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腹落ち感を醸成し、行動変容を促す。アフレルが描くロボットキットを活用した研修の未来
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腹落ち感を醸成し、行動変容を促す。アフレルが描くロボットキットを活用した研修の未来
金子 茉由
2024.08.23

ハードウェアとソフトウェアのつながりを理解し、システム開発の全体像を把握する。そんな実践的なスキルの習得を可能にするのが「ロボットキット」を用いたエンジニア教育です。

今回は、いち早くレゴ® エデュケーション教材を活用したエンジニア向け研修を事業化した株式会社アフレルを取材。同社ではソフトウェア開発やAI技術など、見えづらい開発過程や成果をロボットの動きを用いて”見える化”することで、受講者にとってわかりやすく、確かな知識・技術力となる実践研修の機会を提供しています。インタビューでは同社代表取締役共同CEOの柏崎暁子氏に、ロボットキットならではの教育効果や、同社の研修に込める想いを語っていただきました。

これからのエンジニアに求められるマインドやスキル、そしてロボットの組み立てを通して「腹落ち」するものづくりの面白さとは。柏崎氏への取材を通し見えてきた、ロボットキットによる"学び"の可能性を探ります。

柏崎 暁子氏

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株式会社アフレル 代表取締役共同CEO

金沢大学教育学部を卒業後、株式会社永和システムマネジメントに入社。大規模組込みシステム開発を担当。教育未来支援事業部を経て、株式会社アフレル設立参画。カスタマーセンター長、経営企画部マネージャを経て、2017年9月、取締役に就任。2022年 取締役 経営戦略室長。2024年代表取締役共同CEOに就任。

ロボットキットを用いたエンジニア教育のパイオニア

金子 茉由

「教育版レゴ®マインドストーム」を活用したエンジニア向け研修を、世界で初めて事業化したそうですね。設立の経緯を伺えますか?

柏崎さん

はい。アフレルは、永和システムマネジメントというシステム開発会社から、教育関連の部署が独立してできた会社です。永和マネジメントシステム社が2000年に親子ロボット・プログラミング・ワークショップを開催したことが、後々のエンジニア向け研修事業の発端となりました。実は私自身も本事業の立ち上げに携わり、現在までずっとエンジニア向けの教育に尽力しています。

金子 茉由

当時はまだ一家に1台パソコンがない時代ですよね。

柏崎さん

そうなんです。システム開発やプログラミングに対する世の中の認知度も低かったですね。私たちも地域貢献の一環で親子向けワークショップを実施したのですが、想定以上に大きな反響がありました。具体的には、「プログラミングを使うと物事の裏側の仕組みが見えてきて、これまでとは違う角度から世界を眺められるようになった」「システムを使ったらこんな問題解決ができるんじゃないかという作り手側の視点を持てた」などの感想があり、さまざまなメリットを提供できる点に気づきました。

金子 茉由

そのような状況から、企業向けのエンジニア教育に尽力しはじめたのはなぜでしょうか。

柏崎さん

当時からIT業界は人材不足で、大学等でプログラミングの経験がない新入社員にどのような教育を行うか課題をもっている企業が多いと感じていました。私自身も文系からシステム開発の世界に飛び込み、最初はかなり苦労しました。

柏崎さん

その中で、自分が関わったシステムが動いたときに「そういうことか」とそれまで知識として理解していたことが腹落ちし、点が線になり、立体になるような感覚を得て、ものづくりの世界の面白さを実感することができました。このような0の状態からものづくりの面白さを感じるまでの期間を短くするためには、実践的に理解する体験が重要だと考えたのです。そこで当社が注目したのがロボットキットを活用したエンジニア教育です。

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金子 茉由

ロボットキットのなかでも、はじめにレゴ® エデュケーション教材に着目した理由は?

柏崎さん

大きく2つあります。1つ目が、ハードウェアとして品質が安定している点です。世界的メーカーのレゴ社が製造しており、モーターやセンサーなどフィードバック制御を行うために必要な機能が簡単に使えることと、レゴブロックで機体を組み立てるため、さまざまなモノを模して形を作りやすいという利点がありました。

柏崎さん

もう1つが、制御するためのソフトウェアの優位性です。例えばアイコン型のビジュアル言語により、文系・理系を問わずさまざまな人たちに取り組みやすいツールになっています。動かしはじめて1時間もすればみなさん使い方に慣れてきますので、すぐに本来の課題に注力することができるのです。

「腹落ち感」を醸成し、行動変容を促す

金子 茉由

現在もロボットキットを活用した研修を数多く提供されているとのことですが、どのようなテーマで実施しているのですか?

