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映像を見るだけじゃない?最先端の「スマートグラス」について業界をリードするエプソンに聞いてみた
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映像を見るだけじゃない?最先端の「スマートグラス」について業界をリードするエプソンに聞いてみた

岸 裕介
2024.06.06
この記事でわかること
最先端のスマートグラスは映像鑑賞などスマートフォンの概ね全ての機能を使える
個人用スマートグラスは実際に装着して見え方とつけ心地を確認して選ぶのがおすすめ
スマートグラス普及のカギは小型化・軽量化である

メガネのようにかけるだけで、映像などのコンテンツを利用できる「スマートグラス」。当初は主に映像鑑賞に使われていましたが、現在は観光案内やリモートでの作業支援など活躍の場が広がっています。

近年、インターネット上につくられた仮想の3次元空間である「メタバース」の普及に伴い、スマートグラスの注目度は急速に高まりつつあります。そのなかで世界的な精密機器メーカーであるエプソンは、プロジェクター開発で培った技術を背景に、スマートグラス開発をリードしてきました。

今回は、セイコーエプソン株式会社DX推進本部副本部長・津田 敦也氏に、スマートグラスの現状やエプソン製スマートグラスの特徴、活用事例、最新機能、今後の展望などについて伺いました。

セイコーエプソン株式会社

代表取締役: 小川 恭範 設立:1942年5月18日 従業員数:連結74,464名、単体13,083名(2024年3月31日現在)

スマートグラス初期のイメージは『ドラゴンボール』のスカウター!?

岸 裕介

そもそもスマートグラスとはどんなものなのでしょうか?

津田さん

スマートグラスは、視界に映像が浮かんで見える眼鏡型のウェアラブルデバイスです。実際の周りの風景が透けて見えるシースルー仕様のため、映像を見ながら周囲を確認できます。また、両手がフリーになるため作業しながら使用できるのも特徴です。

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津田さん

スマートグラスは、現実世界と仮想世界を融合する技術であるXRの代表例として注目を集めています。

岸 裕介

なるほど。エプソンにおけるスマートグラス開発の流れについてお聞かせください。

津田さん

もともとはプロジェクター事業を中心に培った高度な光学技術とマイクロディスプレイ技術を使って、今までにないものをつくろうという考えのもと開発がスタートしました。非常に小さいマイクロディスプレイの光を誘導しながら拡大していく技術を活用することで、目の前に映像を浮かべられるのではと考えたんです。 当時はまだ「AR(拡張現実)」といった言葉もない時代で、マンガの『ドラゴンボール』に出てくるスカウターのようなものをつくるようなイメージでした。

岸 裕介

言われてみれば、スカウターに似ています。今のようなスマートグラスは、いつ頃できたのでしょうか。

津田さん

2011年には、世界に先駆けて、他の機器と接続しなくてもコンテンツが視聴できる両眼シースルースマートグラス「MOVERIO(モベリオ)BT-100」をリリースしました。

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2011年11月に国内発売。両眼シースルーを実現したスマートグラス「MOVERIO BT-100」
津田さん

当時としては、世界でも最先端のテクノロジーを活用した製品です。その後も進化を続け、2014年には後継機となる「BT-200」が、世界最大級のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー「2014 CES Innovations Awards」や、国内の最先端IT・エレクトロニクス総合展「CEATEC AWARD 2014」で受賞するなど、その技術革新性について世界中から高い評価をいただきました。

岸 裕介

エプソンのスマートグラスの強みはどのあたりなのでしょうか?

