「エンジニア=男性」はステレオタイプ!? 現役女性エンジニア×SHE代表の、しなやかなキャリア選択論
「#1人の女性がエンジニアになるまで」というハッシュタグをご存知でしょうか?
発端は、現在Androidエンジニアとして活躍されているwirohaさんが投稿したnoteの記事。
彼女のこれまでの人生とキャリア、そして女性がエンジニアを目指しにくい環境や居心地の悪さ、それらをもっと良くしていきたいという想いが綴られたものです。
その記事は、女性エンジニアを中心に多くの反響を呼びました。 自身のキャリアストーリーを公開する女性エンジニアが続々と現れ、インターネット上でムーブメントになっています。
その中で、『1人の女性がエンジニアになるまで〜りほやんの場合〜』というキャリアストーリーを公開したのが、フリーランスWebエンジニアの高木 里穂さんです。
本記事では、実際に女性エンジニアとして働く高木さんと、女性のためのキャリアスクールコミュニティ「SHElikes(シーライクス)」を運営するSHE株式会社(以下、SHE)代表の福田 恵里さんに「女性がエンジニアというキャリアを選ぶことへの想い」と「キャリアとライフイベントのバランスの取り方」についてお話を伺いました。
キャリアを公開することで女性エンジニアを増やしたい
高木さんは現役のエンジニアとして働かれていますが、wirohaさんの『1人の女性がエンジニアになるまで』の記事を読んでどのようなことを感じましたか?
エンジニアとして働くことに対し、勇気をもらいました 。 「wirohaさんのように現在活躍されている方でも、後悔したことや失敗したことがあったんだな」「私と同じだな」と共感できたんです。 また、「すごいエンジニアの方は、昔から私と異なる人生を歩んできたんだろうな」という思い込みがなくなりました。
「すごいエンジニア」にどんなイメージを持っていたのでしょうか?
学生時代からエンジニアとしての目標に向かって着々と勉強したり、キャリアを積んだりしているイメージです。 高校の時や大学の時にプログラミングに集中せず、怠けてしまった私とは違うんだろうな…と。
ですが今回、wirohaさんの記事をきっかけにたくさんの女性エンジニアの方がキャリアを公開したことで、皆さんにそれぞれ紆余曲折があることを知ったんです。 昔は機械音痴だった、なんてことも書いてあったりするんですよ。
すごいと思ってた人も、自分と同じような悩みを持っていた…と思うと親近感が湧きますね! 高木さんがご自身のキャリアを公開したのも、「エンジニアという職業を身近に感じてほしい」という想いがあったんでしょうか?
はい。他の方の記事を読んでいて、「キャリアを公開すること」が他の女性エンジニアにとってモチベーションになったり、エンジニアへのハードルを下げたりすることに気付いたので、私も書いてみようかな、と。
「エンジニアや理系=男性のもの」というイメージを壊し、エンジニアという職を選ぶ女性を増やしたい、と以前から思っていたんです。 それに、wirohaさんに続くことでムーブメントを作りたいという気持ちもありました。
実際に書いてみていかがでしたか?
書きながら「これは誰かの役に立つのだろうか」と不安にもなりましたが、いざ公開すると「自分も同じです!」といった共感のコメントをいただけたので、公開して良かったなと思います。 このムーブメントを通して、記事を読んだ方が「プログラミングって自分でもできそうじゃん」と思える機会を増やせたらいいですね。
プログラミングスキルは普遍的だから、働きやすい環境を選べる
女性がエンジニアというキャリアを選ぶメリットは何だと思いますか?
エンジニアであれば出産後もキャリアを制限されにくいというのは大きなメリットだと思いますね。
例えば、女性がキャリアアップしたいと思っても、育児中で時短勤務だと難しい…という話はよく聞きます。 その点、エンジニアは自分の生産効率を上げることで、短時間でも成果を上げやすい職種かなと思います。 場所の制限も少なく、子育てをしながら在宅での勤務もしやすいのではないでしょうか。
自分の時間を自由に使う働き方を選択しやすいことは、男女に関わらずエンジニアという仕事のメリットだと感じています。 私はフリーランスのWebエンジニアとしてSHEで週3日働いており、他の時間を別の業務や勉強のための時間に充てることができています。
プログラミングはアイデアを形にするための素晴らしい手段だということも、多くの女性に知ってもらいたいですね。 私がかつてサンフランシスコに留学した際、自分と同世代の大学生がプログラミングやデザインのスキルを駆使してアプリやWebサービスを作っている光景に衝撃を受け、プログラミングとデザインの勉強を始めました。
ところが、10年前は今ほどプログラミング教育もメジャーではなく、日本国内におけるエンジニアの女性比率は10%程度。 勉強会にいっても、女性は私1人であとは全員男性という状況だったんです。 本を読んで独学するのも難しい分野なだけに、同性の先輩や仲間がいない中で勉強を続けていくのはハードルが高いなと感じました。
現在でも国内のエンジニアの女性比率は約2割。 開発チームに女性が1人だけというケースは今でもよくあります。
まだまだ女性は少ないんですね。高木さんは実際にエンジニアとして働いていく中で、女性が少ないことをデメリットに感じたことはありますか?
