2024年7月5日(金)、日本電気株式会社(以下、NEC)の役員など35名を対象に、NEC新入社員35名が講師(メンター)としてリードしながら、デジタルを活用した課題解決に取り組むリバースメンタリング研修「DXレディネス研修(Executive)」が実施されました。
リバースメンタリング研修とは、若手社員と先輩社員が立場を逆転し(=リバース)、若手社員がメンターとして、メンティーである先輩社員に助言を行う教育制度。
NECとしても初の試みで、若手に主導権を渡す動きは大企業では珍しいそうです。NECはなぜリバースエンジニアリング研修を実施したのでしょうか。同社でカルチャー変革エバンジェリストを務める森田健さんはこう語ります。
「成長機会がないと、若手は転職してしまいます。しかし、多くの大企業は縦社会で、若手に十分な活躍の場を提供できていません。“転職しなくても、挑戦機会がある”と示すことが、今回リバースメンタリング研修を実施した背景です。若手主導の研修は初の試みなので、今日はとても楽しみですね」
今回の研修テーマは「NEC社員のWell-beingが小さく向上する企画を実装せよ!」。役員と若手社員数名が1つのグループになり、問題発見、課題設定、課題解決フローチャートの作成、プロトタイプの開発、発表までをたった90分でやり切りました。本記事では研修当日の様子や参加者の声などをレポートします。「組織変革を通じてDXを実現したい」そんな想いをお持ちの方は、ぜひご覧ください。
日本電気株式会社(NEC)
1899年創業のグローバルテックカンパニー。ITサービス事業と社会インフラ事業を主軸に、50以上の国と地域でグローバルに事業を展開。連結子会社254社。生体認証技術で世界トップクラス、AI・機械学習分野で高い競争力、海底ケーブル敷設で世界有数のシェアを誇る。認識AI、分析AI、制御AI、セキュリティ、ネットワーク、システムプラットフォームの6つのコア技術領域に注力。生成AI、5G、ナショナルセキュリティ、AI創薬、AI営農などの分野にも事業を展開。安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、持続可能な社会の実現を目指す。世界的に著名なESGインデックスに組み入れられている。「ベタープロダクツ・ベターサービス」の精神を継承しつつ、社会価値創造型企業として第三の創業期を迎え、テクノロジーを通じて社会変革をリードしている。
ライフイズテック株式会社
「中高生ひとり一人の可能性を一人でも多く、 最大限伸ばす」をミッションに、2010年創業以来、次世代デジタル人材育成を手がけるEdTech企業。主力事業である中学校・高校向けクラウド教材「ライフイズテック レッスン」は、全国600以上の自治体で4,000校の公立・私立学校、約120万人が利用(※1)する情報・プログラミング学習サービスへと成長。延べ 5.9万人(※2)以上が参加する国内最大規模のプログラミング・AI キャンプ&スクール「Life is Tech ! 」をはじめ、全社員のDX化を目指す企業のデジタル人材研修なども支援し、これまで200万人以上(※2)にデジタルを活用したイノベーション教育を届ける。2022年には、社会・環境といった分野で高い公益性を実現している企業の国際的な認証であるBCorpを取得。教育を通じて子どもたちの未来と社会課題へ取り組む企業として、ステークホルダーとともに次世代のための教育変革を推進している。
主役は新人!役員とゼロからアプリをつくる
まず各グループで「テーマ」「問題」「課題」「課題解決策」を話し合い、付箋を活用してネタだしをする作業からスタート。今起こっている現況のモヤモヤ(問題)から、何を解決するのか(課題)を設定し、どう現実するのか(打ち手)、アイデアを付箋に書き出していきます。
写真の左上が「テーマ」、左下が「問題(現状)」、右上が「課題」、右下が「課題解決の構想(実装イメージ)」を記載するエリア。各々付箋に書いたネタを貼り付け、議論を深めていました。上司、部下の関係でなかなか意見が言いにくいこともあるかもしれませんが、今回の主役は新入社員。みなさん率先して意見を出し、ブレストをリードしていました。
テーマ、問題、課題、解決策が決まったら、次はノーコードツールを活用してアプリを作成。ツールを使いこなす新入社員を頼もしそうに眺める役員の姿が印象的でした。「やはり若い人はITツールを使い慣れていますから、飲み込みが早い。私たちに思いつかないような発想力もあって頼もしいです」そんな役員の声も多く聞かれました。
アプリが完成したら共有会へ。各チームが自分たちの作品をプレゼンし合いました。他のグループではどんなアプリをつくったのか、興味津々でプレゼンに耳を傾ける参加者たち。他チームの発表を聞いて、お互い刺激を受けていたようです。
今回の研修では、多くの斬新なアプリが誕生しました。例えば、NEC社員を「ポケモンGO」のようにゲットして集めていく「NECフレンズコレクション」。企画したチームの方々に、話を伺いました。
これはどんなアプリなんですか?
