人気放置ゲー「まりも」の開発者が語る、エンジニアの地方移住の実情
新型コロナウイルスの影響でリモートワークが増え、都会で働くエンジニアにとって、「地方移住」が現実味を帯びてきた今日このごろ。
エンジニアの読者の中にも、そろそろ都会の喧騒から離れ、自然あふれる土地で大きな家に暮らす…なんて「夢の地方移住」を考えている方もいるのではないでしょうか?
しかし、地方ならではの問題も依然として多いハズ。
今回は、現在宮崎からフルリモートでアル株式会社にて勤務されている、「まりも」開発者の小川航佑さんに、エンジニアの地方移住のリアルな話をお聞きしました!
宮崎は日本のシリコンバレー!?
小川さんは2017年から宮崎に移住されていますよね。 どういった理由で地方移住を決断し、さらに宮崎を選ばれたんですか?
地方移住を決めた大きな理由は、東京での子育てが想定より難しかったからです。 特に、出かけるときに生まれたばかりの子供を連れて電車に乗ってどこかへ行く、というのが大変で…。 宮崎は妻の実家がありましたし、現地のWeb企業からの内定もいただけたので、割と思いつきで決めました。
家族のための移住だったんですね。 実際に地方移住してみてどうですか?
もちろん長短あります。 まずいいところとしては、自然が多いので心がやすらぎます。 私の家は海・山・川のどれへもアクセスが良いので、気分転換に川辺からミーティングに出席したり、仕事終わりに海までいって散歩したりできます。
それに、宮崎、というか日本の南側ならではなんですが、一年を通して東京より平均気温が2~3℃高いので、非常に過ごしやすいです。 エンジニアが温暖な気候のシリコンバレーに集まる理由がよくわかります(笑)。
天気や温度はメンタルにも関わるし、本当に大事ですよね。 創造性を刺激されそうなうらやましすぎる環境だ…。
あとは、生活コストが低いです。 東京のワンルームと同じ賃料で、一軒家を借りることができます。 子供がいるとどうしても騒がしくなってしまうので、非常に助かってますね。
やっぱり理想の環境じゃないですか! それに、さっき小川さんがご自身で言ってたように「現地転職」でリスクヘッジもできそうですし!
現地就職を当てにするのはちょっと危険かもしれません。 というのも、東京のIT企業と地方のIT企業では仕事の進め方や労働環境などの文化みたいなものが全然違うんです。 私自身、アルで正社員として働くまでの1年半はさきほどの宮崎のWeb企業に勤めていたんですが、文化の違いには最後まで馴染めませんでした。
そういった定量的な数値に表れづらい違いがあるんですね、危ない…。
情報格差はSNSの有効活用でカバー
次は、地方移住のデメリットを教えてください。
一般論として、日本のIT企業の本社はほとんどが東京にあるので、一部のできるエンジニアは東京に集まる傾向があります。 なので、地方に住んでいると、そういった東京のデキるエンジニアとつながりづらいというのはあります。 地方移住がもっとメジャーになると話は変わってくるのですが…。
なるほど。 地方と東京都の間には、情報格差があるというイメージがあるのですが、そこはどうでうすか?
エンジニアの必要とする情報に限れば、地方と東京の間に情報格差はないです。 あるのはインターネットをうまく使える人とそうでない人の間の情報格差です。
小川さんはインターネットで情報を集める際、どんな工夫をされているんですか?
僕はTwitterとStack Overflowを最大限活用しています。 Twitterでは、有益な情報を発信してくれるアカウントのリストを作ってそれをチェックしています。 あと、勉強会の実況ツイートや、たまにTwitterなどの場で共有される発表資料を読んで、勉強会に擬似的に参加する、というのをやっていますね。
最近はコロナの影響でオンラインの勉強会がものすごく増えていて、地方在住のエンジニアにとってはプラスの面も出てきてるんですよ。
もう一つおすすめなのは、Twitterで情報を発信することです。 自分から発信していると、もちろん自分の勉強にもなりますし、色んな所から声がかかりやすくなります。 アンドエンジニアさんにも取材いただけてますし(笑)。
なるほど。 でも、正直な話、小川さんは「まりも」で有名になったから発信しやすい、という面もあると思うんです。 僕みたいな特に取り柄もないエンジニアは何を発信すればいいんでしょうか…?
僕の場合はアプリをリリースしたのが比較的早い時期だったこともあり、運が良かったというのもあります。 ただ、周りを見ていると、ある特定の技術について詳しくなって、その道の専門家、みたいなポジションを取れるとよさそうです。 例えば、Flutterだとこの人!みたいな人が何人かいますよね。
特定の技術など、ある領域に特化した発信は一つの手段なんですね。 Stack Overflowはわからないことがあったときにうまく使うんですよね?
いえ、回答するんです。英語の質問に、英語で。
え? なんのために…?
一番は、英語の勉強のためです。 エンジニアならみんな大なり小なり感じていることだと思うんですが、やっぱり英語と日本語だとプログラミングに関する情報量が全く違うんですよね。 僕はiOSエンジニアもやっていますが、AppleのDeveloper向け情報も英語の方が圧倒的に多いですし。
エンジニアは英語の勉強がスキル、ひいては会社での評価にかなりダイレクトに繋がる職業だと思うので、やるメリットは大きいです。
でも、英語で回答するなんて難しくないですか…?
