側にあるか、顧客側にあるかの違いです。UXは徹底した顧客目線が鍵なのです。
UXは顧客との価値の共有にある
UIの場合は、入力時のクリック回数や誤入力回数、入力時間などによって、ユーザーがイメージした通りに操作しているかどうかが分かり、UIの良し悪しが判断できます。
一方、UXは売上増加などの効果が見えてこないと、UXの良し悪しが分かりにくいという側面があります。ただ、再訪問の率が上がればUXが良いという判断はできるでしょう。
いずれにしても、再訪問率が高ければそれが売上につながる可能性が高まります。また常にUXを意識し、「顧客がどのような体験を期待しているのか」を想像しながら設計や開発を行えば、エンジニアはユーザーの属性、ユーザーのニーズについても深く考えるようになるでしょう。
小売業やサービス業では、顧客の喜びや感動が、自分の喜びだと感じる人が少なくありません。ITエンジニアも、企業の目線ではなく顧客の目線で仕事をするようになると、次第に顧客の顔や表情が見えてきます。顧客と価値の共有ができた時、あなたはITエンジニアをやっていて良かったと思えるでしょう。
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