面接内容をAIが客観的に分析する「Bring Out for HR」はどこまで現場で使えるのか
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面接内容をAIが客観的に分析する「Bring Out for HR」はどこまで現場で使えるのか
岸 裕介
2024.04.24
この記事でわかること
面接官のバイアスを取り除くAIの活用法
AIが面接官の質問項目をチェックしていく仕組み
膨大な学習データを活かした「Bring Out for HR」のアルゴリズム

従来の企業の人事採用面接では、一人ひとりの面接官によって生じる無意識の先入観(バイアス)により、正しい評価ができていない現状があります。

これらの人事採用面接で生じやすいバイアスを解消するために、営業向けの商談解析サービス「Bring Out」を展開する株式会社ブリングアウトでは、企業の採用担当者向けに「Bring Out for HR」の提供を開始しました。AIが面接内容を客観的に分析し、面接官のスキルやバラツキを標準化していくサービスです。

AIはどのように面接内容を分析していくのでしょうか。同社のCOO林翔太氏と、CTO小原正大氏のお二人に、「Bring Out for HR」によるAI分析機能や開発面での工夫について、お話を伺いました。

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株式会社ブリングアウト

代表取締役社長: 中野 慧 設立: 2020年12月22日 https://www.bringout.biz/aboutus

バイアスを取り除き、面接の質を均一化

岸 裕介

まずは人事の採用面接における、従来の課題について教えて下さい。

林さん

採用基準が各社にあるものの、担当する面接官の中には無意識の先入観があります。よくあるのは、自分と似た学歴や背景の方を高く評価してしまう「類似性バイアス」や、自分の思い込みや仮説を強化するため都合のいい情報ばかりを集めてしまう「確証バイアス」などです。

岸 裕介

なるほど。無意識的に起こるので、防ぐのが難しそうですね。

林さん

はい。それらのバイアスによって、本来活躍できる求職者を採用できなかったり、採用基準と合っていないのに採用したりするなど、結果にバラツキが出てしまいます。

岸 裕介

求職者と企業の双方にとって良くないですね。それらの課題を解決するために、HR領域でAIが活用されていたこともあったのでしょうか?

林さん

従来のサービスでは、過去の合否データなどを組み合わせて、AIが統計的に求職者の合否判定をサポートしていました。しかし、その際にAIが使用する学習データそのものに面接官のバイアスがかかっていることもあり、公平な面接が実現できていませんでした。

岸 裕介

AIを使って過去のデータを分析したとしても、元々のデータに先入観が含まれているということですね。

林さん

ええ、当社はAIの使いどころとして「求職者」ではなく「面接官」のスキル向上や業務の効率化を想定しています。最終的な意思決定は採用担当者が行うべきですが、その過程での業務負担が大きいので、AIでそれらの負担を軽減していく。面接の質を均一化することは、採用の質を高めることにもつながります。

岸 裕介

ちなみに面接官の教育などは、企業によってばらつきがあるのでしょうか。

林さん

そうですね。私の経験上では、現場で活躍されている優秀な「プレーヤー」の方々が面接官に選ばれることも多いのですが、面接官としてのスキルとしてはほとんどの方が研修を受けておらず、その方の力量に任せられる面が多いと思います。

岸 裕介

そういった場合に、どんな課題が起こるのでしょうか?

林さん

例えば、ある面接官は強みを深掘りしているのに、別の面接官は強みをほとんど聞いていないなど、面接の内容がバラバラになってしまうことが度々起こります。面接官によっては、その日の気分で質問項目が変わったり、場合によっては聞き慣れていない項目があったりすると、フェアな面接にならないわけです。そうすると、その後の採用を決める場面で判断材料が“歯抜け”になってしまいます。

AIが面接官の質問項目をチェック

岸 裕介

「Bring Out for HR」は、どのように採用面接の課題を解決しているんですか?

