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劇団ノーミーツのオンライン演劇「むこうのくに」を支える技術 ~配信システム・映像技術編~
みつじ
2020.12.26
この記事でわかること
クリエイティブや配信システムに工夫を加えることで「Zoomを超えた配信」ができる。
リモート演劇の生配信の現場は想像以上の作業量があり、オペレーションが大変。
劇団ノーミーツが生配信にこだわるのは生だからこそ生まれる熱量があるから。

7月23日から8月2日にかけて上演された劇団ノーミーツによるオンライン演劇「むこうのくに」。

そんなオンライン演劇「むこうのくに」を支えた技術・デザインを連載形式で深堀りしていきます。

連載の第1弾は「フロントエンド・UI/UX編」、第2弾は「ハードウェア編」でした。

オンライン演劇「むこうのくに」を支える技術 ~フロントエンド・UI/UX編~
オンライン演劇「むこうのくに」を支える技術 ~ハードウェア編~

第3弾は「配信システム・映像技術編」。

劇団ノーミーツのテクニカルディレクターであり配信を統括した藤原遼さん、映像技術を担当した水落大さん、制作プロデュースや当日オペレーションを担当した中村加奈さんにお話を伺います!

「Zoomを越えた」配信の裏側

みつじ
オンライン演劇「むこうのくに」を観劇した方々が驚いたのが、配信画面だと思います。
まず、どのような技術やツールを使っていたのか教えていただけますか?
藤原遼さん
演者さんの間の通話はZoom、どの画面が映るかっていうところはOBSという配信ツールで管理していて、そのOBSから出力したものをVimeoで配信サイト上に表示という形です。
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全体像についての説明的な文言
藤原遼さん
役割分担としては、配信のオペレーションを全て僕が担当し、OBSに関する制作などを水落さんが担当していました。
水落大さん
具体的には、今回はOBSで各シーンをかなり作り込んだんですが、OBSにどうやって映像を取り込むかや、OBSでの画面レイアウトの制作、OBSには本来できないアニメーションをつけられる制御ソフトの開発を水落が担当しました。
みつじ
今作は「Zoomを越える」を掲げており、配信面は特にそれを意識していたと思います。
Zoomを越えたポイントってどこでしたか?
藤原遼さん
まずはお客さんが見慣れているZoomの見た目を変えたかったんです。
各演者の映像に枠を付け、背景にCG世界を配置することで、Zoomとは違う世界だと分かりやすく感じてもらえたかと思います。
藤原遼さん
また、ZoomだとどうしてもPCの固定カメラが前提になると思うんですが、ロボットアームやカメラスライダーなどを使って様々な形での撮影できたこともZoomを超えられた部分だと考えています。

配信ソフトウェアOBSをハックする

みつじ
OBSに関して独自に開発したのはどのあたりですか?
水落大さん
OBSは基本的にはシーンの切り替えしかできないんですけど、そこに動画編集で出てくるようなアニメーションの機能を追加したんです。
配置するオブジェクトの座標をコントロールするAPIがOBSにはあり、それを使うコントローラーアプリを専用に開発しました。
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水落さんが開発したオブジェクト操作のためのアプリケーション
活用することでこのような動きも可能となる
水落大さん
OBSはただ映すだけや簡単な構成と切り替え程度の使い方をされていることが多いのですが、それをハックをした感じですね。
みつじ
たしかにこのあたりは本当にZoomを越えてきてますね…!

全てがリアルタイムではない!?

水落大さん
実は配信の中では、ごく一部ですが収録した映像を流す部分もあったんです。
全てリアルタイムでやるべきという議論もあったんですが、お客さんからするとリアルタイムか収録かって実はあまり関係ないと思っていて。
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事前に収録した映像も一部あったということだが、まったく違和感を感じなかった。
水落大さん
オンラインでの演劇って、全てリアルタイムの演劇が想定されると思うんですが、リアルタイムの演劇と収録した映像が混ざって区別がつかないというのも面白いですよね。
みつじ
たしかに全部リアルタイムだと思い込んでいました…!
水落大さん
全てリアルタイムに配信できればベストではありますが、一方で、リアルタイムか収録かではなくそれを違和感なくシームレスにつなげられることの方が重要だと思っています。
それができることで、オンライン演劇の中によりチャレンジングな表現を入れられる可能性が広がりますよね。
みつじ
リアルタイムの演劇と収録した映像が混ざっていることも、「Zoomを越える」体験の一つなんですね…!

