AIであらゆる業種業界のサービスがアップデートされている中、オンライン接客にも大きな変化が生まれようとしています。株式会社電通デジタルは、バーチャルヒューマンを活用した次世代AIオウンドメディア「Owned Human🄬(オウンドヒューマン)」の実用化に向けた取り組みを開始しました。
「Owned Human」を活用すれば、AIが顧客との対話の中で求めていることを読み取り、一人ひとりにパーソナライズした情報を提供することが可能になるそうです。同事業を推進している電通デジタル社の矢野 英一氏と吉村 達彦氏に、AIを活用した次世代の顧客体験について伺いました。
株式会社電通デジタル
国内最大規模の総合デジタルファーム。「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える。」をパーパスに、生活者に寄り添うクリエイティビティとテクノロジーを統合的に活用することで、あらゆるトランスフォーメーションを実現。クライアントの事業成長パートナーとして共に新たな価値を創造することで、経済と社会の「変革と成長」を目指している。
次世代オウンドメディアは検索なしで「話してわかる」
まず、次世代オウンドメディア「Owned Human」で具体的にどんなことができるのか教えていただけますか?
知りたいことがあったときに「話してわかる」のが最も大きな特徴です。従来のオウンドメディアは「自分で検索して情報を見つける」のが当たり前だったと思いますが、「Owned Human」ではバーチャルヒューマンやキャラクターと対話をする中で知りたい情報を得られます。
ユーザーの体験が大きく変わるということですね。
従来のオウンドメディアでは、知りたい情報を見つけられないこともあったと思います。チャットボットが設定してあったとしても、上手く問題を解決できないことも。「Owned Human」は、パーソナライズ化した情報を対話で届ける画期的なソリューションとして、重要な役割を担っていくと考えています。
運営する側の設計・運用も変わってくるのでしょうか?
はい、運用や設計の考え方が大きく変わってきます。従来のオウンドメディアは、TOPページの下にさまざまなページが設置されたツリー型の構造になっていますが、「Owned Human」は基本的に一つのインターフェースで完結する非構造型の仕組みです。この場合、流入を一つに集約させながら他のページに遷移させることなく、必要な情報を集約してわかりやすく伝えることが重要です。
ユーザーにとっては、「対話する」という新たな体験になるので、「楽しさ」を感じてもらう工夫など、クリエイティブな発想も必要かもしれません。
従来のオウンドメディアと比べたときに、「Owned Human」のメリット・デメリットはどんなところにありますか。
従来のオウンドメディアは、詳しく情報を調べるときには使いやすいと思います。その一方で、ピンポイントの情報をすぐに知りたいときには検索で苦労することも。「Owned Human」では、ダイレクトに質問できたり、知りたいことをAIが推測したりするので情報収集が非常にスムーズです。
最近はタイパを意識する方が増えてきているので、多くの人に支持されそうですね。
「Owned Human」は運営している企業のブランディングにも大きく貢献します。従来のオウンドメディアは「情報収集の手段」として捉えられることが一般的だと思いますが、「Owned Human」は対話できるのでコンシェルジュのような親しみを感じられます。企業の存在が身近になるなど、オウンドメディアの役割が大きく変わってくると思います。
バーチャルヒューマンやキャラクターが「企業の顔」として感じられることもあるということですね。
はい、それに加えてバーチャルヒューマン・キャラクターだからこそ実現可能なコミュニケーションも。例えば、いろいろ質問して納得できるまでサービスを検討したくても、遠慮が出て根掘り葉掘り聞けないこともあると思います。「Owned Human」なら好きなときに納得できるまで話せるので、意志決定がよりスムーズになるのではないでしょうか。
チャットボットを超える顧客体験
「Owned Human」を使うとどのような顧客体験を実現できるのか、実際のデモなどを見せていただけますか。
もちろんです。例えば、自動車に関するデモでは次のようなご案内をします。
バーチャルヒューマン(以下、RIN):はじめまして、RINと申します。自動車に関する質問にお答えすることができます。
SUVを探しているんですが、おすすめはありますか。
RIN:SUVをお探しですね。ベータというモデルがあります。
じゃあ、そのイメージを見せてください。
RIN:こちらがベータというSUVのイメージです。
いいですね。ホワイトを見せてください。
RIN:ホワイトのカラーのベータをお見せします。
車体全体を見せてもらってもいいですか。
RIN:車を回転してみますね。少々お待ちください。
ありがとうございます。これでキャンプに行ったら楽しそうですね。
RIN:はい、確かにこの車でキャンプに行くと楽しそうですね。
運転席を見せてもらってもいいですか。
RIN:運転席のイメージをご覧ください。
いい感じですね。トランクも見せてもらってもいいですか。
RIN:こちらがベータのトランクのイメージです。もしよろしければ、ベータの試乗予約をいたしましょうか?
デモはこんな感じです。いかがでしたか?
これはすごい。知りたい画像がスムーズに出てくるので、購入後の使用感まで具体的にイメージできました。
一般的なチャットボットでは、まだ画像の切り替えのスムーズな実装や対応したUX設計が行えていませんが、「Owned Human」ではそれを実現しています。また、デモの中でお分かりになったかと思いますが、ユーザーがAIに質問するだけではなく、顧客に対して「試乗予約」など新たな提案をすることも可能です。
ちなみにモデルの見た目は変えられるんですか?