「NECフレンズコレクション」といって、自分も含めたNEC社員一人ひとりにキャラクターを設定して、ポケモンGOのように集めていくアプリです。
どうやって社員さんをゲットするんですか?
ゲットしたい社員さんとハイタッチすると自分と相手の情報が交換されて、ゲットした社員さんの情報はアプリ内にコレクションとしてフレンド追加されていきます。
なぜ「NECフレンズコレクション」をつくろうと思ったのでしょう?
部門を超えて社員のみなさんと交流したかったからです。そもそも部門外の社員さんと交流がなかったり、つながっても一時的なことが多かったりで。「ランチにいきたい」「仕事について相談したい」と思ったときに、気軽に社内の人に声をかけられたらと思ったんです。「つながりが少ない」課題があって、「困った時に助けてくれる社内のつながりをつくれる」理想に向けて、このアプリを考えました。
開発でこだわったポイントはありますか?
「つながりやすさ」ですね。リアルだと声をかけづらいけど、キャラクターに見立てたらつながりやすいんじゃないかと思いまして。ゲットした社員キャラのアイコンをタップすると、リアルな顔写真や情報も表示されるような仕様になっているので、「あれ、この人どんな人っけ…」と忘れてしまう心配もありません。
新入社員の方に伺いたいのですが、今日はどんな意気込みで参加されたんですか?
みんなに「面白いね!やってみたい!」と思ってもらえるアプリをつくりたいと思って参加しました。この研修に手をあげたのは、経営陣の方と交流したかったからです。普段なかなか接することがないので、これを機にぜひ役員の方々と交流したいと思いました。
役員の方にも新入社員と共同作業した感想を伺えたらと思います。気づきや学びはありましたか?
やっぱり、若い人のアイデアは斬新ですよね。デジタルネイティブ世代なのでツールの扱いにも慣れていますし、発想も今風です。「若い人はこんな風に考えるんだ」と気づきがありました。若手の気持ちを理解することで、仕事での接し方も変わるんだろうなと思いましたね。実際の仕事だと経験や立場の関係で、なかなか若手は意見を出しづらいこともあります。でも、リバースメンタリングだと年齢や経験、立場を超えてアイデアが出てくるんだなと。こういう環境を仕事の中でもつくっていきたいと思いましたね。
安心・安全・カジュアルな「メンタリングマッチングアプリ」
こちらのチームが開発したのは安心・安全・カジュアルに社内のメンタリングしたい人と、してほしい人をつなぐマッチングアプリ。どんな想いで企画したのか、話を聞きました。
なぜメンタリングマッチングアプリをつくろうと思ったのですか?
社内で気軽に悩みを相談できる人がいないと思ったことがきっかけです。特に仕事に関する悩みは自分の身近な人に相談しても解決するとは限らないので。そこで悩みの種類や希望条件を入力するだけで気軽に社内のメンターとマッチングできるアプリを考えました。
今日はなぜこの研修に参加しようと思ったのですか?