映画でも演劇でもアニメでもない作品をつくる

水落大さん
公演の準備中に中村さんが「演劇と映画とアニメを同時に作っている勢いですよね」と話していたんです。
今作は、リアルタイムでの演技、事前に撮影する映像、CGやアニメーションの全部が合わさっていて。
水落大さん
だからこそ、演劇や映画やアニメをそのまま当てはめるのではなく、全く新しいものを作らなくちゃいけないと考えていました。
劇団ノーミーツでは演劇、映画、アニメやCGの各分野の専門家が混ざって一緒のチームで動けるので、それを実現することができたと思います。

想像以上に大変な生配信の現場

みつじ
配信の現場ってどのような感じだったんでしょうか?
藤原遼さん
ものすごい数のPCをセッティングして現場のオペレーションを回していました
僕がこういった形で配信をやっていたんです。
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大量のPCが設置された配信オペレーションのエリア
みつじ
この光景、すさまじいですね…(笑)。
PC何台あるんだ…。
藤原遼さん
すべてのPCにZoomをつないでいて、それぞれの画面で演者のビューを固定しているんです。
それをキャプチャーボードで取り込み、OBSに入れ込んでいます。
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それぞれの演者のビューをPCに表示している。
藤原遼さん
どの演者が表示されるかをすべて僕が操作するのですが、出演者が多くて入れ替わりが激しいようなシーンは画面の切り替えやスイッチングが本当に大変なんです。
一番大変なシーンでは、両手・両足を使ってどうにか成り立つレベルでギリギリでした。
藤原遼さん
このような配信に関するオペレーションをワンオペでやらないといけないんですが、これは改善していく必要がありますね。
ノーミーツのコンセプトとして同じ空間にスタッフが複数人いれないので、どうしていくかを考えなければなりません。
みつじ
どのように改善していくといいものなんでしょう…?
水落大さん
演劇の生配信においてはシステムもオペレーションも分散させるということが重要なんです。
水落大さん
できていたことでいうと、例えば演者さんの顔のフィルターは、演者さん側のPCでフィルターをかけてもらったうえでzoomをつないでいます。
これは、配信の映像は藤原さんのPCから出力するけども、フィルターなどの処理は演者さんのPCで行うことで、全体として処理を分散させていた形なんです。
みつじ
なるほど…!
水落大さん
そして、オペレーションも分散していました。
例えば主人公の映像のスイッチングは遠隔操作で中村さんがコントロールしていたんです。
このように、スイッチング等の操作を分散させられれば、配信担当者の作業も少しは楽になるかなと。
みつじ
一方で、分散させてるからこそのミスできないプレッシャーやコミュニケーションの大変さもありそうですよね。
中村加奈さん
そうですね。
現場でコミュニケーションを取れるわけではないので、スタッフ同士や演者とのグループ通話をつないでおき、タイミング合わせなどのやり取りを随時していました。
リモートだからこそ、常にコミュニケーションを取ることが重要でしたね。

劇団ノーミーツが「生配信」にこだわるわけ

みつじ
劇団ノーミーツは生配信にこだわりますよね。
これはなぜなんですか?
藤原遼さん
今の世界で劇団ノーミーツほど生にこだわっているチームはいないと思います。
1つのミスで取り返しがつかなくなる可能性もあるなか、なんで僕らはこんなに綱渡りするんだろうと思っていますね(笑)。
藤原遼さん
ただ、やっぱり生だからこそ生まれるものに制作サイドもめちゃくちゃ興奮しちゃうんですよ。
その熱量がアウトプットや外部への発信につながるし、その熱がお客さんや潜在的なお客さんに伝わると確信しています。
みつじ
生配信というミスが許されない状況のなか、配信をする上のリスクヘッジやミスを起こさないための工夫や取り組みってありますか。
藤原遼さん
開演前の最初の音声チェックが一番のリスクヘッジだと思っています。
基本的にはギリギリまで詰めたくなるものですが、開演前に音声チェックをして全員の安心感を持つことが、技術的な最終確認としても精神的な余裕を持つ上でもすごく大事ですね。
藤原遼さん
逆にリスクヘッジできてなかったのは、プロフェッショナルが集まるチームで、スキルが個人に依存している点ですね。
誰か一人が倒れたらかなり窮地に追い込まれてしまう体制になりがちです。
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右上の投票などの機能は生配信ならではの機能