林さん

「Bring Out for HR」を活用すれば、事前に定義した「面接における重要事項」をインタビューの発言内容全体から抽出することが可能になります。

岸 裕介

どのように使っていくのか教えてください。

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林さん

はい、デモをお見せしながら説明します。大きく4つのブロックに分かれていて、左上のメディアプレーヤーでは録画した動画をそのまま再生、話者の比率も確認できます。また、動画再生部分の左下では、会話内容を書き起こし、各ポイントから再生もできます。

岸 裕介

面接で録画した動画の再生と、その内容の書き起こしをすぐに確認できるんですね。

林さん

ええ、右上の面接概要部分では参加者・開催日時・ハッシュタグ付けなどを行い、右下がAIの分析結果の部分となります。ここでは求職者の情報・転職活動・強み弱み・成果を出したご経験・転職条件といった5つの大きなトピック内容ごとに、それぞれ要約を生成・面接官のスキルチェックをしています。なお大きなトピック内容や、トピックに紐づく要約の項目も各社様でカスタマイズできる仕様となります。

岸 裕介

大きなトピック内容と、それに紐づく項目もカスタマイズできるのですね。

林さん

はい。それぞれの項目をクリックすると、トグルが開いて詳しい内容を確認できます。例えばこの画面ですと、現在のお勤め先・勤続年数・職種・仕事内容など、これらの要約内容はAIの解析により自動的に抽出し、該当トピックごとにまとめているものです。また各項目のチェックマーク・晴れマークは、AIで自動抽出した該当トピックの有無を示しています。

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岸 裕介

なるほど。面接で各項目を聞けていたかどうかを、AIがチェックしているということですね。

林さん

ええ、本来面接官はアイコンタクトや求職者の方の表情を見ながら面談を進めるべきですが、現状では回答のメモを取ることに手一杯になりがちです。「Bring Out for HR」を活用すればAIが面談記録を残してくれるため対話に集中できます。また、「本来面接で聞くべき項目を網羅できているのか」についてもチェックマークの有無で分かるので、面接の質を標準化することにもつながります。

岸 裕介

面接スキルに不安があるときにも安心ですね。

林さん

ええ、メイン画面に設定されている項目を抜け漏れなく聞くことを意識すれば、公平な面接を実現できると思います。面接終了後、面談の内容自体をコピーして、例えばSlackや人事情報を管理するページにペーストするのも可能です。

岸 裕介

人事の現場で使いやすそうですね。「商談の採点」といった機能もあるようですが、どういった形のものになりますか。

林さん

メイン画面の晴れマークは、面談時に聞くことができていると表示されるものです。例えば志望理由のヒアリングができているか・仕事内容を深く話せているかなど、各社様のハイパフォーマー面接官の特徴として登録した内容を、実際の面談時に聞けているのか自動的に判定します。

岸 裕介

どのような基準で判定し、結果を出しているのでしょうか。

林さん

できるだけシンプルで分かりやすい問いかけ内容で登録しておき、その後書き起こし内容と質問文からAIが判定しています。画面上の判定結果は「曇り」「曇りのち晴れ」「晴れ」の3段階のマークが表示されますが、システム的には例えば晴れなら1点、曇のち晴れなら0.5点、曇りなら0点という形で集計し統計を取っています。なおこちらの集計ロジックは調整できます。

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岸 裕介

なるほど。そのようにAIが判定して、3段階のマークを表示しているのですね。

林さん

はい、活動評価の画面に遷移すると、各項目の要約有無をチェックマークで確認できる一覧画面があります。ここでは例えば面接官の名前でソートして面接官ごとに抜けがちな質問項目やずっと曇りのままのスキルを確認するなど、面接官の面談にどんな傾向があるのか解析できます。

岸 裕介

面接官のスキルを一覧で確認することもできるんですね。

林さん

はい。面接の要約も出力することができます。例えば、現在のお勤め先・どんな強みの方か・どんな志望理由が多かったかなど、メイン画面で確認できる要約がレポートとして集まりますので、「求職者は面接を受けた企業のどんなところに魅力を感じる傾向があるのか」といった解析も可能です。