まだ入社3ヶ月なのですが、これから会社でいろんなことに挑戦したいと考えています。この研修がその第一歩になればと思い参加しました。普段、役員の方々とお話することもないので、いい機会をいただけたと思っています。
配属先が決まると同じ部門の方とばかり交流することになるので、人間関係が限定されてしまうと思ったんです。井の中の蛙になりたくないなって。これからも広い視野も持ち続けるために、部門を超えていろんな方と交流したいと思って、この研修に参加しました。あと、役員の方々と接することでいろんなことを学べると思いました。実際、今日は役員の方々の着眼点の鋭さに驚きました。私たちの話をたくさん聞いて、ここぞというところでサポートしてくれたので、「さすがだな」という気持ちです。
役員のみなさんは今日参加してみてどんな気づきがありましたか?
新入社員のみなさんからいろんな意見が出て楽しかったです。それにしても、今の若い子たちは優秀ですね。テキパキしていて、段取りもいい。アイデアの勘所も素晴らしかったです。本当に自分たちがメンタリングを受けているようでした。たった半日勉強しただけでツールを使いこなしているのも「すごいな」と思いました。こんな簡単にアプリがつくれるなんて、驚くばかりです。
一人ひとりに最適な室温を「オフィススペース予約アプリ」
こちらのチームでは、オフィス内の混雑状況やエアコンの設定温度・モードを可視化し、社員一人ひとりが自分にとって最適な室温のオフィススペースを事前予約できるアプリを企画。どんな想いでつくったのか話を聞きました。
なぜこのアプリをつくろうと思ったのですか?
最適なエアコン設定温度って人によってさまざまですよね。例えば、28度の温度設定がちょうどいい人もいれば、暑く感じる人もいます。弱冷房エリアで仕事がしたいのに、オフィスが混雑していて強冷房エリアで仕事をせざるをえない場合、人によっては体調を崩してしまったり、パフォーマンスが下がってしまったりする恐れもあります。そんな問題や課題を解決するために、あらかじめオフィスの混雑状況や室温(冷房の設定温度・モード)を可視化し、快適に仕事ができるスペースを予約して仕事ができるアプリを考えました。
それは画期的なアイデアですね!
うちはフリーアドレスなので働く場所を自由に選べるんですね。通勤中にアプリでどのエリアがどれくらい混雑していて、どんなエアコン設定なのか事前に確認して、働く場所を事前予約すれば、気持ちよく仕事ができると思ったんです。
新入社員の方と研修に参加してどんな気づきがありましたか?
「こうしたいよね」とアイデアは思いつくんですけど、実際にカタチにするのはなかなか難しいので、そこは新入社員のみなさんに助けられましたね。若い人たちはアイデアを実現していくスピードが速いので、協業することで相乗効果が生まれると思いました。
新入社員の方にも伺いたいのですが、今日はどんな意気込みで参加しましたか?
普段役員の方とご一緒する機会がないので、役員の方がどんな考えで仕事に取り組まれているのか学ぶつもりで参加しました。実際、今日役員の方と研修を受けたことで、どういった思考プロセスを経てアイデアを出されているのか深く理解できました。
私も役員の考え方を学ぶ機会がほしくて研修に参加しました。ワークでは役員の思考プロセスを学びながらも、新しいアイデアを提供しようと必死でした。やはり役員の方は思考のスピードが速いですし、発想も柔軟です。「いつか私もこんなビジネスパーソンになれたらな」と憧れの存在ができたので、今日は参加してよかったです。
DX成功のカギは、ブリッジ人材の育成
昨今、大企業を中心にDXを推進する企業が増えています。しかし、会社の規模が大きければ大きいほど、組織、役割(職種)、個人など、至るところで分断が起こりがちです。せっかく新しいシステムを導入しても、こうした分断によって本質的な課題解決に至らないケースは珍しくありません。分断を防ぎ、企業文化・風土を変革しながら真のDXを成功に導くカギは、新入社員たちの育成にあります。言い換えれば、事業とデジタルの架け橋となる「ブリッジ人材」の育成とも言えるでしょう。ビジネスとテクノロジーを繋ぎ、組織変革も含めた真のDXを実現したい方は、ぜひ今回ご紹介したリバースエンジニアリング研修の実施を検討してみてはいかがでしょうか。
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