実はそんなに難しくないんです。 英語であること以外の気をつけるとこは、他のエンジニア向けQ&Aサービスと大差ないですし、英語にもよく使われる言い回しがあるので、そこを抑えておけば意外と伝わります。
タグをサブスクライブすると、そのタグで新しい質問が来た際に通知が来るようになるのでおすすめです。 たとえば、僕はiOSが得意分なので、iOSタグをフォローしています。
なるほど。 想像していたよりもハードルは低そうですね。
リモートワークでは、「働いている」ことを伝えるべき
地方に限らず、リモートで働く上で意識されていることなどありますか?
大前提として、私の勤めているアルでは、コロナの前からリモートが主体でも問題なく会社が回るような仕組みを整えていたんです。 これは自宅での労働環境を整えるための補助とかそういった枝葉のことではないです。
アルでは、なにかを決めるときに、必ずリモートの人間も巻き込んで決めます。 オフラインでのやりとりも必ずドキュメントとして残して共有し、リモートのメンバーとそうでないメンバーの間の情報格差がないようになっているんです。
文化としてリモートワークが根付いてるんですね。
個人レベルで意識しているのは、自分やっていることをしっかりアピールすることです。 例えばコミットをこまめにする、とかSlackでの質問になるべく早く答える、とか。 個人の雑談チャンネルに投稿するのも手ですね。
フルリモートだとテキストで細かくコミュニケーションとるのが大事、とよく言われますよね。
自分やっていることを発信すると、必然的に周囲のメンバーとのコミュニケーションが生まれるので、コミュニケーションをとるコストが下がります。 これは仕事に関係ない雑談でもそうで、特に別チームのメンバーとは仕事上で頻繁にやりとりをしないので、雑談で一定のコミュニケーションを取ることが重要です。
リモートだとどうしてもコミュニケーションコストが上がりがちなので、オフライン以上に発信が重要になります。
結果的にチーム全体の生産性が上がり、自身の生産性向上にもつながるということですね。
企業勤めのエンジニアにとって、個人開発はやらない理由がない
さっきもちょっと出てきましたが、小川さんは、放置育成ゲームとして有名な「まりも」をリリースされていますよね。 どういった経緯でアプリを作ろうと思ったんですか?
個人で「まりも」の開発を始めた理由は、iOSアプリの開発経験を積むためだったんです。 私は、大学を卒業後、最初サーバーサイドエンジニアとして働いていて、PHPを書いてました。 ただ、サーバーサイドにあまりしっくりきてなかったので、社内異動制度を使ってiOSアプリ開発の部署に移ったんです。
でも、僕はPHPしかやったことなかったので、Objective-Cのメモリ管理がホントに意味わからなくて。 慣れるのに3ヶ月〜半年かかってしまいました。
高レイヤーの言語から入ると、低レイヤーの言語は難しく感じますよね…。
しかも、iOSアプリ開発チームのメンバーは、かなりできる人が多くて。 このままだと、すごく迷惑をかけてしまう…と思い、勉強のために個人開発をはじめて、「まりも」を作ったんです。 だから、こんなにたくさんインストールされると思ってなくて(笑)。 でもレビューで温かい反応をいただけるなど、思いがけず嬉しいことも多いです。
ということは、小川さんは個人開発に賛成なんですか?
超オススメです。なんなら、やらない理由がないと思います。 まず、個人開発には自分の技術力とストアの規制以外に制約がないので、本当に作りたいものを好きなように作れます。
実際に、私の作った「まりも」も、一部のUIや背景以外はすべて自分で決めています。 だから、あえて機能を実装しない、ということもできるし、逆に好きな機能の実装を優先することもできます。
やりたいようにやれるのはたしかにいいですね…。 でも、マーケティングや運営が大変だと聞いたことがあります。 そういった手間はかかりますよね?
人数が多くて、仕事が細分化されている企業で働くエンジニアにとっては、むしろ普段やれないことを体験できるいいチャンスだと思います。 私は「まりも」で広告を出したんですが、バナーの大きさや表示頻度・位置が最終的にどの程度収益に影響してくるか、といった利益まわりを知ることができました。
人数の多い企業で働くエンジニアは、よくも悪くも開発だけやっていれば良いことが多いので、新鮮な体験だと思いますし、普段の仕事にも活かせると思います。
企業勤めの人ならではのメリットもあるんだ。
もちろん自分のポートフォリオにも加えることができるので、転職もしやすくなります。 うまくいけば収益も出ます(笑)。
あくまで趣味や勉強としての個人開発をおすすめされてるんですね。
エンジニア35歳定年説は過去の話
エンジニア35歳定年説ってあるじゃないですか。 小川さんは現在38歳でちょうどそのくらいの年齢だと思うのですが、この説についてどう思われますか?
昔の話で、今の時代には当てはまらないと思います。 35歳定年説って、技術の進歩についていけなくなるとか、マネージャーになってしまい現場から離れるから、とかが根拠だったと記憶しています。 たしかに技術の進歩は速いですが、これは年齢に関係ないですし、どんな職種でも勉強を怠っていれば仕事を選べなくなるのは当たり前ですよね。
マネージャーになるかどうか、という部分に関しては、今はマネージャーコースと、コードを書き続けるプロフェッショナルコースの2つのキャリアを選べる企業が多いです。 なので、35歳定年説は今ではちょっと現実的ではないですよね。 唯一、眼が悪くなったり腰痛になったり、といった身体的な要因はあるかもしれませんが(笑)。
なるほど。 小川さんのこれからの目標を教えてください。
年をとってもエンジニアを続けることのできる環境が整備され始めたのもそんなに昔のことではないので、前線で働いている40代・50代のフロントエンジニアはそんなにいません。 そういった状況なので、自分が40代・50代になったエンジニアのロールモデルになれるといいな、と思っています。
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