私自身はあまり感じたことはありません。 しかし、知人からは「体力勝負についていけない」「育休を取ることでキャリアに遅れをとったような空気になる」という話を聞きます。 また、育休明けに担当する職種が変わってしまったり、出産・育休をきっかけにエンジニアをやめてしまったりする人もいます。 楽しい仕事なのに、ライフイベントをきっかけに辞めてしまうのはもったいないなと思いますね。
一方で、SHEのように女性が働きやすい環境を整えようとしてくれる会社もあります。 プログラミングのスキルは普遍的なもの。 もっと活かせる場があることに気づいてほしいです。
SHEはエンジニアチームの半数以上が女性です。 エンジニア組織としてかなり珍しいと思いますが、女性エンジニアが育つ環境があるんですよ。
試さないまま「自分には無理」はもったいない
国内全体のエンジニアにおける女性比率が少ない中、女性エンジニアを増やすためには、何が必要だとお考えですか?
大きく2つの軸が必要だと思っています。 ひとつはエンジニアという職業のイメージを改革すること。もうひとつは、女性を受け入れやすい環境をつくることです。
今はエンジニアに対してどのようなイメージが強いのでしょうか?
「パソコンに強い=男性」というステレオタイプが根強く、女性自身もパソコンや機械が苦手だと思い込んでいる場合が多いのではないでしょうか。 でも私は、パソコンの得意不得意に性別は関係ないと思っています。
例えば私が高校生のとき、ガラケーでホームページを作るのが女子の間で流行っていたんです。 ホームページを可愛く装飾するためにHTMLやCSSを使いこなしている子もいました。それって、ほぼプログラミングだと思うんです。 「やってみたら意外とできる」ということもあるので、エンジニアといえば男性というイメージに縛られるのはすごくもったいないですね。
そういった心の壁を取り払うためには、どんな取り組みが有効だと思いますか?
まさに「1人の女性がエンジニアになるまで」のムーブメントが、女性の心の壁やエンジニアへのハードルを取り払ってくれると思っています。 必ずしもエンジニア一筋という人ばかりではないので、まずは試してみてほしいです。 実は私も、一度エンジニアとして就職した後、Webデザイナーを目指していた時期がありました。 いろんなことを試してみて、自分の適性を見つけたらいいんじゃないでしょうか。
「まずは試してみる」ということを、高木さんも実践されているんですね。 女性を受け入れる環境作りについてはどうお考えですか?
エンジニアとして働く人の中に、「自分もこうなりたい」と思える人を見つけられること、そして女性エンジニアが孤立しないように居場所をつくることが大切だと考えています。 そのために、女性エンジニア向けのコミュニティを運営していたこともありますし、「Rails Girls」というプログラミング初心者の女性向けイベントで過去にオーガナイザーを務めるなど、女性エンジニアの居場所づくりに貢献しています。
素晴らしい活動ですね! 高木さんは、エンジニアを目指している途中でで挫折しそうになったことはないんでしょうか?
たくさんありますよ(笑)すごい人を見たときなんか、「私はこんな風になれない、エンジニアに向いていないんじゃないか」と思って、よく挫折しそうになっていました。 そういうときに、所属しているコミュニティーのメンバーに相談すると「そういうこともあるよね」と共感してもらえたり、「すごい人になることが目標じゃないよね」と気付かされたりして、壁をひとつずつ乗り越えてきた感じです。
高木さんにとって、コミュニティの存在は大きいんですね。
エンジニアには、さまざまなコミュニティがあったり勉強会を開催したりする文化があります。 その中で「この人のようになりたい!」と思う気持ちが芽生えたり、同じ境遇や気の合う仲間から刺激をもらったりして、ここまで成長できたと感じています。
SHElikesも女性向けのコミュニティですよね。 現在はプログラミングコースがありませんが、今後コースを開設する予定はあるのでしょうか?