津田さん

とにかく高画質な点です。持ち歩けるディスプレイとしては、世界でもトップクラスの明るさです。明るいディスプレイはコントラストが高く、文字や画像がくっきりと表示されるメリットがあります。ただし、ディスプレイは一般的に明るくするほど寿命が短くなるのですが、その問題をクリアし、明るく長持ちするディスプレイを使用しています。

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2021年2月に国内発売された『MOVERIO BT-40S』。メガネタイプのヘッドセットをかけるだけで、目の前にFull HD・120型相当(注1)の高精細・大画面が現れる(仮想視聴距離 5m時)。
岸 裕介

スマートグラスは明るさが重要ということですね。ちなみに、日本のスマートグラスは海外と比較してどうなのでしょうか。

津田さん

製品に不可欠な技術は弊社をはじめ日本製のものが優位で、海外メーカーはそれに追随せざるを得ない状態です。

岸 裕介

サポート面でも、やはり国内メーカーは安心感がありますよね。

津田さん

ええ、エプソンではプリンターなどの製品サポートと同じように、自社で責任を持ってスマートグラスをメンテナンスするので、安心して使っていただけるのではないでしょうか。

世界遺産で当時の状況をリアルに再現

岸 裕介

スマートグラスは、具体的にどのような場面で活用されているのでしょうか?

津田さん

代表例が、観光案内です。特に世界遺産の多いヨーロッパでは、スマートグラスの活用が進んでいますね。世界遺産になるといろいろな制約があって、景観を損ねないよう、説明用の看板を立てられないんです。

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スペインのバルセロナ・セビリア・エフェソス・ギリシャのアテネを訪れた観光客に対して、ARと「MOVERIO」を活用した観光体験ツアーを提供。キャラクターや風景が浮かび上がり、当時何が起こっていたのかを説明してくれる。
津田さん

スマートグラスで説明を表示すれば、周りの風景を見ながら映像と一緒に観光を楽しめます。各国が観光投資を積極的に行っているため、今後もさらに成長が期待できる領域です。

岸 裕介

映像と周りの風景を同時に見られるというスマートグラスの特性が活きていますね。日本の観光地での活用事例はありますか?

津田さん

世界遺産の群馬県の富岡製糸場はすごく上手く活用していると思います。富岡製糸場の建物は明治時代のものなんですが、なかに設置されている機械は昭和のものです。そのため、一見すると「ちょっと古い現代の工場」に見えてしまいます。離れた場所に当時の機械があるので、稼働する様子を撮影。富岡製糸場を訪れた観光客にスマートグラスを掛けてもらい、工場内の風景と機械の映像を重ね合わせることで当時の様子を再現しています。

岸 裕介

よりリアルな体験ができるんですね。他に事例があればお聞かせください。

津田さん

「日本一星空が綺麗な村」として有名な長野県・阿智村のナイトツアーでも、スマートグラスが使われています。天気が悪くて星が見えない時に晴れの日の星空を体感してもらう、ゴンドラでの移動時間にも星を楽しんでもらうといった使い方です。プラネタリウムのように目の前に星空が広がって、すごくきれいなんですよ。

岸 裕介

それは見てみたいです。観光以外にはどのような場面で使われているんでしょうか?

津田さん

字幕にもよく使われています。多言語のテキストに対応できるので、さまざまな国や地域から人が集まるスポットでは、非常に便利です。字幕が目の前に表示され、文字以外の部分は透明なので、オペラや観劇も違和感なく楽しめます。

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津田さん

また、聴覚障がいのある方向けの映画字幕にも活用されています。日本で上映されている邦画の多くは、費用の問題から日本語字幕がついていません。スマートグラスをかけて字幕対応している映画を見ると、日本語字幕が表示されます。

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岸 裕介

言われてみると、字幕付きで上映している邦画はあまりないですね。一般的な字幕と同じようなものなのでしょうか。

津田さん

普通の字幕とは異なり、セリフを話している登場人物の上に出るようになっており、複数人が登場しても誰が話しているか分かる仕組みです。スマートグラスの無料貸し出しサービスを実施している自治体もあり、全国で100以上の映画館に設置されています。

岸 裕介

バリアフリーにも活用できるんですね。

津田さん

そうなんです。聴覚障がいのある方だけではなく、視覚障がいのある方への支援にも有効です。実は視覚障がい者のほとんどは全く光を感じられないわけではなく、光を感じるレベルが低い状態です。スマートグラスについているカメラで光の感度を上げる画像処理をすることで、身の回りに行動を妨げるようなものがないかなど周囲の様子がわかるようになります。