柏崎さん

代表的なテーマが『システム開発体験研修』と『データ分析プロセス実践研修』です。前者は要求分析、設計、実装、テスト、納品まで一連の開発工程を、5日間で体験していただく内容です。以前はIT系企業を中心に導入いただいていましたが、昨今はDX推進の流れから、多様な業種のお客様にもご提供する機会が増えています。

柏崎さん

後者に関しては、データをビジネスに活用する際に必要となるデータ処理・分析のスキルを高めていただくことを目的としています。ロボットキットを用いて、データ分析プロセス(CRISP-DM)の流れを可視化して学ぶ点が特徴で、データマイニングのプロセスをはじめとしたデータ分析に関する概念を習得したのちに、製造ラインの課題に対するデータ分析を実践してもらいます。

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金子 茉由

これらの研修は主にどのような階層の社員を対象としているのでしょうか?

柏崎さん

システムの全体像を知るという目的で実施する場合は、新入社員や若手社員が多いですね。一方で、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせを理解する目的の場合は、中堅以上の社員の方が対象となるケースが増えています。特に最近は、機電系のエンジニアの方々にもソフトウェアに対する理解を深めてもらいたいというニーズが高まっています。これまでハードウェアをベースに作ってきたものに、ソフトウェアやAIを組み込んでいくような技術転換の流れのなかで、ロボットキットを活用した研修に注目が集まっている印象です。

金子 茉由

研修の目的が変わるにつれて、受講者の幅が広がってきたのですね。ロボットキットを用いた研修で、大切にしている考え方はありますか?

柏崎さん

当社の事業理念にも掲げている「情報技術を通じた感動体験の創出」に重きを置いています。研修はその場限りの学びになってしまいがちです。しかし、私たちはその後の行動変容に結びつけることを大切にしています。そのためには、“腹落ち感”が必要だと考えており、「目に見えない裏側の仕組みが理解できて楽しい」「自分のチームに持ち帰ってこんなふうにしてみよう」といった自分の心が動く経験が必要だと思うんです。「心が動く場」を提供することが、私たちのミッションです。

金子 茉由

なるほど。“腹落ち感”の醸成を促すためにも、ロボットキットの活用が有効なんですね。

柏崎さん

まさにそうですね。頭で理解している事柄と、実際の行動との間にはギャップが生じがちですが、それを埋めるための1つの手段がロボットキットだと考えています。思考と現物を動かす行為のつながりこそが、ものづくりやソフトウェアの理解には欠かせません。

柏崎さん

また、チームでの開発を体験しやすいこともロボットキット活用の大きなメリット。互いの状況や周囲の動きを確認しながらプロジェクトを進めることで、チームワークやコミュニケーションの重要性に気づけるという声をよくいただきます。

現場での実践に役立つ、研修での学び

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金子 茉由

ロボットキットを用いた研修で得た知識やスキルは、実際の現場でどのように活かすことができますか?

柏崎さん

1つが、ハードウェアとソフトウェアのつながりを理解して開発案件に取り組むことができようになります。研修では単に「システムが動いたらOK」ではなく、ゴールを踏まえて設計し、実装する体験を行うため、設計と実装のつながりが見えやすくなる特徴もあります。その結果、開発現場で発生しがちな仕様変更や拡張などの問題に対し、柔軟に対応することの重要性に気づくことができます。さらに、役割分担やコミュニケーションの重要性、優先順位の決め方などを体験することで、チーム開発に活かす効果もあると考えています。

金子 茉由

どのような課題感からロボットキットを用いた研修を導入される企業が多いのでしょうか。

柏崎さん

『システム開発体験研修』に関しては、受講対象となる社員に技術レベルのバラつきがあっても開発業務において自身の役割を理解できるようになってほしいというニーズが多いですね。例えば文系や理系、プログラミング経験の有無を問わずにエンジニア職を採用している企業の場合、未経験者をスタートの段階である程度のレベルに引き上げたいと考えているクライアントが多い印象です。

