クラウドサービスとAWSのメリット
AWSのメリットを知る前に、クラウドコンピューティングとAWSの関係、AWSの特徴について確認しておきましょう。
クラウドコンピューティングとは
「クラウド コンピューティング」はサーバー・ストレージ・データベース・ネットワーク・ソフトウェアなどをインターネット(クラウド)経由で提供するコンピューティングサービスのことです。提供形態としては、パブリック クラウド・プライベート クラウド・ハイブリッド クラウドの3つのパターンがあります。
【パブリック クラウド】
企業や個人を問わず、不特定多数のユーザーに対して提供するクラウドサービスのことです。
【プライベート クラウド】
企業などが自社専用のクラウド環境を構築して、社内やグループ会社にクラウド環境を提供する形態です。パブリッククラウドにもさらに2パターンあり、自社内でインフラの構築や運用を行う「オンプレミス型」と、クラウド事業者から自社専用のインフラをサービスとして提供を受ける「ホステッド型」があります。
【ハイブリッド クラウド】
「パブリッククラウド」と「プライベートクラウド」を組み合わせて利用するクラウドコンピューティングの形態で、それぞれが持つメリットを活かし、補完しあえるという特徴があります。
クラウドサービスの種類
クラウドサービスには提供するサービスの範囲として、次の3パターンがあります。AWSの中心はIaaSです。
1.Infrastructure as a Service(laaS)
サーバーやストレージ、ネットワークなどのインフラ部分のみを提供するクラウドサービスです。インフラ以外のOSやミドルウェア、アプリケーションなどのソフトはユーザー側で用意し、インストールした上で利用します。
2.Platform as a Service(PaaS)
サーバーやネットワークなどのプラットホームに加え、OSやミドルウェアまでを提供するサービスの形態です。アプリケーション以外の環境が整っているため、ユーザーはソフトウェア開発に専念できます。
3.Software as a Service(SaaS)
プラットホームやミドルウェアに加えてアプリケーションまでを含むクラウドサービスで、ユーザー側で用意するものは特にありません。代表例としてMicrosoft Office 365やSalesforceなどが挙げられます。
AWSの特徴
AWSは世界最大の通販サイトAmazon社が提供する世界最大のクラウドサービスで、「Amazon Web Services」の略称です。Amazon社が自社のサイト「Amazon.com」運営ノウハウを活用し、2006年7月に一般公開されました。
AWSは、Amazonの利益の半分以上をAWSが稼いでいます。2020年の第4四半期でシェア32%を獲得しており、売上も前年同期比で28%増加するなど依然好調をキープしています。AWSが独り勝ちの理由としては、他の企業に先駆けて2006年からサービスを提供していることが大きいでしょう。
AWSは世界25 のリージョンに 80 のアベイラビリティーゾーン(データセンター)を展開し、個人やスタートアップ企業から大企業・米国政府機関・日本政府まで100万以上のユーザーがAWSを利用しています。
AWSのサービス
AWSは約90のサービスが提供されています。その内の主要なサービスは、AWSアカウントを取得すれば直ちに利用することができます。AWSアカウント自体は無料で作成が行え、個人でも取得できます。AWSの主要サービスであるAmazon EC2やAmazon S3などには一定の条件で無料利用枠が設けられ、1年間(12カ月間)サービスの利用料金がかかりません。
例えば、仮想サーバーを利用したい方はAmazon EC2を月間750時間×12カ月間無料で利用できます。また、ストレージサービスであるAmazon S3はストレージを5GBまで12カ月、データベースサービスのAmazon RDSも12カ月無料で利用が可能です。
すなわち、お試しの利用からシステム構築までの12カ月間、ほぼすべて無料で利用できるという点がAWSの人気の秘密と言えるでしょう。
AWSのメリット
AWSにはさまざまなメリットがありますが、ここでは代表的なメリット3つを挙げてみました。
1.初期コストを抑えられる
サーバー構築を自前で行うオンプレミス環境の場合、必ず初期コストが掛かりますが、クラウドサービスの場合は基本的に初期コストは最小限で済み、単期間でのスタートができます。
しかし、クラウドサービスの基本であるIaaS(Infrastructure as a Service)の場合、提供されるのは仮想サーバーやネットワークなどのインフラだけであり、OSやミドルウェアなどは別途ライセンス費用が発生します。
2.リスクヘッジができる
自前でコンピューター設備を保有するオンプレミス環境では、サーバーのダウン・ハッキングなどのリスクによる損失や被害はすべて自己責任です。それを避けるためにはある程度の投資を行って、災害対策・セキュリティ対策を施さなくてはなりません。AWSに移行することで、こうした責任の多くがAWSに移転します。すなわち利用者側から見るとAWSはリスクヘッジとなり、AWS側の責任による事故や問題はAWSが補償してくれるのです。
3.スケーラビリティが担保される
オンプレミスでは、事業拡大に伴うデータ量の増加への対応として、サーバーやストレージ増強などを自前で手配しなければなりません。それに合わせてサーバーの増強、リブレイスといった対応を迫られますが、AWSでは企業側はその心配がほぼ不要となります。
もちろん、AWSは従量課金制を基本としていますので、データ量の増加などに伴いランニングコストは増加しますが、サーバーがキャパシティオーバーでパンクするといった心配をする必要がありません。