津田さん

他にも、色覚障がいの方がものを識別できないときに、カメラで色補正して画像を出力することで、識別できるようにするなどの使い方があります。映像デバイスでありながら障がいのある方を支援できるのがスマートグラスの特徴です。

岸 裕介

そういった使い道もあるんですね。

津田さん

さらに教育分野でも使われています。社会科見学で博物館に行っても興味のない子は、展示の説明などは読まないものです。

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津田さん

でも、博物館にスマートグラスがあれば、キャラクターが飛び出してきて説明するといった仕掛けができ、興味を持つきっかけをつくれます。

津田さん

また、台湾の教育現場では、タブレットなどに代わる新しい学習ツールとして、スマートグラスが広く活用されています。スマートグラスをかけて通学しているとキャラクターが出てきて、重さの測り方や長さの測り方といった教科書に載っている内容をわかりやすく教えてくれるんです。学習への興味関心が高まるので好評です。

スマートグラスをITのサーバーメンテナンスにも活用

岸 裕介

ビジネスの場では、どのようにスマートグラスが活用されているのでしょうか?

津田さん

主にリモートでの現場作業支援に使われています。作業者の目線から見た風景を映し、遠隔地に映像を送れるので、離れた場所にいるエキスパートからアドバイスをもらいながら作業できます。

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津田さん

ノウハウの継承にも効果的です。例えば、部品の選別など属人性の高い技術を教える際に、熟練者の見ているものを全て動画撮影して共有することで、どんな目線で見ればよいのかがわかるようになります。

岸 裕介

現場作業のあり方が大きく変化しそうですね。IT関連のエンジニアの現場でも、スマートグラスは導入されているのでしょうか?

津田さん

他の業種と同じく、現場作業支援が主です。あるICTシステムの保守・運用サービス会社様の事例になりますが、「MOVERIO BT-300」を1500台以上導入され、サーバーメンテナンスなどの場面で活用いただいています。

津田さん

現場のカスタマーエンジニアがスマートグラスを装着して作業し、サポートセンターの担当者がリアルタイムで映像を見ながら支援を行います。2人体制の作業により、作業品質と生産性を向上することができました。

岸 裕介

電話など遠隔地とやり取りする方法は他にもありますが、スマートグラスにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

津田さん

映像を共有しながらやり取りできる点です。例えば音声で「右です」と伝えても、どこを起点として右なのか相手に伝わらずコミュニケーションロスが発生しがちです。

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津田さん

スマートフォンでもカメラを通してやり取りはできるのですが、片手がふさがり、両手が自由に使えるハンズフリーにはなりません。作業効率を落とさずに、遠くにいる人とコミュニケーションが取れるというメリットがあります。

岸 裕介

確かにスマートフォンを持ちながら作業するのは大変そうです。

津田さん

また、スマートグラスを装着している人が見ているものに書き込みできるのも便利ですね。「右の方」などと口頭で伝えるより、該当する場所を丸で囲った方がスムーズです。映像でコミュニケーションをとりながら問題を解決できるのは、スマートグラスの大きな強みです。

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電車の中でフルスクリーンの映画を楽しめる

岸 裕介

最先端のスマートグラスでは、どんなことができるのでしょうか?

津田さん

弊社の最新モデルは、個人向けが「BT40」、事業者向けが「BT-45CS」です。基本的な性能はほぼ同じで、BT-45CSはビジネスで使えるよう非常に丈夫で壊れにくい仕様になっています。

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津田さん

どちらもコネクタが「USB Type-C」になっていて、PCやスマートフォンにつなげば、そのまま映像を表示できます。映像を観る・通話するなどスマートフォンでできることは、基本的に全てスマートグラスでも可能です。

岸 裕介

幅広い用途に使えるんですね。操作性やサイズ感はどうなのでしょうか?