柏崎さん

『データ分析プロセス実践研修』については、特にビジネスにおけるデータ活用に不慣れな非エンジニアの方に、データの集め方や分析の仕方を習得してほしいというニーズが多いですね。一般的なデータ分析系の研修では既存のデータをもとに分析を行うケースが多いと思いますが、当社の場合はその場でデータを集める体験もしてもらいます。バラつきを踏まえていかにデータを取捨選択するのか、見極めの練習にもなりますので、より納得感や腹落ち感を得られやすいのではないでしょうか。

「感動体験×テクノロジー」を、多くの人に届けたい

金子 茉由

アフレル様では「ロボットコンテスト(以下、ロボコン)」の開催にも力を入れています。

柏崎さん

はい。社会人エンジニアと学生が、同じ競技で“制御”と“設計図(モデル)”の2つの技術要素で競い合う『ETロボコン』や、世界の小中高生による国際ロボット競技会『WRO』などに関わってきました。

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例えば、ロボットキットを用いた研修は最長で5日間程度ですが、ロボコンの場合は半年先や1年先の目標に向けてチームで試行錯誤しますので、より実際の開発現場に近い経験ができます。また、実際の開発では納期やお客様の要望があるため失敗できませんし、チャレンジもしづらいという側面があるでしょう。一方で、ロボコンであれば、安心・安全な場でさまざまな挑戦ができるので、より深い成長の場を提供できると考えています。

金子 茉由

「成長」のお話もありましたが、御社が考えるこれからのエンジニアに求められるマインドやスキルについて教えてください。

柏崎さん

まず、失敗を恐れないことです。当社の研修やロボコンにおいて「安心・安全な場 であること」を強調しているのは、まさにここにつながっていて。実践を繰り返して問題解決につなげることが大切であり、ミスを恐れず試行錯誤する姿勢が大切だと思います。

柏崎さん

もう1つ大切なことが、課題を抽出し、設定する力です。技術のめまぐるしい変化や多様化により、今までのように一度決めた仕様が長く有効であることが少なくなってきていると感じています。現代のエンジニアには、各自で課題を見つけて設定し、どう解決するかを考えていくスキルが求められているといえます。解決手段を増やすためにも、俯瞰的に物事を見る力や視点を鍛える必要があると感じます。

金子 茉由

なるほど。

柏崎さん

以前、当社の研修を受講された大手ソフトウェア会社のエンジニアの方が、「自分たちが作っているシステムがユーザーにどう役立っているか、これまであまり考えていなかったかもしれない」とおっしゃっていました。みなさんが作っているシステムの価値を紐解いていくと、ユーザーのさらなるニーズも見えてきますし、課題に対する打ち手の選択肢も増えていく。ひいては、仕事のやりがいを高めることにもつながります。そのような意味でも、視点を切り替えるスキルは重要だと考えています。

金子 茉由

視野を広げたり、視座を高めていくために、どんなアクションが必要だと考えますか?

柏崎さん

できるだけ社外との接点を増やすことだと考えます。例えば外部のラボなどに参加をして、興味の糸口を見つけていくことも有効なのではないでしょうか。あとは、最近ですと社内で部活動やプロジェクトを立ち上げる企業も増えていますし、組織内で互いの知見を高め合うような場も活用できるといいですよね。

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金子 茉由

今後アフレル様が目指す世界について教えてください。

柏崎さん

昨今は、業種・職種を問わず「どうテクノロジーをビジネスに活用すればいいのか」模索している企業様が多い印象です。そういったニーズに応えるためにも、非エンジニアの方々も含めより多くの方に、「感動体験」と「テクノロジー」を組み合わせたサービスを届けていきたいですね。

柏崎さん

「感動」は心が動くという意味合いだけではなく、個々人の期待値を超える体験を提供できるかどうかが大切だと考えています。いい意味でみなさんの期待を裏切れるような、既存の枠組みにとらわれないサービスを今後も展開していく予定です。

ライター

金子 茉由
12年勤務した大手人材会社を退職後、フリーランスライターに転身。会社員時代からIT業界のクライアントとの相性がよく、さまざまなIT系企業の採用活動支援や、エンジニアのスキル開発・育成支援業務に携わってきた。いまの一番の関心ごとは、子ども向けプログラミング教育の未来について。
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