岸 裕介

なるほど。「Bring Out for HR」は、どの面接フェーズで多く使われていますか。

林さん

後続の面接官に質問内容や得られた回答を引き継ぐ必要がある一次・二次面接で多く活用されています。最終的な意思決定は、最終面談での定性的な印象も含めて判断されると思いますが、それまでのプロセスでは面接品質をできるだけ標準化していくことが必要だと考えております。

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「Bring Out for HR」による解析結果イメージ

面接数の多い企業との親和性の高さ

岸 裕介

「Bring Out for HR」を使われているのは、どんな企業が多いのでしょうか。

林さん

大手の企業様に多く導入いただいております。業界ごとに見ると、まずは求職者を法人様にご提案する人材仲介のヘッドハンティング事業者や人材派遣業など、求職者を見極める機会の多い企業様でよく使われています。また新卒中途だけで何千名も面談したり、面接官のアサインなどの業務が多かったり、面談に関わる人数が多いほど標準化・業務効率化のメリットが大きくなりますので、エンタープライズ の企業様にも提供しております。

岸 裕介

エンタープライズ の企業に支持される理由は?

林さん

「カスタマイズ性」を高く評価していただくことが多いです。エンタープライズ系の企業様の場合、既存の定型テンプレートを使ったAI解析ですと各社様のこだわりの強い部分を解析結果に反映できない弱みがありますが、当社ではコンサルタントが在籍して上流設計から担当し、各企業様ごとに最適なAIを提供しているため、AI解析のカスタマイズ性の高さが独自のポイントだと考えております。

岸 裕介

導入された企業様からは、どんなご意見をいただいていますか?

林さん

AIによるスピーディーな要約に加えて、発言内容をすぐに音声で確認できる点を高く評価いただいております。生成AIは急速に進化しているものの、まだ内容の信頼性は低いため、実際の発言内容を確認できることが重要だと考えております。音声データをたどってのファクトチェックや、音声のトーン・雰囲気をすぐに把握できるのは、サービスを活用しやすいポイントだと感じております。

岸 裕介

感覚的に面談されている面接官の場合、AIによる標準化に抵抗を感じることもありますか?

林さん

たしかに、面接の進め方について感覚的な部分を大切にされている方もいらっしゃいますが、その先に「内定率の高さ」「活躍される方の採用率が高い」といった成果があれば、AIの活用に納得していただけることが多いです。また、社内のハイパフォーマーの進め方を標準にして、一緒に型を作り上げることもできます。

岸 裕介

なるほど。もう一つ気になったのは、面接官の役職や立場によって「改善してほしい」と伝えるのが難しいケースです。

林さん

そういった場合、「本来聞くべき20項目のうちいつも3項目しかチェックが入らない」などの結果が出てくるので、それを利用することをおすすめします。正面から「我流の面接をやめてください」と伝えるよりも、間接的に「質問項目の網羅率が低くなっているため、できる限りフェアな面接していただくためにツールを参考にしてもらえないか」と伝えることで、ある程度納得しやすくなると思います。

膨大な学習データを活かしたアルゴリズム

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岸 裕介

「Bring Out for HR」の開発面で工夫しているのは、どんなことですか?

小原さん

まず、当社は既存事業として商談解析サービス「Bring Out」を開発・提供しており、パフォーマンスを高めるために3万 時間に及ぶ対話データの解析や200以上の対話解析モデルの構築を行ってきました。「Bring Out for HR」にもそれらのノウハウが活かされており、「Bring Out」のアルゴリズムをベースにしながら細かなチューニングを行っています。

岸 裕介

なるほど。「Bring Out for HR」では、各企業様に提供するにあたってどんな開発を行っているのでしょうか?