津田さん

以前は専用のコントローラーが必要だったのですが、今はニーズに合わせて自由に使えるようになっています。サイズは1世代前の少し分厚い携帯電話くらいで、そこにスマートグラスを動かすために必要な機能が詰まっています。BT-45CSは、作業しやすいようヘルメットに装着可能です。

岸 裕介

想像以上にコンパクトなので持ち歩きしやすそうですが、バッテリーがどのくらい持つのか気になります。

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津田さん

使い方にもよりますが、フル充電すると4~5時間くらい持つので、外出時にも使いやすいと思います。例えば、電車で移動中に映画を観るということもできます。スマートフォンでの鑑賞とは全く違い、まるで大劇場で映画を観ているかのような感覚を味わえますよ。

岸 裕介

移動時間も楽しく過ごせそうです。ちなみに、スマートグラスの映像が他の人に見えてしまうことはあるのでしょうか?

津田さん

エプソンのスマートグラスの映像は、装着している本人にしか見えません。隣に座っている人にも見えないので、秘密性は非常に高く保たれています。

岸 裕介

プライバシーもばっちりですね。最初にスマートグラスがリリースされてから、特に大きく進化した点はどのあたりなのでしょうか?

津田さん

一番大きいのは、カメラがついたことです。初期のモデルは、カメラがついておらず、すでにある映像を見る用途で使われていました。カメラを付けることで、自分が見ている風景を共有できるようになり、現場作業支援など用途が大きく広がっています。

津田さん

また、ジャイロセンサーの登場も重要です。装着している人の頭の動きを検知してどこを見ているかを識別できるようになり、頭が動いても画面を一定の位置にキープできるため、視聴中のストレスが軽減しました。

岸 裕介

進化がすごいですね。これから個人用スマートグラスを購入する人に向けて、選び方のアドバイスをお願いします。

津田さん

実際に装着して、見え方などを体験いただくのが大切だと思います。周囲の風景とスマートグラスが投映する映像の見え方を確認して、自分のニーズに合っているかを判断するとよいのではないでしょうか。

岸 裕介

なるほど。屋外など明るい場所に行って、見え方を確認した方がよいのでしょうか?

津田さん

家電量販店はけっこう明るいので、売り場で試すだけでも見え方は充分確認できるのではないでしょうか。先ほども少し説明しましたが、スマートグラスはディスプレイの「明るさ」が重要なので、明るい場所でちゃんと見えるどうか確かめた方がいいと思います。

軽量化・小型化でスマートグラスを普及させたい

岸 裕介

今後、スマートグラス事業で注力するポイントを教えてください。

津田さん

明るさや解像度といったスペックを上げていくのはもちろんですが、性能を高めながら、小さく軽く・シンプルな製品としてつくりこんでいくことが大切だと考えています。

岸 裕介

小型化・軽量化が重要なんですね。

津田さん

はい。スマートグラスをかけると、どうしても重さなどが、ストレスになってしまいます。小型化・軽量化によって、装着することで生じるストレスよりもスマートグラスを使うことの価値が上回り、購買意欲が高まります。パソコンを選ぶときに、重さとスペックを天秤にかけるのと似たような感覚です。スマートグラスは、身に着けるものなので、さらにバランスが難しいと感じています。

岸 裕介

ストレスと価値のバランスが取れれば、一気にスマートグラスが普及しそうですね。そうすると、ユーザーのニーズが変化する可能性もあるのでしょうか?

津田さん

現在のスマートグラスはいかにもガジェットという感じなのですが、将来的に小型化・軽量化が進んで装着するストレスが軽減されれば、柄のバリエーションなどデザイン面での要望が高まってくると考えています。いずれにしても、ユーザーのニーズに合ったスマートグラスの開発に注力していくつもりです。これからも、進化した製品をリリースしていくので、ぜひご期待ください。

ライター

岸 裕介
大学卒業後、構成作家・フリーランスライターとして、幅広いメディア媒体に携わる。現在は採用関連のインタビュー記事や新卒採用パンフレットの制作に注力しながら、SaaS企業のマーケティングにも携わっている。いま一番関心があるのは、キャンプ場でワーケーションできるのかどうか。
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