AWSのデメリット
AWSは利用のメリットが大きく優れたサービスですが、あえて挙げるなら以下の2つのデメリットがあります。
1.ランニングコストは決して安くない
初期コストの安さがAWSの大きなメリットですが、反面AWSのランニングコストは決して安くはありません。2万円のプリンターのインク代が年間1万円も掛かったという話と似ています。
AWSは装置産業でもあり、自前で大きな投資を行って利用者を増やし、ランニングで利益を上げるという収益モデルになっているからです。しかし、AWSの大きなメリット部分を費用換算してみると、オンプレミスよりもコストが安いことが分かります。
オンプレミスでは、家賃・水光熱費・人件費・セキュリティ対策費用・災害対策費用などが掛かります。AWSの料金の中には、これらの項目がすべて包含されていることを見落とすべきではありません。そこを見誤ってしまうと、「AWSは高い」というAWS批判に与することになってしまいます。
2.AWS利用はコスト削減の手段ではない
AWSは箱(ハードウェア)は用意してくれますが、中身(ソフトウェア)は基本的にユーザーが用意(負担)します。
AWSを利用すれば、情報システム部門の縮小ができると考える経営者がいますが、あくまでもAWSが提供するのはインフラであり、情報システム自体は企業側が用意すべきものです。
また、そのコンテンツ(情報システム)については企業側が全責任を負う必要がありますので、AWSの利用が必ずしもコスト削減に繋がるわけではありません。
AWSの効果的な利用方法
AWSのメリット・デメリットについて解説しましたが、AWSのメリットを最大限活かすことがデメリットを帳消しにする方法です。ここでは、AWSの効果的にな利用方法について解説します。
AWSの拡張性を活かしてスモールスタートする
AWSのメリットである拡張性(スケーラビリティ)を活かしましょう。システムはスモールスタートし、完成度が高まった時点で全面稼働するという方法を採用することがあります。
また、成長途上の企業では、拠点数・利用者数・データ量などが急激に増えていくケースもあります。
オンプレミスの場合は頻繁にハードウェアの拡張をすることが難しいため、導入段階から3年~5年先を見据えて高スペック、高容量のサーバーやストレージを導入しがちですが、AWSでは途中で簡単に拡張が行えるため、費用を抑えてスモールスタートをさせることが可能です。
AWSの可用性を活かし障害や災害に備える
企業の基幹システムは、あらゆる事態の中でもシステムを稼働し続けなくてはなりません。AWSでは、前述のとおり2021年3月時点で25リージョン、80カ所のアベイラビリティーゾーン(データセンター)を展開しており、それらの拠点をディザスタリカバリ(災害対策)センターとして利用することが可能です。
これにより、大規模災害への備えをすることができ、稼働率確保や耐障害性の高いシステムの構築が行えます。
無料枠を活かして開発期間を設ける
AWSには前述の通り、「無料利用枠」というものが設けられています。これを利用することで自社システムとの相性確認や、稼働確認が容易に行えます。さらに新システムの開発環境としても無料で利用できるのは大きなメリットです。
JAWS-UGを活用する
AWS利用者によるコミュニティとして、JAWS-UGがあります。JAWS-UGとは「AWS Users Group-Japan」の略称です。JAWS-UGでは技術的な情報交換や相談などが行えて、大変心強いコミュニティです。JAWS-UGに利用登録をすると、「Ask An Expert」カウンターでAWSエキスパートに相談も行うことができます。
AWSの今後の展望
ユーザーからの圧倒的な支持を得てクラウドサービスのトップを快走するAWSですが、今後もこの動きは止まらないのでしょうか?AWSに転職してみたい・AWSの利用を検討しているエンジニアの方のために、AWSの将来性について考察しました。
高まるクラウド需要
企業におけるクラウドサービスの利用動向(総務省)によれば、すでに利用している企業は約6割、利用予定企業を含めると7割を超えています。この割合は年々増加しており、これからもクラウドは需要は高まっていくと考えられます。
AWSはこれからも成長する
AWSは世界でのシェアがNo.1のクラウドサービスですが、MicrosoftのAzureやGoogleのGCPなどがAWSを猛追しています。今後は、さらにその差を縮めてくることが予想されますが、これからはクラウドサービスの使い分けや共存が主流になってくるとの見方もあります。
それは マルチクラウドと呼ばれる、複数のクラウドサービスを、それぞれの特性やメリットを上手に組み合わせるという考え方です。
例えば、MicrosoftのディレクトリーサービスAD「Active Directory」を採用している企業や、SaasでMicrosoft365を利用している企業は親和性や継続性を考慮するとMicrosoftのAzureが利用しやすいでしょう。このように業務特性、システム特性などによって、1つの企業が異なるクラウドサービスを利用するマルチクラウドが増加してきますので、AWSとAzureの共存共栄が続くと想定されます。
また、AWSは規模が大きいということだけではありません。既に数多くのサービスを提供していますが、現在も新たなサービスが提供され続けており、AWSは常に進化しています。
AIの分野においても個人が利用できるサービスを提供するなど、個人と企業を問わず期待が高まっており、これからもAWSはその期待に応えて成長発展を続けていくことでしょう。
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