オンライン演劇の今後のチャレンジ

みつじ
今作で「Zoomを超える」というのを実現したと思うんですが、次にチャレンジしたいことがあれば教えてください。
藤原遼さん
僕が今後やりたいのは移動なんです。
今作で部屋の中でやることは結構チャレンジできたので、そこを飛び出したいなと思っています。
藤原遼さん
あとは水の中で撮影したいですね。
CGで表現された作品はありますが、現実世界で水の中で物語を作れている作品はないと思うので。
藤原遼さん
そして、劇団ノーミーツの作品づくりは、国境レベルで距離を越えられる点が強みなので、海外の人たちと一緒に作品を作りたいです。
それによってスケールの大きな作品を作れる可能性もありますし。
みつじ
藤原さんの野望すごい(笑)。どれもワクワクしますね…!
水落さん教えていただけますか?
水落大さん
まずは演出面でオンライン演劇の可能性をもっと広げたいです。
例えば、オンライン配信だとお客さん側の映像も取り込めるかもしれませんし、お客さんの反応に応じてストーリーの分岐もありえます。
オンライン配信の強みを活かすことで全く新しいものができると思っています。
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劇団ノーミーツの新作『それでも笑えれば』では、観客が物語の方向を選ぶ「選択式演劇」が実現する。
みつじ
たしかに技術的には実現できそうだけど、どんなものになるか想像がつかない…!
水落大さん
ノーミーツの作品は、育児中の方、地方の方など、普段は劇場に観に来れない方も配信で観劇してくれています。
また、オンライン演劇ならではの面白さが話題となって、それまで演劇を観たことがない方も多く観てくれたと思います。
水落大さん
このように、オフラインのみだった演劇をオンライン化することでどれだけ市場が活性化し、オンライン配信が新しいプラットフォームとしてどのように普及するかにはすごい興味がありますね。
今後はリアルのイベントでも同時にオンラインで配信もするようなものが増えていきます。
オンラインを外出自粛の中の一過性の文化にせず、定着させるには、オンラインを組み合わせることで興行が成功した実例を多く作ることが業界的に重要だと思っています。
水落大さん
また、今回の作品の裏の技術や、ノウハウは、ほとんど記事としてまとめていて、オンライン配信に関わる人が誰でも使えるように公開しています。
劇団ノーミーツ『むこうのくに』の舞台裏〜OBS配信編〜|mizumasa|note

僕らは常に新しい表現をつくっていきたいと思っていて、同時に、オンラインの可能性を世の中に広げていくことで、困難に立ち向かっているリアルイベントを中心としたエンタメの発展に貢献したいと思っています。

みつじ
オンライン演劇の可能性、ワクワクしますね。
最後に中村さんも教えてください。
中村加奈さん
作品の中身も大事なんですが、作品を観に来る道中のワクワクや終演後のキャストとのコミュニケーションなど、前後の体験もリアルの演劇の良さの一つです。
それがデジタル上でもできるようなコミュニティやシステムがつくれたらいいなと思っています。
オンライン劇場 ZA
劇団ノーミーツの提供するオンライン劇場「ZA」でも体験できるようになるだろうか。
みつじ
皆さんありがとうございました!

劇団ノーミーツは12月26日(土)〜30日(水)に、第3回となる長編公演『それでも笑えれば』を上演します。
舞台は2020年。とあるお笑いコンビが本作の主人公。外出自粛ムードに伴い 仕事の予定が減る中、 主人公はどんな選択をするのか。
そして、観客が主人公の運命を一緒に選ぶ「選択式演劇」とのこと。

一体どんな演劇になるのか…
気になる方はぜひご覧ください!

それでも笑えれば | 劇団ノーミーツ

ライター

みつじ
京都大学経済学部を卒業後、Web系のコンサル会社を経て株式会社Tenxiaを創業。 最近はコードを書く機会がなくてPMみたいなことばかりしている。 サウナとアイドルとスマブラが好き。
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劇団ノーミーツのオンライン演劇『むこうのくに』を支える技術
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