小原さん

今弊社サービスで企業様ごとのアルゴリズムを作るとなると、それぞれの企業様に合わせたチューニングが必要になります。しかしながら企業様が欲しいクオリティやニーズは、AIエンジニア(開発者)よりもビジネスメンバーの方が把握していますので、現在社内ではエンジニアを介在せずに、ビジネスメンバーがアルゴリズムを自動生成しデータを出力、そのデータの精度も検証できるようなツールの開発を進めています。

岸 裕介

そのツールを実際に使った場合、データ出力まではどのようなフローになりますか?

小原さん

まず、抽出したい項目や抽出するための条件などを設定ファイルとして作成します。その設定ファイルで作られたアルゴリズムによって、書き起こしデータから必要とされる要約データが出力されるイメージです。

岸 裕介

その後、出力データの精度をツールで検証する流れとなるのですね。

小原さん

はい。現時点では、出力されたデータが設定ファイルの内容に合ったものかどうかを評価するために、社内のコンサルタントメンバーが出力データの結果を確認する、あるいは事前に用意しておいた正解データとアルゴリズムで自動出力されたデータを比較しています。今後データの精度も検証できるツールを実装し、さらに効率化を図りたいと考えております。

対話のデータ化で、採用の質を高めたい

岸 裕介

お客様のサービス導入後の成果についてはいかがでしょうか。

林さん

一番わかりやすいのは、やはり業務効率化です。例えば、面接終了後に引継ぎメモを作ろうとすると30分から1時間ほどかかりますし、さらに繁忙期となると次々と面接を行うことで記憶がどんどん薄れてしまいますが、「Bring Out for HR」を活用すればAIの解析結果が自動的に抽出されるため、引継ぎメモ作成の工数削減は確実に期待できます。

岸 裕介

「Bring Out for HR」の今後の展開についても教えてください。

林さん

「Brinout for HR」のAIを活用することで、企業の経営改革の判断材料になるような情報を抽出したいと考えております。例えば、営業の商談で企業様の本来の要望・潜在的なニーズを構造化し、社内に展開していくのは、相当優秀で気の利いた営業の方でないと難しいと思います。面接でも同じように、候補者から得た情報を最適なかたちで社内展開できれば、今まで見つけられなかった候補者を採用し、業務変革につながることもあるのではないでしょうか。

岸 裕介

データが社内に蓄積していくので、中長期的な「採用の質」も高まりそうですね。

林さん

そうですね、候補者から「自社がどんな風に見られているのか」「どんな経歴の候補者が多いのか」などの情報は、今後の採用計画にかかってくる部分となります。一つひとつの面談を効率化していくだけではなく、蓄積したデータの解析を行い、経営や各事業部の意思決定の判断材料とする使い方に大きな可能性を感じております。

岸 裕介

会社全体で目指していることについても教えてください。

林さん

当社は「対話のデータ化による経営変革」を目指していますが、日々の業務におけるコミュニケーションでは、当事者以外に内容が見えづらい“ブラックボックス”が数多く存在します。なぜなら、メールやドキュメントに比べて「対話」の情報量は桁違いに多いからです。我々は年間100兆文字くらいの情報量があると試算しています。それらをAIの力で解き明かしていくことが当社のミッションだと考え、企業ロゴにも反映しています。

岸 裕介

対話の情報量が年間100兆文字とは驚きです。商談や採用面接以外にも、“ブラックボックス”はいろいろな場面でありそうですね。

林さん

ええ、私たちは今まで商談や採用面接に特化してサービス展開してきましたが、それ以外の場面でも可能性を感じております。人間の能力では処理しきれなかった情報や、本来活用できる情報がたくさん埋もれてしまっているので、それらをAIの力で解き明かしていきたいと思います。

ライター

岸 裕介
大学卒業後、構成作家・フリーランスライターとして、幅広いメディア媒体に携わる。現在は採用関連のインタビュー記事や新卒採用パンフレットの制作に注力しながら、SaaS企業のマーケティングにも携わっている。いま一番関心があるのは、キャンプ場でワーケーションできるのかどうか。
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