各企業の目的やブランドイメージに合わせて、自由に変えられます。許諾を取った上で著名人を起用するのはもちろん、マスコットキャラクターやアニメキャラクターを設定することも。逆に不要であればバーチャルヒューマンを登場させず音声だけでご案内するなど、いかようにも変えられます。
バーチャルヒューマンやキャラクターを上手く活用することで、企業への好感度も高められそうですね。
そうですね、ユーザーは「Owned Human」と話すことで、無意識のうちにどんな企業なのか感じ取るのではないかと。ときには「Owned Human」の雰囲気が、企業イメージに直結することもあると思います。新たなブランディング施策としても、各社で導入検討が進んでいくのではないでしょうか。
AIの開発拠点はモンゴルの首都に
「Owned Human」はどのような経緯で誕生したのでしょうか?
電通デジタルでは、AI活用で企業の次世代マーケティング活動支援を統合的に行うサービスブランド「∞AI※」を2023年に起ち上げていますが、その一環としてバーチャルヒューマンで顧客体験をアップデートする必要性を感じていました。次世代のオウンドメディアを考えたときに、従来の「検索」(調べてわかる)から「対話」(話してわかる)に進化していくことは必然ではないかと。今までのAIの知見や実証実験からも方向性に信頼性があり、「Owned Human」の開発をスタートしました。
先進的な取り組みなので、苦労したこともあったのではないでしょうか。
「Owned Human」で技術的に難しかったのは音声に合わせてスムーズに画像を切り替えていくことです。いろいろと工夫がありすぎて詳しくお伝えするのは難しいですね(苦笑)。一方でモデルやキャラクターの部分は、使用する企業様によって大きく見た目が変わるので、あえて細かく作り込まないようにしています。
「Owned Human」の開発は自社で行っているんですか?
案件に応じてグループ内外の適切なパートナーと開発体制を敷いています
電通デジタルのAIの開発体制はどのようになっているのでしょうか?
今回の開発には携わっていないのですが、弊社はモンゴルの首都・ウランバートルに人工知能(AI)の開発拠点を持っています。子会社の電通データアーティストモンゴルに、優秀な現地メンバーが数多く在籍しています。あまり知られていないかもしれませんが、モンゴルは数学がとても強い国です。数学オリンピックで金メダルを獲得していたり、多くのKaggle Master※を輩出していたり。世界的に見ても優秀なデータサイエンティストやエンジニアがたくさん活躍しています。現地の研究開発と電通デジタルのノウハウと掛け合わせて、新たなシナジーを生み出しています。
優秀なセールスのノウハウをAIに移植できるのか
「Owned Human」はどのような企業からの引き合いが多いのでしょうか?
業種業界に偏りはなく、顧客接点があるさまざまな企業様からお問い合わせをいただいています。不動産や金融、さらには自治体まで幅広い利用シーンで使えるので、「Owned Human」への興味関心は日々高まっているように感じます。
チャットボットと比較して導入検討を悩むようなケースも?
そうですね、まずは生成AI×チャットボットを導入したいと希望されるケースもあります。弊社でも手軽にAIチャットボットを構築できる「∞AI Chat」というサービスを提供しているので、企業の課題やニーズに合わせて最適なソリューションをご提案しています。
AIチャットボットと比較したときに、「Owned Human」の優位性はどんなところにあるのでしょうか。
画像を使って接客するのはチャットボットでは難しく、「Owned Human」にしかない価値だと思います。また、バーチャルヒューマンを有名タレントやキャラクターに変えれば、キャンペーンの効果を最大化することもできます。
なるほど。対話の中でお客様のデータを効率よく集めることもできるんですか?
はい、AIチャットボットだけでもある程度の情報収集はできますが、「Owned Human」は画像を使って対話するので、さらに具体的な要望や考え方をヒアリングできます。今までよりも精度の高いデジタルマーケティングが可能になるのではないでしょうか。
もしかして、優秀なセールスのノウハウを「Owned Human」に移植すれば、さらに顧客体験は高まるのでしょうか。
それは一概には言えない気がします。デジタルとリアルでは、求められる接客が違いますし、顧客体験を高めるためには「デジタル」と「リアル」の接客をバランス良く組み合わせ、連携させることが大切だからです。例えば、お客様がどんな接客を求めているのかをリアルな店舗で見極め、「Owned Human」の対話に反映。その後オンラインで得られたデータを実店舗に活かすなど、コミュニケーションを常にアップデートしていくのが良いと思います。
AIパーソナルエージェント同士が連携する未来
今後、デジタルにおける顧客体験はどのように変わっていくのでしょうか。
AI領域の進化は激しいですが、ユーザーにとってスマートフォンなどのデジタル機器がアシスタント的な役割になってくると思います。例えば、知りたいことがあればスマートフォンに話しかけて、パーソナルエージェントが必要な情報を全て教えてくれるような世界になっていくのではないかと。
「Owned Human」のようなコミュニケーションが、当たり前になるということですね。
そうなるとAIを実装したパーソナルエージェント同士が結びつくことも当たり前になります。例えば、旅行やゴルフなど各カテゴリーに特化したアシスタントがそれぞれ存在して、企業単位の「Owned Human」がいる場合、それらがつながって生活者に最適な情報を届けていくようなイメージですね。
パーソナルエージェント同士が連携すると、ユーザーにとってどんなメリットがあるんですか?
自分で情報を探さなくていいことですね。自分の好みを学習させれば、趣味嗜好に合った情報をエージェントが自動で拾ってきて、整理して提示してくれます。裏側で高度なAI技術や連携が求められますが、パーソナルエージェント同士の連携は当たり前になるだろうと予測しています。
その中で電通デジタルはどのような役割を担っていくのでしょうか?
AIによるパーソナライズ化の流れは止まらないので、その最前線で自社開発のプロダクトも活かしながら、あらゆる企業の持続的な成長に貢献してまいります。私たちの強みであるデジタルマーケティングと、AI技術とクリエイティビティを掛け合わせた新規事業開発のノウハウで、顧客接点プロセスの最適化に寄与していきたいですね。
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