具体的な計画はまだありませんが、女性にとってエンジニアというキャリアの選択肢には可能性があると思っているので、直近でやりたいとは考えています。 SHElikesは、各コースをちょっとずつつまみ食いして、自分の好きなものを見つけてもらうことが目的です。 プログラミングに触れるきっかけを与えられるコースがあれば、エンジニアに興味を持つ女性も増えるのではないか、と思います。
SHElikesでは、はじめから決まったスキルを習得するのではなく色々なコースを自由に選べるというのが特徴ですよね。
はい。その分、一つひとつのコースに深さをもたせることが難しいんです。 プログラミングは定着するまでに時間と手間がかかるスキル。 実際にエンジニアとしてキャリアチェンジしたい方が増えてきたら、1on1で充実したサポートを提供できる体制を別途整えたいですね。
女性のライフとキャリアは切り離せないからこそ柔軟さが大切
エンジニアに限らず、女性は結婚や出産といったライフイベントでキャリアが中断されることがあります。 それに対して、SHEで取り組まれていることはありますか?
SHEでは通常のレッスン以外にも、「ライフイベントを織り交ぜながらキャリアを実現していくにはどうしたらいいか?」を考えるための特別イベントを開催しています。
受講生の年齢の中央値は29.5歳なので、まさに結婚や出産などのライフイベントに向き合っている人が多いんです。 そこで、保活の話を聞ける場や、女性器系の疾患について学べる場を用意しています。 どうしても女性のライフとキャリアは切り離せないので、両方の知識がつくようにサポートをしていきたいと考えています。
今の時代、情報はたくさんあるものの、どれを選んだらいいのかわからないですよね。そうやって学べる場があると、安心できそうです。
また、SHEで働く女性が安心できるような制度づくりにも取り組んでいます。 私自身、妊娠中のつわりがひどかったので、「つわり休暇」という制度を作りたいなと思っているんです。 SHEは女性を応援する会社なので、まずは自社のメンバーがライフイベントとキャリアを同時並行して気持ちよく働けるような環境づくりに、力を入れたいですね。
女性が働くことに対してここまで親身になってくれる会社、本当に素晴らしいです…! 福田さんはCEO就任と同時に、産休・育休を取得したことでも話題になりましたよね。 短期間で復職されましたが、復職にあたって課題に感じることはありましたか?
大きく2つの課題を感じました。 ひとつは、長期間のブランクがあると会社の状況が分からなくなって、復職するのが気持ちの面で難しいということです。 私は産休・育休の間も会社のメンバーと毎日連絡を取り合っていたんですが、それでも数ヶ月休んだことでブランクを感じましたもん(笑) もし育休中に妊娠して、そのまま数年休むことになったら、一層復職しづらいだろうなと思います。
もうひとつは、育休・産休中に社会とのつながりが断絶されて自己肯定感が下がるという点です。 出産から短期間で復職した私でもそうだったので、もっと長く休んだ方だとさらに強く感じるのではないでしょうか。 もちろん、必要なお休みは取っていただきつつも、断絶が生まれないよう会社側からコミュニケーションを働きかけるのも重要だと思います。
産休・育休中は、会社と最低限の連絡しか行わない場合が多いですよね。 積極的にコミュニケーションが取れる働きかけがあると、復職に対するハードルも下がりそうです。
産後、どれくらいの期間で復職したいのかは個人の志向によっても違ってきます。 引き継ぎやチーム体制などの調整も必要なので、妊娠の分かった頃から会社と個人ですり合わせをすれば、どちらもハッピーで中長期的に働きやすい環境を作っていけるのではないかと思っています。
ご自身が産休をとられたからこその気付きですね。
最後に、高木さんが描かれている今後のキャリアについて教えてください。
自分の代表作と思えるような作品やサービスを作りたいです。 そして、自分のスキルを総動員して、熱中しながら仕事をしたいと思っています。
ただ、プログラミングは問題解決の手法のひとつなので、エンジニアという職業に固執したくないんです。 他に楽しそうなことを見つけたら、それを試してみたい。 そして、すでに持っているスキルと掛け合わせて新しい価値を出せたらいいですね。 さまざまなものと掛け合わせられるのが、プログラミングというスキルの強みなので。
なるほど!これまでもエンジニア一筋ではなかったように、これからも柔軟なキャリアをイメージされているんですね。
エンジニアになると決めたら、エンジニアとして一生生きていかないといけないってことは絶対にないんです。 私の好きな本『LEAN IN』(シェリル・サンドバーグ著)には、「女性のキャリアははしごではなくジャングルジム」とあります。 的を絞りつつも、自分に起こる変化、例えば妊娠や出産も楽しみながら、柔軟に生きていきたいですね。
エンジニアといえば「その道一筋」というイメージも強く、それがハードルになっている面もあると思います。 他のスキルとの組み合わせや多彩な働き方がある、ということを高木さんが体現されることで、エンジニアに興味を持つ女性が増えるかもしれませんね。 福田さんがSHEで取り組まれている「ライフとキャリアの両立」を考える機会の大切さも改めて感じました。 素敵なお話をありがとうございました!
(インタビュー、編集:矢野 由起)
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